年末年始にパリやミラノへ行く人が、いま1,000ユーロを円に換えるといくらになるか。欧州中央銀行(ECB)の参照レートで計算すると、10月27日は17万5,970円だった。半年前の4月17日なら18万7,720円。同じ1,000ユーロが、1万1,750円安くなっている。私たちの財布から見れば、ユーロ安はすでに「旅行代が6%安くなった」という形で届いている。
その裏で、ユーロドルは28日の東京時間に1.1120ドルまで下げた。日本時間15時48分時点でも1.1121ドルと、戻りは鈍い。前日の27日の記事で第一の下値メドに置いた1.1113ドル(10月14日の安値)まで、残りは7ピップスである。きょう新しいのは、その水準をECB理事会の前夜に、しかもFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表の半日前に試しているという点だ。筆者の結論を先に書く。今後1〜4週間の本線は1.110〜1.125ドルのもみ合い(確率45%)、下抜けは30%、1.125ドル超への反発は25%とみる。
ユーロドルの水準の地図(2026年10月28日)
読み方:現在値の7ピップス下に10月14日の安値1.1113ドルがあり、その下のINGの重要な下値1.110ドルまでを支持帯(赤い帯)とした。上は1.1188ドルのNY終値上抜けが撤退線。現在値はYahoo!ファイナンスの取引時間中の気配値、その他はECB参照レート、ING、本誌概算。
1,000ユーロの値札はなぜ下がったのか——犯人はユーロの側
ユーロ円の値段は、ユーロドルとドル円の掛け算で決まる。1.1121ドル×157.90円で、およそ175.6円。だから旅行代が安くなった理由は、ユーロがドルに対して下がったのか、円がドルに対して上がったのか、どちらかに分けられる。
ECBの参照レートで4月17日と10月27日を比べると、答えははっきりしている。ユーロ円は187.72円から175.97円へ6.3%下げた。同じ期間にユーロドルは1.1797ドルから1.1150ドルへ5.5%下げ、参照レートから逆算したドル円は159.13円から157.82円へ0.8%しか動いていない。下げのおよそ9割はユーロの側で起きている。円が強くなったのではなく、ユーロが弱くなったのである。
ユーロ円の下げを分解する(4月17日→10月27日、ECB参照レート)
読み方:ユーロ円の6.3%安のうち、ユーロドルの下げが5.5%分を占め、ドル円はほとんど動いていない。円高ではなくユーロ安である。出所:ECB参照レート(Frankfurter経由)、ドル円はユーロ円÷ユーロドルで本誌計算。
この点はユーロ円の1年ぶり安値を扱った26日の記事とも一致する。ユーロ円の参照レートは10月23日の175.51円が過去1年の最安で、ユーロドルの参照レートも27日の1.1150ドルが2025年5月13日(1.1112ドル)以来、約1年5カ月ぶりの低さだった。つまり、ユーロ建ての買い物を考えている家計にとって、ユーロ円より先に見るべきなのはユーロドルの行方である。
家計の換算表——旅行代と輸入品の値段はいくら変わったか
数字を家計の単位に直しておく。いずれもECB参照レート(28日分は東京時間の気配値)での単純換算で、実際に両替やカード決済で使われるレートには手数料が上乗せされる点に注意してほしい。
| 日付 | ユーロ円 | 1,000ユーロの円換算 | 10万円で買えるユーロ | 4月17日との差 |
|---|---|---|---|---|
| 4月17日(過去1年の高値) | 187.72円 | 18万7,720円 | 533ユーロ | — |
| 10月23日(過去1年の安値) | 175.51円 | 17万5,510円 | 570ユーロ | −1万2,210円 |
| 10月27日 | 175.97円 | 17万5,970円 | 568ユーロ | −1万1,750円 |
| 10月28日 15時49分 | 175.55円 | 17万5,550円 | 570ユーロ | −1万2,170円 |
旅行代に換えると、ユーロ建てで30万円分の旅程を組む家族なら、4月時点より約2万円軽くなった計算だ。輸入ワインやチーズ、欧州車の部品のようにユーロ建てで仕入れる品も、為替の分だけなら値上げ圧力は弱まっている。ただし店頭価格への反映には数カ月の遅れがあり、この半年の物流費や原油高の影響も重なるため、為替の下げ幅がそのまま値札に出るわけではない。
上流をたどる——米欧の金利差と、パリの債券市場
ユーロドルを下げている力は2つある。1つ目は米欧の金利差だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17日に政策金利を0.25%引き上げ、誘導目標を3.75〜4.00%とした。ECBの預金ファシリティ金利は6月17日と9月16日の2回の利上げで2.50%である。政策金利の差は1.25〜1.5ポイントで、ドルを持つほうが金利で有利な構図は変わっていない。
2つ目はフランスだ。オランダの金融大手INGは27日のリポートで、ユーロドルは短期の適正水準より1.0〜1.5%割安で、その大半はフランス要因だと分析した。仏独10年債の利回り差は同リポート時点で153ベーシスポイント(bp)とされ、INGはユーロがもう一段大きく下げるには、この差がかなり広がる必要があるとみている。ムーディーズは23日にフランスの格付けをAa3に据え置いたが、それでもユーロが戻らないところに、売りの根の深さが表れている。
そして、この2つが同じ48時間に試される。日本時間29日3時にFOMCの結果、3時30分からウォーシュFRB議長の記者会見、21時30分に米国の7〜9月期GDPと9月の個人消費支出(PCE)物価指数、22時15分にECBの政策発表、22時45分からラガルド総裁の会見である。
ユーロドルを動かす48時間(日本時間)
読み方:米指標とECBの発表が1時間足らずの間に重なる29日夜が最大の山場。予想値はAskTraders集計の市場予想。出所:FRB、AskTraders、ING。英国の冬時間移行後の時刻を日本時間に換算した。
ECBは何を言いそうか——据え置きと「12月の扉」
市場の予想は据え置きでほぼ一致している。INGは29日の利上げ確率は「ほぼゼロ」しか織り込まれていないとし、焦点は12月の利上げの扉を開けておくかどうかだと書いた。市場はすでに12月に20bp超の利上げを織り込んでいるという。INGの基本シナリオは、ECBがこのタカ派的な見方を否定せず、ユーロは理事会後もおおむね安定する、というものだ。そのうえで同社は、今後数週間でユーロドルが1.120〜1.130ドルに戻るとの見方を示している。
逆に怖いのは、フランス国債の混乱を理由にECBが利上げに慎重な言い方へ傾く場合だ。INGも、利上げ姿勢の後退が国債市場の動揺に対する「第一の防衛線」になり得ると認めている。そうなれば金利差の面からもユーロの支えが外れる。筆者はこの経路を下抜けシナリオの中心に置いている。
FOMCについては、INGは据え置きを予想しつつ、12月に0.25%の利上げがあるとみている。英投資情報サイトのAskTradersがまとめた市場予想では、29日発表の7〜9月期GDPは前期比年率3.2%(前回2.2%)、9月のPCE物価指数は前年比3.6%(同3.4%)、コアPCEは3.1%(同3.0%)だ。米国の数字が予想どおり強ければ、ドルの下値は堅いままになる。会合の確率についてはFOMCの確率を整理した記事を参照してほしい。
今後1〜4週間のシナリオ——本線はもみ合い、下抜けを30%とみる理由
筆者は27日の記事で短期を弱気とし、1.1113ドルを第一の下値メドに置いた。価格はほぼそこまで来た。ここから先は、新しい売り材料がないと1.110ドルの厚い下値は割りにくいという点で、INGの見方に一部同意する。一方、米欧の金利差とフランス問題という2つの下げ要因はどちらも解消していない。そこで確率を次のように置く。
| シナリオ | 確率 | 想定レンジ(11月下旬まで) | 引き金 |
|---|---|---|---|
| 本線:もみ合い | 45% | 1.110〜1.125ドル | FOMCもECBも12月利上げの余地を残し、材料が相殺される |
| 下抜け | 30% | 1.100〜1.105ドル | ECBがフランスを理由に慎重姿勢、または米GDP・PCEの上振れでドル高 |
| 反発 | 25% | 1.125〜1.130ドル | ECBが12月利上げを「可能性が高い」と示唆、ウォーシュ議長が利上げに慎重 |
撤退線は27日の記事と同じく、ニューヨーク終値での1.1188ドル上抜けに置く。ここを取り戻せば、今週の下げは一時的な振れだったことになり、筆者は弱気の見立てを撤回する。反対に、日足の終値で1.1100ドルを割り込めば下抜けシナリオへの移行と判断し、次のメドは2025年4月の参照レートの水準である1.1045ドルとみる。なお、移動平均は筆者の概算で、20日線が1.1217ドル、50日線が1.1420ドル付近にある。価格は20日線の下にとどまっており、トレンドは下向きのままだ。
個人投資家はどう構えればよいか——チェックリスト
中銀会合の夜は、値幅が広がり、スプレッド(売値と買値の差)も一時的に開く。とくに29日は、米指標とECBの発表が1時間足らずの間に重なる。発表直後の一時的な割り込みに飛びつかず、日足の終値で判断するのが基本だ。高いレバレッジをかけたまま発表をまたぐと、方向が当たっていても途中の振れで強制決済に遭うことがある。
| 確認項目 | 弱気(ユーロ安)を支持 | 反発を支持 |
|---|---|---|
| 主要レベル | 日足終値で1.1100ドル割れ | NY終値で1.1188ドル超え |
| ECB(29日22時15分) | フランスを理由に利上げに慎重な表現 | 12月利上げを「可能性が高い」と示唆 |
| FOMC(29日3時) | ウォーシュ議長が12月利上げに前向き | 利上げを急がない姿勢、米金利低下 |
| 米指標(29日21時30分) | GDP・PCEが予想を上回る | 予想を下回る |
| フランス国債 | 仏独利回り差が170bp超へ拡大 | 140bp台へ縮小 |
旅行や輸入の支払いを控えている家計なら、相場を当てにいくより、支払額の一部をいまのレートで先に両替しておき、残りを様子見にする分割の考え方が現実的だ。もみ合いが本線である以上、数日で大きく有利になる保証はない。外貨預金やFXで為替そのものに取り組む場合は、ドルとユーロの金利差がスワップポイントとして毎日の損益に効いてくる点も押さえておきたい。仕組みは本サイトのFX解説ページにまとめている。
次に店頭へ届く変化の日付
29日未明のFOMCと同日夜のECBが、この先1カ月の方向を決める。30日にはユーロ圏とドイツの7〜9月期GDP、ドイツの10月の消費者物価が出る。ユーロ安が両替所のボードやカード明細に届くのは即日だが、輸入品の店頭価格に出るのは早くても年明けだろう。1,000ユーロが17万5,000円を割るかどうか。その答えは、まず今夜と明晩の2つの会見で出る。
主な参照資料。ECB 主要政策金利、FRB 政策金利の推移、FOMC日程、ING「October ECB cheat sheet」(10月27日)、ING「FX Daily」(10月27日)、ING「Federal Reserve preview」、AskTraders「Week ahead」、ECB参照レート(Frankfurter経由)、Yahoo!ファイナンス(取引時間中の気配値)。データ基準日:2026年10月28日15時49分(日本時間)。移動平均は概算。
免責事項。本記事は情報提供を目的としたもので、特定の通貨や金融商品の売買を勧めるものではない。シナリオの確率は筆者の見立てであり、将来の値動きを保証しない。為替取引、とくにレバレッジを用いる取引は元本を超える損失が生じる可能性がある。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってほしい。














