市場はこう読むだろう——ファーストリテイリング(9983)は5期連続の最高益を出したが、来期は減速する。10月8日15時31分に発表された2027年8月期の会社予想は、売上収益4兆4,500億円(前期比12.3%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益5,600億円(同3.2%増)。今期の最終利益が25.3%増えたあとの3.2%増は、確かに急ブレーキに見える。今日はこの通説を尋問する。
同じ日の東京市場で、日経平均は993円60銭安の6万9,042円11銭と安値で引けた。その中でファストリ株は前日比20円高の7万4,800円で取引を終えている(15時30分の終値)。指数への影響が大きい値がさ株が、決算発表の前に指数とは逆の方向で引けたことになる。発表後のジャパンネクストPTSでは一時7万2,000円(17時01分)まで売られ、18時38分時点では7万4,450円と終値比0.47%安まで戻した。PTSの出来高は1,900株にとどまり、翌朝の始値を占う材料としては薄い。PTS価格の読み方はこちらの解説で整理している。
通説の陳述:最終利益3.2%増は「成長の天井」である
公平のために、通説を最も強い形で書いておく。2026年8月期の実績は売上収益3兆9,633億円(16.6%増)、本業のもうけを示す事業利益7,184億円(30.4%増)、最終利益5,425億円(25.3%増)だった。これに対して来期予想は、売上12.3%増、事業利益15.5%増、税引前利益9.7%増、最終利益3.2%増。どの段階を見ても伸び率は今期より低く、とりわけ最終利益の鈍り方が目立つ。
しかも株価は高い。8日終値7万4,800円は、会社予想の1株当たり利益1,825円06銭に対して約41倍である。41倍という株価収益率(PER)は、高い利益成長が続くことを織り込んだ値段だ。その前提に対して3.2%増という数字は冷や水になる——これが通説の骨格である。
尋問1:この会社の期初予想は、そもそも「着地」を示してきたか
証拠を見よう。1年前の2025年10月9日、同社は2026年8月期の期初予想を出している。最終利益は4,350億円で、前期比わずか0.5%増だった。事業利益は6,100億円(10.7%増)、税引前利益は6,600億円(1.4%増)。今日の「3.2%増」とよく似た、低い数字の並びである。
着地はどうだったか。最終利益は5,425億円で、期初予想を24.7%上回った。事業利益は17.8%、税引前利益は21.6%の上振れである。売上収益の上振れは5.7%にとどまるから、上振れの大半は売上の量ではなく、利益率の改善から来た。7月9日の第3四半期決算で示した修正後予想(最終利益5,000億円)と比べても、さらに425億円、8.5%上回っている。
2026年8月期:期初予想(2025年10月9日)に対する実績の上振れ率
読み方:1年前の期初予想は最終利益4,350億円(前期比0.5%増)だった。着地は5,425億円で24.7%上回った。売上の上振れは5.7%にとどまり、上振れの大半は利益率の改善による。出所:ファーストリテイリングの2025年8月期・2026年8月期決算短信、本誌計算。
この説明には穴がある、と通説側は言うだろう。1年分の実績だけで「今年も上振れる」とは言えない。その反論は正しい。ただし今日の論点は来期の着地を当てることではない。「最終利益3.2%増」という数字を、この会社の着地見通しとして額面どおり読んでよいか、である。少なくとも直近の1年では、同じ形の期初予想が着地を大きく下回った。期初の最終利益予想を、成長の天井として読む根拠は弱い。
尋問2:利益はどこで「消えて」いるのか
次に、3.2%という数字の中身を分解する。事業利益は15.5%増の8,300億円と、2桁の伸びを見込んでいる。伸び率が落ちていくのは、そこから下の段階だ。
2027年8月期の会社予想:段階ごとの前期比伸び率
読み方:本業の事業利益は15.5%増を見込む。伸び率が落ちるのは事業利益より下の段階で、その他収益の上乗せをゼロ、金融収支を約94億円少なく、税負担などを重く置いた結果、最終利益は3.2%増になる。出所:ファーストリテイリングの2026年8月期決算短信(10月8日)。
第1の段差は、事業利益と営業利益の差である。2026年8月期は、その他収益290億円などで営業利益が事業利益を246億円上回った。来期予想は事業利益と営業利益がともに8,300億円で、この上乗せをゼロと置いている。第2の段差は金融収支だ。今期は利息の純額522億円と為替差益71億円で、金融収益・費用が593億円のプラスだった。来期予想では税引前利益と営業利益の差が500億円で、約94億円少ない。
第3の段差が最も大きい。税引前利益に対する最終利益の比率は、今期の67.6%から来期予想では63.6%に下がる。今期の法人所得税は2,184億円(税引前利益の27.2%)、非支配持分に帰属する利益は416億円だった。来期予想ではこの二つの合計が税引前利益の36.4%に相当する計算で、今期の32.4%より4ポイント重い。決算短信にはこの差の内訳の説明がない。理由は本誌にも特定できないため、ここでは「会社が税負担などを今期より重く見積もっている」という事実だけを記す。
つまり3.2%増のうち、本業の減速を意味する部分は大きくない。本業の利益である事業利益は15.5%増で、伸びは今期の30.4%から鈍るが、それでも2桁だ。最終利益の伸びを押し下げているのは、今期にあった一時的な上乗せ(その他収益、為替差益)を来期はゼロや少なめに置いたことと、税負担などの重い見積もりである。
尋問3:それでも減速の証拠はあるか
ここで通説の側に立ち直る機会を与える。減速の証拠は、実はある。
一つ目は第4四半期(6〜8月)だ。通期の実績から第3四半期累計(9〜5月)を差し引くと、6〜8月の事業利益は1,257億円で、前年同期比16.9%増になる。9〜5月の累計が33.6%増だったから、伸び率は半分になった。売上収益も9〜5月の17.1%増に対し、6〜8月は14.6%増である。ジーユー事業は6〜8月について「販売に苦戦」と会社自身が書いている。
二つ目は国内ユニクロ事業だ。今期は売上収益1兆848億円(5.7%増)、事業利益1,960億円(8.1%増)と最高益だったが、来期は「増収、事業利益は前年並み」の見込みである。理由として会社は、仕入れに使う為替予約のレートが円安になり、原価率が上がる影響を挙げ、売上総利益率は「若干低下」とした。今期も上期は同じ理由で売上総利益率が0.2ポイント下がっている。
ここから、もう一つの通説——「ファストリは円安の勝ち組だ」——にも穴が開く。円安は海外の売上を円に換算するときには追い風になる。グレーターチャイナの売上収益は円建てで11.3%増だが、現地通貨ベースでは約3%増にすぎない。差の約8ポイントは、ほぼ円換算の効果である。だが国内では、同じ円安が為替予約を通じて仕入れ値を押し上げる。来期の想定レートは1ドル=156.2円で、欧州中央銀行が10月7日に公表した参照レート158.23円より約1.3%円高の水準だ。足元の円安が続けば海外の円換算額には上振れ要因になる一方、為替予約が更新されるたびに国内の原価には遅れて効いてくる。円安の進み方については日銀の主な意見と158円台の円相場の記事も参照してほしい。
公平のために言えば、成長の重心はすでに海外にある。海外ユニクロ事業の事業利益は4,398億円(44.1%増)で、グループの事業利益の約6割を占めた。北米(売上収益3,649億円、34.6%増)と欧州(同5,126億円、38.7%増)を合わせた8,775億円は、グレーターチャイナ(7,240億円)と、韓国・東南アジア・インド・豪州地区(8,094億円)をそれぞれ初めて上回った。国内の横ばいは、グループ全体の成長を止めるほどの重さではない。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 来期は最終利益3.2%増が着地の目安になる | 重傷 | 前期の期初予想は0.5%増、着地は25.3%増。予想を24.7%上回った |
| 本業の成長が止まる | 死亡 | 事業利益の会社予想は15.5%増。伸びの鈍化は税引前より下の段階が中心 |
| 伸び率は鈍っている | 生存 | 6〜8月の事業利益は16.9%増で、9〜5月の33.6%増から半減 |
| 国内ユニクロは来期伸びない | 生存 | 会社予想は事業利益「前年並み」。為替予約の円安で原価率が上昇 |
| ファストリは円安の勝ち組だ | 重傷 | 海外の円換算では追い風、国内の原価では逆風。グレーターチャイナは円建て11.3%増、現地通貨で約3%増 |
| 株主還元は抑えめになる | 死亡 | 今期の年間配当は850円(従来予想640円、前期500円)。来期予想は900円 |
評決
通説は、数字の読み方を誤っている。ただし結論の方向は半分だけ正しい。
「最終利益3.2%増=成長の天井」という読みは成り立たない。本業の事業利益は15.5%増を見込み、最終段階の鈍化は一時的な上乗せの剥落と税負担などの重い見積もりで大半が説明できる。前期の期初予想が着地を大きく下回った実績もある。一方で、6〜8月に伸び率が半減したこと、国内ユニクロが円安の仕入れコストで足踏みすることは、事実として生き残った。本誌の評決は、通説の「減速」のうち3割は本物の減速、7割は予想の作り方による見かけの減速とみる。
個人投資家にとっての実務的な意味は二つある。第一に、配当利回りは低い。来期予想900円を8日終値で割ると1.20%で、利回り目的の銘柄ではない。今期の350円増配(500円→850円)は大きいが、株価の大半は成長への期待で説明される。第二に、日経平均への影響だ。ファストリは株価水準が高く、日経平均への寄与が大きい銘柄の一つで、9日の寄り付きの値動きは指数に直接響く。寄与度の仕組みは日経平均の寄与度の解説にまとめてある。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 国内ユニクロの月次既存店売上高が前年割れを続けたら。来期の国内は「増収」が前提である。9月以降の月次(毎月公表)が前年を下回り続ければ、国内の「前年並み」すら危うくなり、減速説の比重は上がる。
- 第1四半期決算(前期は1月8日に発表)で、事業利益の伸びが1割を切ったら。期初予想の15.5%増を下回るペースなら、「会社予想は控えめ」という本誌の前提が崩れる。
- 円相場が想定の156.2円より大きく円高に振れたら。海外の円換算額が目減りし、今期のような上振れの余地が小さくなる。逆に円安が続けば、国内の原価上昇が為替予約の更新を通じて来期後半に重くなる。
- ジーユーの新コレクションが10〜11月の秋冬商戦で振るわなかったら。会社は来期の増収増益を見込むが、6〜8月の苦戦が続けば、グループの成長の柱の一つが細る。
主な参照
- 2026年8月期 決算短信(2026年10月8日15時31分開示)/東証適時開示(TDnet)
- 2026年8月期の配当予想の修正に関するお知らせ/ファーストリテイリング
- 2026年8月期 決算サマリー(来期のセグメント別見通し)/ファーストリテイリング
- 2026年8月期 第3四半期決算短信(7月9日、修正後の通期予想)/ファーストリテイリング
- 2025年8月期 決算短信(2026年8月期の期初予想)/ファーストリテイリング
- ファストリ株の10月8日の四本値とPTS(ジャパンネクスト)の気配/株探
- 日経平均の10月8日の終値/株探
- ドル円の参照レート(10月7日)/欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由)
データ基準日:2026年10月8日。ファストリ株と日経平均は同日15時30分の終値(日本時間)。PTSの価格は同日18時38分(日本時間)時点の気配で、終値ではない。ドル円は10月7日の欧州中央銀行の参照レートで、取引時間中の値ではない。6〜8月の数値、比率、PER、配当利回りは会社の開示資料から本誌が計算した。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではない。
アイキャッチ写真:「UNIQLO @ Bellevue Square Mall」GoToVan撮影(Flickr、CC BY 2.0)。トリミングして使用。













