財務省は9月30日、8月27日から9月28日までの1カ月間に実施した為替介入の額を「0円」と公表した。この間、ドル円は9月3日に1日で3円59銭下げ、9月24日には158円85銭まで戻った。値動きは大きかったが、日本の当局はどちらの場面でも円を買っていなかったことが、これで確定した。それでも2026年の介入額は4〜5月の11兆7,349億円と7〜8月の15兆3,993億円を合わせて27兆1,342億円に達し、統計が残る1991年4月以降、暦年で最も多い。
まず下の1枚を見てほしい。当局が円を買ったのは、ドル円が160円前後に張りついた4月末と、164円に迫った7月末の2回である。9月の158円台では動かなかった。本稿は財務省・日本銀行・欧州中央銀行(ECB)の公表データだけを使い、介入が「どこで起き、どこで起きなかったか」を図で整理する。
当局が動いた水準、動かなかった水準
ドル円の推移(2026年4月1日〜9月29日、ECB参照値から算出)
読み方:当局が円を買ったのは4月末(159円台後半)と7月31日(協調介入、直前の7月28日は163.91円)の2回。9月24日の158.85円では動かなかった。出所:欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由)、財務省。
1回目は4月30日だ。財務省の日次データによると、この日に6兆2,787億円、続く5月4日に7,802億円、5月6日に4兆6,759億円のドル売り・円買いを実施した。直前のECB参照値は4月29日の159.79円で、4月は159円前後での一進一退が続いていた。介入後の5月6日には156.21円まで下げたが、6月9日には160円を上抜け、7月28日に163.91円をつけた。4月から9月までのECB参照値では、これが最も円安の水準である。
2回目は財務大臣談話で日付が明らかになっている。片山財務相は8月3日の談話で、米国東部時間7月31日に日本の財務省が米国財務省と協調して円買い介入を実施したと公表した。財務省の月次統計は7月30日から8月26日までの介入額を15兆3,993億円としている。ただし、この額がすべて7月31日の1日分なのか、ほかの日を含むのかはまだ分からない。7〜9月期の日ごとの内訳は、11月2日から9日の間に公表される予定だ。
2026年の介入は2つの月に集中した
2026年の月次統計ごとの介入額(兆円)
読み方:9回の公表のうち介入があったのは2回だけで、残る7回は0円。4〜5月は日本単独、7〜8月は日米協調(7月31日)を含む。出所:財務省「外国為替平衡操作の実施状況(月次ベース)」。
財務省は介入額の総額を毎月末に、日ごとの内訳を四半期ごとに公表している。2026年に入って公表された9回の月次統計のうち、介入があったのは5月29日公表分(4月28日〜5月27日)と8月28日公表分(7月30日〜8月26日)の2回だけだ。残る7回はすべて0円である。
介入の間隔を見ると、当局の姿勢が読み取れる。4〜5月の介入後、ドル円は1カ月余りで160円台に戻ったが、当局は6月にも7月の前半にも動かなかった。次に動いたのは、164円目前まで円安が進み、米国と足並みをそろえられた7月31日だった。9月の158円台での静観は、この「単独では何度も打たない」という流れの延長線上にある。
27兆円は、暦年で過去最大
暦年の介入額の上位6年(兆円)
読み方:2026年は9月末を待たずに2003年を約6.7兆円上回った。円買い介入に限れば、従来の最大は2024年の15.3兆円。出所:財務省の介入実績全データ(1991年4月以降、四半期計)と月次統計を本誌が合算。
財務省が公表する1991年4月以降の介入実績を暦年で合計すると、2026年の27兆1,342億円はこれまで最大だった2003年の20兆4,250億円を約6兆7,000億円上回る。しかも2003年は円高を止めるための円売り介入であり、円買い介入に限れば、2024年の15兆3,233億円が従来の最大だった。2026年はその約1.8倍に当たる。数字は9月28日までの集計で、年末までに増える可能性はあっても減ることはない。
円買い介入の元手は外貨準備であり、使える額には限りがある。円売り介入なら円を刷って売ればよいが、円買い介入はドルを手放さなければならない。この非対称があるため、市場は介入の「回数」だけでなく「残り弾」も意識する。9月の0円は、当局が弾を温存したとも読めるし、158円台はまだ防衛線ではないという合図とも読める。
9月の2度の円高は介入ではなかった
9月の2度の円高——前日比の変化(円、ECB参照値)
読み方:マイナスはドル安・円高を示す。どちらの日も日本の財務省は円を買っていなかった。出所:欧州中央銀行の参照レート(Frankfurter経由)、財務省(9月30日公表)。
9月には介入を疑わせる急な円高が2回あった。1回目は9月2日から3日にかけてで、ECB参照値は2日の159.60円から3日の156.01円へ3.59円下げた。2回目は9月25日で、片山財務相が閣議後の記者会見で、日米首脳会談でトランプ大統領から円安への懸念が示されたと明らかにした。ECB参照値は前日の158.85円から157.59円へ下げた。今回の統計で、日本の財務省はどちらの日も円を買っていないことが確定した。報道では、1回目は日本銀行の利上げ観測、2回目は首脳会談をめぐる発言が材料に挙げられており、いずれも売買を伴わない「言葉」と「観測」で相場が動いたことになる。
同じ記者会見では、日本銀行が9月18日夜にレートチェック(当局が銀行に相場水準を照会すること)を実施したようだとの質問も出たが、片山財務相は答えを控えた。レートチェックは売買を伴わないため、実施されていたとしても介入の統計には表れない。
残る疑問は米国側だ。財務省の統計に載るのは日本の介入だけで、米国財務省やニューヨーク連銀が単独で動いたかどうかは分からない。米国の為替操作は四半期ごとの報告で開示され、4〜6月期分は8月13日に「介入なし」と公表された。7〜9月期分が出るまで、米国単独の関与は否定も肯定もできない。本稿は米国単独の介入があったとは書かない。
30日の東京市場は月末・半期末の取引が重なった。日本銀行の公表によると、ドル円は9時時点で157.41〜43円、17時時点で156.90〜92円と、この日の東京時間に0.5円ほど円高が進んだ。日中の値幅は156.38円から157.46円である。
次の1カ月の3つのシナリオ
| シナリオ | 本誌の見立て | 何が起きるか | 確かめる材料 |
|---|---|---|---|
| 円高継続 | 35% | 日本銀行の追加利上げ観測が強まり、ドル円は9月9日の153.27円(ECB参照値)を試す。介入は不要になる | 10月1日の日銀短観で企業の想定為替レートと販売価格の見通しがどう出るか |
| もみ合い | 45% | 155〜159円のレンジで上下し、10月30日公表分も0円で終わる | 10月30日19時の月次統計(9月29日〜10月28日) |
| 再び160円へ | 20% | 米金利の上昇でドル高が進み、4月と7月に介入が入った160円前後に戻る。当局が米国と協調できるかが焦点になる | 日米の財務相発言、米国の7〜9月期為替操作報告 |
この見立てを崩す条件は1つだ。ドル円が160円を上回っても翌月末の統計が0円なら、当局の防衛線は4月や7月より上に移ったと考えるべきで、もみ合いと円高のシナリオの確率は下げる。
個人投資家のためのチェックリスト
- 「介入があったか」は月末の財務省発表で確かめる。急な円高を介入と決めつけて取引しない。9月の2回の急騰はどちらも介入ではなかった。
- 日付と額の確定は11月上旬。7〜9月期の日ごとの内訳は11月2日から9日の間に公表される。15兆3,993億円が何日に分かれていたかは、それまで分からない。
- 160円前後を警戒水準として意識する。2026年の円買い介入は、ECB参照値で159円台後半と163円台の局面で行われた。ただし水準だけで決まるわけではない。
- 外貨建て資産の円換算に注意する。介入が入ると1日で数円動く。米国株や外貨預金の円ベースの損益は、為替だけで大きく振れる。
- FXの証拠金は余裕を持たせる。介入時は値が飛び、逆指値が想定より不利な価格で約定することがある。
7月末の日米協調介入の経緯は協調介入を確認した日の記事で、4月と7月の介入の効果は介入の効果測定の記事で検証した。トランプ大統領の円安懸念が伝わった日の値動きはこの記事、10月1日の短観の見どころは短観の予習記事にまとめている。為替の基礎はFX解説ページも参照してほしい。
主な参照
- 外国為替平衡操作の実施状況(令和8年8月27日〜9月28日、2026年9月30日公表)/財務省
- 同(令和8年7月30日〜8月26日、2026年8月28日公表)/財務省、同(4月28日〜5月27日、5月29日公表)/財務省
- 過去の介入実績全データ(1991年4月〜2026年6月の日次・四半期計)と公表予定/財務省
- 片山財務大臣の閣議後記者会見の概要(2026年9月25日)/財務省
- 片山財務大臣談話(2026年8月3日)/財務省
- 外国為替市況(2026年9月30日)/日本銀行
- ユーロ参照レート(ドル円はユーロ円÷ユーロドルで算出)/欧州中央銀行、取得はFrankfurter経由
- 米国の為替操作の四半期報告と4〜6月期の「介入なし」公表(2026年8月13日)/ニューヨーク連銀
データ基準日:財務省の介入統計は2026年9月28日まで、ドル円は9月30日17時(日本時間、日本銀行公表)。本文と図のドル円の日々の水準は、日中の高値・安値ではなく、ECB参照レート(中欧時間16時ごろの値)から本誌が算出した値で、日本銀行の公表値や市場の高値・安値とは一致しない。暦年の介入額は財務省の四半期計と月次統計を本誌が合算したもので、円売りと円買いを区別せず合計している。9月2日と9月25日の円高の原因は報道に基づく整理で、財務省は介入の有無以外を公表していない。本稿は投資判断を勧めるものではない。













