9月26日土曜の朝、ワシントン。テネシー州へ向かうためにホワイトハウスを出たトランプ大統領は、待ち構えていた記者団に短く言った。「彼らの取引は拒否する」。イランは大きく負けているのだ、と続け、こう付け加えた。「昨夜は29隻が出てきた」。米軍の護衛でホルムズ海峡を出た船の数だという。大統領の主張で、独自には確認されていない。東京は土曜の夜だった。
拒否されたのは、24日から25日にかけてイランのアラグチ外相がニューヨークで示した提案だ。米国が条件をのめば、7日でホルムズ海峡を開ける。原油は金曜、停戦への期待などから下げていた。提案から拒否まで、およそ2日。国連総会の合間に始まった4日間を追う。
国連の廊下で示された「7日間」
9月24日木曜、国連総会の合間に開かれた非公開の会合で、アラグチ外相は計画の概要を説明した(AP通信)。翌25日、安全保障理事会の議場の外で記者団に囲まれた外相は、段取りを具体的に語った。「米国がこの計画を受け入れた時点で、7日間の期限が始まる」「7日目に、合意した議題について最終合意に向けた米国との協議を始める」。
AP通信が伝えた外相の説明によると、最初の措置に4〜5日かかり、6日目に海峡が開き、7日目に協議が始まる。イランが求めた条件は、米海軍による封鎖の解除、イラン産原油の販売に対する制裁の適用除外、凍結資産の解除、そしてレバノンを含むすべての前線での停戦だった。アラグチ氏は、これらは「イスラマバードの覚書にすでに書かれていたことにすぎない」と強調した(CNBC)。
ホワイトハウスは同じ日、仲介者との協議を「前向きで建設的」と表現した(アルジャジーラ)。仲介の窓口はカタールで、イランのペゼシュキアン大統領によるとパキスタンも関わっている。
巻き戻し:2月28日から覚書の崩壊まで
7日間という数字の重みを知るには、時間を7カ月巻き戻す必要がある。2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を始め、イランはホルムズ海峡を閉ざした。4月13日には米国がイランの港を封鎖し、4月30日には北海ブレント原油が取引時間中に1バレル126.41ドルまで上昇した(ロイター、ユーロニュース)。
6月17日、パキスタンの仲介で米国とイランは覚書に署名する。交渉期間は60日、封鎖は30日以内に完全に解除し、60日間は海峡の通航を無料とする内容だった(CBSニュースが報じた覚書の全文)。だが覚書は7月上旬、船舶への攻撃(米側はイランによるものとしている)と米国の報復を経て崩れ、米国は7月中旬に封鎖を再開した。アラグチ外相の7日間の提案は、この崩れた覚書をもう一度机に載せる試みだった。
海峡の現状は厳しい。ロイターの船舶追跡の速報値では、9月24日に海峡を通過した船は9隻で、前日の14隻から減り、直近10日間の平均は18隻だった。開戦前は1日100隻を超えていたとされる。調査会社ケプラーによると、9月20日までの1週間に海峡を通った石油の量は日量698万バレルで、開戦前の1,830万バレルの約38%にとどまる(CNBC)。
ホルムズ海峡をめぐる7カ月と、提案から日曜までの4日間
出所:AP通信、CNBC、ロイター、ウォール・ストリート・ジャーナル(CNBC経由)、CBSニュース、NBC、アクシオス。日付は米東部時間。原油価格は各日の終値。
二人の男:アラグチとトランプ
アラグチ外相の論理は明快だった。米国がすでに一度署名した内容を実行するだけでよい。新しい譲歩は求めていない。だから拒む理由はないはずだ、というものである。
トランプ大統領の論理は、時間の読み方が違った。9月22日の国連演説で、大統領は「イランと取引をするのか。それともイスラム共和国を、それも素早く消し去るのか」と問いかけ、イランは「私が中間選挙でどうなるかを見ている」と語った(CNBC)。封鎖は効いている、船は出てきている、急ぐ理由はない。土曜の「29隻」という言葉は、その自信の表れだった。米政府高官も「急いでいない」と記者団に語っている(NBC)。
その前夜、金曜夜には、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが、トランプ大統領は非公式に提案を退けており、11月3日の中間選挙の後に空爆を再開する考えだと報じていた(CNBC)。当局者は、大統領の考えは変わりうるとも付け加えている。土曜の発言は、このうち拒否の部分を公の場で追認した形になった。
日曜に交わされた言葉
27日日曜、アラグチ外相は米NBCの番組「ミート・ザ・プレス」に出演した。「戦争が再開されても、備えは万全だ」。そして、こう続けた。「選ぶのはトランプ大統領だ」(NBCボストン)。同じ日、トランプ大統領は米ニュースサイトのアクシオスに「彼らは取引をしたがっている。だが、それは私がしたい取引ではない」と語り、「強気に出すぎた」と評した。攻撃の再開について問われると、「いつも考えている」と答えている(アクシオス)。
海の上でも緊張は続いた。イラン革命防衛隊は同じ日、ホルムズ海峡で米国の無人潜水機「REMUS 600」を捕獲したと発表した(CBSニュース)。前日の26日には、ベッセント財務長官が「エコノミック・アウトキャスト(経済的な追放)」と名付けた対イランの新たな経済作戦を発表し、イスラエル軍はレバノンでヒズボラの武器庫を攻撃している。提案の条件の一つだったレバノンでの停戦とは、逆の方向の出来事だった。
数字が動いた金曜と、動く前に閉じた東京
提案が伝わった25日金曜、原油は下げた。ブレントは2.28ドル安の104.32ドル(2.1%安)、米国産のWTIは2.20ドル安の92.41ドル(2.3%安)で取引を終えた(ロイター)。前日の24日には、イエメンの武装組織フーシ派がサウジアラビアに向けてミサイルを発射し、ブレントは3.4%高の106.60ドルまで上げていた。週間ではWTIが7.9%下げた一方、ブレントはほぼ横ばいだった(CNBC)。
25日の東京市場が開いている間に、アラグチ外相の発言の一部はすでに伝わっていた。東京ではINPEXが0.60%高の3,857円、ENEOSが0.98%高、日本郵船が1.52%高で引けている(CNBC)。だが、ニューヨーク時間の原油の下げ、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道、トランプ大統領の拒否は、東京の現物株にはまだ映っていない。シカゴの日経平均先物は6万6,495円と、現物の終値6万6,364円を上回って週末を迎えた。東京の現物株にとっては、週明け28日が金曜の「期待」と週末の「拒否」を初めて同時に織り込む日となる。
日本にとって、この海峡は遠い話ではない。経済産業省によると、2025年に日本が輸入した原油の94.0%は中東産で、93.0%がホルムズ海峡を通っていた。開戦後は調達先の切り替えが進み、7月の中東依存度は58.9%まで下がって、米国が最大の調達先になった。石油の備蓄は9月22日時点で198日分(国家102日分、民間92日分、産油国との共同4日分)ある。3月中旬に146日分あった国家備蓄は、放出によって減っている。ガソリン価格を1リットル170円程度に抑えるための補助金は、9月17日から51.0円と制度開始以来の最高額に達した(資源エネルギー庁)。
エピローグ:残された問いと、次の日付
提案は退けられたが、扉が閉じたわけではない。トランプ大統領はアクシオスに、今週中の協議を見込んでいると語った。アクシオスによると、カタールの仲介者は早ければ28日月曜にも、アラグチ外相とウィトコフ特使にそれぞれ会う。アラグチ氏は、拒否の回答は仲介者を通じてまだ正式に届いていないとしている(NBC)。同氏は30日水曜までニューヨークに滞在するとみられる(タイムズ・オブ・イスラエル)。日本時間30日13時30分には、経済産業省が8月の石油統計速報を公表し、日本の中東依存度の最新の数字が出る。
市場の予想も、この週末で前提が揺らいだ。シティは9月3日、第4四半期に海峡が再開する前提で、ブレントの第4四半期の平均を70ドルと見込んでいた。米エネルギー情報局(EIA)は9月9日、2026年後半のブレントを約90ドルと予想している。どちらも、海峡の通航が徐々に戻ることを前提にした数字だ。
残された問いは一つである。トランプ大統領は中間選挙を待つのか、それとも封鎖の効き目を見て先に動くのか。アラグチ外相は「選ぶのはトランプ大統領だ」と言った。11月3日までの5週間、ホルムズ海峡を抜けるタンカーの数が、その答えを少しずつ示していくことになる。原油高が日本のガソリン価格に届くまでの時間差はこの記事で、6月の覚書が失効したときの海峡の状況はこちらで詳しく扱った。
主な参照
- アラグチ外相の7日間の提案(9月24〜25日)/AP通信(PBS)、CNBC、アルジャジーラ
- トランプ大統領の拒否(9月26日)/CBSニュース、NBCニュース、アルジャジーラ
- ウォール・ストリート・ジャーナルの報道(9月25日)/CNBC、ロイター(スポークスマン・レビュー)
- 日曜の発言(9月27日)/NBCボストン、アクシオス
- トランプ大統領の国連演説とケプラーの通航データ/CNBC
- 9月24日の原油と通航隻数/CNBC、ミドル・イースト・アイ(ロイター)
- 9月25日の原油終値/ロイター(Yahoo Finance)、週間の値動き/CNBC
- 4月30日のブレントの高値/ユーロニュース
- 6月の覚書の全文/CBSニュース
- 日本の原油の中東依存度・ホルムズ経由比率(2025年)/内閣官房(経済産業省資料)
- 石油統計速報(7月の中東依存度)/経済産業省
- 石油備蓄の現況(9月22日時点)/資源エネルギー庁
- 燃料油価格の激変緩和(補助額)/資源エネルギー庁
- シティの原油見通し(9月3日)/ロイター(BOE Report)、EIAの短期見通し/米エネルギー情報局
- アラグチ外相の滞在予定/タイムズ・オブ・イスラエル
- 東京市場の終値(9月25日)/CNBC
データ基準日:2026年9月27日(米東部時間)。原油価格は9月25日の終値で、週明け28日の取引は反映していない。通航隻数はロイターの船舶追跡による速報値で、船舶自動識別装置(AIS)を切って航行する船は含まれない。「4〜5日で措置、6日目に開放」はAP通信が間接話法で伝えたアラグチ外相の説明で、直接の引用ではない。「29隻」はトランプ大統領の発言で、独自には確認されていない。日本の中東依存度のうち2025年の94.0%は財務省の貿易統計にもとづく経済産業省の資料、2026年7月の58.9%は石油統計速報の値で、統計も集計期間も異なる。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















