オラクルの2027年5月期第1四半期決算の番付を発表する。東の横綱はクラウドインフラ売上の121%増、西の横綱は1株利益の1.92ドル。そして幕下に落ちたのは、54億ドルのマイナスに沈んだフリーキャッシュフローである。番付外には、もう1枚ある。9月8日のプレビューで「1株利益はレンジの中央」と書いた、筆者自身の見立てだ。
市場の判定も出ている。9月11日、オラクル株は前日比7.51%高の164ドル43セントで寄り付き、166ドルまで買われた。ところが米国時間10時6分には155ドル34セント、1.57%高まで押し戻された。寄り付きの上げ幅の79.1%を、わずか36分で返した計算になる。見出しの数字は横綱級だったが、その下の行に書かれた数字が上値を抑えた。
今場所の番付
| 地位 | 項目 | 実績 | 比較対象 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| 東の横綱 | クラウドインフラ売上 | 73億8,800万ドル、121%増 | 市場予想70億9,000万ドル。前四半期は93%増 | ◎ |
| 西の横綱 | 1株利益(非GAAP) | 1.92ドル | 会社見通し1.72〜1.76ドル、予想1.74ドル | ◎ |
| 東の大関 | 受注残 | 6,640億ドル | 市場予想6,306億ドル。前年同期比2,090億ドル増 | ○ |
| 西の大関 | 営業キャッシュフロー | 231億ドル、184%増 | うち113億6,300万ドル(49%)は顧客の前払い | △ |
| 関脇 | 通期の1株利益見通し | 8.10ドル | 従来8.05ドル。引き上げ幅は0.05ドルのみ | △ |
| 前頭 | ソフトウェア売上 | 55億5,000万ドル、3%減 | 市場予想56億1,000万ドルに届かず | × |
| 幕下 | フリーキャッシュフロー | 54億ドルのマイナス | 予想(96億ドルのマイナス)は上回るが、直近4四半期では287億ドルのマイナス | × |
オラクル2027年5月期第1四半期、主要項目の前年同期比伸び率
読み方:伸び率だけを並べると、すべての項目が大きく伸びた決算に見える。だがこの図に載らない数字がある。フリーキャッシュフローは54億ドルのマイナスで、営業キャッシュフローの49%は顧客の前払いだった。伸び率の番付と、現金の番付は一致しない。
取組解説——横綱2枚
東の横綱 クラウドインフラ売上121%増 ◎
文句なしの横綱である。売上高は73億8,800万ドルで前年同期比121%増、市場予想の70億9,000万ドルも上回った。前四半期の93%増から、さらに加速している。四半期中に300億ドルを超えるAIクラウド契約を獲得し、850メガワットのデータセンター容量と30万基を超えるGPUを顧客に引き渡したという。受注を売上に変える工程が、実際に動いていることを示す数字だ。
西の横綱 1株利益1.92ドル ◎
非GAAPの1株利益は1.92ドルで、会社見通しの上限1.76ドルを16セント上回った。公平のために書いておくと、非GAAPの実効税率が16.9%と前年同期の20.5%より低く、これが利益を押し上げている。ただし前年と同じ税率で計算し直しても約1.84ドルで、それでも見通しの上限を上回る(本誌試算)。上振れは税率だけでは説明できない。横綱の地位は動かない。
大関以下の事情——見出しの下の行
営業キャッシュフロー231億ドル △
会社は過去最高と強調した。前年同期比184%増である。だがキャッシュフロー計算書を開くと、そのうち113億6,300万ドル、ほぼ49%は顧客がデータセンターの設備代金として先に支払った前払い金だった。会計上は正当な営業キャッシュフローだが、将来のサービス提供と引き換えに受け取った資金であり、事業がすでに生み出した現金とは性質が違う。前払いを除けば、営業キャッシュフローは約117億ドルになる(本誌試算)。横綱に据えるには、半分が前借りでは足りない。
通期見通し8.10ドル △
ここに寄り付きの失速を解く鍵がある。第1四半期は見通しの中央値1.74ドルを18セント上回った。ところが通期の見通しは8.05ドルから8.10ドルへ、5セントしか引き上げられなかった。通期から第1四半期を引いた残り3四半期の暗黙の1株利益は、6月時点の6.31ドルから6.18ドルへ、むしろ13セント下がっている(本誌試算)。第2四半期の見通しも中央値1.89ドルで、市場予想と同じだった。上振れ分を、会社はまだ先の業績に上乗せしていない。
幕下の事情——予想より良く、しかし向きは変わらず
フリーキャッシュフローは54億ドルのマイナスだった。設備投資は284億9,900万ドルで、前年同期の3.4倍、同じ四半期の売上高の1.47倍に達する。公平のために言えば、市場予想の96億ドルのマイナスよりは赤字が小さく、この点は予想を上回った。
それでも幕下に置くのは、2つの理由による。第1に、前払いを除いて計算し直すと、フリーキャッシュフローは約168億ドルのマイナスになる(本誌試算)。第2に、直近4四半期の合計では287億ドルのマイナスで、前期通期の237億ドルのマイナスより悪化している。四半期で比べても、前四半期(2026年3〜5月)の18億7,300万ドルのマイナス、前年同期の3億6,200万ドルのマイナスと比べて、赤字はむしろ拡大した。赤字が縮んだと言えるのは、114億8,400万ドルのマイナスだった第3四半期(2025年12月〜2026年2月)などと比べた場合に限られる。現金の向きはまだ変わっていない。会社は2027年5月期の設備投資計画900億〜950億ドルを据え置き、フリーキャッシュフローが黒字に戻る時期は示さなかった。
資金繰りの代償も出ている。オラクルは第1四半期中に、市場で少しずつ株を売り出す方式で200億ドルの増資を完了した。有利子負債は42億ドル減り財務は改善したが、希薄化後の株式数は前年同期比3%増えている。支払利息は55%増の14億2,800万ドル。S&Pグローバル・レーティングは7月、長期格付けを投資適格の最下位であるBBBマイナスへ1段階引き下げた。横綱級の成長を、株主の持ち分と信用力で支えている構図である。
番付外——筆者の見立ての勝敗
自分の番付も付けておく。9月8日のプレビューで、筆者は2つのことを書いた。
1つ目は「第1四半期の1株利益は、レンジの中央付近に収まる可能性が高い」。これは外れた。1.92ドルは見通しの上限を16セント上回った。中央どころかレンジの外である。黒星として記録する。
2つ目は「決算の勝敗を決めるのはEPSではなく、設備投資とフリーキャッシュフローに関する説明だ」。これは当たった。EPSが大きく上振れしたにもかかわらず、株価は寄り付きの上げ幅の79.1%を36分で失った。そして会社は、フリーキャッシュフローの黒字化の時期を示さなかった。白星とする。1勝1敗、勝ち越しはならなかった。
三賞
殊勲賞はクラウドインフラ売上。121%増という伸びを、前四半期の93%増からさらに加速させた。需要の側に疑問がないことを、これ以上ない形で示した。
敢闘賞は受注残。6,640億ドルと市場予想を330億ドル超上回り、前年同期比では2,090億ドル増えた。会社は、このうち約半分が今後36カ月で売上になるとの見方を示している。
技能賞は、株価の失速そのものに与えたい。決算の見出しに飛びつかず、36分で前払いの比率と通期見通しの引き上げ幅まで読み込んだ市場の判断は、ある意味で最も技巧的だった。決算翌日の寄り付きは、最も情報の少ない値段であるという教訓を、これほどはっきり示した例は少ない。
来場所の注目取組
- 10月の投資家説明会と「Oracle AI World」(10月25〜28日)。フリーキャッシュフローの黒字化の時期と、通期見通しの再引き上げの有無が示されるかどうか。
- 設備投資の配分。第1四半期だけで年間計画の30〜32%を使った。残る3四半期の平均は1四半期あたり205億〜222億ドルに下がる計算で、その通りに減速するかが焦点になる。
- 前払いの比率。営業キャッシュフローに占める前払いが下がり、事業が生む現金の比率が上がれば、西の大関は横綱に返り咲く。
- 9月16日のFOMC。利上げが決まれば、借入と増資で設備投資を賄う企業には資金コストが重くなる。同じAI需要を追うデルとは、現金の出入りの構図が大きく違う。
番付をまとめれば、需要と利益は横綱、現金は幕下である。前払いと増資でその差を埋めている間は、良い決算のたびに寄り付きで買われ、その後に現金の数字で押し戻される形を繰り返しやすい。52週高値の331ドルに対して、株価はまだ半値以下にある。
主な参照
- 2027年5月期第1四半期決算(売上高・利益・キャッシュフロー・受注残・見通し)/Yahoo Finance、CNBC
- 決算説明会(設備投資計画、前払い、資金調達)/Benzinga
- 2026年5月期の通期決算(設備投資・フリーキャッシュフロー)/オラクル インベスターリレーションズ
- 株価・始値・高値(2026年9月11日10時6分・米東部時間)/CNBC Markets
データ基準日:2026年9月11日10時6分(米東部時間)。株価は取引時間中の値であり、終値ではない。前払いを除いたキャッシュフロー、税率調整後の1株利益、残り3四半期の暗黙の1株利益は本誌の試算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。記載の評価は執筆時点の分析であり、将来の株価を保証しない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













