年末が近づくと「損出し」という言葉を見かける機会が増える。理由は、日本の株式の税金が1月1日から12月31日までの1年単位で精算されるからだ。その年に確定した利益と損失は差し引きされ、税金は残った差額にだけかかる。その年に利益が出ていれば、含み損を抱えた株を年内に売ることで、すでに払った税金の一部が戻ってくる。これが損出しである。
本稿では、損失を「税金の割引券」にたとえて説明する。割引券は切り取らなければ使えない。有効期限があり、使える売り場が決まっていて、切り方を間違えると半分に破れてしまう。損出しの注意点は、ほぼすべてこのたとえで説明できる。
割引券の額面:損失1万円で税金は2,031円減る
上場株式の売却益にかかる税率は20.315%だ。内訳は所得税15%、住民税5%、それに所得税額の2.1%を上乗せする復興特別所得税(0.315%)である(国税庁タックスアンサーNo.1463)。つまり、確定させた損失1万円は、利益にかかる税金を2,031円(1円未満切り捨て)減らす。これが割引券の額面になる。
ここが肝心だ。割引券は、差し引く相手があって初めて価値を持つ。その年に売却益も配当もなければ、割り引く対象がない。その場合の使い道は、後で説明する繰越控除になる。
仕組みを4つのステップで見ていく
1. 含み損は、まだ割引券ではない
評価額が買値を下回っていても、売らない限り税金の計算には入らない。含み損は、チラシに印刷されたままの割引券だ。売却して損失を「確定」させる、つまり切り取って初めて使えるようになる。
2. 使える売り場は決まっている
上場株式等の売却損と差し引きできるのは、上場株式等の売却益と、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当・利子に限られる(No.1474)。上場株式等には、国内外の上場株のほか、ETF、REIT、公募投資信託、特定公社債も含まれる。外国株を売ったときの為替の損益も、別の所得ではなく売却損益の中に含まれる(国税庁の質疑応答事例)。
一方、FXや先物・オプションは「先物取引に係る雑所得等」という別の売り場だ。この中どうしでは通算できるが、株の損失とは相殺できない(No.1521、No.1522)。暗号資産は現行制度では総合課税の雑所得で、やはり株の損失とは通算できない。2026年7月に成立した改正金融商品取引法を受けて、一定の暗号資産を20%(復興特別所得税を含め20.315%)の申告分離課税に移す改正が予定されている。適用は改正法の施行日の翌年1月1日からで、2028年からとの見方が多い。ただし改正後も、上場株式等との通算は認められない(大和総研の解説)。
3. 特定口座(源泉徴収あり)なら、口座が自動で使ってくれる
多くの個人投資家が使う「特定口座(源泉徴収あり)」では、証券会社が年初からの損益を売却のたびに計算している。利益が出れば税金を差し引き、その後に損失が出れば、払い過ぎになった分を口座に戻す(SBI証券、松井証券のFAQ)。確定申告は要らない。配当金を同じ口座で受け取る設定(株式数比例配分方式)にしていれば、年末に売却損と配当が自動で通算され、配当から差し引かれていた税金も戻る。
4. 余った割引券は3年とっておける。ただし毎年の申告が条件
通算しても損失が残った場合、確定申告をすれば翌年から3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる(No.1474)。条件は、損失が出た年だけでなく、その後も毎年続けて申告することだ。国税庁は、株を1株も売らなかった年も申告が必要だと明記している。申告が1年でも抜けると繰越は途切れる。気づいた時点で期限後申告により補える場合もあるので、その際は税務署に相談したい。複数の証券会社の口座にまたがって損益を相殺したい場合も、確定申告が必要になる(No.1476)。
用語を3つだけ。
損益通算=同じ年の利益と損失を差し引きすること。割引券をその年の会計で使うことにあたる。
繰越控除=使い切れなかった損失を翌年以降3年間持ち越し、将来の利益から差し引くこと。毎年の確定申告が条件。
受渡日=売買が成立した日(約定日)のあと、代金と株が実際にやり取りされる日。国内株は約定日を含めて3営業日目。税金の年は原則としてこの日で決まる。
有効期限:国内株は12月28日の約定が年内最後になる計算
割引券の有効期限は12月31日だが、ここに一つ目の落とし穴がある。税金の年は、原則として売買が成立した日ではなく受渡日で判定される(租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-1)。特定口座も受渡日で計算する。国内株の受渡日は、約定日から数えて3営業日目だ(JPX)。
JPXのカレンダーでは、2026年の年末の休業日は12月31日で、28日から30日は営業日になっている。ここから逆算すると、年内に受渡が終わる最後の約定日は12月28日(月)で、受渡日は30日(水)となる。29日以降に売ると受渡は2027年1月4日以降にずれ込み、損失は2027年分として扱われる。これは休業日と決済ルールから導いた計算値であり、各証券会社の正式な案内は例年11月から12月に出る。
米国株はさらに早い。米国内の決済は2024年5月にT+1へ短縮されたが、日本の証券会社を通じた取引の国内受渡日はT+2のまま据え置かれている(楽天証券)。2026年はニューヨーク証券取引所が12月25日に休場し、24日は短縮取引となる。楽天証券の2025年の日程と同じ考え方を当てはめると、年内受渡の最後は米国時間24日の取引(日本時間25日未明)になる計算だ。投資信託は銘柄ごとに受渡までの日数が異なり、締め切りは12月中旬から下旬の間でばらつく。
| 商品 | 年内受渡の最終約定日 | 受渡日 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 国内株・ETF・REIT | 12月28日(月) | 12月30日(水) | 29日の約定は2027年1月4日受渡 |
| 米国株(国内の証券会社経由) | 米国時間12月24日(木) | 12月29日前後 | 24日は短縮取引、25日は休場 |
| 投資信託 | 12月中旬〜下旬(銘柄による) | 銘柄による | 受渡までの日数と海外の休場日で変わる |
損出しの手順と期限(2026年、国内株の場合)
出所:国税庁タックスアンサー(No.1474、No.1476)、JPXの休業日カレンダーと決済ルール、証券会社のFAQをもとに本誌作成。12月28日は計算値で、証券会社の正式な案内で確認してほしい。
実際の数字に当てはめる
特定口座(源泉徴収あり)で、今年A社株を売って50万円の利益を確定させたとする。この時点で10万1,575円が源泉徴収されている。一方で、同じ口座のB社株は30万円の含み損を抱えている。
B社株を12月28日までに売れば、年間の利益は50万円から30万円を引いた20万円になり、税額は4万630円に下がる。差額の6万945円は口座に戻る。30万円の割引券を切り取った効果である。
| 項目 | 損出しをしない | 損出しをする |
|---|---|---|
| 年間の売却益 | 50万円 | 20万円 |
| 税額(20.315%) | 10万1,575円 | 4万630円 |
| 口座に戻る税金 | 0円 | 6万945円 |
見落としやすい点が一つある。損出しで得をするのは税金の分だけで、株価の下落そのものが消えるわけではない。売って買い戻せば、取得価額は安い値段に置き直される。来年その株が値上がりしてから売れば、その分だけ利益が大きく計算され、税金も大きくなる。つまり損出しは、税金をなくす技術というより、支払いを先に延ばす技術に近い。今年の利益が大きく、来年以降は小さくなりそうな人ほど効果が出やすい。
よくある誤解:同じ日に売って買い戻せばいい
「売った日に同じ株を買い戻せば、持ち続けたまま損失だけ確定できる」は誤解だ。特定口座では、同じ日に同じ銘柄を売買すると、実際の注文の順番にかかわらず「買いが先」として計算される(三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SBI証券などのFAQ)。取得価額は平均され、確定する損失は小さくなる。
数字で確かめる。2,000円で100株買った株が1,000円まで下がったとする。同じ日に1,000円で100株売り、1,000円で100株買い戻す。特定口座の取得価額は「総平均法に準ずる方法」で計算され(No.1466)、買いが先とみなされるため、(20万円+10万円)÷200株=1株1,500円となる。確定する損失は10万円ではなく5万円だ。割引券は半分に破れてしまう。残りの5万円は消えるのではなく、新しい取得価額1,500円の中に繰り延べられる。
証券会社が示す回避策は3つある。第1に、翌営業日以降に買い戻す。ただし、その間に株価が上がれば高く買い直すことになる。第2に、売った日に信用取引で買い、翌営業日以降に現引き(代金を払って現物として引き取ること)する。第3に、別の証券会社の特定口座か一般口座で買う。取得価額は口座ごとに計算されるからだ(楽天証券トウシル)。
信用取引を使う場合のコストは買い方金利だ。楽天証券の制度信用なら年2.80%で、年末年始の休日を含めて日割りでかかる。逆日歩は売り方が払うもので、買い方には負担にならない。もう一点、自分の売り注文と買い注文を同時に出して付け合わせる取引は、金融商品取引法159条が禁じる仮装売買にあたるおそれがある(JPX)。楽天証券は信用取引で売りと買いを同時に出す場合、原則として執行条件を「寄付」か「引け」にするよう求めている。
NISAの損失は割引券にならない
NISA口座で出た損失は「ないものとみなされる」(No.1535)。特定口座の利益とも通算できず、繰越もできない。NISAの中の含み損を売っても、税金は1円も戻らない。最初から割引券が印刷されていない口座だと考えればよい。
売却すれば翌年に非課税枠は戻るが、戻るのは売った値段ではなく買ったときの金額(簿価)分だ(金融庁)。含み損の銘柄を売っても、翌年に戻るのは簿価分の枠であり、生涯の上限1,800万円そのものが増えるわけではない。NISAの含み損は損出しの対象ではなく、保有を続けるかどうかという投資判断そのものとして考える必要がある。NISAで何を持つかについては高配当株を日本株と米国株で比べた記事、オルカンとS&P500の比較も参考にしてほしい。
まとめ:割引券を正しく切り取るために
損失は税金の割引券である。含み損のままでは使えず、売って確定させて初めて額面の20.315%分の効力を持つ。使える売り場は上場株式等に限られ、FXや暗号資産の利益には使えない。そして切り取る日付と切り方を間違えると、効力が消えたり半分になったりする。株、FX、暗号資産で税金がどれほど違うかは同じ100万円の利益で比べた記事にまとめた。覚えて帰ってほしいのは次の3点だ。
- 国内株は12月28日(月)の約定が年内受渡の最後になる計算だ。米国株と投資信託はそれより早い。
- 売ったのと同じ株数を同じ日に買い戻すと、確定する損失は半分になる。買い戻すなら翌営業日以降か、信用取引を使う方法がある。
- 繰越控除は毎年の確定申告が条件。NISAの損失は通算も繰越もできない。
損出しのために確定申告をすると、住民税や国民健康保険料に影響はあるか。
影響する場合がある。令和6年度の住民税(2023年分の所得)から、配当や株式の譲渡所得の課税方式を所得税と住民税でそろえることになった。確定申告に含めた配当や譲渡益は住民税の合計所得金額にも反映され、国民健康保険料や扶養の判定に響くことがある。源泉徴収ありの特定口座1つで完結する損出しなら申告は不要で、この影響は生じない。
損出しをした株を翌日に買い戻しても問題ないか。
翌営業日以降の買い戻しは、証券会社の解説でも損出しの方法の一つとして案内されている。ただし、売ってから買い戻すまでの間に株価が上がれば、高い値段で買い直すことになる。同じ日に買い戻すと、特定口座では取得価額が平均されて確定する損失が小さくなる点に注意したい。
損出しは毎年やったほうが得なのか。
必ずしもそうではない。売って買い戻すと取得価額が下がるため、将来売却したときの利益が大きく計算される。税金を消すというより、支払いを先送りする効果に近い。今年の利益が大きく来年以降は小さくなりそうな場合や、損失の出た銘柄をもともと手放すつもりだった場合に効果が出やすい。売買手数料や信用取引の金利も差し引いて考えたい。
主な参照
- 株式等を譲渡したときの課税(No.1463)/国税庁
- 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(No.1474)/国税庁
- 特定口座制度(No.1476)/国税庁
- 同一銘柄を2回以上購入した場合の取得価額(No.1466)/国税庁
- NISA制度の概要(No.1535)/国税庁
- FX(No.1521)と先物取引(No.1522)の課税/国税庁、国税庁
- 外国株の譲渡に係る為替差損益の取扱い/国税庁 質疑応答事例
- 譲渡の日の判定(措置法通達37の10・37の11共-1)/国税庁
- 新しいNISA(非課税枠の再利用)/金融庁
- 休業日カレンダー/日本取引所グループ(JPX)
- 株式の受渡(決済)/JPX
- 相場操縦・仮装売買の禁止/JPX
- 2025年の年末の受渡日程、米国株の国内受渡日(T+2据え置き)/楽天証券、楽天証券
- 2026年の休場日・短縮取引日/ニューヨーク証券取引所(ICE)
- 特定口座での源泉徴収と還付/SBI証券、松井証券
- 同日に同一銘柄を売買した場合の取得価額/三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SBI証券
- 損出しの方法(翌日買い戻し・信用取引・別口座)/楽天証券トウシル
- 信用取引の金利・逆日歩/楽天証券
- 暗号資産の分離課税の予定と適用時期/参議院、大和総研
- 所得税と住民税の課税方式の一致/東京都北区
データ基準日:2026年9月28日。税制は国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)にもとづく。2026年の年内受渡の最終約定日は、JPXの休業日とニューヨーク証券取引所の休場日、決済ルールから本誌が計算した値であり、証券会社の正式な案内ではない。同日売買の取得価額の扱いは証券会社のFAQにもとづくもので、取引前に利用する証券会社で確認してほしい。暗号資産の分離課税の適用開始年は改正法の施行日によって決まり、確定していない。計算例は売買手数料や住民税の端数処理を考慮していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や税務上の判断を推奨するものではない。税務の個別の判断は税理士や税務署に確認していただきたい。















