テスラは10月2日、7〜9月期の世界販売(納車)台数が48万6,532台だったと発表した。同社がまとめたアナリスト24社の市場予想(コンセンサス)46万1,974台を2万4,558台上回り、株価は米東部時間9時44分時点で前日終値比4.24%高の369.11ドルを付けている。市場はこう信じている——テスラの需要は底を打った。今日はこの通説を尋問する。
通説を最も強い形で述べておく。1〜3月期に35万8,023台まで落ち込んだ納車は、4〜6月期に48万126台、7〜9月期に48万6,532台と2四半期続けて伸びた。1〜9月の累計は132万4,681台で、前年同期の121万7,902台を8.8%上回る。予想を上回ったのは2四半期連続である。数字だけを並べれば、回復の物語は筋が通っている。
だが、本当か。証拠は3つの方向から見る。前年との比較、在庫の動き、そして納車の数字と株価の関係である。
尋問1:予想を上回ったのは、高いハードルだったのか
まずハードルの高さから。市場予想の46万1,974台は、前の四半期の実績48万126台を1万8,000台あまり下回る水準だった。アナリストは前期比で減ると見ていたのである。実績は前期比1.3%増。減るはずが少し増えた、というのが「上振れ」の正体だ。予想の幅はカンター・フィッツジェラルドの42万1,758台からJPモルガンの48万2,000台まであったとエレクトレックは伝えており、最も強気な予想さえ上回った点は評価できる。
次に前年比。48万6,532台は、2025年7〜9月期の49万7,099台を2.1%下回る。前年同期は四半期として過去最高だった。この比較には注意が要る。米国の新車EV向け税額控除(最大7,500ドル)は、2025年9月30日より後に取得した車両から対象外になった。前年の7〜9月期は、その期限前の駆け込みで膨らんだ四半期である。
公平のために言えば、この点は通説の側に有利に働く。駆け込みで膨らんだ前年を2.1%しか下回らなかったのなら、控除のない環境での需要は思ったより強い、と読むこともできる。前年比の減少は、それだけで通説を倒す証拠にはならない。
ただし内訳には穴がある。モデル3とモデルY以外の「その他のモデル」の納車は8,295台で、予想の1万1,285台を26.5%下回った。4〜6月期の1万2,364台からは33%減、前年同期の1万5,933台からはほぼ半減である。伸びているのは主力2車種だけだ。さらに蓄電池の設置量は13.7ギガワット時で、予想の15.9ギガワット時に届かなかった。前年同期の12.5ギガワット時は上回ったが、エネルギー事業の伸びを期待していた投資家にとっては物足りない。
尋問2:売れたのは、今期作った車か
生産と納車の差(台、プラスは在庫の積み上がり)
読み方:年初に5万363台積み上がった在庫を、4〜9月の2四半期で5万509台取り崩した。通算の差は146台で、在庫という追い風はほぼ使い切った。出所:テスラのSEC提出書類(各四半期の生産・納車発表)から本誌計算。
証拠を見よう。7〜9月期の生産は46万4,391台、納車は48万6,532台。作った台数より2万2,141台多く売った。4〜6月期も生産45万1,758台に対して納車48万126台で、2万8,368台多い。2四半期続けて、在庫を取り崩して納車を積み上げたことになる。
取り崩した在庫の出どころははっきりしている。1〜3月期は生産40万8,386台に対して納車35万8,023台で、5万363台が売れ残った。1〜9月で通算すると、生産132万4,535台に対して納車132万4,681台。差はわずか146台である。つまり、年初に積み上がった5万台の在庫は、この半年でほぼすべて売り切られた。
この説明には二つの読み方がある。通説の側は「在庫が掃けたのは需要がある証拠だ」と言うだろう。それは一部正しい。だが同時に、10〜12月期にはもう取り崩す在庫がほとんど残っていない、という意味でもある。今期の生産は前期比2.8%増、前年同期の44万7,450台と比べても3.8%増にとどまる。生産が大きく増えない限り、次の四半期に今期と同じ納車の伸びを出すのは難しい。2四半期続いた「上振れ」には、在庫という一度きりの追い風が乗っていた。
もう一つ、在庫を売り切る過程で値引きや金利優遇がどれだけ使われたかは、今日の発表からは分からない。テスラ自身も発表文で「納車と蓄電池の設置量は業績の2つの指標にすぎず、四半期の業績を示すものとして依存すべきではない」と断っている。平均販売価格と原価は、10月21日の決算まで見えない。
尋問3:納車の上振れは、株価を支えてきたか
ここが本丸である。仮に通説が正しく、納車の回復がテスラ株の買い材料なら、前回の上振れでも株価は上がったはずだ。
証拠を見よう。7月2日に4〜6月期の48万126台が発表された。前年同期比25.0%増で、予想を大きく上回る数字だった。それでもその日の終値は393.45ドルで、前日比7.49%安。発表前の4営業日で13.4%上げていた反動が出た。さらに7月23日、4〜6月期決算の翌日には14.52%安の319.69ドルまで売られた。決算では売上高が前年同期比25.5%増の282億3,600万ドルに伸びた一方、営業利益は3億9,800万ドルと前年同期の9億2,300万ドルから57%減り、営業利益率は1.4%だった。フリーキャッシュフローは10億9,200万ドルの流出である。
台数が増えても利益が減る。7月の2回の急落は、市場が納車の数字そのものより、1台あたりでいくら稼げているかを見ていることを示している。1〜3月期の納車が予想を下回った4月2日にも株価は5.42%下げたから、台数が無関係なわけではない。ただし、良い台数で上がり続けた実績はない。
今日の上げにも割り引くべき点がある。同じ日の朝に発表された米9月雇用統計は、雇用者数の伸びが2万9,000人と予想の9万人を大きく下回り、米金利が低下して株式市場全体が買われている。9時44分時点でナスダック100に連動するQQQは1.34%高、S&P500に連動するSPYは0.99%高だった。テスラの4.24%高のうち、市場全体を上回った部分は3ポイント前後にとどまる。また今回は、7月と違って発表前の5営業日で株価が6.3%下げていた。期待が高すぎなかった分、上げやすかった面もある。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 納車は予想を上回った | 生存 | 48万6,532台は市場予想を2万4,558台上回り、最も強気な予想(48万2,000台)も超えた |
| 税額控除がなくても需要は崩れていない | 生存 | 駆け込みで膨らんだ前年同期を2.1%下回るにとどまり、1〜9月累計は8.8%増 |
| 需要は全車種で回復している | 死亡 | その他のモデルは8,295台で前期比33%減、予想を26.5%下回った |
| この伸びは来期も続く | 重傷 | 2四半期で計5万509台の在庫を取り崩し、1〜9月の生産と納車の差は146台。取り崩す在庫がもうない |
| 納車の上振れは株価の買い材料になる | 重傷 | 7月2日は上振れでも7.49%安。株価を動かしたのは決算の利益率(営業利益率1.4%)だった |
| エネルギー事業が成長を補う | 重傷 | 蓄電池13.7ギガワット時は前年比9.6%増だが、予想15.9ギガワット時に届かず |
評決
通説は、数字の上では正しく、物語としては言い過ぎである。
納車が予想を上回り、税額控除の消えた米国でも需要が崩れていないことは、証拠で確かめられた。この部分は生き残った。だが「需要は底を打った、だから株は上がる」という後半は、二つの点で支えを欠く。2四半期の伸びは年初の在庫5万台の取り崩しに助けられており、次の四半期には使えない。そして市場は7月に、良い台数より悪い利益率を重く見ることをはっきり示した。
本誌の評決は、通説の側に4割、懐疑の側に6割である。今日の上振れは本物だが、テスラ株の行方を決めるのは10月21日の決算で示される1台あたりの採算であり、納車の台数ではない。テスラ株の評価の考え方はこちらの分析に、7月の決算で株価が急落した経緯は決算の明暗をまとめた記事にある。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 10月21日の決算で営業利益率が4〜6月期の1.4%から明確に改善したら。在庫を値引きなしで売り切れていた証拠になり、評決は通説の側へ傾く。
- 同じ決算で自動車の粗利益率が下がっていたら。在庫処分に値引きを使った証拠となり、懐疑の側がさらに強まる。
- 10〜12月期の生産が前期比で大きく伸びる計画が示されたら。在庫の追い風がなくても納車を伸ばせる道筋になる。
- 今日の上げが市場全体の上昇を上回ったまま週を越えるか。7月のような発表後の反落がなければ、台数への評価が変わり始めた兆しと読める。
日本の投資家にとっての接点も記しておく。今日の米国株の上げは、弱い雇用統計で米金利が下がったことが土台にある。雇用統計の中身はこちらの記事にまとめた。米国の取引終了は日本時間3日午前5時で、テスラ株の終値は本記事に反映していない。
主な参照
- 2026年7〜9月期の生産・納車・蓄電池設置量と決算発表日/テスラ(SEC提出書類)
- 2026年4〜6月期の生産・納車/テスラ(SEC提出書類)
- 2026年1〜3月期の生産・納車/テスラ(SEC提出書類)
- 2025年7〜9月期の生産・納車・蓄電池設置量/テスラ(SEC提出書類)
- 2026年4〜6月期の決算資料(売上高・営業利益・フリーキャッシュフロー)/テスラ(SEC提出書類)
- テスラ集計の7〜9月期市場予想(24社)/ノット・ア・テスラ・アップ
- 予想の幅(最低・最高)/エレクトレック
- 新車EV向け税額控除の終了(2025年9月30日より後の取得分)/米内国歳入庁(IRS)
- 7月2日の株価下落の報道/CNBC
- 株価(日足終値、10月2日の取引時間中の値)/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月2日(米東部時間9時44分)。テスラ、QQQ、SPYの株価は取引時間中の値であり、終値ではない。過去の株価は各日の終値。市場予想はテスラが集計し、ノット・ア・テスラ・アップが9月30日に報じたもので、テスラの発表資料そのものには含まれない。予想の最低・最高はエレクトレックの報道による。在庫の増減は生産台数と納車台数の差から本誌が計算したもので、テスラが公表する在庫の数値ではない。評決の比率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












