9月18日金曜、午前9時30分のニューヨーク。寄り付き直後に、デル・テクノロジーズの株価は595.51ドルを付けた。取引時間中としては上場来の高値である(同日の時間外取引では598.71ドルまで買われていた)。ただし、更新幅は小さい。前日17日の取引時間中の高値593.98ドルを、1.53ドル、率にして0.26%上回ったにすぎない。高値をわずかに塗り替えた銘柄は、そのまま売られた。終値は568.06ドル、3.46%安。高値からは4.6%の下落である。この日、米国市場ではおよそ7兆ドルのオプションが期日を迎えていた。
2026年9月18日、7兆ドルの期日に起きたこと
読み方:期日は相場の方向を決めない。前日までに積み上がっていた需給を増幅する。この日は同じ「AI関連」でも、サーバー組立とメモリーで逆方向に動いた。
3か月に一度、4つの期日が重なる日
「クアドラプル・ウィッチング」と呼ばれる日がある。日本語にすれば「4人の魔女の日」だ。株価指数の先物、株価指数のオプション、個別株のオプション、そして個別株の先物。この4種類のデリバティブ(派生商品)の期日が同時に訪れる日を指す。3月、6月、9月、12月の第3金曜日に来る。9月18日は、その日だった。ただし米国では個別株の先物を扱う取引所が2020年に閉鎖され、いま取引が続いているのは実質的に3種類だ。このためブルームバーグをはじめ多くの通信社は「トリプル・ウィッチング」と呼ぶ。呼び名は割れているが、指している日は同じである。
なぜ期日が相場を動かすのか。理由は単純だ。期日を迎えたポジションは、決済されるか、次の限月へ乗り換えられるか、あるいは権利行使によって現物の売買になる。どれを選ぶにしても、注文が出る。その注文が、同じ日の同じ時間帯に集中する。
規模を見ておこう。9月18日に期日を迎えたオプションの想定元本は、シタデル・セキュリティーズの推計でおよそ7兆ドル。米国株式市場のおよそ4分の1に相当する。同社は期日前に、このうち約6割が寄り付きの時間帯に処理されるとの見方を示していた。デルが寄り付きで高値を付け、その後ずるずると下げた形は、この需給と整合的である。
念のために書けば、9月18日は史上最大ではない。ブルームバーグはこれを「過去2番目の規模」と位置づけている。直近では2026年3月が約7.1兆ドル、6月は推計で約7.7兆ドルと報じられており、想定元本の推計も順位付けも報道機関によって差がある。7兆ドルという規模も6割という比率も、出どころはシタデル・セキュリティーズの推計ひとつであって、取引所が事後に公表した実績値ではない。
魔女が動かすのは値段ではなく、その裏に積み上がったポジションである
ここで誤解を解いておきたい。期日そのものは、株価が上がるか下がるかを決めない。決めるのは、どちらに注文が偏っているかである。
オプションを売った証券会社は、値動きの影響を打ち消すために現物株を売買している。これをヘッジと呼ぶ。期日が来てオプションが消えれば、そのヘッジも不要になる。買い持ちしていた現物は売りに出され、売り建てていた分は買い戻される。どちらに転ぶかは、その時点でどんなポジションが積み上がっていたかで決まる。
シタデル・セキュリティーズで市場情報チームを率いるスコット・ルブナー氏は、この点をこう説明している。「こうしたポジションが期日を迎えたり、次の限月へ乗り換えられたりすると、値動きを抑えてきた需給が大きく変わりうる。その後の市場は、本来の資金の流れに対してより敏感になる可能性がある」。期日は嵐ではなく、嵐を抑えていた重しが外れる日だと考えたほうが近い。
9月18日、3銘柄に起きたこと
あの日の値動きを、もう一度たどる。デルは寄り付きで595.51ドルの高値を付け、3.46%安の568.06ドルで引けた。スーパー・マイクロは3.12%安、ヒューレット・パッカード・エンタープライズは0.46%安。3銘柄とも、寄り付き近辺が高値だった。
同じ日、サンディスクは10.99%高、ラムリサーチは6.98%高、マイクロン・テクノロジーは3.92%高の1,015.80ドルで引け、心理的な節目の1,000ドルを回復している。フィラデルフィア半導体株指数は2.78%高。つまり「期日だから全部下げた」のではない。下げたのはサーバーを組み立てる3社であり、メモリーと半導体製造装置は上げている。前日の17日、この3社はそろって買われていた。値動きから読み取れるのは、期日前に積み上がっていた買いの巻き戻しが重なった可能性までである。
付け加えれば、少なくともデルとスーパー・マイクロについては、この日に提出された開示書類は確認できなかった。3社ともアナリストの投資判断変更は報じられていない。ただし、材料が何もなかったわけではない。この日は米10年債利回りが5%前後まで戻し、CNBCは「米国債利回りの上昇でS&P500種が下落」と当日の市況を伝えている。さらに次の営業日である9月21日の寄り付き前には、デルとサンディスクのS&P100採用が発効する。金利の上昇、指数採用をめぐる思惑の一巡、前日の急伸の反動。それらが重なったところに、期日の需給が乗ったとみるのが妥当だろう。
日本の「SQ」との違い
日本の個人投資家には、同じ現象が「SQ」の名で知られている。Special Quotationの略で、日経平均先物やオプションの決済に使われる特別清算指数のことだ。毎月第2金曜日に算出され、3・6・9・12月は先物とオプションが重なるため「メジャーSQ」と呼ばれる。
米国のクアドラプル・ウィッチングは第3金曜日で、日本のメジャーSQは第2金曜日。2026年9月のメジャーSQは9月11日だった。1週間ずれている点は覚えておいてよい。
違いは日付だけではない。日本のSQは、第2金曜日の寄り付きで成立した各構成銘柄の始値をもとに算出される。需給が集中する場所は、その日の寄り付きただ一点だ。対して米国の株価指数オプションには、寄り付きの値段で決済されるものと引け値で決済されるものが併存する。9月18日の期日で約6割が寄り付きに集中するとみられていたのは、四半期物の指数オプションが寄り付き決済であることの裏返しでもある。日本のメジャーSQで身構えるべきは寄り付きの数分間、米国の期日は寄り付きと引けの二度、という違いになる。
同じ頃、東京では別の物語が進んでいた。9月18日の日経平均株価は882円高の6万5018円95銭で引けている。ただし上げ幅ほど地合いは強くない。TOPIXは小幅安で終わり、東証プライムでは値下がり銘柄が値上がり銘柄を上回った。指数を押し上げたのは、キオクシアホールディングスの9.40%高をはじめとする半導体とメモリーである。東京の上昇とニューヨークのサーバー株安は、逆の動きに見えて、同じひとつの入れ替わりを映していた。
エピローグ:個人投資家がやるべきでないこと
この日を前にして、何をすべきか。答えは「特別なことは何もしない」である。
理由は3つある。第一に、期日の値動きの方向は事前に読めない。積み上がったポジションの中身は、個人投資家には見えないからだ。第二に、期日に起きた値動きは、その銘柄の価値について何も語らない。デルが3.46%下げた背景に、受注残や利益率の新しい材料があったことを示す報道はない。第三に、値幅が大きい日は売り買いの気配値の幅(スプレッド)が広がりやすく、成行注文を出すと想定より不利な値段で約定しやすい。逆に指値注文は、約定しないまま日をまたぐ可能性が高まる。
逆に、やっておいて損がないことはある。期日の翌営業日以降の値動きを見ることだ。重しが外れた後、株価が前日の方向に戻るのか、さらに走るのか。そこに、需給ではない本来の需要が見える。ただし今回に限っては注意がいる。翌営業日の9月21日は、寄り付き前にS&P100とS&P500の四半期入れ替えが発効する日で、デルとサンディスクはここでも指数連動の買いを浴びる。素の需要が見えるのは、その次からだ。東京市場も21日から23日まで休場で、日本の個人投資家が値段を付けられるのは24日からである。
次のクアドラプル・ウィッチングは12月18日である。その日までに、9月18日に何が起きたかを覚えておけば、同じ罠を踏まずに済む。デルの記録は最高値更新を扱った記事に、サーバー株の相場つきはスーパー・マイクロの記事に、メモリー株との対比はメモリー株の番付に残してある。
重しが外れた後、相場はどうなったか
ルブナー氏の言うとおりなら、期日を過ぎた相場は本来の資金の流れに素直になるはずだ。その最初の答えが、次の取引日である9月21日に出た。
S&P500種株価指数は1.09%高の7,734.00、ナスダック総合指数は1.68%高の26,967.79、フィラデルフィア半導体株指数は3.59%高の12,349.18(いずれも米東部時間21日11時42分時点)。米10年債利回りは4.963%と、前週末の4.996%から低下した。前週末に3.46%安で引けたデルは1.10%高と反発している。
ただし、ここで因果をひっくり返さないでほしい。21日の上昇は、期日を通過したから起きたのではない。この日はアーム・ホールディングスが14.75%高、インテルが14.42%高と、CPU関連に資金が集中した特殊な地合いだった。期日が教えてくれるのは方向ではない。「金曜の値動きのうち、どこまでが需給で、どこからが相場の判断か」を切り分ける物差しである。金曜に付けた高値と安値を、翌営業日の値動きと並べて初めて、その日の需給がどれだけ効いていたかが分かる。
主な参照
- 9月18日の期日の規模と寄り付きへの集中/Investing.com(シタデル・セキュリティーズの推計)
- 過去2番目の規模という位置づけ/ブルームバーグ
- 9月18日の米国株の終値と値幅/CNBC、Nasdaq
- 特別清算指数(SQ)の算出日/日本取引所グループ
データ基準日:2026年9月21日(米東部時間11時42分)。株価は2026年9月18日の米国市場の終値、595.51ドルは同日の取引時間中の高値。9月21日の株価と指数は取引時間中の気配値であり、終値ではない。同日の取引終了は日本時間22日午前5時で、その後の変動は反映していない。期日の規模は推計値であり、報道により数字に幅がある。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












