AI半導体の需要は崩れていない。むしろ決算数字だけを見れば加速している。7月16日に発表されたTSMCの4-6月期は、売上402.0億ドル(ガイダンス上限)、粗利率67.7%(ガイダンス上限超え)、純利益は前年比+77.4%で過去最高。7-9月期見通しは446億〜458億ドル(中間値で前期比+12%)と加速を示し、通期の売上成長ガイダンスは「30%超」から「40%をやや上回る」へ引き上げ、2026年の設備投資も520〜560億ドルから600〜640億ドルへ増額された。前日のASMLも売上93.3億ユーロのビートと通期見通しの再引き上げ(430〜450億ユーロ)を発表済みだ。
ところが市場の返答は冷たかった。TSMCのADRは米プレマーケットで−4〜5%(台湾市場の終値NT$2,470・+1.2%は発表前の値)。ASMLのADRも好決算当日をほぼ横ばいで終えている。決算が悪かったからではない。市場が評価する基準が「需要は強いか」から「その強さは現在の株価を正当化し続けられるか」へ移ったためだ(基準日2026年7月16日。米国の終値は未確定のため初動ベース)。
決算前に立てた「3つの物差し」の答え合わせ
実需の広がりを測る3つのゲージは、すべて強気側に振れた。
出所:TSMC 6-K(7月16日)・決算説明会。ガイダンスの前提は1ドル=32台湾ドル。
数字の中身:加速はどこから来ているか
| 項目 | 実績・ガイダンス | 読み取れること |
|---|---|---|
| TSMC Q2実績 | 売上402.0億ドル・粗利率67.7%・営業利益率60.3%・EPS 4.31ドル(ADR、予想約3.81) | 値上げと先端比率上昇で利益率がガイダンスを突き抜けた |
| ノード構成 | 2nmが初めて3%寄与、3nm 30%・5nm 33%=先端(7nm以下)77% | 2nm立ち上げ期でもマージンを落とさない価格決定力 |
| TSMC Q3ガイダンス | 売上446〜458億ドル・粗利率65〜67% | 「2nmの急峻な立ち上げ」(黄CFO)が牽引 |
| 通期・capex | 成長約40%超へ・capex 600〜640億ドルへ | 需要持続への最強の意思表示——ただし減価償却の先行増でもある |
| ASML(前日) | 売上€93.3億ビート・通期€430〜450億へ再引き上げ・「2027年の受注ほぼ確保」 | 装置の最上流でも「注文が消えた」兆候は薄い |
満点でも売られる理由:需要の審判と需給の審判は別人だ
今週の値動きが証明したのは、決算前に指摘した「ビートしても売られるか」こそが真のテストだという事実だ。売られる理由は5つに整理できる。①織り込みの先食い——半導体指数は6月の最高値まで急騰済みで、投資家は「予想超え」のさらに上を要求していた。②ポジションの過密——SOXXは月初来−14%とショック安値割れまで巻き戻し中で、良い数字は利益確定の出口に使われる。③capex増額の两面性——600〜640億ドルは需要の証明であると同時に、減価償却と将来の供給増(=価格下落)の予告でもある。④中国メモリーの新変数——CXMTの記録的IPO(7/27上場)が「国家資本の増産」という別のリスクを持ち込んだ。⑤マクロの向かい風——韓国利上げ・FOMC前の縮み。
重要なのは、この5つのどれも「AI需要の崩壊」ではないことだ。実需の審判(決算)は満点を出し、需給の審判(株価)は退場を命じた——AIバブル論争の言葉で言えば、いま調整されているのは需要ではなく期待の側である。したがって日本株への含意も一律ではない。「AI関連なら一律上昇」の時代は終わり、利益成長率・投資回収力・供給増リスクで銘柄間の格差が広がる。製造装置(TSMCのcapex増額の直接受益者)、検査(アドバンテスト)、メモリー(CXMTリスクの直撃)、電力インフラ——同じ「AIテーマ」として扱わないことが、この夏の最重要規律だ。エヌビディアの評価も、この分解の上でしか意味を持たない。
チェックリスト:評決後の観戦ポイント
- 今夜の米国終値。プレの−4〜5%が終値まで残るか、押し目買いが入るか——「満点でも売られる」の最終確認。
- 日本の装置株の反応。capex 600〜640億ドルは東京エレクトロン・アドバンテスト等への直接の需要増額。指数連動の売りと個別の受注増、どちらが勝つか。
- 7/22以降のハイパースケーラー決算。TSMCの「40%成長」の裏付けは顧客のcapexガイダンスで完成する。
- 7/27のCXMT上場。実需の物語に対抗する「供給の物語」の初値。
- TSMC決算:TSMC 6-K(SEC)、ロイター(Yahoo経由)、決算説明会(Investing.com書き起こし)
- ASML決算:Investing.com(決算資料)
- 市場反応:247wallst・UDN(台湾市場)
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではない。ADRの下落率は米プレマーケットの初動であり終値は未確定。数値は2026年7月16日時点。投資判断は最新の一次情報を確認のうえご自身の責任で行われたい。
TSMCの決算はどれくらい良かったのか?
全項目でガイダンスの上限またはそれ以上だった。売上402.0億ドル(上限着地)、粗利率67.7%(上限超え)、純利益+77.4%で過去最高。さらに7-9月期見通し446〜458億ドル、通期成長は「40%をやや上回る」へ、capexは600〜640億ドルへ引き上げられた。前日のASMLも通期見通しを再引き上げしており、AI半導体の実需は加速している。
それなのになぜ株価は下がったのか?
需要の審判と需給の審判は別だからだ。半導体指数は6月最高値までの急騰後に月初来−14%の巻き戻し中で、良い数字は利益確定の出口に使われた。capex増額は供給増(将来の価格下落)の予告でもあり、CXMTの記録的IPO(7/27)という中国発の供給リスクも重なった。売られた理由のどれも「AI需要の崩壊」ではない。
capexの600〜640億ドルへの増額は何を意味するか?
TSMC自身が数年先の需要持続を信じているという最強の意思表示だ。同時に、日本の製造装置各社(東京エレクトロン・アドバンテスト等)への直接的な需要増額でもある。ただし減価償却の先行増と将来の供給増という両面性があり、株価には中立〜逆風に働く場面もある。
日本のAI関連株はどう見ればよいか?
「AI関連なら一律」の扱いをやめることだ。TSMCのcapex増の直接受益者(装置)、CXMTリスクの直撃を受けるメモリー、電力インフラ——収益源とリスクが異なる。利益成長率・投資回収力・供給増リスクの3軸で銘柄間格差が広がる局面に入った。
次の確認ポイントは?
①今夜の米国市場でADRの下落が終値まで残るか②7月22日以降のハイパースケーラー決算のcapexガイダンス(TSMCの40%成長の裏付け)③7月27日のCXMT上場初値——の3点だ。
















