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「指数に採用されると株は上がる」は本当か——1990年代7.4%、直近10年0.3%、そして9月21日に出た答え

Takashi Suzuki Takashi Suzuki
2026年9月22日
株式
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1990年代のウォール街に、ひとつの必勝法があると信じられていた。S&P500への新規採用が発表された銘柄を、指数連動のファンドが買いに来る前に買う。それだけでよかった。当時、採用発表の前日から組み入れの翌営業日までの間に、対象銘柄はS&P500指数を平均7.4%も上回るリターンを上げていたからである。2026年9月21日の取引開始前、デル・テクノロジーズとサンディスクを含む4社がS&P100に採用された。ただしこれはS&P500への新規採用ではなく、既に500に入っている銘柄の100入りだ。この違いが、必勝法の行方を考えるうえで効いてくる。そして当日の値動きは、必勝法の側には立たなかった。

S&P500の採用・除外に伴う超過リターンの平均

採用時(1990年代)+7.40%採用時(直近10年)+0.30%除外時(2010〜20年)-0.10%出所:Greenwood & Sammon「The Disappearing Index Effect」Journal of Finance 80(2), 2025年4月。

読み方:1990年代には採用の発表だけで平均7.4%上がった。直近10年では0.3%しかない。指数に連動する資金は大きく増えたのに、効果はほぼ消えた。

当時と今——2つの数字が示すもの

7.4%という数字の出どころを先に記しておく。ハーバード・ビジネススクールのロビン・グリーンウッド氏とマルコ・サモン氏による論文「The Disappearing Index Effect(消えゆくインデックス効果)」である。金融分野で最も権威のある学術誌の一つ、Journal of Financeの2025年4月号に掲載された。

この論文が示したのは、1990年代に平均7.4%あったS&P500採用時の超過リターンが、直近10年では1%未満(集計値で平均0.3%)まで縮んだという事実である。除外された銘柄の超過リターンも、2010年から2020年にかけてはマイナス0.1%程度、つまりほぼゼロにとどまった。効果は小さくなったのではない。統計的にほぼ消えた。

項目1990年代直近10年
S&P500採用時の超過リターン(平均)+7.4%+0.3%
除外時の超過リターン(2010〜2020年)大幅なマイナス約−0.1%
指数に連動する運用資産少ない大幅に増加
情報の伝わる速さ発表を見てから動く候補銘柄は事前に予想される
出所:Greenwood & Sammon「The Disappearing Index Effect」Journal of Finance 第80巻第2号(2025年4月)657〜698ページ。

奇妙なのは、ここである。指数に連動する資金は、この30年で大きく増えた。買い手が増えたのだから、採用時の値上がりは大きくなるはずだ。ところが現実は逆を向いた。

1986年から2020年代へ——効果がしぼんでいった道のり

効果は一直線に消えたのではない。1986年、シュライファー氏、そしてハリス氏とグレル氏は、それぞれ別の論文で、S&P500への採用発表の前後に約3%の超過リターンが生じることを示した。指数に連動する資産が、まだごくわずかだった時代の数字である。

効果が最も大きくなったのは1990年代で、平均7.4%。指数連動の資産が本格的に膨らんだ2000年代に入ると縮み始めた。ワーキングペーパー版によれば、発表日前後の超過リターンは2000年代の4.1%から2010年代後半には1%程度へ、実施日前後の超過リターンは約1%からほぼゼロへ落ちている。買い手が増えた30年は、そのまま効果が細っていった30年でもあった。

なぜ効果は消えたのか

論文は理由を一つに絞っていない。採用・除外される銘柄の顔ぶれの変化、市場全体の流動性の高まり、需要そのものの縮小、先回りする裁定取引、流動性を供給する投資家の層の厚み。この5つを並べて検証している。

第一に、採用候補が事前に読めるようになった。指数の採用基準は公開されており、時価総額や流動性、黒字の継続といった条件から、候補はあらかじめ絞り込める。第二に、発表から実施までの間に、裁定取引を行う投資家が先回りして買い、指数ファンドに売る。第三に、指数ファンドに株を渡す側、つまり流動性を供給する投資家の層が厚くなった。実施日に一斉に売買しなくても、需要が分散して吸収される。

そして四つ目に、需要そのものが小さくなったという説明がある。近年の新規採用の多くは、S&P中型株指数からの「移籍」である。移籍してくる銘柄は、他の指数に連動するファンドがすでに保有している。市場全体で見た新規の買い需要は、見かけほど大きくない。結果として、指数ファンドが買いに来たときには、株価はすでに動き終わっている。

教訓の形にすれば、こうなる。市場に「誰でも知っている必勝法」が残ることはない。知られた瞬間から、その利益は先回りする人々に分配され、やがて消える。

「今回は違う」論の検証

では、2026年9月21日の入れ替えはどうか。今回固有の事情を3つ確かめておきたい。

ひとつ目。今回採用されるデル、パロアルトネットワークス、アリスタ・ネットワークス、サンディスクの4社は、いずれも既にS&P500の構成銘柄である。S&P100はS&P500の中から選ばれる大型株の指数だからだ。したがって新たに生じる買いは、S&P100に連動する資金に限られる。S&P500に連動する巨大な資金は、すでにこれらの株を保有している。効果が出にくい条件がそろっている。

ふたつ目。発表は9月4日、実施は9月21日の取引開始前である。間には17日、営業日でも11日ある。論文が超過リターンを測るのは、発表の前日から実施の翌営業日までの区間だ。今回の4社について、先回りする側の「稼ぎ場」は9月4日にはもう開いていたことになる。

みっつ目。直近の値動きを見ると、9月18日にサンディスクは10.99%上げ、デルは3.46%下げている。同じ日に採用される2銘柄が、逆方向に動いた。この日はメモリー関連が軒並み買われ、サーバーメーカーが売られた日である。両社を分けたのは指数ではなく、メモリー高で稼ぐ側か、それをコストとして払う側かという違いだった。指数採用そのものが株価を押し上げる力を持つなら、同じ日に採用される2銘柄がここまで正反対に動くのは説明しにくい。むろん1日の値動きで論文の結論が確かめられるわけではないが、少なくともこの日、値動きを決めていたのは指数ではなかった。

歴史が示す3つの教訓

第一に、効果は発表日にも残らなかった。論文は採用効果を、発表日前後と実施日前後に分けて集計している。2010年代には、そのどちらもゼロと統計的に区別がつかない水準まで縮んだ。発表を見て買う戦略も、実施日を待って買う戦略も、1990年代の相場を前提にしている。

第二に、買い手が増えたことは、値動きが大きくなることを意味しない。指数連動の資産は増え続けたのに、効果は消えた。需要の大きさだけでは価格は決まらない。その需要を誰が、いつ、どの価格で引き受けるかが効いてくる。

第三に、採用は理由ではなく結果である。指数に入るのは、既に大きくなった会社だ。デルの株価は2026年に入って水準を切り上げ、9月18日には取引時間中に595.51ドルの最高値を付けた。株価の上昇が先にあり、採用はその後から来ている。採用はその事実の追認であって、これから上がる理由ではない。

実験の結果——採用された日に、何が起きたか

論文の結論は平均値である。個別の銘柄で例外が起きない保証はない。だからこそ、実施日そのものが小さな実験になる。9月21日、その実験の結果が出た。

採用4社前週末終値(ドル)寄り付き(ドル)9月21日(ドル)前週末比
デル(DELL)568.06586.77574.31+1.10%
パロアルトネットワークス(PANW)363.58364.09371.35+2.14%
アリスタ・ネットワークス(ANET)199.39203.47202.07+1.34%
サンディスク(SNDK)1,791.821,826.001,767.89−1.34%
(参考)フィラデルフィア半導体株指数11,921.6912,145.9312,349.18+3.59%
(参考)ナスダック総合指数26,522.5526,723.1926,967.79+1.68%
出所:CNBCの気配値(9月21日11時42分=米東部時間)。取引時間中の数値であり、終値ではない。

まず正確に書いておく。4社のうち3社は上がっている。「採用された銘柄が下がった」という話ではない。問題は上げ幅の中身にある。この日の半導体株指数は3.59%高、ナスダック総合指数は1.68%高だった。採用4社のうち、半導体株指数を上回ったものは一つもない。指数連動のファンドが買いに来るはずのその日に、4社そろって地合いに負けている。

寄り付きの形も、論文の側に立った。デルは前週末終値568.06ドルに対し586.77ドルで寄り付いた。3.3%の窓を開けたことになる。だがそこから売られ、安値は567.38ドルと前週末の終値を下回った。開いた窓は、その日のうちに閉じている。サンディスクも1,826.00ドルで寄り付いたあと1,766.00ドルまで下げ、前週末比1.34%安で推移した。そしてパロアルトネットワークスは、前週末終値363.58ドルに対して364.09ドルで寄り付いている。窓は、ほとんど開いていない。

除外された側も見ておく。ナイキは1.46%高、サイモン・プロパティ・グループは0.05%高、コルゲート・パルモリーブは1.03%安。除外の当日に投げ売られた銘柄はない。

1日の値動きは、論文の証明にはならない。グリーンウッド氏とサモン氏が測ったのは数百件の平均であり、2026年9月21日はその1件にすぎない。加えてこの日は、CPU関連銘柄が大きく買われた特殊な地合いでもあった。それでも、採用4社が一つ残らず地合いに負け、開いた窓が当日のうちに閉じ、除外4社が売られなかったという並びは、論文の結論と整合的である。少なくともこの日、値動きを決めていたのは指数ではなかった。

除外される側も見ておきたい。ナイキ、ハネウェル・エアロスペース、サイモン・プロパティ・グループ、コルゲート・パルモリーブの4社である。ナイキは現地10月1日、日本時間では10月2日の早朝に決算を出す。除外の10日後だ。論文どおりなら、除外による下落はほとんど観測されないはずだが、決算の結果はそれとは別の力で株価を動かす。2つの力を混同しないことが、この局面での読み方になる。

次の四半期見直しは12月に予定されている(発表日と実施日はS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの告知による)。今回の4社の値動きを記録しておけば、3か月後に同じ検証ができる。デルの現在地とサーバー株の相場つきは、それぞれの記事にまとめている。

主な参照

  • Robin Greenwood, Marco Sammon「The Disappearing Index Effect」Journal of Finance, Vol.80 No.2(2025年4月)657〜698ページ/Wiley Online Library、ワーキングペーパー版はNBER(公表版と集計値が一部異なる)
  • S&P100・S&P500の構成銘柄入れ替え(2026年9月4日発表、9月21日実施)/S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス
  • 9月18日の米国株の終値/CNBC
  • ナイキの決算日程/ナイキ

データ基準日:2026年9月21日(米東部時間11時42分)。超過リターンの数値は論文の集計によるもので、個別銘柄の結果を保証しない。9月18日の株価は米国市場の終値、9月21日の株価は取引時間中の気配値であり、終値ではない。同日の取引終了は日本時間22日午前5時で、その後の変動は反映していない。除外4社のうちハネウェル・エアロスペースは本稿では集計していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。

Tags: AI関連株デル・テクノロジーズ
Takashi Suzuki

Takashi Suzuki

大手マーケットメイカーのFXトレーディングデスクで8年以上にわたりキャリアを積み、うち3年は為替フォワードデスク、その後2年は金利(レート)デスクを担当した。さらにシンガポールではアジア・トレーディングデスクのヘッドとして4年間チームを率い、地域全体のフローとリスク管理を統括してきた。 現在もFX・金利・株式など幅広い市場で実際にトレードを行っており、機関投資家の最前線で培った実取引経験は豊富。FX・株式・暗号資産において自己のポジションを保有している。 こうした実務とマーケットでの経験をもとに、金融市場・暗号資産・FX・経済指標について、信頼性・正確性・迅速性の高い情報を届けることを目的としている。記事の内容は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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