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TSMC売上高が過去最高でも東エレ2.48%安、日本の半導体株に追い風か

Takashi Suzuki Takashi Suzuki
2026年10月9日
テック
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ARM株
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市場はこう信じている——TSMC(台湾積体電路製造)の売上高が過去最高を更新した。AI向け半導体の需要は衰えておらず、製造装置や検査装置を納める日本の半導体株にも追い風になる、と。TSMCが10月8日に公表した7〜9月期の売上高は1兆4,942億台湾ドル。前年同期比で約51%増え、会社が7月に示した見通しの上限も上回った。

だが、本当か。同じ8日の東京市場で、東京エレクトロン(8035)は2.48%安で引けた。今日はこの通説を3つに分けて尋問する。数字は本物か、9月も記録だったのか、そして日本株にとって本当に追い風なのか。

1兆4,942億台湾ドル
7〜9月期の売上高(月次の合計、過去最高)
+2.0%
米ドル換算467.1億ドルの、会社見通し上限458億ドルに対する上振れ
−0.6%
9月の売上高の前月比(月次の最高は8月)
−2.48%
東京エレクトロンの10月8日終値の前日比

通説の陳述:最も強い形で

まず通説の側に立ち、その主張をできるだけ強い形でまとめておく。TSMCの月次売上高は、同社の投資家向けページで公表される。7月が4,675億8,000万台湾ドル、8月が5,148億600万台湾ドル、9月が5,118億5,700万台湾ドル。3カ月を足すと1兆4,942億4,300万台湾ドルになる。4〜6月期の1兆2,703億8,000万台湾ドルと比べて17.6%の増加だ。1〜9月の累計は3兆8,987億台湾ドルで、前年同期比41.1%増えている。

これは市場予想も上回った。ロイターによると、LSEGが19人のアナリストの予想から算出したスマートエスティメートは1兆4,600億台湾ドルだった。実績はこれを2.3%上回る。TSMCは7月の決算発表で、2026年の売上高の伸びを「40%をやや上回る」に引き上げ、設備投資の計画も520億〜560億ドルから600億〜640億ドルへ引き上げたと報じられている。売上が伸び、投資も増える。装置を売る側にとっては、これ以上ない話に見える。

尋問1:会社予想を上回ったのは、台湾ドル安のおかげではないか

最初に疑うべきは為替である。TSMCは売上高の見通しを米ドル建てで出す。7月16日の発表では、7〜9月期の売上高を446億〜458億ドルと見込んでいた。前提とした為替レートは1ドル=32台湾ドルである。一方、毎月の実績は台湾ドル建てで公表される。台湾ドルが前提より安くなれば、台湾ドル建ての売上高は実力以上に膨らんで見える。

証拠を見よう。ロイターは7〜9月期の売上高を467億1,000万ドルと換算している。1兆4,942億台湾ドルを467億1,000万ドルで割ると、1ドル=約31.99台湾ドルになる。会社の前提の32台湾ドルとほぼ同じだ。つまり為替は結果をほとんど動かしていない。見通しの上限458億ドルとの差は9億1,000万ドル、率にして2.0%。中央値の452億ドルと比べれば3.3%上回る。

TSMCの7〜9月期売上高:見通し・予想・実績(億台湾ドル)

会社見通しの下限446億ドル×32台湾ドル14,272億会社見通しの上限458億ドル×32台湾ドル14,656億LSEG予想19人のアナリスト14,600億実績7〜9月の月次合計14,942億

読み方:会社の見通しは米ドル建てのため、前提レート1ドル=32台湾ドルで台湾ドルに直した。実績は上限を約2%上回る。出所:TSMCの7月16日の発表(米SEC提出書類)、月次売上高、LSEG予想はロイター報道。換算は本誌。

公平のために言えば、この尋問は通説の側の勝ちである。上振れは為替の見かけではない。米ドル建てでも上限を超えている。4〜6月期の402億ドルと比べた伸び率は約16.2%で、AI向けの先端品の需要が引き続き強いという読み方は、この数字からは崩せない。

尋問2:「9月も過去最高」は本当か

次は、発表当日に広がった「9月の売上高も過去最高」という言い方である。この説明には穴がある。9月の5,118億5,700万台湾ドルは前年同月比で54.6%増えたが、前月の8月の5,148億600万台湾ドルを0.6%下回った。月次の最高は8月のままである。発表当日、海外の見出しには「9月も記録」という言い回しが並んだが、9月の数字が記録なのは「9月として」の比較であり、月次の最高ではない。

TSMCの月次売上高(2026年、億台湾ドル)

4月前年比+17.5%4,107億5月前年比+30.1%4,170億6月前年比+67.9%4,427億7月前年比+44.7%4,676億8月月次の最高5,148億9月前月比−0.6%5,119億

読み方:6月から8月まで階段状に増え、9月に初めて足踏みした。7〜9月の3カ月の合計が四半期の最高になる。出所:TSMC投資家向けページの月次売上高(未監査)。前月比は本誌計算。

小さな違いに見えるが、意味はある。6月から8月まで月次売上は4,426億、4,675億、5,148億台湾ドルと階段を上ってきた。それが9月に初めて足踏みした。前年比の伸び率は8月の53.3%から9月の54.6%へ高まり、加速しているように見える。だが公表された伸び率から逆算すると、前年は9月(約3,311億台湾ドル)が8月(約3,358億台湾ドル)より少なかった。比べる相手が低かった分、伸び率は高く出ている。四半期の記録は事実だ。ただ「勢いがさらに強まった」とまでは、月次の並びからは言えない。

通説の側には再反論がある。半導体の出荷は顧客の検収のタイミングで月ごとにぶれるため、0.6%の減少は誤差の範囲だ、という主張だ。これはもっともである。だからこそ判定は「死亡」ではなく「誇張」にとどめる。次の答えは10月15日に出る。TSMCは同日の台湾時間14時(日本時間15時)に決算説明会を開き、10〜12月期の見通しを示す。

尋問3:日本の半導体株にとって、本当に追い風なのか

ここが本丸である。通説の最後の一歩は、TSMCの好調がそのまま日本の装置株の好材料になるという飛躍だ。証拠を見よう。ロイターの第一報が流れたのは日本時間8日の14時39分。東京市場の取引終了は15時30分で、少なくとも50分ほどは日本株が反応できる時間があった。

結果はこうだ。東京エレクトロンの終値は1万2,190円で前日比2.48%安。日中の安値1万2,180円を付けたのは14時58分で、発表の後である。アドバンテスト(6857)は0.87%安、ディスコ(6146)は0.39%安、レーザーテック(6920)は0.19%安、SCREENホールディングス(7735)は0.03%安。主な5銘柄がそろって前日を下回った。日経平均は993円60銭安の6万9,042円11銭で取引を終えている。

日本の半導体関連株と日経平均:10月8日終値の前日比

東京エレクトロン-2.48%日経平均-1.42%アドバンテスト-0.87%ディスコ-0.39%レーザーテック-0.19%SCREEN HD-0.03%

読み方:TSMCの売上高の第一報(日本時間14時39分、ロイター)の後も、主な5銘柄はそろって前日を下回って引けた。東京エレクトロンの日中安値1万2,180円は14時58分。出所:Yahoo!ファイナンスの時系列(終値)、本誌計算。

公平のために言えば、この日の下げをTSMCのせいにすることはできない。日経平均そのものが1.42%下げた日であり、売られたのは半導体株だけではない。ここで言えるのは逆の向きのことだけだ。「過去最高」の見出しは、少なくともこの日、日本の装置株を押し上げなかった。米国預託証券(ADR)も同じで、TSMCのADRは米東部時間8日に466.10ドルで寄り付き、前日終値の472.20ドルを下回って始まった。

理由は、装置メーカーの売上を決めるものがTSMCの売上高ではないからだ。東京エレクトロンやアドバンテストが受け取るのは、TSMCが工場に投じる設備投資のほうである。売上高は過去3カ月の結果であり、設備投資は今後の計画である。7月に引き上げたと報じられた600億〜640億ドルの計画を、10月15日にさらに引き上げるのか、据え置くのか。日本株にとって効くのはそちらの数字だ。2日前に尋問したディスコの出荷額も、同じ構図で読める。

設備投資の中身も、日本株にとっては金額と同じくらい重要である。TSMCの4〜6月期のウエハー売上高では、3ナノメートルが30%、5ナノメートルが33%を占め、2ナノメートルも3%に乗った。新しい世代の量産が進むほど、工場には前工程の装置だけでなく、チップを積み重ねる先端パッケージングや、出来上がったチップを検査する装置が必要になる。ただし、その発注がいつ、どの国の工場に、どの装置メーカーへ向かうのかは、売上高の数字からは何も分からない。分かるのは、需要が強いという過去の事実だけである。

もう一点。市場は7月の時点で、すでに強い数字を織り込みにかかっていた。TSMCが4〜6月期に「満点」の決算を出した直後も、半導体株は売られた。その経緯は7月の記事にまとめた。期待が高い銘柄では、予想を上回るだけでは株価は上がらない。上回る幅が期待に届くかどうかで決まる。

生き残った主張と、死んだ主張

主張判定根拠
7〜9月期の売上高は過去最高生存1兆4,942億台湾ドルで四半期の最高。前年同期比約51%増、前期比17.6%増
会社の見通しと市場予想を上回った生存米ドル換算467.1億ドルで上限458億ドルを2.0%上回る。LSEG予想も2.3%上回る
上振れは台湾ドル安による見かけ死亡換算レートは1ドル=約31.99台湾ドルで、前提の32とほぼ同じ
9月の売上高も月次で過去最高誇張8月を0.6%下回った。「9月として」の最高で、前年比54.6%増は事実
日本の半導体株に即座の追い風未証明発表後も東エレは安値を付け、主要5銘柄はそろって下落。効くのは設備投資の計画

評決

評決を出す。「AI向け半導体の需要は強い」という通説の前半は、証拠に耐えた。為替を除いても会社の見通しの上限を超えており、ここに疑いを差し挟む余地は小さい。一方、「だから日本の半導体株に追い風だ」という後半は、今日の証拠では支えられない。本誌の判断では、通説の前半に7割、後半には3割の信頼しか置けない。

言い換えれば、TSMCの月次売上は「答え合わせ」であって「予告」ではない。日本の装置株の投資家が見るべき予告は、1週間後の決算説明会で示される設備投資の金額と、10〜12月期の売上と粗利率の見通しである。4〜6月期の粗利率は67.7%だった。7〜9月期の見通しは65〜67%で、ここが上限を超えるかどうかも、値上げの効き方を測る材料になる。

再審条件

この評決を覆す材料を、先に挙げておく。

  • 10月15日にTSMCが2026年の設備投資を640億ドルより上に引き上げたら。装置メーカーの受注に直結する数字であり、「日本株に追い風」の後半は生き返る。
  • 10〜12月期の売上見通しが7〜9月期の467億ドルを大きく上回ったら。9月の足踏みは一時的なものだったことになり、「勢いは衰えていない」側に評決は傾く。
  • 逆に、設備投資が据え置かれ、粗利率の見通しが下がったら。売上は強くても投資は増えないという形になり、装置株にとっては今日の値動きが正しかったことになる。
  • 次の月次売上(10月分)が8月の5,148億台湾ドルを上回ったら。月次の最高を更新すれば、「誇張」の判定は取り下げる。

日本の読者にとっての目安も記しておく。467億1,000万ドルを10月7日の欧州中央銀行の参照レートから求めた1ドル=158.23円で換算すると、TSMCの3カ月の売上高は約7兆3,900億円になる。韓国のサムスン電子の7〜9月期の営業利益とメモリー価格の関係はこちらの記事で扱った。メモリーとファウンドリー(受託製造)の両方で記録が出たいま、問われているのは需要の強さではなく、その先の投資がどこまで膨らむかである。

主な参照

  • 月次売上高(2026年1〜9月、未監査)/TSMC 投資家向け情報
  • 4〜6月期決算と7〜9月期の見通し(2026年7月16日、Form 6-K)/米証券取引委員会(SEC)
  • 7〜9月期決算説明会の日程(10月15日)/TSMC 投資家向け情報
  • 7〜9月期売上高の米ドル換算とLSEG予想/ロイター(Investing.com掲載)
  • 2026年の設備投資計画の引き上げ(7月)/トレンドフォース
  • 日本株の終値・日中の高値と安値の時刻(10月8日)/Yahoo!ファイナンス
  • TSMC ADRの日足(10月7〜8日)/stockanalysis.com
  • ドル円の参照レート(10月7日)/欧州中央銀行

データ基準日:2026年10月8日。日本株と日経平均は同日の終値(東京市場は15時30分に終了)。TSMC ADRの466.10ドルは米東部時間8日の始値、472.20ドルは7日の終値で、8日の終値ではない。TSMCの月次売上高は未監査の速報値で、3カ月の合計1兆4,942億4,300万台湾ドルは月次の公表値を本誌が足し合わせたもの。米ドル換算の467億1,000万ドルと、LSEGの予想1兆4,600億台湾ドルはロイターの報道による。前年同期比の約51%はロイターなどの報道による概数である。前年8月・9月の金額は、TSMCが公表した前年同月比の伸び率から本誌が逆算した概数である。設備投資の計画の引き上げは報道に基づくもので、本誌はTSMCの一次資料で金額を確認できていない。換算レート31.99台湾ドルと円換算は本誌の計算である。評決の比率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。

Tags: AI関連株半導体株日本株
Takashi Suzuki

Takashi Suzuki

大手マーケットメイカーのFXトレーディングデスクで8年以上にわたりキャリアを積み、うち3年は為替フォワードデスク、その後2年は金利(レート)デスクを担当した。さらにシンガポールではアジア・トレーディングデスクのヘッドとして4年間チームを率い、地域全体のフローとリスク管理を統括してきた。 現在もFX・金利・株式など幅広い市場で実際にトレードを行っており、機関投資家の最前線で培った実取引経験は豊富。FX・株式・暗号資産において自己のポジションを保有している。 こうした実務とマーケットでの経験をもとに、金融市場・暗号資産・FX・経済指標について、信頼性・正確性・迅速性の高い情報を届けることを目的としている。記事の内容は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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