1万ドル分の米30年国債を、10月7日の為替レートで円に直すと158万2,300円になる。年に受け取る利子は567ドル、円にして約9万円だ。米財務省が公表した7日の30年債利回り(引け)は5.67%で、30年債の発行が再開された2006年2月以降で最も高い。同じ7日、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月会合の議事要旨を公表し、参加者の大半が「年内にもう1回の利上げが適切になる可能性が高い」とみていたことが分かった。
9万円の利子は、私たちの家計にとって魅力的な数字に見える。だが、その裏には同じ大きさのリスクが2つ張り付いている。金利がさらに上がれば債券の値段は下がり、円高になれば円で受け取る額は減る。この記事では、ネット証券の外国債券の画面に並ぶ「5%台」という数字を、円建て・家計単位にほどいていく。
年9万円の利子は、手元にいくら残るのか
まず値段を分解する。米財務省が公表する利回りは、額面どおりの値段で買った国債(パー債)を想定した数字である。7日の30年債は5.67%なので、額面1万ドルなら年に567ドルの利子を生む。欧州中央銀行(ECB)が7日(中欧時間14時15分)に公表した参照レートは1ドル=158.23円で、これで換算すると8万9,716円になる。
ここから日本の税金が引かれる。日本の個人が受け取る米国債の利子には、外国国債の利子として、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%、合わせて20.315%がかかる(国税庁)。手元に残るのは約7万1,490円、税引き後の利回りにして約4.52%である。証券会社によっては為替の手数料(スプレッド)も差し引かれるので、実際の受取額はこれより少し小さくなる。
比べる相手として、日本の国債も見ておきたい。財務省が公表した10月6日の日本の10年国債利回り(引け)は3.103%だった。同じ日の米10年債は5.27%で、日米の10年金利差は約2.17ポイントある。この差が、円を売ってドルの債券を買う動機そのものになっている。日本の10年債の利率が3.1%に乗った入札の中身は、10月6日の記事で詳しく扱った。
上流をたどる:議事要旨は何を言ったか
5.67%の出どころをさかのぼる。FRBは9月15〜16日の会合で、政策金利(フェデラルファンド金利の誘導目標)を0.25ポイント引き上げ、3.75〜4.00%とした。投票は12対0の全会一致である。7日に公表された議事要旨によると、参加者全員がこの利上げを支持した。会合後の見通しについては「大半の参加者が、年末までにもう1回の利上げが適切になる可能性が高いと判断した」と記されている。
これは、会合で示された参加者の見通し(いわゆるドット)とも整合する。9月時点で、2026年末の政策金利の中央値は4.1%。現在の誘導目標の中間(3.875%)から、あと0.25ポイント上げた水準にあたる。6月時点の中央値は3.8%だったから、3カ月でFRBの見立ては一段と引き締め寄りに動いた。
家計の視点で見落としたくない記述が2つある。1つは、長期金利の上昇について「多くの参加者が、最近の長期金利の上昇にもかかわらず、金融環境は経済成長を支える状態にある」と述べていたことだ。株価が今年大きく上がり、社債の上乗せ金利も狭いままだという理由である。つまりFRBは、長期金利の上昇を止めに入る構えを見せていない。
もう1つは、長期金利を押し上げた要因として、市場の見方が列挙されている点だ。地政学的な動き、財務省の国債買い戻しプログラムをめぐる不確実性、そしてAI(人工知能)インフラ向けの巨額の社債発行と資金を奪い合う構図である。長い年限ほど上乗せ金利(期間プレミアム)が膨らむ理由として、こうした要因が並んでいる。同じ議事要旨には、7月下旬に日米が共同で円買い介入を実施し、それがドル安に直接寄与したという記述もある。
利上げのあと、動いたのは長い金利だった
ここで、利上げを決めた9月16日から10月7日までの3週間に、年限ごとの利回りがどれだけ動いたかを並べてみる。数字はいずれも米財務省が公表する引けの利回りだ。
利上げ後3週間の米国債利回りの変化(9月16日→10月7日、引け)
読み方:政策金利に近い2年債はほとんど動かず、10年より長い年限が大きく上がった。利上げそのものより、長くお金を貸すことへの上乗せ要求が利回りを押し上げている。出所:米財務省の日次公表値。
政策金利に最も近い2年債は4.74%から4.77%へ、わずか0.03ポイントの上昇にとどまった。2年債は9月28日に4.92%まで上がったあと、むしろ下がっている。一方で10年債は0.27ポイント、20年債と30年債は0.32ポイント上がった。「もう1回利上げ」という議事要旨の中身は、短い金利にはすでに織り込まれている。いま家計の外債の値札を動かしているのは、利上げそのものより、長くお金を貸すことへの上乗せ要求のほうである。
一方で、5%台の米国債には買い手がいることも7日に確認された。米財務省が同日に実施した10年債の入札(390億ドル、銘柄の追加発行)は、落札利回り5.300%、応札倍率2.77倍だった。今年の10年債入札(物価連動債を除く)で最も高い倍率である。売れ残りを引き受ける役回りのプライマリーディーラーの落札比率は2.5%と、今年の10年債入札で最も低かった。海外勢などを含む間接入札は77.8%を占めた。米10年債利回りが2002年以来の高さに達した7〜9月の流れは、こちらの記事にまとめている。
家計への換算表:1万ドルの米国債を円で持つと
では、5%台の利子と2つのリスクを、同じ物差しで並べてみる。額面1万ドル(158万2,300円)をパー債で買ったと仮定し、金利の変化による値下がりは本誌が利回りから計算した。
| 項目 | 30年債(5.67%) | 10年債(5.28%) |
|---|---|---|
| 年間の利子(税引き前) | 567ドル=約8万9,700円 | 528ドル=約8万3,500円 |
| 年間の利子(税引き後、20.315%) | 約7万1,500円 | 約6万6,600円 |
| 利回りが0.5ポイント上がったときの値下がり | 約6.8%=約10万7,400円 | 約3.8%=約5万9,500円 |
| 利回りが1ポイント上がったときの値下がり | 約12.9%=約20万4,100円 | 約7.3%=約11万6,100円 |
| 1年分の利子(税引き前)で吸収できる円高 | 1ドル=149.74円まで | 1ドル=150.29円まで |
| 1年分の利子(税引き後)で吸収できる円高 | 1ドル=151.39円まで | 1ドル=151.84円まで |
この表の読み方はこうだ。30年債の利回りがあと1ポイント上がると、評価額は約20万円減る。これは2年分以上の利子に相当する。満期まで持ち続ければ額面の1万ドルは戻るが、途中で売れば損失が確定する。もう1つの物差しが為替で、1年分の利子(税引き後)は、1ドル=151円台までの円高で消える。7日の158.23円から約4%の円高である。
ドル円の現在地と、30年債の利子1年分が消える円高の水準
読み方:1万ドルの30年債を10月7日に買った場合、1年分の利子で吸収できる円高は税引き後で151.39円まで。現在値から約4.3%の円高にあたる。出所:ECB参照レート、本誌計算(為替手数料は含まない)。
為替の線を地図に置くと、距離感がつかみやすい。FRBが利上げを決めた9月16日のECB参照レートは155.05円で、そこから3週間で3円ほど円安が進んだ。損益分岐の151円台は、そこからさらに4円近く円高側にある。ドル円の見通しと10月末の日米会合の関係は、10月2日の記事で詳しく扱っている。
生活防衛と投資の接点:選択肢を並べる
5%台の米国債を前にした個人投資家の選択肢を、特徴だけ並べておく。どれかを推奨するものではない。
- 長い米国債(20年・30年)。利回りは最も高いが、金利が上がったときの値下がりも最も大きい。今回の3週間で最も上昇したのもこの年限だ。
- 短い米国債やドル建ての短期商品。3カ月物は4.22%、2年債は4.77%で、金利変動による値下がりは小さい。ただし利上げが止まれば、乗り換えるときの利回りは下がる。為替のリスクは長い債券と同じだけ残る。
- 円建ての債券や預金。日本の10年国債は3.103%(10月6日)と、為替のリスクを負わずに得られる利回りは上がってきた。日米の差は約2.17ポイントある。
どの選択肢でも、まず確かめたいのは「途中で売る可能性があるか」と「円高にどこまで耐えられるか」の2点だ。満期まで持てない資金で長い債券を買えば、利回りの高さはそのまま値下がりの大きさに変わる。為替リスクの考え方は、FX解説ページでも整理している。
次に値札が変わる日付
次に外債の値札が変わる日付
出所:FRBと日本銀行の公表日程。
最初の山場は10月27〜28日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、声明は日本時間29日の午前3時に出る。議事要旨のとおり「年内もう1回」なら、10月か12月8〜9日のどちらかになる。そして10月29〜30日には日銀の金融政策決定会合がある。日米の会合が同じ週に重なるため、金利差と為替の両方が動きやすい1週間になる。植田総裁が10月6日の講演で何を変え、何を変えなかったかはこちらにまとめた。
本誌の見立てを書いておく。議事要旨が示すFRBの関心は物価で、長期金利の上昇はむしろ容認している。このため、短期の金利は「年内もう1回」でほぼ頭打ちになる一方、長い金利の上昇圧力は、国債の供給とAI関連の資金需要が続く限り残りやすい。この見立てが外れるサインは2つある。2年債が再び4.9%台に乗って長い金利より速く上がり始めた場合(利上げ観測の再燃)と、30年債の入札で応札が崩れて長い金利だけが急伸した場合(需給の悪化)だ。前者なら円安、後者なら株安を通じた円高に振れやすく、外債を持つ家計には逆方向の影響が出る。
主な参照
- 9月15〜16日会合の議事要旨(10月7日公表)/米連邦準備制度理事会
- 9月会合の経済見通し(政策金利の中央値)/米連邦準備制度理事会
- FOMCの開催日程/米連邦準備制度理事会
- 米国債利回り(日次、引け)/米財務省
- 30年債利回りの長期系列(2002年2月〜2006年2月は発行停止)/セントルイス連銀(FRED)
- 10年債入札の結果(10月7日)/米財務省(TreasuryDirect)
- ドル円の参照レート/欧州中央銀行
- 特定公社債等(外国国債を含む)の利子の税率/国税庁
- 日本国債の金利情報/財務省
- 金融政策決定会合の開催日程/日本銀行
データ基準日:米国債利回りは2026年10月7日の引け(米財務省公表値)、日本国債利回りは10月6日の引け(財務省公表値)、ドル円は10月7日のECB参照レート(中欧時間14時15分)。取引時間中の値は用いていない。「2006年2月以降で最高」は、30年債の発行が停止されていた2002年2月〜2006年2月を除いた比較であり、それ以前の水準との比較ではない(再開後のこれまでの最高は2007年6月12日の5.35%)。入札の比較は2026年に実施された10年債(物価連動債を除く)の範囲である。値下がり率と損益分岐レートは本誌の試算で、為替手数料、売買の価格差、利子の再投資、税制の個別事情を含まない。税率は国内の一般的な課税方式を前提とした。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















