市場はこう受け取っている。2026年9月7日、日経平均株価は1,378円90銭高の6万6,399円84銭で引けた。上昇率2.12%。米国が労働者の日で休場のなか、東京だけで1,300円を超える上げを演じた。強い一日だった、と。この通説を今日は尋問する。
公平のために、通説を最も強い形で述べておく。上げの背景にはマイクロン・テクノロジーによる先端メモリーの増産計画があり、材料は実在する。前週末の米フィラデルフィア半導体株指数は3.37%高で、流れも整っていた。日経新聞は「雇用統計よりマイクロン」と書いた。9月4日の米雇用統計が16万2000人増と予想の5万3000人を大きく上回っても、東京の投資家はそちらを見なかった、という整理である。材料も、値幅も、本物だ。
だが、本当か。「日経平均が上がった」ことと「株が上がった」ことは、同じ意味なのか。証拠を見よう。
尋問1 上げた銘柄と下げた銘柄、どちらが多かったか
まず、日経平均を構成する225銘柄そのものを数える。9月7日の大引け時点で、値上がりは105銘柄、値下がりは120銘柄、変わらずは0銘柄だった。指数が2.12%上昇した日に、その指数を構成する銘柄の過半数は下落している。
市場全体に広げても同じだ。東証プライム市場の値上がりは633銘柄、値下がりは885銘柄。上げた銘柄は全体の4割程度にとどまる。業種別でも海運・ガラス土石・電気機器が上昇する一方、水産農林・医薬品・銀行は下落した。
通説側の再反論はこうだろう。指数は加重平均であって多数決ではない、と。それは正しい。だが、その反論は「株が上がった日」という言い方が成立しないことを、通説側自身が認めることになる。上げたのは指数であって、市場ではない。
尋問2 1,378円90銭を、誰が作ったのか
ここが核心である。日経平均は価格加重平均で、株価の高い銘柄ほど指数への影響が大きい。銘柄ごとの寄与度を並べると、この日の正体がはっきりする。
9月7日、日経平均+1,378.90円は誰が作ったか(寄与度・円)
読み方:上位5銘柄で1,327.98円、上昇分の96.3%を占める。残る220銘柄が全部合わせて生んだのは50.92円で、イビデン1銘柄の115.65円にも届かない。この日の日経平均は、225銘柄の平均ではなく、事実上4銘柄の値動きだった。
ソフトバンクグループが504円44銭、アドバンテストが335円49銭、東京エレクトロンが253円43銭、キオクシアホールディングスが118円97銭、イビデンが115円65銭。上位4銘柄の合計は1,212円33銭で、この日の上昇分1,378円90銭の87.9%にあたる。上位5銘柄では1,327円98銭、96.3%に達する。
裏返して言えば、残る220銘柄が全部合わせて生んだ寄与は50円92銭にすぎない。105銘柄の上げと120銘柄の下げを差し引いた正味が、これだけだ。イビデン1銘柄の115円65銭にも届かない。9月7日の日経平均は、225銘柄の平均ではなく、事実上4銘柄の値動きだった。
寄与度とは。ある銘柄の株価の変動が、指数を何円分動かしたかを示す数字である。日経平均は構成銘柄の調整後株価を合計し、除数で割って算出する。したがって株価の絶対水準が高い銘柄ほど、同じ変動率でも指数を大きく動かす。値がさ株の影響が大きい、と言われるのはこの仕組みによる。時価総額の大きさではなく、株価の高さが効く点が重要だ。
尋問3 TOPIXはなぜ0.55%しか上がらなかったのか
同じ日、同じ市場で、TOPIXは4,125.80ポイント、前日比22.57ポイント高の0.55%上昇にとどまった。日経平均の2.12%とは1.57ポイントの差がある。率にして、日経平均はTOPIXのおよそ4倍上げたことになる。
TOPIXは時価総額加重で、東証プライムの全銘柄を対象とする。値がさ4銘柄の影響は日経平均ほど大きくない。この構造の差が、そのまま1.57ポイントの差になった。
検算してみよう。日経平均の上昇分1,378円90銭から上位4銘柄の寄与1,212円33銭を差し引くと、残りは166円57銭。前日終値6万5,020円94銭に対して0.26%である。つまり上位4銘柄を除いた日経平均は、TOPIXの0.55%を下回る。値がさ株を取り除いた瞬間、日経平均はTOPIXに負けていた。この計算は本誌によるものだが、使った数字はいずれも公表値である。
日経平均をTOPIXで割ったNT倍率は、前日の15.85から16.09へ上昇した(本誌試算)。この倍率が上がるとき、市場では値がさの半導体関連が買われ、銀行や内需が置いていかれている。同じ二速の構図は2026年を通じて繰り返し現れてきた。
尋問4 上げは一日を通して続いたか
時間軸でも確認しておく。前場の終値は1,439円高の6万6,460円だった。大引けは1,378円90銭高の6万6,399円84銭。日中高値は6万6,668円71銭である。つまり後場は上げ幅を伸ばすどころか、前場終値から60円ほど削られ、高値からは269円ほど戻された。
プライム市場の売買代金は8兆377億円だった。金額そのものは薄くはない。だが上げ幅の大半が寄り付き前後で作られ、後場に伸びなかったという事実は、買いが一日中入り続けたわけではないことを示す。上昇分の98%が後場に作られた8月の日とは、形がちょうど逆である。
公平のために言えば、これは弱さの決定的な証拠ではない。高値引けしなかった日など珍しくもない。この尋問で言えるのは、通説が想定するほど買いが厚くはなかった、という程度である。
通説側の最も強い再反論
ここまで通説に不利な材料を並べたので、逆側も置いておく。通説が正しい部分は確かにある。
第1に、材料は実在する。マイクロンの増産計画は思惑ではなく発表された計画であり、キオクシア9.31%高、イビデン8.42%高、村田製作所5.97%高という反応は筋が通っている。第2に、集中それ自体は異常ではない。日経平均が価格加重である以上、値がさ株が動けば指数が動くのは設計どおりの挙動であって、歪みではない。第3に、指数連動の投資信託を持つ人にとって、2.12%の上昇は帳簿の上で実際に2.12%である。誰が作ったかにかかわらず、資産は増えている。
この3点は、いずれも有効な反論だ。ただし、いずれも「株が全体として上がった」ことの証明にはなっていない。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 日経平均は2.12%上昇した | 生存 | 終値6万6,399円84銭、前日比1,378円90銭高 |
| 上げの材料は実在した | 生存 | マイクロンの先端メモリー増産計画。半導体関連の反応が整合的 |
| 市場全体が上昇した | 死亡 | プライムは値上がり633対値下がり885。日経225銘柄でも105対120 |
| 幅広い買いが入った | 死亡 | 上位4銘柄で上昇分の87.9%、上位5銘柄で96.3%。残る220銘柄は正味50円92銭 |
| 日本株が総じて見直された | 死亡 | 上位4銘柄を除いた日経平均は0.26%高で、TOPIXの0.55%を下回る |
| 買いは一日続いた | 疑問 | 前場終値1,439円高から大引け1,378円高へ後退。高値からは269円戻す |
評決——通説3、反対7
評決を出す。「9月7日は株高だった」という通説に対し、本記事の判定は3対7で通説不利である。
通説に残した3割は、材料の実在と、指数上昇そのものの事実性に対してである。日経平均連動の商品を持っていた人の資産は、実際に2.12%増えた。これは否定できない。
だが7割は反対側に傾く。この日の上昇は、市場の再評価ではなく、4銘柄の値動きが価格加重という仕組みを通って指数に拡大投影されたものだった。プライムの6割近い銘柄は下げている。個人投資家が「指数は上がったのに自分の持ち株は下がった」と感じたなら、その体感のほうが市場の実態に近い。
この評決が持つ実務的な意味。NISAの成長投資枠やつみたて枠で日経平均連動型を選ぶことは、225銘柄への分散投資であると同時に、アドバンテスト・東京エレクトロン・ソフトバンクグループ・キオクシアといった値がさの半導体関連への集中投資でもある。9月7日はその性質が最も極端な形で現れた日だった。TOPIX連動型を選べば同じ集中は起きないが、代わりに上げ相場での伸びも鈍くなる。どちらが優れているかではなく、自分がどちらを買っているかを知っているかどうかが問われる。
再審条件——何が出れば評決を覆すか
この評決は暫定である。次の3つのうち2つが揃えば、本記事は判断を改める。
- プライムの値上がり銘柄が900を超える日が続く。9月7日は633だった。過半を回復すれば「市場全体が上がった」という主張は生き返る。
- NT倍率が16.09から低下に転じる。TOPIXが日経平均に追いつく形で上昇するなら、上げの中身が値がさ株から広がったことになる。
- 上位5銘柄の寄与シェアが5割を下回る日が現れる。96.3%という数字が常態でないことは、それ自体で示される必要がある。
逆に、上位数銘柄への集中が続いたまま指数だけが上がり続けるなら、評決はさらに反対側へ傾く。その場合に警戒すべきは上昇局面ではなく、下落局面のほうだ。4銘柄で87.9%を押し上げられる仕組みは、同じ4銘柄で同じだけ押し下げられる仕組みでもある。ソフトバンクグループが2営業日連続で二桁上昇した経緯は別稿にまとめたが、あの銘柄1つで500円動く指数は、あの銘柄1つで500円失う指数でもある。
次の検証機会は近い。9月8日午前8時50分に4〜6月期国内総生産の改定値、9日にアップルの新製品イベント、10日にオラクルの決算、11日に米消費者物価指数が並ぶ。指数を押し上げた4銘柄のうち3銘柄が半導体関連である以上、オラクル決算が示すAI関連投資の実勢は、この評決を最も早く揺らす材料になる。
主な参照
- 日経平均の寄与度ランキングと構成銘柄の騰落数(2026年9月7日大引け)/財経新聞(フィスコ)、株式ちゃんねる
- 東証プライムの値上がり・値下がり銘柄数、売買代金、前場終値/日本経済新聞 国内株式指標
- 日経平均・TOPIX・個別銘柄の終値および日中高値(2026年9月7日)/CNBC Markets
- 日経平均株価の算出方法と除数/日経平均プロフィル
- TOPIXの算出方法/日本取引所グループ
データ基準日:2026年9月7日の東京市場終値。寄与度および騰落数は各出典の公表値、NT倍率と上位4銘柄を除いた騰落率は本誌試算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄または投資信託の売買を推奨するものではない。記載の判定は執筆時点の分析であり、将来の相場を保証しない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














