まず下の数字を見てほしい。米9月の雇用者数は2万9,000人増で、予想の9万人前後を大きく下回った。発表から15分後の時点で、10月28日のFOMCで利上げが決まる確率は21.8%まで下がった。それでも年内に少なくとも1回の利上げがある確率は、なお75.8%残っている。この記事では、雇用統計の数字そのものではなく、この「利上げ確率の地図」がドル円とユーロドルをどこへ動かすかを、短期と中期に分けて見通す。
雇用統計の中身は5つの要点の記事にまとめた。ここでは3つの問いに答える。利上げ確率はどこまで下がったのか。ドル円とユーロドルで、同じドル安でも効き方がなぜ違うのか。そして、次の4週間と年末までに、どの水準を見ればよいのか。
問1:FRBの利上げ確率は、会合ごとにどこまで下がったか
FOMCの会合ごとに見た「1回以上の利上げ」の確率
読み方:10月の利上げは2割まで下がったが、年末までに1回以上の利上げは7割台後半が残る。市場は利上げの「中止」ではなく「先送り」を織り込んだ。各会合時点で誘導目標が現行の3.75〜4.00%を上回る確率。出所:Investing.com Fed Rate Monitor(2026年10月2日8時45分=米東部時間)。
答え:10月は2割、12月は7割台後半。Investing.comのFed Rate Monitorは、雇用統計の15分後にあたる米東部時間8時45分時点で、10月28日の会合で0.25%の利上げが決まる確率を21.8%と示した。政策金利の誘導目標は、FRBが9月16日に引き上げた3.75〜4.00%である。ヤフーファイナンスのライブ報道は、債券市場が織り込む10月の利上げ確率を16%前後とし、1週間前の64%から大きく下がったと伝えた。指標によって数字は違うが、方向は同じだ。
ただし、利上げが消えたわけではない。同じ時点で、12月9日までに少なくとも1回の利上げがある確率は75.8%、2027年1月27日までなら83.3%、3月17日までなら93.3%だった。市場は「利上げをやめる」のではなく「急がない」と読み替えたにすぎない。ドルの下値が限られるとすれば、この点にある。
問2:発表直後、金利と為替はどう動いたか
答え:金利は下がり、ドルは売られた。ただし動きは小さい。ヤフーファイナンスの値で、米10年債利回りは前日の5.237%から日本時間21時51分に5.188%へ、5年債は5.005%から4.943%へ下がった。米10年債利回りは前日1日に一時5.34%を付け、2002年以来の水準にあった。株価指数の先物も上がり、ナスダック100の先物は約1%高と報じられている。
為替の動きは控えめだった。ドル円は21時28分の157円62銭前後から21時32分に156円97銭前後まで下げ、22時6分には157円18銭前後に戻している。ユーロドルは1.1260ドル前後で、前日の安値1.1219ドルからの戻りは小さい。雇用統計はドルを買う理由を1つ消した。だが、ユーロを売る理由までは消していない。
問3:ドル円の見通しは、短期と中期でどう違うか
ドル円の節目(円)
読み方:短期は155円50銭〜158円50銭のレンジを基本とみる。中期の下値の目安は9月の安値152円14銭、上値の壁は財務省が介入した160円台。出所:ヤフーファイナンス、財務省。レンジは本誌の判断。
短期(10月30日の日銀会合まで):本誌の基本シナリオは155円50銭〜158円50銭のレンジ。10月の最後の週に、FRB(27〜28日)、欧州中央銀行(ECB、28〜29日)、日銀(29〜30日)の3つの会合が続く。日銀は9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げたばかりで、10月2日朝の東京都区部の物価は市場予想を上回った。FRBが急がず日銀が動く余地を残す組み合わせは、円高の方向に働く。ただし、その円高を押しとどめる要因も明確だ。米10年債利回りは5%台にあり、日米の金利差は依然として大きい。
中期(年末まで):本誌の基本シナリオは152円〜158円で、やや円高寄り。12月のFOMCまでに米国の利上げが1回で終わると市場が判断すれば、金利差の拡大は止まる。9月の安値152円14銭が下値の目安になる。反対に、160円台では2026年に財務省が実際に為替介入に動いている。この水準が上値の壁として意識されやすい。介入の経緯はこちらの記事にまとめた。
問4:ユーロドルは、なぜ雇用統計で戻りきれないのか
ユーロドルの節目(ドル)
読み方:米金利の低下が下支えでも、フランスの財政不安が上値を抑える。10月1日の安値は1.1219ドル。1.12ドルを割れば中期の下側1.10〜1.11ドルを想定し、1.1340ドルを回復すれば下落局面の一服とみる。出所:ヤフーファイナンス。レンジは本誌の判断。
答え:ユーロ側に、別の売り材料があるからだ。フランスの財政不安で、仏独の国債利回りの差は債務危機以来の広さになった。ユーロドルの週末値は9月11日、18日、25日の週と3週続けて下がり、今週も1.1391ドルを下回って終われば4週連続の下落になる。ドイツ連銀のナーゲル総裁は、ECBの国債購入の仕組みは物価の安定のためにあり、特定の国の利回り差を狙うものではないと述べた。市場が期待するほどの支援は、すぐには来ないかもしれない。経緯はユーロドル1.1340割れの記事で扱った。
一方で、ユーロを支える材料も同じ日に出ている。欧州連合(EU)統計局が2日に公表した9月のユーロ圏の消費者物価指数(速報値)は、前年同月比3.8%上昇した。8月の3.2%から加速し、2023年9月以来の高さである。エネルギーは18.8%上がった。ECBは9月に預金金利を2.50%へ引き上げており、28〜29日の会合で追加の利上げに動けば、金利差の面ではユーロの追い風になる。
短期(10月29日のECB会合まで):本誌の基本シナリオは1.12〜1.14ドルのレンジ。米金利の低下が下支えになる一方、フランスの財政をめぐるニュースが出るたびに上値を抑えられる展開を想定する。中期(年末まで):1.11〜1.15ドル。ECBの利上げとFRBの減速が重なれば上側、フランスの格下げや利回り差のさらなる拡大があれば下側を試す。
シナリオ表:3つの道筋と、本誌の見込み
| シナリオ | 本誌の見込み | きっかけ | ドル円(年末) | ユーロドル(年末) |
|---|---|---|---|---|
| FRBが様子見、日銀・ECBが利上げ | 45% | 米10年債が5.0%に向けて低下、10月FOMCは据え置き | 152〜156円 | 1.13〜1.15ドル |
| FRBが12月に1回利上げして終了 | 35% | 米10年債が5.1〜5.3%で推移、米物価が高止まり | 155〜159円 | 1.12〜1.14ドル |
| 金利上昇が再燃 | 20% | 米10年債が5.3%を超えて上昇、原油高と財政不安 | 158〜161円(介入警戒) | 1.10〜1.12ドル |
いちばん大事な数字:米10年債の5.0%と5.3%
為替でも株でも、次の数週間で最も多くを語るのは米10年債利回りだとみる。5.0%に向けて下がり続けるなら、雇用統計は利上げ懸念を和らげる出来事として定着する。ドル円は下を、ユーロドルは上を試しやすくなる。割高な半導体やAI関連の銘柄にとっても、割引率の重荷が軽くなる。コヒレントの記事で見たような、将来の利益に価値の大半を置く銘柄ほど影響は大きい。
反対に、この弱い雇用統計の後でも5.3%を超えて上がるなら、警戒が必要になる。債券売りの原因が雇用ではなく、物価、財政、原油にあることを示すからだ。その場合、ドルは金利面で支えられ、ユーロはフランスの問題で売られ、ドル円とユーロドルはともにドル高の方向へ戻りやすい。週次の失業保険の新規申請は19万6,000件と低く、景気後退の兆しまでは出ていない。市場がこの統計を「景気の悪化」ではなく「利上げ懸念の後退」と受け止めたのはこのためである。
個人投資家向けチェックリスト
| 確認すること | 見方が変わる水準 | 変わったら |
|---|---|---|
| 米10年債利回り | 5.0%割れ/5.3%超え | 割れたら円高・ユーロ高寄りへ。超えたらドル高の再燃を疑う |
| ドル円の終値 | 155円台前半割れ/158円50銭超え | 短期レンジの見通しを取り下げる |
| ユーロドルの終値 | 1.12ドル割れ/1.1340ドル回復 | 割れたら1.10〜1.11ドルを想定。回復なら下落局面の一服 |
| 10月FOMCの利上げ確率 | 40%超えに戻る | 雇用統計の効果が消えたと判断する |
| 仏独の利回り差 | さらに拡大 | ユーロドルは米金利と関係なく下を試しやすい |
次の日程は、10月28日のFOMC、29日のECB、30日の日銀と東京都区部の10月の物価、11月6日の米10月の雇用統計である。東京の物価の読み方は東京都区部CPIの記事で扱った。海外FX業者の比較はFX解説ページにまとめている。
主な参照
- 2026年9月の雇用統計/米労働省労働統計局(2026年10月2日)
- FOMCの会合ごとの利上げ確率(10月2日8時45分=米東部時間)/Investing.com Fed Rate Monitor
- 10月の利上げ確率16%、1週間前64%、ナスダック100先物の上昇/ヤフーファイナンス(ライブ報道)
- ユーロ圏9月の消費者物価指数(速報値)/EU統計局(ユーロスタット)
- ECBの政策金利(預金金利2.50%、9月16日から)と会合日程/欧州中央銀行
- 仏独の国債利回り差が2012年以来の広さ/ブルームバーグ
- ナーゲル総裁の発言/ロイター(Investing.com掲載)
- 日銀の政策金利(1.25%)/日本銀行
- 失業保険の新規申請件数ほか発表前の指標/インベスティングライブ
- 為替、米国債利回り、先物の値/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月2日(日本時間22時6分)。為替と金利は取引時間中の値で、終値ではない。米国債利回りはヤフーファイナンスの指数で、配信は最大15分程度遅れる。利上げ確率はInvesting.comの米東部時間8時45分の値で、取引の進行とともに変わる。シナリオの比率、短期・中期の予想レンジ、チェックリストの水準は本誌の判断であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














