白いゴム底にキャンバス地のスニーカー。靴箱に1足はありそうなコンバースの売上高が、6〜8月期に前年同期比28%減の2億6,300万ドル(約415億円)まで落ちた。親会社の米ナイキ(ニューヨーク証券取引所:NKE)が日本時間2日早朝に発表した2027年5月期第1四半期決算の、いちばん小さな、そしていちばん減り方の大きい数字である。
ナイキ全体の売上高は4%減の112億1,300万ドル。ロイターが伝えたLSEG集計の市場予想112億3,000万ドルに届かず、通期の売上高見通しは「1桁台後半の減少」とされた。株価は1日の通常取引を前日比0.71%安の35.15ドルで終え、時間外取引では一時6%超下げた。終値は2013年10月以来の安さである。私たちの足元の1足から、この決算を川上へたどってみる。
売り場の1コマ:どこで買われなくなったのか
靴が消費者の手に渡る道は2本ある。ナイキが自社の店舗やアプリで直接売る道(ナイキ・ダイレクト)と、スポーツ用品店などの小売りに卸す道(卸売り)だ。6〜8月期は、この2本で明暗が分かれた。卸売りは68億400万ドルで1%減にとどまったが、ナイキ・ダイレクトは41億4,200万ドルで8%減。中でもアプリやサイトでのデジタル販売は13%減、直営店は5%減だった。
北米では卸売りが9%増えた一方、直販は6%減った。店頭に並ぶナイキの靴は戻りつつあるが、ナイキ自身の売り場からは客が離れている。
ナイキの6〜8月期売上高、前年同期比(ドル建て)
読み方:伸びたのは北米だけで、自社で直接売る経路(直営店・デジタル)の落ち込みが卸売りより大きい。減り方が最も大きいのは普段履きのコンバースと中華圏である。出所:ナイキの2027年5月期第1四半期決算資料(米証券取引委員会への提出書類)。
分解:誰がいくら払わなくなったのか
地域別に見ると、売上高が増えたのは北米だけである。北米は51億2,700万ドルで2%増。欧州・中東・アフリカは31億7,600万ドルで5%減、このうち靴は11%減だった。中華圏は11億8,000万ドルで22%減(為替の影響を除くと26%減)と、落ち込みが際立つ。ロイターによれば、中華圏の売上高は9四半期連続で前年を下回っており、売上高全体の約15%を占める。
日本はどうか。ナイキは日本単独の売上高を開示しておらず、日本は「アジア太平洋・中南米」の区分に含まれる。この区分は14億6,300万ドルで2%減(為替の影響を除くと横ばい)だった。同社が7月に提出した年次報告書は、前期にこの区分の売上高が減った理由として、東南アジア・インド、日本、韓国での減収を挙げている。日本の売り場でも、ナイキの勢いは戻っていない。
一方で、利益の側には改善の兆しもある。売上総利益率は42.8%と0.6ポイント上がった。理由は「主に倉庫と物流の費用が下がったため」と会社は説明している。純利益は2%減の7億1,200万ドル、1株利益は0.48ドルで、市場予想(LSEG集計で0.43ドルとCNBCが報道)を上回った。売上高は予想を下回り、利益は上回った。ただ株価が反応したのは、売上高と通期見通しの方だった。
川上をたどる:会社はどこを作り直すのか
エリオット・ヒル最高経営責任者(CEO)は決算説明会で「ナイキのパフォーマンス事業は、スポーツウエア、ジョーダン・ブランド、中華圏で受けている圧力を相殺できるほどには、まだ大きくない」と述べた(ロイター)。ランニングなど競技向けの靴は伸びているが、普段履きのスニーカーやジョーダン、中国の落ち込みを埋めきれない。コンバースの28%減も、この「普段履き」の側の数字である。
同じ日、ナイキは「ペース(Pace)」と名付けた組織の作り直しを発表した。2028年5月期から地域区分を3つに再編し、北米と中南米を「アメリカズ」、アジア太平洋と中華圏を「APGC」、欧州・中東・アフリカをそのまま1つの地域とする。APGCの経営陣はシンガポールに置き、インドのベンガルールに新たな拠点を設ける。人員については「ナイキ全体で役職を減らす」とし、判断は2027年から始めるという。削減人数は示していない。
費用と効果も数字で出ている。2031年5月期までに累計で約25億ドルの費用削減を見込み、そのために税引き前で約10億ドルの費用を計上する。2027年5月期の費用は約3億ドルである。デイブ・デントン最高財務責任者(CFO)は発表資料で、第1四半期を「想定どおり」としたが、説明会では「結果は私たちの期待も潜在力も下回っている」とも述べている(インベスティング・ドットコムの発言録)。
家計に換算する:100株を持つといくらか
ナイキ株は日本の証券会社でも米国株として買える。ナイキと、日本のスポーツ用品大手アシックス(7936)を、100株単位で円に直して並べてみる。為替は欧州中央銀行の10月1日の参照レート1ドル=157.98円を使った。
| 項目 | ナイキ(NKE) | アシックス(7936) |
|---|---|---|
| 10月1日終値 | 35.15ドル | 4,249円 |
| 100株の金額 | 約55万5,000円 | 42万4,900円 |
| 年間配当(100株・税引き前) | 164ドル=約2万5,900円 | 4,400円(会社予想) |
| 配当利回り | 約4.7% | 約1.0% |
| 年初来の株価 | −44.8% | +13.2% |
| 時価総額 | 約521億ドル=約8.24兆円 | 約3.01兆円=約191億ドル |
| 今期の利益見通し | 調整後1株利益1.15〜1.35ドル | 営業利益1,950億円(36.8%増) |
表で目を引くのは2つの行である。1つは配当利回りだ。ナイキの約4.7%は高く見えるが、これは株価が年初から44.8%下がった結果である。しかも年換算の配当1.64ドルは、会社が示した今期の調整後1株利益1.15〜1.35ドルを上回る。利益だけでは配当をまかなえない計算で、配当性向はおよそ121〜143%になる。手元資金は84億ドルあり、すぐに配当が途切れるわけではない。ただし高い利回りが株価下落の裏返しであることは、安く見える株を疑う5つの検査で8月に取り上げたとおりだ。
もう1つは時価総額である。ナイキの約8.24兆円に対し、アシックスは約3.01兆円で、ナイキの37%に当たる。アシックスは8月14日に今期の見通しを引き上げ、売上高を9,500億円から1兆500億円に、営業利益を1,710億円から1,950億円とした。上半期の売上高は32.7%増、営業利益は48.5%増だった。ランニングシューズという同じ売り場で、勢いの差は数字にはっきり出ている。ただし、ナイキの決算とアシックスの伸びを直接結びつけた報道は、本誌の確認した範囲では見当たらない。ロイターは競合として、スイスのオンの名前を挙げている。
生活と投資の接点:現実的な選択肢
この決算を前に、個人投資家が取りうる立ち位置は大きく3つある。どれかを勧めるものではなく、それぞれが何に賭けることになるのかを並べる。
- 再建に賭ける。13年ぶりの安値圏で、配当利回りは4%台後半。ペースの費用削減が効き、北米の卸売りの回復が他地域に広がれば報われる。逆に、配当が利益を上回る状態が続けば、減配のリスクを負う。
- 勢いのある側を見る。アシックスは見通しを引き上げたが、株価は8月17日に付けた高値5,440円から約22%下にある。成長は続いても、期待がすでに株価に入っていれば上値は重くなる。
- どちらにも寄せない。スポーツ用品は景気と流行の両方に左右される。米国株や日本株の指数を通じて持てば、個別の明暗は相殺される。
円で米国株を持つ場合は、為替も損益を左右する。1日の東京市場で円は1ドル=158円台に下落した。円の動きについては日銀「主な意見」と円相場の記事にまとめている。
次に売り場へ届く変化
- ナイキの次の四半期決算(9〜11月期)。年末商戦を含む四半期で、直販とデジタルの減少が止まるかが最初の確認点になる。
- 2027年からの人員の判断。会社は役職の削減を2027年から決めると説明している。人数が示されれば、費用削減の規模感がはっきりする。
- 2028年5月期からの新しい地域区分。日本はシンガポールに経営陣を置くAPGCに入る。日本の売り場への商品の配分がどう変わるかは、この再編の後に見えてくる。
- アシックスの第3四半期決算。引き上げた通期見通しの達成度が、勢いの差が続くかを示す。
主な参照
- 2027年5月期第1四半期決算(2026年10月1日)/ナイキ(米証券取引委員会への提出書類)
- 組織の変更「ペース」の発表(2026年10月1日)/ナイキ
- 2026年5月期の年次報告書(発行済み株式数、地域別の説明)/ナイキ(米証券取引委員会への提出書類)
- 市場予想(LSEG)とCEOの発言(10月1日)/ロイター(インベスティング・ドットコム転載)
- 決算説明会の発言録/インベスティング・ドットコム
- 1株利益の市場予想(10月1日)/CNBC
- アシックスの2026年12月期第2四半期決算短信と通期見通しの修正(8月14日)/アシックス
- アシックスの修正前の見通し(8月14日)/時事通信(Yahoo!ファイナンス)
- ドル円の参照レート(10月1日)/欧州中央銀行(Frankfurter経由)
- 株価の日足終値/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月1日(ナイキ株は米東部時間の終値、アシックス株は東京の終値)。ナイキの決算発表は米東部時間1日16時15分(日本時間2日5時15分)で、通常取引の終了後である。時間外取引の下落率は報道によって時刻ごとに異なり(米東部時間16時20分に6.6%安、18時10分ごろに6.24%安など)、本記事では「一時6%超」と記した。「2013年10月以来」は株式分割を調整した日足終値による比較である。アシックスの株価は2日の東京市場の反応を含まない。市場予想(LSEG)は報道機関によるもので、会社の発表資料には含まれない。円換算は1ドル=157.98円による概算で、税金と手数料は考慮していない。配当性向は年換算の配当を会社の調整後1株利益見通しで割った本誌の計算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















