レギュラーガソリン1リットル170.2円。経済産業省が9月30日に公表した9月28日時点の全国平均である。前週から30銭上がっただけで、この半年ほど価格板はほとんど動いていない。ところが同じ資料には、もう一つの数字が載っている。補助がなければ221.2円。その差の51.0円を、いま国が払っている。そして10月1日、この差をさらに広げかねない知らせが、海の向こうの製油所から届いた。
中国の製油会社が、10月の石油製品の輸出を止めた。ロイター通信が4人の関係者の話として報じたもので、香港とマカオ向けを除き、北京から次の指示があるまで出荷を見合わせるという。止まったのは原油ではない。ガソリン、軽油、ジェット燃料といった、そのまま使える燃料である。この記事では、価格板の170.2円から川上へさかのぼり、中国の決定が私たちの財布のどこに届くのかをたどる。
価格板の170.2円を分解する
まず手元の数字から確かめる。資源エネルギー庁の「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」は、3月19日に始まった。石油元売りや輸入事業者に補助金を渡し、卸値を下げさせる仕組みである。対象はガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料の5種類。目標は、ガソリンの全国平均を170円程度に抑えることにある。
10月1日から7日までの支給単価は、ガソリン、軽油、灯油・重油がいずれも1リットル50.7円、航空機燃料が40.5円である。前の期間の51.0円から30銭下がった。算定式も公表されている。今週の全国平均170.2円に前週の支給額51.0円を足し、原油価格の変動分(マイナス1.4円)と、調達費用にもとづく調整単価の変動分(プラス0.9円)を加え、基準価格の170.0円を引く。答えが50.7円だ。
ここで一つ、覚えておきたい点がある。この式で相場を映すのは「原油価格の変動」であり、指標はドバイ原油である。ガソリンや軽油そのものの国際価格は、式に直接は入っていない。元売りが割高な代替調達で余分に払った費用は、「調整単価」として月に1回反映される。10月分の調整単価は3.7円だった。言い換えれば、日本の価格板は原油と財政でできている。燃料の国際市況が跳ねたときに何が起きるかは、この式の外側にある。
10月1日、上流で起きたこと
ロイターによれば、中国は10月1日から1週間の国慶節の連休に入ったが、大手製油会社は香港・マカオ以外への燃料輸出の許可を得られなかった。国有の中国石油天然気(ペトロチャイナ)は、この2週間で売却を決めていた10月積みのガソリンとジェット燃料の数カーゴを取り消した。民営の浙江石油化工は、連休中の製品出荷をまったく組んでいない。連休明けの10月7日以降に輸出が再開されるかどうかは、国内の在庫と精製量しだいで、はっきりしないという。
北京が燃料輸出を絞るのは初めてではない。ロイターによると、中国はイランとの戦争が始まった3月に輸出を制限し、7月にいったん緩めたあと、軽油、ガソリン、ジェット燃料の輸出を月ごとに管理してきた。理由は在庫である。データ会社ケプラーの分析では、中国の商業用の軽油在庫は戦争前の水準をおよそ2,000万バレル、ガソリンはおよそ900万バレル下回っている。
9月の積み出しは、軽油が140万トン、ガソリンが50万トン、ジェット燃料が少なくとも200万トン(香港・マカオ向けの保税分を含む)だった。主な行き先はシンガポール、マレーシア、オーストラリア、ベトナム、バングラデシュ、フィリピン。アジアの燃料市場に、毎月これだけの量を出していた国が、蛇口を閉めたことになる。英オックスフォード・エネルギー研究所のミハル・メイダン氏は「政府の関心は国内の供給の安定にある。国際市場は二の次だ」と述べている(ロイター)。
原油は戻りつつある。燃料は戻っていない
この話のいちばん奇妙なところは、原油の供給がむしろ回復していることだ。ロイターが伝えたゴールドマン・サックスの推計では、湾岸からの原油輸出は日量2,330万バレルまで戻り、2025年の平均と同じ水準にある。10月1日の取引の序盤、北海ブレント原油の先物はこの回復を材料に1%を超えて下げていた。
流れを変えたのが中国のニュースだった。期近になった12月限は、前日の清算値約98.03ドル(ロイターの値から逆算)からグリニッジ標準時8時29分(日本時間17時29分)に100.09ドルまで上がった。ヤフーファイナンスの値では、1日の取引を約102.3ドルで終え、前日比で4ドルあまり高い。なお、前日の103.53ドルは9月30日に満期を迎えた11月限の値で、連続した値動きとして比べると下げたように見えるので注意が要る。
それでも、原油の値上がりは燃料に比べれば小さい。ロイターによると、アジアのガソリンの精製マージン(シンガポールの92オクタン価ガソリンとブレント原油の差)は1バレル50.53ドルと過去最高を付けた。軽油のマージンは週の高値となる75ドル前後まで上がった。精製マージンとは、原油を燃料に変えたときの製油所の取り分のことだ。原油が届いても、それを燃料に変える設備と在庫が足りなければ、燃料の値段だけが高止まりする。この構図は、米国のディーゼルが最高値を付けた9月の記事で見たとおりである。
中国の輸出停止が日本に届くまで(川上→川下)
読み方:日本の価格板の算定式に入るのはドバイ原油の変動と調達費用で、アジアの燃料市況は直接は入らない。燃料市況の上昇は、補助の届かない航空運賃や物流費から先に表れやすい。出所:ロイター、経済産業省 資源エネルギー庁、全日本空輸の公表資料。
私たちの財布に換算する
では、補助がいくらの値打ちを持っているか。経産省の資料の「補助なし価格」221.2円と、実際の170.2円の差は51.0円である。軽油の全国平均は9月28日時点で159.5円だった。同じ51.0円を足し戻すと、約210.5円になる。
| 使い方 | いまの支払い | 補助がなければ | 国が肩代わりしている額 |
|---|---|---|---|
| レギュラーを月40リットル給油する家庭 | 6,808円 | 8,848円 | 2,040円/月 |
| 同・1年間 | 8万1,696円 | 10万6,176円 | 2万4,480円/年 |
| 軽油を月1,000リットル使うトラック1台 | 15万9,500円 | 約21万500円 | 約5万1,000円/月 |
| 同・トラック10台 | 159万5,000円 | 約210万5,000円 | 約51万円/月 |
家計で月2,000円、トラック1台で月5万円。燃料が日本の価格板を素通りしてそのまま上がっていれば、これだけの負担が増えていた。逆に言えば、中国の輸出停止がアジアの燃料価格を押し上げても、価格板の170円が守られる限り、その差はまず国の財政が受け止めることになる。補助の仕組みと価格板の時間差はこちらの記事で詳しく扱った。
価格板が守らないもの
ただし、170円の防波堤がすべてを守っているわけではない。わかりやすいのが空の運賃である。全日本空輸(ANA)は、国際線の燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)の算定にシンガポールのケロシン(ジェット燃料)の市況価格を使っていると公表している。直近2カ月の平均に、日本発の旅程では同じ期間の平均為替レートを掛けて金額を決める。国内の補助金ではなく、アジアの燃料市況そのものが入る式である。中国のジェット燃料が市場から消えれば、その影響はこの式を通じて数カ月遅れで航空券に乗る。ANAは9月以降に発券する分の扱いを別途知らせるとしており、次回の金額の発表が一つの節目になる。
もう一つは物価統計である。総務省が10月2日に公表した9月の東京都区部の消費者物価指数では、ガソリンの暫定税率廃止と政策による効果がエネルギーを通じて総合を0.36ポイント押し下げたと試算されている。補助がある限り、物価統計のエネルギーは国際市況ほど跳ねない。その一方で、物流費として運賃に上乗せされる分は、補助では止まらない。東京の物価の読み方は東京都区部CPIの記事で扱った。
株式市場の反応は、まだ小さい。ヤフーファイナンスの値で、10月2日15時21分時点(取引時間中)のENEOSホールディングスは前日比1.15%高、出光興産は1.70%高、コスモエネルギーホールディングスは0.55%安だった。航空株は日本航空が0.53%安、ANAホールディングスが0.86%安。日経平均株価は1.07%安で、市場全体の下げの中では、元売り2社が逆行高した形である。
生活防衛と投資の接点
ここからは、個人として取りうる見方を並べる。どれかを勧めるものではない。
- 給油のタイミングを気にしすぎない。支給単価は毎週の価格を見て調整され、目標は170円程度に置かれている。価格板が数日で大きく動く仕組みにはなっていない。
- 海外旅行は燃油サーチャージの発表日を確認する。サーチャージは発券日で決まる。次回の金額が発表されてから発券するか、その前に発券するかで、支払いが変わる可能性がある。
- 石油元売り株は、2つの力の綱引きとして見る。アジアの精製マージンの上昇は輸出や在庫評価の面で追い風になりうる。一方で国内の卸値は補助制度の下にあり、原油の調達費用の増加も抱えている。10月1日には日経平均株価が3.30%上げる中で、ENEOSが2.7%、出光が4.0%、コスモが2.7%下げており、値動きは原油の上下に振られやすい。
- 航空株は、燃料費とサーチャージの時間差を見る。燃料費は市況で先に上がり、サーチャージは数カ月遅れで追いつく。その間は利益が削られやすい。
次に店頭へ届く変化の日付
- 10月7日:中国の国慶節の連休が明ける。北京が11月に向けて輸出の許可を出すかが最初の分かれ目になる。
- 10月8日:次の支給単価の適用開始。経産省の資料では、10月1日〜7日の50.7円の次の単価がここから使われる。
- 10月中旬以降:航空各社の燃油サーチャージの次回の金額の発表。シンガポールのケロシン価格がどこまで反映されるかを見る。
- 10月23日:総務省の全国9月の消費者物価指数。エネルギー項目に対する政策効果の試算も公表される。
いま起きていることを一文にすれば、こうなる。原油は湾岸から戻り始めているのに、燃料を出していた中国が蛇口を閉め、アジアの燃料の値段だけが上がっている。私たちの価格板が170円で止まっているのは相場のおかげではなく、1リットル50.7円の補助が間に入っているからだ。その補助が届かない航空運賃と物流費から、変化は先に表れる。ホルムズ海峡をめぐる経緯はこちらの記事にまとめている。
主な参照
- 中国の製油会社の10月の燃料輸出停止、在庫不足、9月の積み出し量、行き先/ロイター(ユーロネクスト掲載)、ロイター(ヤフーファイナンス掲載)(2026年10月1日)
- ブレント原油12月限の値動き、湾岸の原油輸出の回復(ゴールドマン・サックス推計)/ロイター(エクスプレス・トリビューン掲載)(2026年10月1日)
- アジアのガソリン精製マージンの過去最高/ロイター(China Global South掲載)(2026年10月2日)
- 支給単価、算定式、補助なし価格、調整単価/経済産業省 資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」(2026年9月30日更新)
- 軽油の全国平均(9月28日時点)/日本経済新聞、福井新聞
- 燃油特別付加運賃の算定方法/全日本空輸
- 東京都区部の消費者物価指数とエネルギー政策効果の試算/総務省統計局
- 株価・原油先物の値/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月2日(日本時間15時21分)。中国の輸出停止は関係者の話にもとづくロイターの報道であり、中国政府や各社は連休中のため取材に応じていない。精製マージンの数値もロイターの報道による。ブレント原油の終値はヤフーファイナンスの期近(12月限)の値で、取引所の清算値とは異なる場合がある。株価は取引時間中の値で、終値ではない。軽油の補助なし価格と家計・事業者の換算は本誌の試算である。燃油サーチャージの今後の算定方法は各社の発表を確認していただきたい。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















