金曜の東京はきれいに引けた。日経平均は850円高の6万6,364円、三菱UFJは3.95%高の3,714円で、銀行株が相場を引っ張った。その裏でドル円はじりじりと崩れていた。朝の閣議後会見で片山財務相がトランプ大統領の「円安への懸念」を明かすと、円高は東京時間から始まり、夕方には158円台前半へ。夜にはベッセント財務長官の「強い円が望ましい」という投稿が重なって円高が加速し、ニューヨークでは一時156円94銭まで円が買われた。
週明けの東京はこの円高を抱えて始まる。そして木曜の朝8時50分には日銀短観(9月調査)が出る。先に結論を書いておく。筆者は短観の日、輸出株は追わない。立つのは円買いと銀行株の側だ。理由を順に書く。
市場はもう「+26」を知っている
共同通信がまとめたシンクタンク13社の予測平均は、大企業製造業の業況判断DIが+26、3カ月先の先行きが+23だ。大企業非製造業は+36、先行きは+31。時事通信の12社平均も製造業+26で、6期連続の改善を見込む。個別に見ると、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが+24、大和総研とニッセイ基礎研究所が+25、第一ライフ資産運用経済研究所が+26。ここに挙げた4社の予想は、+24から+26の2ポイントに収まる。
6月調査の大企業製造業は+22で、2018年3月の+24以来の高さだった。+26が出れば2004年9月の+26に並び、約22年ぶりの水準になる。見出しは派手になるだろう。だが予想がここまで一点に集まっていると、数字が予想どおりなら相場は動かない。筆者の目安では、+28以上なら上振れ、+24以下なら下振れ。その間は「予想どおり」として素通りされるとみている。
念のため中身を書いておくと、業況判断DIは自社の業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた数字だ。大企業は資本金10億円以上の会社を指す。6月調査の調査対象は9,141社、回答率は99.4%だった(日銀)。
需給:円の買い持ちは1週間で4割減った
投機筋の持ち高が面白い。米商品先物取引委員会(CFTC)の9月22日時点のデータで、非商業部門の円は差し引き7万1,982枚の買い越し。前週の12万359枚から4万8,377枚、約4割減った。9月の限月交代で建玉全体も約3割減った週なので割り引きは要るが、円の買い持ちが大きく減ったのは確かだ。金曜に日米の当局者が口をそろえて円安をけん制した以上、減った分を買い直す動きが出やすい。
金利の面では、日銀は9月18日に政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げた。賛成7、反対2の多数決だった。日本経済新聞によると、24日時点の翌日物金利スワップ(OIS)は10月会合での利上げを約30%、12月までの利上げを90%超で織り込んでいた。12月はほぼ決まりとして、10月の30%がどちらに動くか。そこに短観が効く。金曜の三菱UFJの3.95%高は、9月末の権利取りや長期金利の上昇も重なったが、この利上げの読みに乗った買いが中心だったと筆者はみる。
水準の地図:企業は151円55銭で計画を組んでいる
短観には、企業が事業計画の前提にしている想定為替レートも載る。日銀の時系列データによると、大企業製造業の2026年度の想定は6月調査で1ドル151円55銭、3月調査では148円91銭だった。規模や業種を問わない全規模・全産業では152円57銭である。
実勢はどうか。4月から8月のドル円の月中平均(日銀、東京市場17時)をならすと159円91銭になる。7月は月中平均で162円45銭と1986年11月以来の円安をつけ、7月31日の日米協調介入を経て、9月25日のニューヨーク終値は157円26銭。企業の想定より5円70銭ほど円安の位置にいる。
大企業製造業の想定為替レートと実勢(ドル円)
出所:日本銀行「短観」(大企業製造業・ドル円の事業計画の前提となる想定為替レート、2026年度)、日本銀行 時系列統計データ(月中平均)、CNBC(9月25日ニューヨーク終値)。
想定より円安なら、輸出企業の円建ての利益は計画を上回りやすい。9月調査では想定レートが円安方向に直され、収益計画も上方修正される公算が大きい。2025年12月に日銀が利上げしたとき、植田総裁は会見で直前の短観に触れ、企業の収益計画が上方修正されたことを判断材料に挙げていた。
ただ、ここが筆者の読みの肝だ。想定レートの修正は「知られた良い話」にすぎない。市場は毎日ドル円の画面を見ている。企業が想定を155円に直したところで、輸出株の買い材料としては新鮮味がない。むしろ短観全体が強ければ、それは10月利上げの確率を押し上げ、円高の材料になる。輸出株にとって、強い短観が良い話とは限らない。
筆者の見立て:短観の日は円買いと銀行株の側に立つ
根拠は3つある。
- 見出しのDIでは動かない。動くのは物価の項目だ。6月調査では大企業製造業の販売価格判断DIが40と前回から12ポイント上がり、仕入価格判断DIは62と16ポイント上がった。企業の物価見通し(全規模全産業、物価全般)は1年後2.7%、3年後2.6%、5年後2.6%。ここがもう一段上がれば、10月の30%は動く。ニッセイ基礎研究所は、短観がただちに追加利上げにつながる可能性は低いとしつつ、物価関連の項目が明確に上振れれば早期の利上げの検討を促す材料になりうると指摘している。
- 日米の円安けん制が改めてそろった。トランプ大統領の懸念、ベッセント長官の「強い円」、そして24日の片山財務相の「協調介入以降のプリンシプル(原則)は生きている」。7月末には日米協調の円買い介入が実際に行われ、7月30日から8月26日までの介入額は15兆3,993億円と月間で過去最大だった(財務省)。円を売り込むには分の悪い地合いだ。
- 投機筋の円の買い持ちは1週間で約4割減っている。身軽になった分だけ、買い直しの余地がある。
逆になったら:159円04銭を上抜けたら撤退
見立てが外れる筋書きは、DIが+24以下にとどまり、物価の項目も伸びない場合だ。10月利上げの読みがしぼみ、円は売り戻される。筆者の損切りラインは、9月24日にニューヨークでつけた159円04銭。ここを終値で上抜けたら、円買いの見立ては撤回する。銀行株は、金曜の上げを全部吐き出して三菱UFJが24日終値の3,573円を割り込んだら手を引く。ただし29日は権利落ち日で、中間配当の分だけ株価が下がる点は割り引いて見る。
もう一つ。短観の発表は取引開始前の8時50分だ。寄り付きで一方向に飛ぶと、そこから追いかけるのは高値づかみや安値売りになりやすい。筆者は寄り付き後の最初の30分は手を出さない。押し目か戻り売りか、最初の値動きが落ち着いてから決める。
今週の監視リスト
| 日時(日本時間) | 予定 | 筆者が見る点 |
|---|---|---|
| 9月29日(火) | 9月末の権利落ち日 | 配当落ちで下がった日経平均が、その日のうちに落ち分を埋めるか |
| 9月30日(水)19時 | 財務省の為替介入実績(8月27日〜9月28日) | 9月18日夜のレートチェック報道のあと、実際の介入があったか |
| 10月1日(木)8時50分 | 日銀短観(9月調査) | 大企業製造業DI(予想+26)、想定為替レート、販売価格判断DI |
| 10月2日(金)夜 | 米9月雇用統計 | FRBの追加利上げの読み。FRBは9月16日に3.75〜4.00%へ利上げ済み |
| 10月6日(火)15時35分 | 植田総裁の講演 | 短観を受けて10月利上げの地ならしがあるか |
| 10月29〜30日 | 日銀金融政策決定会合 | 短観を材料にする最初の会合 |
短観の数字は、発表の瞬間より、その後に日銀の人間が何を語るかで意味が決まる。10月6日の講演と10月30日の会見まで、今回の短観は生き続ける。9月の利上げがなぜ円高につながらなかったのかはこの記事で、9月18日夜のレートチェック報道と連休中のドル円はこちらで書いた。160円手前での攻防は9月25日の番付にまとめてある。
主な参照
- 短観(2026年6月調査)概要・要旨/日本銀行、日本銀行
- 業況判断DI・想定為替レート・ドル円月中平均の時系列/日本銀行 時系列統計データ検索サイト
- 公表予定(短観9月調査は10月1日8時50分)/日本銀行
- 金融市場調節方針の変更(9月18日)/日本銀行
- 総裁記者会見(2025年12月19日)/日本銀行
- 短観の解説(業況判断DIの定義)/日本銀行
- シンクタンク13社の予測平均/東京新聞(共同通信)、12社平均/時事通信
- 各社の短観予測/ニッセイ基礎研究所、大和総研、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、第一ライフ資産運用経済研究所
- OISが織り込む利上げ確率/日本経済新聞
- 投機筋の円の持ち高(9月22日時点)/米商品先物取引委員会(CFTC)
- 片山財務大臣の閣議後記者会見(9月25日)/財務省
- 外国為替平衡操作の実施状況(7月30日〜8月26日)/財務省
- 片山財務相「プリンシプルは生きている」(9月24日)/日本経済新聞
- 米連邦公開市場委員会の声明(9月16日)/米連邦準備制度理事会(FRB)
- 今週の米経済指標の予定/TradingKey
- 株価・為替(9月25日終値)/CNBC
データ基準日:2026年9月25日のニューヨーク市場終了時点(日本時間26日早朝)。週明け28日のアジア市場の値動きは反映していない。短観の予測値は各社の公表時点のもので、9月調査の結果ではない。想定為替レートは日銀の時系列データの大企業製造業(2026年度)の値で、日銀が短観の概要で示す全規模・全産業の値(152円57銭)とは集計範囲が異なる。4〜8月の平均は日銀の月中平均5カ月分を単純平均した本誌の計算値。OISの確率は日本経済新聞の報道による。筆者の見立てと損切りラインは執筆時点の判断であり、将来の値動きを保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













