金曜のロンドン時間、ドル円が158円台に乗った瞬間に、画面の板が一段厚くなった。直後の1円の戻り。財務省の指示で日銀が為替のレートチェックを入れた、と複数のメディアが報じたのはその後だ。実弾ではない。電話一本である。それで1円動いた。筆者はこの値動きを、来週の材料として最も重く見ている。
テープの読み直し
18日の流れを、時間順に並べておく。東京の朝は156円台前半。安値は155円88銭だった。11時54分、日銀が政策金利を1.25%へ引き上げると発表する。ここから円が売られた。日銀公表の17時時点は157円48〜50銭。東京の値幅は155円88銭から157円60銭である。
ロンドンで158円台。そしてレートチェックの報道で156円台後半まで押し戻され、ニューヨークの終値は共同通信のレートで156円83〜93銭となった。前日比では91銭の円安。東京の安値155円88銭から海外市場の158円台まで1日で2円強の円安が進み、そこからニューヨークの終値まで1円強戻した計算になる。ただし158円台は海外市場での取引で、正確な高値は情報源によって食い違う。外為どっとコムは決定後の高値を158円05銭としている一方、日足ベースで157円99銭とする集計もある。1銭単位の高値を断定できる材料は、いまのところない。
ドル円の水準地図(2026年9月)
読み方:利上げを発表した11時54分の後に円安が進み、ロンドン時間に158円台へ。そこで財務省の指示による日銀のレートチェックが報じられ、1円以上戻した。
ここで押さえるべきは、下げの理由と戻りの理由が別物だという点だ。下げたのは金利を上げたからではない。票決が7対2に割れ、植田総裁が利上げのペースを約束しなかったからである。戻したのは需給ではなく、当局の電話だ。材料の質が違う。前者は相場の中から出た売り、後者は外から入った買いである。
需給の穴——5日間、東京が閉まる
来週の相場を考えるうえで、日程がそのまま需給になる。東京市場は19日の土曜から23日の水曜まで、5日間開かない。21日が敬老の日、22日が国民の休日、23日が秋分の日である。22日が休日になるのは祝日法の規定によるもので、9月では11年ぶりだ。
だが為替は動く。実際に値が付くのは21日の月曜から23日の水曜までの3営業日で、土日は為替も止まる。その3日間、東京の実需が抜けた薄い板を海外勢だけが叩くことになる。筆者の経験では、この形は上にも下にも走りやすい。そして過去の介入は、しばしばこの薄い時間帯に入っている。当局から見れば、少ない玉で大きく動かせるからだ。逆に投機筋から見れば、当局が出てきたときに逃げ場がない。
1日目の答えは出た。21日のドル円は、アジア時間の156円59銭を安値に水準を切り上げ、米東部時間11時42分に157円52銭。この日の高値である。走ってはいない。じりじり上げただけだ。実弾の介入も、当局者の新しい発言も確認されていない。日本が連休で記者会見の機会がないため、18日のレートチェックについての公式なコメントも出ないままである。
もう一つ、日程に材料がある。9月22日、ニューヨークで日米首脳会談が予定されている。ただし報じられている議題は中国・台湾情勢、日米同盟、通商であり、為替は公表された議題に入っていない。期待すべきは会談そのものではなく、共同発表や会談後の発言に通貨に関する一文が入るかどうかだ。今年8月に日米が円買いで協調した経緯があるだけに、この一文の有無は軽くない。なお片山さつき財務相は改造内閣でも留任した。介入を決裁する人物は変わっていない。
水準の地図
上値の節目から。157円30銭台に25日移動平均、158円40銭台に200日移動平均、159円50銭台に100日移動平均が控える(外為どっとコムの週間見通しによる)。下値は156円60銭台、155円70銭台。同社の週間予想レンジは155円50銭〜159円50銭である。21日時点のドル円157円52銭は、25日移動平均をすでに上に抜けた位置にある。
ここで、水準そのものを引き金と考えないほうがいい、という見方も紹介しておく。三菱UFJ銀行は、158円や160円という数字が自動的に介入を呼ぶわけではなく、値動きの「速さ」のほうが水準より重要だとしている。そのうえで、薄商いのなかで157円50銭を抜けて160円方向へ走る展開になれば話はまったく別だ、と警戒する。同行は160円超えの手前でドル買いが細るとみている。筆者がこの見方を重く見るのは、当局の行動原理と一致しているからだ。7月の介入も、163円という水準そのものではなく、そこへ至る速度に対して打たれている。そして21日のドル円は、その157円50銭に触れたところで止まっている。
もっと大きな地図で見れば、今年の円安値は7月下旬の163円台。直近の円の高値は9月8日の152円89銭で、2月中旬以来の円高水準だった(2月11〜17日には152円20〜60銭台がある)。いまはその中間よりやや円安側にいる。7月の163円台では、政府・日銀が7月30日から8月26日にかけて15兆3,993億円の円買い介入を実施している。介入の歴史を振り返れば、当局が動く水準は固定ではない。動くのは速度に対してである。
筆者の見立て
結論から言う。筆者は来週、158円台への再トライがあっても続かないとみている。根拠は3つ。
第一に、当局が既に一度手札を見せた。レートチェックは「次は実弾もある」という意思表示である。ここから先の円売りは、当局のリスクを抱えたポジションになる。第二に、日米の政策金利差は縮む方向に入った。FRBは9月16日に3.75〜4.00%へ引き上げたが、年内あと1回で打ち止めなら、金利差の拡大余地は小さい。対する日銀は、票決こそ割れたものの、声明で「引き続き政策金利を引き上げる」と明記している。第三に、8月の全国コアCPIが1.7%と2%を8カ月連続で下回った一方、コアコアは1.9%だ。エネルギー補助金を剥がせば、物価の基調は日銀の言うとおり上を向いている。
ただし、これは「円高に振れる」という見立てではない。上値が重くなる、という程度の話だ。第一生命経済研究所の藤代宏一氏は、次の利上げを12月とみて1年後のドル円を155円程度と予想している。市場のターミナルレート予想は1.75%前後が中心だ。どちらも、劇的な円高を織り込んではいない。
逆になったら
見立てが外れる条件を先に書いておく。159円50銭を終値で上抜けたら、筆者はこの見方を捨てる。100日移動平均の上に定着すれば、レートチェックは効かなかったという判定になり、当局は実弾を選ぶか、諦めるかの二択に追い込まれる。どちらに転んでも値幅が出る。逆に155円50銭を割れば、戻りは想定より速い。その場合、日銀の次の一手を12月ではなく10月とみる向きが増えているサインとして読む。
監視リスト
| 日時(日本時間) | 材料 | 見るところ |
|---|---|---|
| 9月21〜23日 | 東京休場。為替と米国株は稼働 | 薄い板での値幅。158円台の滞空時間 |
| 9月22日 | 日米首脳会談(ニューヨーク) | 為替への言及の有無 |
| 9月24日 | 東京市場が再開。日銀の新金利1.25%が適用開始 | 5日分の材料をまとめて織り込む寄り付き |
| 9月30日19時 | 財務省が8月27日〜9月28日の介入実績を公表 | レートチェック止まりか、実弾があったか |
| 10月1日8時50分 | 日銀「主な意見」と9月短観が同時公表 | 7対2の内訳。追加利上げに前向きな意見の数 |
利上げの当日に円が売られた構図は別記事で尋問した。FRB側の金利の地図はこちら、銀行各社のドル円予想はこちらにある。海外FX業者の比較はFX解説ページにまとめている。
主な参照
- レートチェックの実施報道/日本経済新聞
- 9月18日の東京外国為替市場(9時・17時の相場と値幅)/日本銀行
- ニューヨーク市場の終値(1ドル=156円83〜93銭、前日比91銭の円安)/共同通信
- 日米首脳会談の日程(9月22日・ニューヨーク)/時事通信
- 週間予想レンジと移動平均の水準、決定後の高値158円05銭/外為どっとコム、同(9月21日)
- 9月21日のドル円の気配値/CNBC
- 介入の引き金は水準でなく速度との見方/三菱UFJ銀行の見解(InvestingLive)
- 日銀の金融政策決定(2026年9月18日)/日本銀行
- 為替介入の実績/財務省
- 次の利上げ時期とドル円の予想/第一生命経済研究所
- 休場日程/日本取引所グループ
データ基準日:2026年9月21日(米東部時間11時42分)。ドル円の9時・17時の水準と東京の値幅は日銀の公表値(9月18日分)、158円台は海外市場での取引で、報道により水準に幅がある。9月21日のドル円は取引時間中の気配値であり、終値ではない。移動平均と予想レンジは外為どっとコムの集計。見立てと撤退の水準は筆者の考え方であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















