2026年7月31日、金曜の米プレ市場。端末に並ぶアップル(AAPL)の気配は、東部時間8時前後で8%近い下げを示していた。前夜に出てきたのは、6月期として過去最高の決算である。売上高1,094億ドル、前年同期比16%増。希薄化後EPSは2.02ドルで29%増、純利益は298億ドル。数字だけ眺めれば文句のつけようがない。それでも板は、静かに、しかし執拗に売り気配を切り下げていった。
30年この商売をやってきたが、「良い決算が売られる」テープには何度立ち会っても嫌な汗が出る。今夜は寝る前に、このテープをどう読んだか、手記として残しておく。
本稿は7月31日(金)米プレ市場時点で書いた手記である。週末を挟んだため、金曜の実際の結果と週明けの状況を末尾の【追記】にまとめた。手記本文は当時のまま残す。
テープの記録——満点の決算、売り一色の板
まず事実関係を並べておく。木曜(7月30日)引け後の発表で、売上高1,094億ドルは市場予想の約1,089億ドルを上回った。EPS2.02ドルはコンセンサスの1.89ドルを大きく超え、強気で知られたゴールドマンの想定(売上1,101億ドル・EPS1.93ドル)と比べてもEPSは上だ。ヘッドラインは満点に近い。
ところが翌朝のプレ市場で気配は8%近く沈んだ。思い返せば、木曜の通常取引にすでに兆候はあった。市場全体が上げる中で、アップルだけが1.4%安で引けていたのだ。誰かが決算の前に静かに降りていた——そう読むのが自然だろう。
「知ったらしまい」とは、よく言ったものだ。ただし今回のテープは、格言一本で片付けるには中身がありすぎる。売る理由は、決算の但し書きの中にきちんと埋まっている。ヘッドラインを買い、但し書きを読んで投げる。この順番が、木曜夜から金曜朝にかけての板の動きそのものだった。
需給の解剖——誰が投げているのか
亀裂は二本——サービスと中華圏
強気筋がモデルの柱に置く成長エンジンは二本ある。サービスと中国だ。その二本が今回、同時にミスした。サービス売上は307.4億ドルで予想の312.2億ドルに届かず、中華圏売上は188億ドルで予想の196億ドルを下回った。一本のミスなら言い訳が立つ。二本同時となると、市場はこれを前提の崩れとして扱う。
粗利率50.1%の但し書き
もう一つ見逃せないのが利益の質だ。粗利率50.1%は一見大幅なビートに映る。だがこの数字には、関税還付でおよそ2ポイントの下駄が入っている。アナリスト側の前提は47.9%だったから、還付分を除いた「素の実力」は同じ土俵で比べられない。しかも決算説明会では部材の供給制約に言及があり、メモリーをはじめとする部品コストは業界全体で上昇中。サムスン電子は逼迫が2028年まで続くとの見方まで示している。
木曜のテープではマイクロン(MU)が18.4%高、サンディスク(SNDK)が26%高と、メモリー株が踏み上げ気味の急騰を演じた。だが部材を「買う側」のアップルから見れば、あの祭りはそのままコスト逆風の裏返しである。この構図はメモリー・スーパーサイクルの稿で書いた通りだ。
混み合った席ほど、出口は狭い
そして需給。アップルはこのサイクルで時価総額4.5兆ドルに乗せ、AI相場の中で「質への逃避先」として買われ続けてきた銘柄だ(経緯は時価総額バトルの稿に詳しい)。S&P500に占めるウエートは約6.3%(2026年3月時点)。つまり市場で最も混み合った買い持ちの一つだった。混み合った席で前提が崩れると、投げが投げを呼ぶ。出口の狭さが値幅を作るのだ。背景で報道されるCEO交代観測がくすぶっていることも、不確実性の上塗りにはなっているだろう。
今週の採点基準は一貫していた。マイクロソフト(MSFT)は投資規律が評価されて9%高。メタ(META)はコスト膨張が嫌気されて11%安。アマゾン(AMZN)はAWSが37%増収で、設備投資を2,200億ドルへ引き上げてなおプレで11〜12%高だ(今週の決算戦の稿参照)。市場のルールは一本しかない。「刈り取りの証拠には払う。不確実性には罰を与える」。事前プレビューの稿で警戒した通り、アップルは今回、罰される側の列に並ばされた。
水準の地図——値幅と日柄をどう測るか
では水準の話をする。プレの気配通りに寄れば下げ幅は7〜8%。指数ウエート約6.3%の銘柄が8%下がれば、それだけでS&P500をおよそ0.5%押し下げる計算になる。指数側から見ても無視できない値幅だ。
個別の水準として筆者が見るのは三つ。第一に、寄り付きでプレの下げ幅がどこまで残るか。第二に、初日の値幅に対する半値戻しをこなせるか——戻りが半値に届かず失速するようなら、戻り売りが効いている証拠だ。第三に、決算ギャップの上端、つまり決算前の終値水準。ここが当面の戻りの壁であり、同時に筆者の損切り線でもある(後述する)。初日は値幅、二日目からは日柄。窓を空けた急落の常として、時間の消化が要る。急落初日に慌てて拾った押し目が一番高くつくことは、この30年で何度も味わった。
図:今週の採点表——決算への翌日反応(実績)
読み方:右の緑が報われた側(規律のMSFT、収穫のAMZN)、左の赤が罰された側(費用のMETA、未達のAAPL)。アップルの-7.4%は指数全体を約0.5%押し下げる規模だった。
筆者の見立て——当面は戻り売りに分がある
腹を決めよう。筆者の見立ては弱気。当面は戻り売りに分があるとみている。押し目買いを急ぐ局面ではない。根拠は三つだ。
- 物語の骨折。強気モデルの柱であるサービスと中華圏が同時にミスした。二本柱の修復は一度の発表で済む話ではなく、四半期単位の日柄を要する。その間、上値には「次の数字を確認したい」売りが降ってくる。
- 利益の質の劣化。粗利率50.1%は関税還付の下駄(約2ポイント)込みで、素の力は前提の47.9%を大きく出ていない可能性が高い。そこに下期はメモリー高のコスト逆風が乗る。アナリストのモデル改定は下方向に出やすく、上方修正の燃料が乏しい。
- 需給の重さ。4.5兆ドルまで買い上がった「質」の買い持ちは、市場で一番混み合った席だった。指数ウエートが大きい分パッシブの買いは途切れないが、アクティブの投げが続く間は戻りが重く、戻り売りが機能しやすい。混雑の解消は一日では終わらないのが相場の常だ。
正直、事業が壊れたとは思っていない。売られているのは「完璧」という前提であって、キャッシュを刷る機械そのものではない。だからこそ、値幅と日柄が十分に出た後の押し目は拾いたい。ただ、それは今夜ではない。
逆になったら——損切りの線は先に引く
見立てを書いたら、損切りの線も先に引いておくのが筆者の流儀だ。逆に行ってから言い訳を考える暇があるなら、撤退条件を決めておいたほうがいい。
第一の線。決算ギャップの上端、すなわち決算前の終値水準を終値で奪回されたら、戻り売り方針はその場で損切りする。窓を埋める買いは、投げの一巡と新規買いへの転換を意味するからだ。値幅で言えば、安値から下落率とほぼ同じだけの戻り——ギャップの全埋め——がその合図になる。踏み上げの燃料は、筆者のような戻り売り屋の売り玉である。自戒を込めて書いておく。
第二の線。下げ二日目・三日目に出来高が細って下げ渋るなら、投げは初日で出尽くした可能性を疑う。その形になれば日柄は浅く済み、弱気の賞味期限は短い。
第三の線。会社側がサービスと中華圏について具体的な巻き返し材料を示した場合。数字の物語が修復されるなら、需給の議論は後回しでいい。見立ては材料に従って畳む。それだけの話だ。
監視リスト——今夜からの見どころ
最後に、今夜からの監視リストを表にしておく。時刻はすべて日本時間(JST)だ。
| 何を | しきい値・見どころ | いつ(JST) |
|---|---|---|
| 寄り付きのギャップ幅 | プレの8%近い下げ気配が寄りでどこまで縮むか。5%台まで縮めば投げ一巡の芽 | 7/31(金)22:30 |
| 寄り後1時間の出来高 | 大商いを伴う下ヒゲなら売りの出尽くしを疑う。薄商いのずるずる安なら日柄調整コース | 22:30〜23:30 |
| 初日の引け位置 | 安値圏の引けなら調整長期化。初日値幅の半値以上を戻して引ければ売り急がない | 8/1(土)5:00 |
| 決算前終値(ギャップ上端)の攻防 | 終値での奪回=筆者の損切りライン。戻りの壁として機能するかを確認 | 以降、毎営業日の引け |
| メモリー株(MU・SNDK)の続伸 | 続伸が続く限り、アップルの部材コスト逆風は現在進行形 | 22:30以降 |
| S&P500への波及 | ウエート約6.3%×8%安=指数およそ0.5%相当。他のメガテックが吸収できるか | 8/1(土)5:00の引けにかけて |
【追記・8月3日(月)】金曜の結果:アップルは寄り付き後も戻せず、7.4%安の308.92ドルで引けた。ギャップは埋まらず、筆者の損切りライン(決算前終値の奪回)は遠いままで、弱気の見立ては維持となる。指数は吸収した——アマゾンが15%高まで伸び、S&P500は+0.7%で引けた。7月の米雇用統計は非農業部門+18.7万人(予想20万人)、失業率は3.5%へ低下。メモリー株は金曜に反落(MU -5.9%)したが、週明け月曜は再び買われている。月曜のアップルは305ドル台と軟調が続く。
【主な参照】MacRumors・Quartz・Yahoo Finance・CNBC。データ基準日:本文は2026年7月31日(米プレマーケット時点)、追記は8月3日。
本稿は情報提供を目的とした市況コメントであり、特定銘柄の売買を推奨するものではない。相場観は筆者個人のものだ。株価・気配値等は2026年7月31日(追記は8月3日)時点のデータに基づいており、閲覧時点では変動している可能性がある。投資判断は自己責任でお願いしたい。
















