10月27日火曜の朝8時8分(米東部時間)、アリゾナ州フェニックス。銅の世界最大級の生産者フリーポート・マクモランが、7〜9月期の決算資料を米証券取引委員会に提出した。数字は二つの顔を持っていた。1ポンドあたりの銅の実現価格は6.54ドルと、1年前の4.68ドルから約4割上がった。その一方で、売った銅の量は7億4,900万ポンドと、1年前の9億7,700万ポンドから23%減った。値段は上がったのに、運び出せる銅が足りない。この食い違いこそが、いまの銅相場の姿である。
同じ頃、ニューヨークの先物市場では12月限の銅が1ポンド6.610ドル(米東部時間27日10時4分時点、取引時間中)と、前日の清算値6.508ドルから1.0%高で取引されていた。そして半日前の東京では、非鉄金属株が東証33業種で値上がり率の首位に立っていた。舞台は三つの都市にまたがる。物語の中心にいるのは、インドネシアのパプア州の山中にある一つの鉱山だ。
グラスバーグとフリーポート:事故から決算までの13カ月
出所:フリーポート・マクモランの決算資料(米証券取引委員会への提出書類、2026年10月27日)、株探。時刻は記載のないものを除き日付のみ。
山の中の鉱山は、まだ3分の2しか動いていない
その鉱山の名はグラスバーグ。フリーポートのインドネシア子会社PTFIが運営する、世界有数の銅・金鉱山である。決算資料によると、7〜9月期の主力区画(ブロックケーブ)の処理量は日量14万1,000トンで、能力の67%にとどまった。会社は、能力の80%に戻るのは2027年半ば、ほぼフル稼働に近づくのは2027年末とみている。
時計の針を1年あまり戻す。2025年9月、グラスバーグの地下で泥流事故(マッドラッシュ)が起きた。坑内に大量の泥が流れ込み、生産は止まった。今回の決算でも、操業停止中の設備の費用と復旧費用として1億100万ドル(1株あたり0.07ドル)が特別項目に計上されている。事故から13カ月がたっても、その請求書はまだ届き続けているわけだ。
製錬所のほうは、一足先に戻った。PTFIの製錬所は2026年8月下旬に再稼働している。ただ、鉱石を掘る量そのものが戻らなければ、製錬所に回る原料も足りない。7〜9月期の銅の生産量は8億3,200万ポンドで、1年前の9億1,200万ポンドから約9%減った。販売量の落ち込み(23%減)が生産量より大きいのは、出荷のタイミングがずれたためである。
フリーポートの7〜9月期:前年同期比の変化(%)
読み方:量は減り、コストは上がった。それでも価格の上昇が大きく、純利益は74%増えた。出所:フリーポート・マクモランの決算資料(2026年10月27日)、変化率は本誌計算。
量が減っても、利益は74%増えた
決算の帳尻だけを見れば、フリーポートは好調だ。売上高は75億4,600万ドルで前年同期比8%増。普通株主に帰属する純利益は11億7,400万ドル(1株0.81ドル)で、前年同期の6億7,400万ドルから74%増えた。特別項目を除く調整後の1株利益は0.88ドルで、前年同期の0.50ドルを大きく上回る。営業キャッシュフローは19億8,100万ドルだった。
利益を押し上げたのは、ほぼ価格の力である。生産コストはむしろ悪化した。副産物の金などの売上を差し引いた1ポンドあたりの正味現金コストは2.07ドルで、前年同期の1.40ドルから約48%上がっている。量が減ると、鉱山の固定費を割る分母が小さくなる。そのため1ポンドあたりのコストは上がる。価格の上昇が、その悪化をのみ込んだ構図だ。
この日のフリーポート株は、決算でも買われなかった。米東部時間27日10時14分時点で64.40ドルと、前日終値65.16ドルから約1.2%安い。本稿の執筆時点で、市場予想と比べて上振れか下振れかを判定できる一次情報は確認できていない。言えるのは、株価が「量の戻り」の遅さを気にしている、ということまでだ。
会社の前提は6.50ドル、相場はその少し上
フリーポートは2026年の通期見通しも示した。銅の販売量は約30億ポンドで、そのうち10〜12月期が8億7,500万ポンド。7〜9月期の7億4,900万ポンドから17%ほど増える計算になる。通期の正味現金コストは1ポンド1.90ドル、10〜12月期だけなら1.68ドルまで下がる見込みだ。通期の営業キャッシュフローは約85億ドルとした。
その前提になっている10〜12月期の価格は、銅が1ポンド6.50ドル、金が1オンス4,000ドル、モリブデンが1ポンド32ドルである。会社によれば、10〜12月期の銅の平均価格が0.10ドル動くごとに、2026年の営業キャッシュフローは約7,500万ドル変わる。27日朝のニューヨーク先物6.610ドルは前提を0.11ドルほど上回っている。この水準が四半期を通して続けば、ざっと8,000万ドル強の上振れ要因になる計算だ(本誌試算)。
参考までに、同社の資料では7〜9月期の平均価格はロンドン金属取引所(LME)で1ポンド6.40ドル、ニューヨーク(COMEX)で6.48ドルだった。直近のLMEの清算値は10月26日の6.58ドルである。先物の連続足で見た過去52週の高値は9月22日の6.83ドルで、27日朝の水準はそこから約3%下にある。なお、これは連続足の52週高値であり、史上最高値ではない。史上最高値については報じられている数字が媒体ごとに食い違うため、本稿では採らない。
同じ頃、東京では非鉄株が首位に立っていた
フリーポートの資料が出る半日前、27日の東京市場は大きく上げていた。日経平均の終値は6万3,268円37銭で、前日比1,078円72銭高(1.73%高)。その中で非鉄金属の業種別指数は2.64%高と、東証33業種の首位だった。
10月27日の東京:非鉄・電線株の上昇率(終値)
読み方:非鉄金属は33業種の首位だったが、日経平均との差は0.9ポイント。全体の上げに乗った分を差し引いて見る必要がある。出所:株探(2026年10月27日の終値)。
個別に見ると、銅鉱山の権益を持つ住友金属鉱山(5713)が3.19%高の8,335円、JX金属(5016)が2.78%高の2,905円、三菱マテリアル(5711)が2.02%高の4,352円だった。電線のフジクラ(5803)も2.87%高い。一方で古河電気工業(5801)は0.39%高にとどまり、三井金属(5706)は1.23%高だった。
ただ、冷静に見ておく必要がある。この日は相場全体が上げた日だった。非鉄金属の上昇率2.64%は、日経平均の1.73%を0.9ポイント上回ったにすぎない。銅という材料だけで買われたのか、全体の上げに乗っただけなのか。その境目は、この1日の値動きからは切り分けられない。
倉庫の中では、別の物語が進んでいる
山の上では銅が足りない。だが、倉庫の中では様子が違う。中国の調査会社SMM(上海有色網)は10月23日朝の市況で、LMEの銅在庫が10月22日まで4日連続で増え、米国の倉庫の在庫は12年ぶりの高さにあると伝えた。その22日、LMEの銅は1トン1万4,098ドルと1.90%下げている。
一方、中国国内の在庫は減っている。SMMによると、10月26日時点の中国主要地域の銅在庫は8万トン余りで、前の週の月曜日から約2万トン減り、1年前の18万トン超を10万トン以上下回った。26日のLMEの夜間取引は1トン1万4,338ドル(0.28%高)、上海先物取引所の12月限は10万8,570元(0.43%高)で引けている。
つまり、鉱山の供給不足を語る強気派と、西側の倉庫に積み上がる在庫を指さす慎重派の綱引きが続いている。鉱山会社のトップであるキャスリーン・クワークCEOは決算資料で、同社は「成長する市場を支える」立場にあると述べるにとどめた。相場の見通しそのものには踏み込んでいない。この綱引きの構図は10月19日の記事でも扱った。そこから1週間で、山の側の材料が一つ増えたことになる。
エピローグ——次に数字が出る日
物語の続きは、いくつかの日付で書かれる。まずは10月28日(日本時間29日未明)の米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。金利の見通しはドルを動かし、ドル建ての銅の値段にも跳ね返る。論点はこちらの記事で整理した。同じ夜のうちに、フリーポートの前提に入っている金の値段も試される。金相場の水準はこの記事にまとめてある。
その先は、10〜12月期にフリーポートが本当に8億7,500万ポンドを売れるかどうかだ。グラスバーグの処理量が67%から上向いているかは、次の四半期の資料まで分からない。東京では、住友金属鉱山が11月10日に決算を発表する予定である。山の上の回復と倉庫の中の在庫、そのどちらが先に相場を動かすのか。答えはまだ出ていない。
主な参照
- フリーポート・マクモランの2026年7〜9月期決算(生産・販売量、実現価格、コスト、通期見通し、グラスバーグの稼働率、LME・COMEXの平均価格)/米証券取引委員会(8-K、別紙99.1)
- 銅先物(COMEX、12月限)とフリーポート株の取引時間中の値/Yahoo Finance
- LMEと上海の銅相場、LME在庫、中国の銅在庫/SMM(10月27日)、SMM(10月23日)
- 東証33業種別指数/株探、各銘柄の終値/株探(住友金属鉱山ほか)
データ基準日:2026年10月27日。東京市場の株価と業種別指数は27日の終値。銅先物(COMEX)とフリーポート株は米東部時間27日朝の取引時間中の値で、終値ではない。LMEと上海の銅相場は26日の夜間取引の終値。フリーポートの業績は同社が27日に米証券取引委員会へ提出した資料による。営業キャッシュフローへの影響額は、同社が示した感応度(0.10ドルあたり約7,500万ドル)から本誌が試算したもので、会社の予想ではない。LMEと米国の在庫、中国の在庫はSMMの報道にもとづく。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














