平日の昼、ファミリーマートの店内でゆうちょのキャッシュカードを差し込み、1万円を引き出す。今は手数料がかからない。この同じ操作が、早ければ2027年1月から1回220円になる。ゆうちょ銀行は10月6日、ファミマに置いている約5,400台のATMを2027年1月から3年ほどかけて順次止めると発表した。跡地にはセブン銀行のATMが入る。
220円は小さな金額に見える。だが、月に何回コンビニでお金を下ろすかを数えると、年間では数千円から1万円を超える。そしてこの220円の行き先をたどると、伊藤忠商事、セブン銀行、ゆうちょ銀行という3社の思惑が見えてくる。私たちの財布から、上流へ登ってみよう。
店頭で何が変わるのか
まず、変わる中身を正確に押さえておく。ゆうちょ銀行の料金案内によれば、ファミマにある今のゆうちょATMは、平日8時45分〜18時と土曜9時〜14時の利用が無料だ。それ以外の時間帯は1回110円かかる。通帳と硬貨は使えない。
撤去後に置かれるセブン銀行の「ファミマATM」では、ゆうちょのカードで入金も出金もできる。ただし手数料が変わる。ゆうちょ銀行の発表資料(2026年10月時点の料金)では、平日8時45分〜18時と土曜9時〜14時が220円、それ以外の時間と日曜・休日は終日330円になる。残高照会は無料のままだ。
つまり、昼間は「無料→220円」、夜と週末は「110円→330円」。どちらの時間帯でも、1回あたり220円ずつ高くなる計算である。この料金は、ゆうちょのカードでセブン銀行やイーネット、ローソン銀行のATMを使うときと同じ水準だ。郵便局の中にあるゆうちょATMは、これまでどおり時間帯にかかわらず無料で使える。
私たちの家計では、年にいくらか
1回220円の差を、使い方ごとに年額へ換算してみる。給料日後にまとめて下ろす人と、こまめに下ろす人では負担が大きく違う。
| 使い方(ファミマで、ゆうちょカード) | 今の手数料(月) | 切り替え後(月) | 年間の増加額 |
|---|---|---|---|
| 平日の昼に月2回 | 0円 | 440円 | 5,280円 |
| 平日の昼に月4回 | 0円 | 880円 | 1万560円 |
| 夜か週末に月4回 | 440円 | 1,320円 | 1万560円 |
| 昼に月4回+夜に月4回 | 440円 | 2,200円 | 2万1,120円 |
| 郵便局のATMに切り替える | 0円 | 0円 | 0円 |
平日の昼に月4回下ろす人なら、年1万560円の負担増になる。預金の利息で年1万円を得るには、相応の元本が要る。手数料の節約は、確実に効く「利回り」だと考えたほうがいい。
ただし、慌てる必要はない。撤去は2027年1月から3年ほどかけて進む。店ごとの終了日はその店で知らされ、それまでは今のまま使える。近所のファミマのATMがいつ切り替わるかは、店頭の告知を見るのが確実だ。
上流をたどる:ファミマのATMはなぜ入れ替わるのか
ゆうちょ銀行が挙げた理由は「ファミリーマートとのATM設置にかかる契約の終了」だけだ。これだけでは何も分からない。1年前までさかのぼると、筋道が見えてくる。
ファミマのATMが入れ替わるまで(川上から川下へ)
読み方:今回の撤退は、ファミマの親会社である伊藤忠がセブン銀行に出資したことから始まった一連の入れ替えの最後の段階である。出所:伊藤忠商事、ファミリーマート、ゆうちょ銀行の各発表資料。
起点は2025年9月26日である。ファミマの親会社である伊藤忠商事が、セブン銀行と資本業務提携を結んだ。伊藤忠はセブン銀行の議決権の20%を握り、12月26日に持分法適用会社にした。同じ日、ファミマとセブン銀行はATM設置の基本合意を結んでいる。
ファミマの2026年3月27日の発表では、エリアフランチャイズを除く全店に、4年ほどで約1万6,000台のセブン銀行ATMを置く。6月1日には緑色の「ファミマATM」が稼働を始めた。ITmediaの報道によれば、これまでファミマの店舗の約7割にはイーネットのATMが、約3割にはゆうちょのATMが入っていた。イーネット機の置き換えが進むなか、残る3割のゆうちょ機も対象になった、というのが今回の発表の位置づけである。
ゆうちょ銀行とファミマの縁は長い。ゆうちょのATMがファミマに初めて置かれたのは2014年11月で、首都圏と関西圏の約500店からの出発だった。2019年からはサークルK・サンクス由来の「バンクタイム」もゆうちょ機に置き換えた。12年続いた協力関係が、ファミマの親会社の資本政策で幕を閉じることになる。
220円は誰の財布に入るのか
私たちが払う220円の内訳は公表されていない。ただし、ATMを置く側の稼ぎ方は決算から読める。セブン銀行は、提携先の銀行から1件ごとに「ATM受入手数料」を受け取って稼ぐ。2026年4〜6月期のATM受入手数料は国内事業で300億3,700万円、ATMの利用件数は全体で2億8,600万件だった。単純に割ると1件あたり約105円になる(本誌試算、国内と全体で範囲が異なるため目安)。
ゆうちょ側から見ると、自前のATMを維持する費用がなくなる代わりに、顧客がセブン銀行ATMを使うたびに手数料の受け渡しが発生する。顧客の払う220円は、その費用の一部を利用者に回す仕組みと読める。約5,400台は、ゆうちょの案内にある約3万2,000台(2021年9月末時点)のおよそ6分の1にあたる。
セブン銀行は6月末時点でATMを2万8,614台持ち、今期末に2万9,404台を見込む。ファミマへの約1万6,000台が加われば、単純合計で4万台を超える計算だ。日本経済新聞は2025年9月、ファミマ分が加わるとセブン銀行がゆうちょを抜いて国内最大のATM網になると報じた。
生活防衛と投資の接点
家計の側でとれる手は、現実的にはいくつかに限られる。ここでは並べるだけにとどめ、推奨はしない。
- 郵便局のATMを使う。局内のゆうちょATMは時間帯にかかわらず無料。ただし設置場所と営業時間は限られる。
- 下ろす回数を減らす。月4回を月1回にまとめれば、昼間の利用なら年7,920円の差になる(本誌試算)。
- キャッシュレス決済に寄せる。現金を使う場面が減れば、ATMに行く回数そのものが減る。
- 手数料の優遇がある口座を併用する。コンビニATMの無料回数を設けている銀行もある。条件は各行で異なる。
株式市場の側から見ると、関係する上場企業は3社ある。10月6日の終値は、セブン銀行が340.4円(前日比1.07%高)、ゆうちょ銀行が3,464円(同1.97%高)、日本郵政が2,503.5円(同1.54%高)だった。同じ日の日経平均は1.05%高で、3社とも相場全体と同じ程度に上げただけである。報道の多くは取引終了の前後に出ており、この日の値動きを今回の発表で説明することはできない。
セブン銀行の今期の純利益予想200億円は、前期比48.4%増と大きい。だが会社の説明によれば、主因はATMの耐用年数を5年から7年に延ばした会計上の変更で、4〜6月期の減価償却費が10億7,700万円減った。台数の拡大がどこまで利益に効くかは、ファミマへの設置が進む今後の四半期で見えてくる。銀行株全体の見方はこちらの記事で扱った。
次に店頭へ届く変化の日付
- 2027年1月:ファミマのゆうちょATMの営業終了が始まる。店ごとの終了日は各店で掲示される。
- 2027年1月から3年程度:約5,400台の切り替えが順次進む。
- 2026年春から4年程度:ファミマ全体で約1万6,000台のセブン銀行ATMへの置き換えが続く。
- 11月上旬:セブン銀行とゆうちょ銀行の上期決算。ファミマ向け設置の進み具合と費用の見通しが材料になる。
ガソリン価格の内訳を店頭からたどったこちらの記事と同じく、生活の中の小さな値段は、上流の大きな意思決定の結果である。220円もその一つだ。
主な参照
- ファミリーマートに設置しているATMの営業終了のお知らせ(2026年10月6日)/ゆうちょ銀行
- ATMご利用時間・料金/ゆうちょ銀行
- ATM台数(2021年9月末時点)/ゆうちょ銀行
- ファミマへのゆうちょATM設置開始(2014年11月13日)/ゆうちょ銀行
- セブン銀行との資本業務提携(2025年9月26日)と持分法適用会社化(12月26日)/伊藤忠商事
- セブン銀行ATMの設置契約(2026年3月27日)と「ファミマATM」稼働開始(6月1日)/ファミリーマート
- セブン銀行 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月7日)/セブン銀行
- ファミマ店舗のATMの内訳(2026年6月4日)/ITmedia
- セブン銀行が国内最大のATM網に(2025年9月)/日本経済新聞
データ基準日:2026年10月6日。株価は東京証券取引所の10月6日終値(15時30分)。手数料はゆうちょ銀行が示す2026年10月時点の料金で、実際の切り替え時に変わる可能性がある。年間の増加額と1件あたりのATM受入手数料(約105円)は本誌の試算で、後者は国内事業の手数料を全体の利用件数で割った目安にすぎない。ゆうちょのATM総台数約3万2,000台は同行が示す2021年9月末時点の値で、最新の台数は確認できていない。ファミマ店舗のATMの内訳(約7割・約3割)とセブン銀行が国内最大のATM網になるとの見通しは報道によるもので、会社の発表では確認していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。アイキャッチ写真:xsix/Flickr(CC BY 2.0)。













