なぜ銀行のFX予想は、同じFOMCを見たはずなのに数字がバラバラなのか。ドル円の年末予想は、MUFGが156円、ナショナルバンク・オブ・カナダ(NBC)が155円、送金大手MTFXが160円——最大5円の開きがある。答えは、為替予想が「予言」ではなく「前提つきの天気予報」だからだ。天気予報が気圧配置という前提から傘の要否を導くように、FX予想は政策金利の道筋という前提から数字を導く。前提が違えば、同じ空を見ても予報は割れる。本記事のデータ基準日は2026年9月17日。きのうのFRB利上げ(3.75〜4.00%)で各社の「気圧配置」がどう変わったのかを、天気予報の読み方になぞらえて順に見ていく。
原理:FX予想は「前提つきの天気予報」である
まず製造工程から分解する。為替予想は上の図の4段階でつくられる。出発点は前提、すなわち各中央銀行の政策金利の道筋だ。FRBがあと何回上げるか、日銀がどこまで追うか——ここが天気予報でいう気圧配置にあたる。ここが肝心だ。予想の数字だけを見比べても意味はなく、その裏の前提を見比べて初めて「なぜ割れているのか」が読める。
次にモデル。前提の金利パスを、金利差や購買力といった換算装置に通して数字にする。日米の金利差が縮むならドル円は下、開くなら上——というのが最も単純な換算だ。そして忘れられがちなのが第4段階の「賞味期限」である。天気予報が新しい観測データで毎日更新されるように、FX予想も前提が崩れた瞬間に失効する。実例がある。NBCの9月月報は9月8日時点の作成で、同社の金利ストラテジストは「FRBは年内据え置き」を本線としていた。その8日後にFRBは利上げした。予想の数字(ドル円155円)そのものより、「据え置き前提の155円だった」という事実のほうが、いま読み返す際には重要になる。
用語ボックス
・ドットチャート:FOMC参加者が適切と考える政策金利水準を点で示した分布図。今回の中央値は2026年末4.1%=年内あと1回の利上げを示唆する。
・金利差:2国間の金利の差。為替予想モデルの最重要インプットで、差が縮む方向の通貨が買われやすいと考えるのが基本形。
・ターミナルレート:利上げ局面の最終到達点。市場が織り込む終着駅が動くと、そこまでの道筋の予想も全部書き換わる。
適用:FOMC通過後の「3社の天気図」を並べる
では実際の予報を並べてみる。現在値は9月17日の実勢、予想はいずれも2026年10〜12月期(Q4)の目標水準だ。
| 通貨ペア | 現在値(9/17) | MUFG(9月月報) | NBC(9/8時点) | MTFX(9/17・FOMC後) |
|---|---|---|---|---|
| ドル円 | 155円台後半 | 156円 | 155円 | 160円 |
| ユーロドル | 1.14台後半 | 1.18 | 1.18 | 1.19 |
| ポンドドル | 1.33台前半 | 1.3640 | 1.36 | 1.38 |
| 前提の要点 | — | FRB利上げは1回限りで打ち止め(政策ミスの懸念すら指摘) | FRB年内据え置きが本線(→前提は既に崩れた) | 利上げでドルの利回り優位を確認、ただし2027年にかけ徐々に軟化 |
この天気図から読めることは二つある。第一に、意外なことに3社は「ドル安方向」で一致している。ユーロドルの現在値1.14台に対し予想は1.18〜1.19、ポンドドルも現在値1.33台に対し1.36〜1.38。きのうの利上げでドルが約3カ月ぶりの大幅高となった直後にもかかわらず、どの予報も「この晴天は続かない」と言っているわけだ。根拠も共通で、FRBの追加余地は限定的(ドット中央値はあと1回)で、金利差はこれ以上開きにくいという読みである。200日線の試験に失敗して1.14台まで沈んだユーロや、サポート帯1.3470〜75を割り込んだポンドの現在地は、3社の見立てではいずれも「行き過ぎたドル高」の側に置かれている。
第二に、割れているのはドル円だけだ。155〜156円組(MUFG・NBC)と160円組(MTFX)の差は、ほぼそのまま日銀への前提の差である。あす9月18日の日銀会合はブルームバーグ調査の52人全員が利上げを予想する「満場一致の予報」だが、その先——12月か1月の追加利上げ、そして終着点をどこに置くか——で各社の気圧配置が分かれる。日銀が刻めば金利差は縮み155円組に、日銀が止まれば160円組に軍配が上がる。つまりドル円予想の5円の開きとは、「日銀の本気度」の見積もりの開きなのである。先週「150〜155円の新常態」として整理したレンジの上限が今回のFOMCで突破されたいま、あすの会合はこのレンジ観そのものの再試験でもある。
よくある誤解:「Q4予想が1.19なら、いま1.14台のユーロを買えば4%取れる」ではない。予想は前提つきの条件文であり、前提が変われば数字ごと書き換えられる——NBCの155円が「据え置き前提」だったように。予想の正しい使い方は売買シグナルではなく、自分のポジションの前提チェックだ。「自分は無意識にどの気圧配置に賭けているのか」を予想表と突き合わせて確かめる道具である。
まとめ:予報は当てるものではなく、傘の判断材料
天気予報の価値は的中率ではなく、傘を持つかどうかの判断を支えることにある。FX予想も同じで、156円と160円のどちらが「当たる」かを議論するより、その差を生む前提——あすの日銀、10月末と12月のFOMC、原油100ドルの物価波及——を監視リストに変えるほうが実用的だ。覚えて帰ってほしいのは次の3点である。
- FX予想は「前提つきの天気予報」。数字より前提(政策金利の道筋)と作成時点を読む。据え置き前提の予想は利上げの瞬間に賞味期限が切れる。
- FOMC後の3社は、ユーロ・ポンドの対ドル反発では一致し、ドル円だけ155〜160円で割れる。割れ目の正体は日銀の利上げペースへの見積もりの差だ。
- 予想表は売買シグナルではなく前提チェックリスト。あす9月18日の日銀会合が、直近の予想群の前提を試す最初の関門になる。
主な参照資料(本記事で引用した外部ソース)
- MUFGリサーチ(mufgresearch.com):月次為替見通し9月号(ドル円156円ほかQ4予想、FRB利上げ「政策ミス」懸念)
- ナショナルバンク・オブ・カナダ(nbc.ca):「Forex」2026年9月号(9月8日時点の予想表・据え置き前提)
- MTFX(mtfxgroup.com):米ドル月次見通し(9月17日付・FOMC後のQ4予想)
- Bloomberg(bloomberg.com):日銀ウォッチャー調査(52人全員が9月利上げ予想・93%が1月までの追加を想定)
データ基準日:2026年9月17日(日本時間夜)。現在値はニューヨーク時間の実勢で、取引継続中のため変動し得る。各社予想は各公表時点のもので、前提の変化により更新される。予想の引用は情報の紹介であり、その実現を保証するものではない。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨する投資助言ではない。掲載した予想値は各金融機関の見解の紹介であり、当メディアの推奨水準ではない。相場はあすの日銀会合をはじめとするイベントで急変し得る。投資判断は自身の責任と判断で行う必要がある。












