月曜の東京は、寄りから投げが出た。金曜のジャクソンホールでウォーシュ議長がインフレを警戒し、9月の米利上げ確率が一気に5割を超えたのだから当然だ。日経平均は6万5668円で始まり、心理的節目の6万5000円をあっさり割って6万4832円まで沈んだ。だがそこから買い直され、引けは6万6311円。安値からの戻し幅は1479円、率にして2.28%である。しかも大引けがその日の高値だった。筆者が注目したのは下げ幅ではなく、この拾われ方のほうだ。
需給の解剖——売ったのは誰で、買ったのは誰か
売り物の正体ははっきりしている。米2年債利回りが金曜に0.128%ポイント上がって4.36%を付けた。金利上昇に弱いのは高PERの半導体と、円安頼みの外需株ではない。むしろ順序が逆で、まず先物に売りが出て、指数寄与度の高い値がさ株が機械的に叩かれた。日経平均が先に崩れたのはそのためだ。
ところがTOPIXは9.58ポイント高の4156.29で、これで8日続伸である。年初来高値の4220.31(8月14日)まで1.5%しかない。一方の日経平均は6月22日に付けた7万2831円から8.9%下にいる。指数間の体温差がここまで開いたのは久しぶりだ。
7月30日に「日経は上げてTOPIXは下げる二速相場」と書いた。あれから1カ月、二速相場は続いているが向きが逆になった。半導体ひとり勝ちが終わり、内需と割安株に資金が移っている。値がさ株の下げを広い銘柄群が吸収する形で、東証全体は崩れていない。買い手は投げを拾った短期筋だけではないとみている。
原油が3%高、こちらは筋書きどおりに決裂した
週明けでもう一つ動いたのが原油だ。WTIの10月限は3.27%高の86.13ドル、ブレントは90ドル台に乗せた。米軍がホルムズ海峡に機雷を敷設しようとしたイランのロケット発射装置を攻撃したと伝わった。1カ月ぶりの攻撃である。8月を通じて市場が織り込んでいた米イランの通航合意は、成立しなかった。
この展開は7月の手記で置いた筋書きの片方だ。あのとき筆者はWTI77ドルの地点で「署名なら70ドル試し、決裂なら84ドル」と書いた。決裂して86ドルである。読みが当たったと威張る話ではない。むしろ84ドルという上限の置き方が甘かったと受け止めている。覚書が失効してホルムズの通航が平時の1割まで細った状態は別稿で扱ったとおりで、供給の緩衝材は当時より薄い。
米東部時間の朝の段階で、S&P500先物は0.36%安、ナスダック100先物は0.31%安。VIXは6.65%上げて15.39。数字としてはまだ低い。ドル円は159.84円とわずかに円高、金は0.82%安の4492.60ドル。原油だけが独歩高という形は、地政学が主因のときの典型である。
水準の地図
日経平均・8月31日の値幅と、次に見る二本の線
寄り付きから6万5000円を割り込み、安値6万4832円で買いが入った。そこから1,479.83円戻し、大引けは日中高値の6万6311円。金曜終値6万6405円には93円届かなかった。この未達を埋められるかが戻りの本気度を測る。
見るべき線は三本しかない。下は月曜安値の6万4832円。ここは実際に買いが入った実績のある水準で、割れば拾った向きの投げが出る。上は金曜終値の6万6405円で、月曜はここに93円届かず引けた。この93円の未達を埋められるかが、戻りの本気度を測る最初の物差しになる。その上は7万2831円だが、これは遠い。
筆者の見立て
今週は上値を追わない。押し目は買うが、金曜の雇用統計は跨がない。強気でも弱気でもなく、日柄を待つという判断である。根拠は三つ。
根拠1。買い手の質は悪くないが、燃料が細い。月曜の1479円戻しは踏み上げを含む。売り方が薄くなった後の上昇は、次の材料がないと続かない。今週の材料はすべて木曜と金曜に固まっている。
根拠2。9月4日の雇用統計は、確率が五分に近い賭けになる。市場予想は非農業部門雇用者数が5.8万人増、失業率4.1%、平均時給が前年比3.1%増。前回は2.3万人の減少で、9月利上げ観測をいったん消した数字だった。強ければ利上げが確定に近づき、弱ければウォーシュ発言が空振りになる。どちらに転んでも値幅が出る。
根拠3。原油の上値がまだ決まっていない。合意が流れた以上、86ドルは通過点になりうる。原油高は日本株にとって輸入コストであり、内需株の追い風にはならない。TOPIX主導の上昇が続く前提が、ここで崩れる可能性がある。
逆になったら
撤退ライン:日経平均が終値で6万4832円を割ったら、月曜の買いは失敗だったと判断する。その場合、次に意識されるのは6万4000円台前半である。逆に6万6405円を終値で超え、かつTOPIXが4220を抜けるなら、この見立ては早すぎたことになる。そのときは追いかけずに、押し目を待って買い直す。原油はWTIが90ドルに乗ると、日本株にとって単なる地政学材料ではなくコスト材料に変わる。ここも同時に見る。
今週の監視リスト
指標と決算を時刻順に並べる。時刻は日本時間。米国の指標は21時30分と23時に集中する。
| 日付 | 時刻(日本時間) | 内容 | 見どころ |
|---|---|---|---|
| 8/31(月) | — | 中国NBS製造業PMI、日本の小売売上高、独インフレ速報、日銀年次レビュー | 英国は夏季銀行休日で休場 |
| 9/1(火) | 23:00 | 米ISM製造業景況指数(8月)、JOLTS求人(7月) | 雇用統計週の入口。求人数の減少が続くかどうか |
| 9/1(火) | 同日 | ユーロ圏CPI速報(8月)、米マサチューセッツ州予備選 | 11月中間選挙に向けた最初の予備選 |
| 9/2(水) | 21:15 | 米ADP雇用者数(8月) | 金曜の前哨戦。振れは大きい |
| 9/2(水) | 22:45 | カナダ中銀 政策金利(現行2.25%) | 6会合連続据え置き。据え置き予想が大勢 |
| 9/2(水) | — | NZ中銀 政策金利、豪州GDP(4-6月)、韓国CPI | G10の利下げ余地を測る |
| 9/3(木) | 21:30 | 米新規失業保険申請、米貿易収支(7月、予想−712億ドル)、単位労働コスト(4-6月確報) | 労働コストは1.8%予想。インフレの粘りを見る |
| 9/3(木) | 23:00 | 米ISM非製造業景況指数(8月、予想54.5) | 前月54.1。サービス業の減速有無 |
| 9/3(木) | — | 米チャレンジャー人員削減、FRBウォラー理事 発言 | ウォーシュ路線に理事が同調するか |
| 9/4(金) | 21:30 | 米雇用統計(8月) 予想:非農業部門+5.8万人、失業率4.1%、平均時給+3.1% | 今週最大の関門。9月FOMCの前に残る唯一の主要指標 |
| 9/4(金) | 21:30 | カナダ雇用統計、BOEベイリー総裁 発言 | — |
決算は3本、いずれも米国市場の引け後
| 発表 | 銘柄 | 市場予想 | 日本株への波及 |
|---|---|---|---|
| 9/1(火)引け後 日本時間9/2 朝5時ごろ | デル(DELL) パロアルトネットワークス(PANW) | デルは売上440〜450億ドル、調整後EPS4.80ドル±0.10が会社計画 | AIサーバーの需要と利益率。キオクシアなどメモリー関連の手掛かりになる |
| 9/2(水)引け後 日本時間9/3 朝5時ごろ | ブロードコム(AVGO) | EPS約3.24ドル、売上約294億ドル | 今週の本命。AI向け受注の中身次第でアドバンテストや東京エレクトロンに直結する |
| 9/3(木)引け後 | ルルレモン(LULU) | EPS約1.80ドル、前年比約42%減 | 米個人消費の体温計。小売株と円安の話に効く |
順番が大事だ。火曜のデルでAIサーバーの利益率を確認し、水曜のブロードコムでAI半導体の受注を確認する。この二つが揃って強ければ、日経平均の値がさ株に買い戻しが入る余地がある。逆に片方でも崩れれば、TOPIX優位の構図がそのまま続く。
地政学と政治日程
ホルムズ海峡が最優先だ。機雷敷設の動きと、それに対する攻撃が繰り返される段階に入った。合意期待が剥落した以上、原油は下がる理由を失っている。ブレントは過去1カ月で8.26%上げ、前年比では33.14%高い。
米国では9月1日にマサチューセッツ州の予備選がある。11月の中間選挙に向けた日程の入口で、下院全議席と上院の3分の1が改選される。議会の審議時間が選挙に食われる構図は、9月15日の暗号資産法案の採決にも影を落としている。国内では9月に内閣改造、10月に臨時国会が見込まれる。
そして来週の話になるが、9月7日は米レーバーデーで休場、9月15日から16日がFOMCで経済見通しの公表を伴う。その翌日から日銀の金融政策決定会合が続く。介入後の9月に中銀会合が二つ待つ構図は7月の時点で書いたが、そこに米利上げの現実味が加わった。
明日の一行
相場は明日、6万6405円という93円の宿題から始まる。埋めれば月曜の買いは本物、埋められずに6万4832円を試しに行くなら、今週は待つ週になる。筆者は後者に少し傾いている。金曜21時30分までに大きな玉を持つ理由が、今のところ見当たらない。
データ基準日:日本株は2026年8月31日の東京市場終値。米先物・為替・商品は同日の米東部時間午前8時50分前後。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。株価・為替・商品価格は常に変動し、記載の水準は執筆時点のものである。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
主な参照
- 株価・先物・為替・商品(2026年8月31日)/CNBC
- 週間の経済指標日程/Newsquawk
- カナダ中銀の政策金利発表日程/カナダ銀行
- ホルムズ海峡情勢と原油価格/Trading Economics、Bloomberg
- FOMC日程/米連邦準備制度理事会












