朝のTSMCの「過去最高」を見て半導体株を拾った向きは、昼過ぎの板を見て頭を抱えたはずだ。10月8日の米国市場で、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は米東部時間13時27分時点で1万2,499.93と、前日終値から4.33%下げた。ナスダック総合指数は1.69%安、ダウ平均は0.19%安にとどまる。売られているのはハイテク、なかでも半導体に集中している。
筆者が気になるのは、下げの理由とされる米長期金利が、昼の時点でむしろ下がっていることだ。金利が下がっても半導体は売られ続けた。この日の相場を、取引時間中の数字で整理しておく。数字はすべて取引時間中のもので、終値ではない。
テープ:ダウは横ばい、半導体だけが崩れた
まず指数の並びを見る。米東部時間13時26〜27分の時点で、ダウ平均は5万1,081.85ドル(前日比0.19%安)、ナスダック100は3万567.60(1.90%安)、ナスダック総合は2万7,074.22(1.69%安)。S&P500は10分遅れの13時16分時点で7,759.14、0.55%安だった。ダウがほぼ動かず、ナスダックが2%近く、SOXが4%超。下げ幅がきれいに「ハイテクの濃さ」の順に並んでいる。
個別も同じ形だ。13時26〜29分の時点で、アーム(ARM)が7.69%安、インテル(INTC)が6.46%安、マイクロン(MU)が4.92%安、AMD(AMD)が4.79%安。TSMCの米国預託証券(TSM)は3.88%安、ブロードコム(AVGO)は3.81%安、エヌビディア(NVDA)は3.10%安。半導体の外では、オラクルが4.52%安と目立つ一方、アップルは0.43%高と逆行している。
米ハイテク・半導体株の前日比(10月8日、取引時間中)
読み方:下げは半導体に集中し、アップルは逆行高。マイクロソフトは13時26分、ほかは13時28〜29分の値で、終値ではない。出所:Nasdaqの気配値(米東部時間)。
嫌なのは、ほとんどの銘柄がその日の安値圏で取引されていることだ。13時27分のSOXの日中安値は1万2,483.95で、現値との差は16ポイントしかない。エヌビディア、AMD、インテル、マイクロン、TSMCも、13時台の値段が日中安値のすぐ上にある。戻りを試す場面がないまま、時間とともに値を切り下げてきた。
需給の解剖:朝の理由は、昼には消えていた
朝の説明は分かりやすかった。米CNBCは米東部時間9時30分ごろに配信した速報の見出しで「米国債利回りの上昇が続き、原油は4%高」と伝えている。原油は中東の供給不安が続いており、金利と原油の両方がハイテク株の重しになる、という筋書きである。
だが昼の数字は違う。米10年債利回りは13時26分時点で5.2373%で、前日の5.2858%から4.85ベーシスポイント低い。金利は朝の上昇を打ち消して、前日を下回るところまで戻っている。それでも半導体は下げ止まらなかった。原油の側も、原油先物に連動するETFのUSOは2.52%高、ブレント連動のBNOは2.58%高と、朝の4%より上げ幅を縮めている。
朝の売り材料が薄まっても、売りは止まらなかった。筆者はこれを、材料で売られた相場ではなく、持ち高で売られた相場だと読む。TSMCは同じ日に7〜9月期の売上高が過去最高だったと発表し、ADRは朝方まで小幅安にとどまっていた。本誌が米東部時間9時40分ごろに確認した値は470.05ドルで、前日比0.46%安。それが昼には454ドル割れまで売られた。好材料で上がらない銘柄は、すでに買われ過ぎている。相場の古い言い回しで言えば「好材料出尽くし」である。
ハイテクの中でも、売られ方には濃淡がある。13時26分の時点で、マイクロソフトは1.19%安、アルファベットは0.90%安、メタは1.01%安、アマゾンは1.87%安。巨大IT株の下げは1〜2%で済んでいる。これに対し、製造装置のアプライド・マテリアルズは3.10%安、ラムリサーチは3.57%安、ASMLのADRは2.10%安、半導体設計のクアルコムは3.22%安だった。売りの的は「ハイテク全体」ではなく、半導体のサプライチェーンに絞られている。AIで稼ぐ側より、AI向けの部品と装置を作る側が売られた。ここ数カ月で最も買われてきた場所から、資金が抜けているということだ。筆者の経験では、相場の主役が交代するときは、こういう売られ方から始まることが多い。
ダウがほぼ横ばいで踏みとどまっていることも、同じ読みを裏付ける。市場全体から資金が抜けているのではなく、ハイテクから他へ資金が移っている。為替もドル安・円高に振れ、ドル円は日本時間9日未明に157円60銭台と、始値の158円05銭から40銭ほど円高になった。円建てで米ハイテク株を持つ日本の投資家にとっては、株安と円高が重なった一日になる。
水準の地図:SOXは20日線の手前まで来た
SOXの水準の地図(10月8日、取引時間中)
読み方:現値は20日線の1.4%上。終値で9月24日安値を割れば調整入り、前日終値を取り戻せば筆者の弱気は撤回。出所:NasdaqのSOX日足と気配値。移動平均は本誌計算。
SOXの水準を整理する。前日終値は1万3,066.15。7日までの20営業日の終値の平均(20日線)は1万2,323.82で、現値との差は約176ポイント、率にして1.4%しかない。その下には9月24日の日中安値1万2,258.39がある。9月下旬の押し目の底であり、筆者はここを最初の節目とみている。さらに下は50日線の1万1,997.25。ここを割れると、9月3日の安値1万1,056.38まで目立った支えがない。
上を見ると、直近90営業日で最も高い終値は6月22日の1万4,634.72で、現値はそこから約14.6%下にある。今年6月から7月にかけて、SOXは1日で6〜10%下げる日を何度か経験した。6月5日には10.3%安、6月23日には7.9%安を記録している。日柄から言えば、今日の4%安はまだ「普通の下げ」の範囲である。
筆者の見立て:短期は戻り売り、根拠は3つ
言い切っておく。筆者は半導体株について、向こう1週間は弱気、戻りは売られるとみている。根拠は3つある。
- 好材料に反応しなかった。TSMCの売上高は会社見通しの上限を超えた。それでもADRは朝の小幅安から3.88%安まで売られた。好材料で買われない相場は、上値が重い。
- 金利が下がっても売られた。朝の売り材料だった金利上昇は、昼には前日比で低下に転じた。外部の材料が消えても売りが続くのは、利益確定やポジション調整の売りが主役になっているからだ。
- 安値圏で引ける形になっている。主要銘柄が日中安値のすぐ上で取引されている。このまま安値引けとなれば、翌日以降に持ち越された売りが出やすい。
逆になったら:撤退線は1万3,066
見立てが外れる形も決めておく。SOXが終値で前日終値の1万3,066.15を取り戻したら、筆者の弱気は誤りで、今日の下げは一日だけの振るい落としだったことになる。その場合は見立てを撤回する。逆に、終値で9月24日の安値1万2,258.39を割り込めば、下げは日柄をかけた調整に入ったとみて、50日線の1万1,997.25までの下げを想定する。
念のため書いておくと、今日の値動きの原因を一つに特定できる材料は、昼の時点で見当たらない。金利でも原油でもTSMCでも説明しきれないから、筆者は需給、つまり持ち高の調整と読んでいる。これは見立てであって、確認された事実ではない。
明日の監視リスト
東京市場の投資家にとっては、9日(金)の寄り付きがまず試される。8日の東京では東京エレクトロンが2.48%安、アドバンテストが0.87%安で引けており、そこに米国の半導体安が上乗せされる。しかも12日(月)はスポーツの日で東京市場は休場になる。3連休を前に、持ち高を軽くする売りが出やすい日柄だ。米国で売られたのが製造装置や設計の銘柄だった以上、東京で最初に値を下げやすいのも、同じ装置と検査の銘柄だろう。前日の東京の動きは日経平均993円安の記事に、TSMCの決算の読み方はこちらにまとめた。
| 日時(日本時間) | 見るもの | 筆者の着眼点 |
|---|---|---|
| 9日 午前5時 | 米国市場の終値(SOX・ナスダック) | SOXが安値圏で引けるか。1万2,258.39を終値で割るか |
| 9日 午前9時 | 東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコの寄り付き | 8日終値(1万2,190円・4万930円・6万1,140円)からの下げ幅 |
| 9日 終日 | ドル円 | 157円台で円高が続くか。円高は輸出株と外貨建て資産の両方に効く |
| 10日 午前5時 | 米国市場9日の終値 | SOXが前日終値1万3,066.15に戻すか(撤退線) |
| 15日 15時 | TSMCの決算説明会 | 2026年の設備投資計画と10〜12月期の見通し |
米国の長期金利の水準そのものについては、30年債利回りが5.67%を付けた日の記事で扱った。金利が下がった日に半導体が売られたという事実は、少なくとも短期的には、この相場を動かしているのが金利ではないことを示している。
主な参照
- ナスダック総合・ナスダック100・SOXと米個別株の気配値、SOXの日足(10月8日)/Nasdaq
- ダウ平均・S&P500・米10年債利回り・ドル円(10月8日)/Yahoo!ファイナンス
- 原油連動ETF(USO・BNO)とTSMC ADRの日足/stockanalysis.com
- 朝方の市場動向(「米国債利回りの上昇が続き、原油は4%高」、米東部時間9時30分)/CNBC
- 2026年の休業日(10月12日 スポーツの日)/日本取引所グループ
データ基準日:2026年10月8日、米東部時間13時16〜29分(日本時間9日午前2時16〜29分)。米国の株価・指数・利回りはすべて取引時間中の値で、終値ではない。米国市場の取引終了は日本時間9日午前5時で、その後の値動きは反映していない。S&P500は10分遅れの値。ドル円は日本時間9日未明の値で、始値(日本時間朝)との比較である。原油は先物ではなく原油連動ETFの値動きで代用しており、原油先物の価格そのものは本誌で確認できていない。日本株は8日の東京市場の終値。20日線・50日線はSOXの7日までの終値から本誌が計算した。値動きの原因に関する記述は筆者の見立てであり、確認された事実ではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













