市場はこう信じ始めている——米国の消費者心理が崩れ、FRBの利上げ局面は終わりに近づいた。だから金利も天井が近い。9月29日に発表された米コンファレンス・ボードの消費者信頼感指数は81.9と、前月の88.6から6.7ポイント低下した。同じ日、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は「急ぐ必要はない」と語った。10月の利上げ観測は1日で急速にしぼんだ。筋は通って見える。
だが、本当か。今日はこの通説を尋問する。証人は3人いる。消費者信頼感指数そのもの、ウィリアムズ総裁の講演原稿、そして米国債市場である。3人目の証言は、通説とは逆のことを言っている。
通説を最も強い形で述べる
公平のために、通説の側の証拠を先に並べておく。消費者信頼感指数の81.9はロイターによれば2014年4月以来、約12年半ぶりの低水準で、ロイターがまとめた市場予想の89.2を大きく下回った。現状指数は7.9ポイント下がって109.3、期待指数は5.9ポイント下がって63.6となり、期待指数の低下は3カ月連続だ。コンファレンス・ボードは、景気の現状を「悪い」とみる回答が「良い」を上回ったのは2024年9月以来初めてだと書いている。
そこへウィリアムズ総裁の発言が重なった。FOMCの常任の投票メンバーであり、議長に次ぐ立場の人物である。CME FedWatchが示す10月28日会合での利上げ確率は、前日の約71%から約47%へ下がったと報じられている。家計が弱り、FRBが手を緩めるなら、金利上昇も止まる。これが通説の最も強い形だ。
尋問1:消費者は「景気が悪い」から悲観しているのか
証拠を見よう。コンファレンス・ボードの発表文で、消費者の自由回答に最も多く現れた言葉は何か。答えは物価である。財やサービスの高さ、とりわけ原油とガソリンの価格への言及が「過去最高に達した」と同会は書いている。9月の燃料高を反映したものだという。
数字もそれを裏づける。今後12カ月の予想インフレ率は平均で6.1%、中央値で5.1%と、いずれも0.3ポイント上昇した。今後12カ月に金利が上がると答えた人の割合は5.2ポイント増えて68.4%に達した。調査期間は9月1日から23日で、この間にFRBの利上げが入っている。
一方で、雇用の現状はまだ崩れていない。「仕事は豊富」から「仕事を得にくい」を引いた差は2.5ポイント縮んだが、プラス1.7%でとどまった。ウィリアムズ総裁も同じ日の講演で、失業率は2025年前半の水準まで下がり、解雇率は歴史的な低水準に近いと述べている。
この説明には穴がある。通説は、消費者心理の悪化を「需要の冷え込み」と読んでいる。だが消費者が口にしているのは、仕事がないことではなく、物が高いことだ。これは景気後退の悲観というより、インフレの悲観である。そしてインフレの悲観は、FRBにとって利上げを止める理由にはならない。むしろ逆だ。
通説の側の再反論も書いておく。消費者の家計の現状判断は、「悪い」が「良い」を上回った。この質問が導入されてから4年で2度目だという。物価高が実質所得を削り、いずれ消費を冷やす経路は現実にある。ロイターは、「仕事は豊富」と答えた人の割合が23.6%と2021年2月以来の低さになった点も挙げている。雇用への不安が芽生えていることは否定できない。ただし差はまだプラスであり、9月の時点では雇用は持ちこたえている。
尋問2:ウィリアムズ総裁は利上げの終わりを告げたのか
次の証人は講演原稿である。ニューヨーク連銀が公開した全文を読むと、見出しになった「急ぐ必要はない」の直後に、もう一つの文が続いている。経済が自分の見通しにおおむね沿って進むなら、「年内の後半に、政策金利の誘導目標をもう一段引き上げることが適切かもしれない」。
つまり総裁は、利上げをやめるとは言っていない。10月に急がなくてよいと言っただけである。原稿の他の部分はむしろタカ派に寄っている。インフレ率3.7%は「疑いなく高すぎる」と明言し、物価安定へのリスクは「高まった」と書いた。AI関連の需要がもたらす物価押し上げの影響が「ますます目立つ」とし、エネルギー価格の影響は以前の想定より大きく長引くと見込んでいる。
総裁自身の見通しは、実質成長率が今年と来年に約2.25%、失業率は今後1年で約4%に低下、インフレ率は今年3.5%、来年は2%をやや上回り、2%の目標に届くのは2028年というものだ。景気は潜在成長率をやや上回るペースで走り続ける想定である。9月の会合でFRBは政策金利の誘導目標を0.25ポイント引き上げ、3.75〜4.00%とした。その直後の講演として、この原稿は「様子を見る」であって「終わり」ではない。
公平のために言えば、市場の反応が的外れだったわけではない。10月28日の利上げ確率が7割から5割弱に下がったのは、総裁の言葉の範囲内に収まる動きだ。死んだのは「10月の利上げ」の確度であって、「利上げ局面の終わり」という物語ではない。
9月29日の米国債利回りの変化幅(年限別、bp)
出所:米財務省の利回り公表値(9月28日→29日、各年限の終値に相当)から算出。bpはベーシスポイントで0.01%。29日の水準は2年債4.89%、10年債5.26%、20年債5.64%、30年債5.59%。
尋問3:米国債市場は、金利の天井を認めたか
ここが本丸である。通説が正しく、FRBが手を緩めることで金利の天井が見えたのなら、長い年限の利回りも下がっていなければおかしい。米財務省が公表した9月29日の利回り(各年限の終値に相当する公表値)で確かめる。
2年債は4.92%から4.89%へ3ベーシスポイント(bp)低下した。6カ月物は5bp、3カ月物は3bp下がっている。ここまでは通説どおりで、10月の利上げ観測の後退をきちんと映している。ところが10年債は2bp上がって5.26%、20年債は4bp上がって5.64%、30年債は3bp上がって5.59%である。弱い指標とハト派寄りの発言を受けて、短い金利は下がり、長い金利は上がった。
30年債の5.59%は、財務省の公表値でさかのぼると2001年12月17日の5.61%以来の高さになる。報道では「2002年以来」とされているが、財務省は2002年2月から2006年2月まで30年債の公表を止めており、この期間は比較できない。10年債の5.26%は、2007年6月12日に付けた直近のピーク5.26%に並んだ。
2年債と30年債の差は、9月28日の64bpから29日には70bpへ広がった。9月21日には53bpだったから、6営業日で17bpの拡大である。同じ期間に2年債は13bp、30年債は30bp上がった。長いほうが速く上がる、いわゆるベア・スティープ化だ。これは政策金利の見通しで説明できる形ではない。長くお金を貸すことへの上乗せ、つまり期間プレミアムが膨らんでいる形である。
本誌は9月24日の金利と株価の記事に続く尋問で、金利上昇の主因が景気の強さではなく物価と国債の需給にあるなら、指標が弱まっても長期金利は下がりにくいと書いた。29日の債券市場は、その見立てどおりに動いた。消費者心理の悪化は短期金利を押し下げたが、長期金利には効かなかった。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 米国の消費者心理は大きく悪化した | 生存 | 信頼感指数81.9、前月比6.7ポイント低下。ロイターによれば2014年4月以来の低さで、予想の89.2を下回った |
| 消費者の悲観は景気後退への恐れが中心 | 重傷 | 自由回答の最多は物価と燃料。雇用の差はなおプラス1.7%、解雇率は歴史的な低水準に近い |
| 10月の利上げは遠のいた | 生存 | 総裁は「急ぐ必要はない」。利上げ確率は約71%から約47%へ下がったと報じられた |
| FRBの利上げ局面は終わりに近い | 死亡 | 総裁は年内後半のもう一段の利上げを「適切かもしれない」と明記。インフレ率3.7%は「高すぎる」 |
| 金利は天井を付けつつある | 死亡 | 30年債は5.59%で2001年12月以来の高さ、10年債は2007年6月の5.26%に並んだ |
| 短期金利は利上げ観測の後退を映した | 生存 | 2年債は3bp、6カ月物は5bp低下した |
評決
通説は、前半だけ正しい。
消費者心理が悪化し、10月の利上げが遠のいたことは事実として生き残った。だが「だから利上げ局面は終わり、金利も天井を付ける」という後半は、2人の証人に否定された。ウィリアムズ総裁の原稿は年内のもう一段の利上げを残しており、米国債市場は弱い指標の日に長期金利を2001年以来の高さへ押し上げた。
本誌の評決は、通説の否定側に7割、肯定側に3割である。FRBが10月に動かない可能性は高まったが、それは長期金利が下がる理由にはなっていない。短期金利が下がり長期金利が上がる組み合わせは、株式にとって最も扱いにくい。割引率は下がらず、景気の先行きだけが曇るからだ。29日のS&P500種株価指数は0.17%安の7,670.84、ダウ工業株30種平均は0.26%安の51,349.92、ナスダック総合指数は0.09%安の26,797.54で終えた。下げ幅は小さいが、戻りの材料も見当たらない。
日本の投資家にとっての意味
ドル円は米東部時間29日18時46分時点で157円33銭と、ほぼ横ばいだった。米短期金利の低下はドル安要因、長期金利の上昇はドル高要因で、両者が打ち消し合った形である。円安への警戒と介入の論点はこちらにまとめた。
東京市場では、29日の日経平均株価の終値は396円35銭安の65,481円27銭だった。この日は9月末の権利落ち日にあたり、本誌は配当落ちの影響を約350円と見積もっていた。下げの大半は配当落ちで説明できる。シカゴの円建て日経平均先物(12月限)は米東部時間18時34分時点で66,385円と、現物の終値を約900円上回っている。先物と現物では満期までの金利や配当の差があるため、単純比較である点に注意したい。
もう一点、日本の債券市場への波及である。米国の超長期金利の上昇は、日本の長期金利にも上昇圧力として持ち込まれやすい。日本の短い年限の金利動向は9月の金利番付で扱った。10月1日朝には日銀短観の発表もある。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- 30年債利回りが下がり始め、2年債との差が縮んだら。長期金利が短期金利に続いて下がれば、天井の物語は生き返る。9月21日の53bpまで差が戻るかが一つの目安になる。
- 9月30日の米8月個人所得・支出統計(日本時間同日21時30分)で物価指数が下振れしたら。消費者の物価への悲観が実際の数字で和らげば、期間プレミアムの縮小につながりうる。
- 10月2日の米9月雇用統計が明確に弱ければ。雇用が崩れれば、消費者の悲観はインフレの悲観から景気の悲観に変わる。そのときはFRBが本当に手を止める理由になる。
- 他のFRB高官が年内の追加利上げを否定し始めたら。ウィリアムズ総裁の「もう一段」が少数意見になれば、利上げ局面の終わりという通説は復活する。
主な参照
- 9月の消費者信頼感指数(9月29日発表)/米コンファレンス・ボード
- ウィリアムズ総裁講演「Unwavering Dedication」(9月29日)/ニューヨーク連銀
- 米国債利回りの公表値(2001〜2026年)/米財務省
- 消費者信頼感が約12年半ぶりの低水準/ロイター(インベスティング・ドットコム転載)(9月29日)
- 10月会合の利上げ確率の変化/シーキング・アルファ、CME FedWatch
- 米9月雇用統計の発表日程/米労働省労働統計局
- 米8月個人所得・支出統計の発表日程/米商務省経済分析局
データ基準日:2026年9月29日の米国市場終値。米国債利回りは米財務省の公表値(各年限の終値に相当)で、情報ベンダーの気配値とは差が出ることがある。30年債の比較は財務省の公表系列にもとづき、公表が停止されていた2002年2月〜2006年2月は含まない。ドル円とシカゴの日経平均先物は米東部時間29日18時台の気配値であり、終値ではない。日経平均株価は9月29日の東京市場の終値である。消費者信頼感が2014年4月以来の低水準という評価と市場予想89.2はロイターの報道・調査によるもので、コンファレンス・ボードの発表文には記載がない。10月会合の利上げ確率はCME FedWatchの数値として報じられたもので、本誌はCMEの画面で直接確認できていない。配当落ちの影響額は本誌の事前推計である。評決の比率は本誌の判断であり、将来の金利水準を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














