アドバンテスト(6857)は10月28日15時30分、2027年3月期の通期計画を引き上げた。営業利益は7月時点の8,460億円から9,670億円へ14.3%の上方修正で、IFISがまとめた市場予想(10月26日時点で8,863億円)を約9%上回る。同時に最大2,800億円の自社株買いを決め、取得は29日から始まる。まず下の4枚のタイルを見てほしい。29日の値動きを決めるのは、この4つの数字の組み合わせである。
本誌は26日の決算前の記事で、営業利益の計画が9,000億円以上に引き上げられ、受注の見通しも強ければ「5%超の上昇」と置き、その確率を35%とした。条件はいずれも満たされた。本稿はその続きとして、上方修正の中身と、まだ株価に入っていない材料、そして29日の値動きの確率を図で整理する。
計画は市場予想をどれだけ超えたのか
2027年3月期の営業利益:計画と市場予想(億円)
読み方:7月の計画は10月26日時点の市場予想を403億円下回っていたが、新計画はそれを807億円上回った。上期の実績だけで新計画の47%に達している。出所:アドバンテスト決算短信、株探、IFIS(本誌10月26日の記事で引用)。
26日の記事で問題にしたのは、市場予想がすでに会社計画の上にあることだった。営業利益の市場予想8,863億円に対して7月の計画は8,460億円で、計画を8,800億円台に上げるだけなら「予想どおり」で終わる。実際の新計画は9,670億円で、市場予想を807億円上回った。税引前利益で見ても新計画の1兆215億円はIFISコンセンサスを12.7%上回る(アイフィス株予報、28日15時30分配信)。
ただし上期の税引前利益5,102億円には、投資有価証券の評価益を中心とする金融収益約570億円が含まれる。上期の税引前利益が市場予想を27.7%上回ったという見出しの数字は、この評価益でかさ上げされている。本業の強さを測るなら営業利益で比べるのが筋である。その営業利益で見ても、上期は前年同期比96.5%増の4,568億円だった。
上方修正の9割はSoCテスタが運んだ
通期売上高計画の上方修正額:事業別(億円)
読み方:売上高の増額1,490億円のうち1,315億円、88%がSoCテストシステムによる。メモリ向けはほぼ据え置きだった。出所:アドバンテスト決算説明会資料(2026年10月28日)。サービス他・消去は全体の増額から3事業を引いた本誌計算。
通期の売上高計画は1兆7,140億円から1兆8,630億円へ1,490億円増えた。その内訳を事業別に見ると、GPUや専用チップ(ASIC)、CPUを検査するSoCテストシステムが1兆2,435億円から1兆3,750億円へ1,315億円増え、増額分の88%を占める。メモリテストシステムは2,270億円から2,290億円へ20億円の上乗せにとどまった。
7〜9月期だけでもSoCテストシステムの売上高は3,533億円と、前年同期の1,737億円から2倍強に増えた。会社は推論向けAIの広がりでASICとCPU向けが伸びたと説明している。生産能力はSoCテスタで年5,000台以上に達し、目標の年1万台も当初計画から大幅に前倒しするという。2026年のSoCテスタ市場規模は115億ドル前後と、予測レンジ(105億〜115億ドル)の上限近辺を見込む。2027年についても、地政学やマクロ要因を除けば「最終顧客の需要が供給を上回る状況が継続する」とした。26日の記事で問うた「受注の見通しにどこまで踏み込むか」への答えとしては、強い部類に入る。
下期の計画は7〜9月期より低い
営業利益率:四半期実績と下期計画
読み方:新しい下期計画は7月時点より約3ポイント高いが、直近の7〜9月期の55.9%よりは6ポイント近く低い。部材コストの上昇と1ドル=150円の為替前提を織り込んだ守りの数字である。出所:アドバンテスト決算短信・説明会資料。10月の下期計画は通期計画から上期実績を引いた本誌計算(売上高1兆178億円、営業利益5,102億円)。
この図が上方修正のもう一つの顔である。通期の営業利益9,670億円から上期実績4,568億円を引くと、下期は5,102億円、四半期あたり2,551億円になる。7〜9月期の2,668億円を4.4%下回る水準だ。下期の営業利益率も50.1%と、7〜9月期の55.9%から6ポイント近く下がる計算になる。
会社はメモリ半導体を中心とする部材コストの上昇を織り込んだと説明している。前提の為替も下期は1ドル=150円で、上期平均の160円より円高に置いた。28日15時42分のドル円は157円87銭(ヤフーファイナンス)で、想定より8円近く円安にある。会社が示す感応度は、1円の円安につき通期の営業利益が58億円増えるというものだ。単純に当てはめれば数百億円規模の上振れ余地になるが、残り半年にどこまで効くかは資料から読み切れないため、本誌は目安として扱う。いずれにせよ、下期の計画は守りの数字であり、1月の第3四半期決算で再び引き上げられる余地を残している。
2,800億円の自社株買いは需給を変えるか
自社株買い2,800億円の大きさ(億円)
読み方:上限の2,800億円は時価総額の1.1%で、28日1日分の売買代金の6割にあたる。約5カ月で買い付けるため、1日あたりの需給への効果は限られる。出所:アドバンテスト決算短信・自己株式取得の開示、株探(売買代金・時価総額)。
自社株買いの上限は2,800億円または1,100万株で、期間は10月29日から2027年3月24日までである。28日の終値3万4,930円で計算すると、2,800億円で買えるのは約802万株で、株数の上限より金額の上限が先に効く。時価総額25兆5,688億円(株探、28日終値)に対しては1.1%にあたる。28日1日の売買代金は4,668億円だったから、5カ月の買い付けとしては下支え程度の規模である。
中間配当は49円に決めた。前年同期の29円から20円の増配になる。年間配当は未定のままだ。会社は第3期中期経営計画の3年間で総還元性向50%以上を目安にしており、今回の自社株買いと増配はその方針に沿ったものと位置づけている。
29日の値動きをどう読むか
アドバンテスト:29日に意識される水準(円)
読み方:28日終値から5%上の3万6,677円を終値で超えれば上昇シナリオ、27日終値3万3,860円を割れば撤退。最高値までは16.5%ある。出所:株探の株価(2026年10月28日15時30分)、最高値は本誌10月26日の記事のデータ。
28日の終値は3万4,930円で、前日比1,070円高(3.16%高)だった。決算前の2日間で、26日の終値3万1,070円から12.4%上げている。上方修正への期待の一部はすでに株価に入ったとみるべきだ。それでも10月6日の終値の最高値4万1,850円までは16.5%の距離がある。新計画の1株利益1,027円08銭に対する株価収益率は34.0倍で、7月計画の1株利益914円18銭で測った38.2倍から下がった。
本誌の見立ては上昇が本線だが、上げ幅は寄り付きより縮みやすいとみる。理由は2つある。日本時間29日未明には米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表とウォーシュ議長の会見があり、12月の利上げ観測が強まれば半導体株全体が売られうる。また2026年1月の決算翌日は、寄り付きで13.5%高まで買われたあと終値では5.17%高まで上げ幅を縮めた。好決算の日に利益確定が出る形は、この銘柄では珍しくない。
| シナリオ(29日終値、28日終値比) | 確率 | 何が起きるか | 確かめる材料 |
|---|---|---|---|
| 5%超の上昇(3万6,677円以上) | 45% | 市場予想超えの計画と自社株買いの開始が素直に買われ、高値圏で引ける | 寄り付き後30分で寄り付き値を割らないか。米半導体株指数がFOMC後に崩れないか |
| ±5%以内 | 40% | 高く寄ったあと、2日間の12%高への利益確定で上げ幅を縮める | 2026年1月型の失速。下期計画の保守性に注目が集まるか |
| 5%超の下落(3万3,184円以下) | 15% | FOMCを受けた米金利上昇で半導体株が全面安となり、好決算でも売られる | 米10年債利回りの5%台定着。ナスダック100先物の急落 |
撤退線。29日の終値が決算前日の27日終値3万3,860円を下回れば、この見立ては撤回する。市場予想を9%上回る計画と2,800億円の自社株買いが出ても決算前の水準を守れないなら、決算ではなく顧客側のAI投資への不安が株価を決めていると判断すべきだからである。
個人投資家のためのチェックリスト
- 税引前ではなく営業利益で比べる。上期の税引前利益には評価益など約570億円の金融収益が入っている。
- 下期計画は7〜9月期より低い。四半期あたり2,551億円で、1月の第3四半期決算での再修正の余地がある。
- 為替の前提は1ドル=150円。円安が続くほど計画は上振れしやすいが、円高に戻れば逆に効く。
- 寄り付きで飛びつかない。決算前2日間で12.4%上げており、2026年1月には寄り付きの13.5%高が終値で5.17%高まで縮んだ。
- 11月12日の説明会を予定に入れる。会社はサプライチェーン戦略をテーマにした投資家向け説明会を開く。増産の前倒しの具体性がそこで分かる。
同じ半導体メモリの流れは、28日朝のSKハイニックス決算の記事で取り上げた。28日朝時点の注目銘柄の整理はこちら、売られすぎの局面はキオクシアとアドバンテストの記事にある。
主な参照
- 2027年3月期第2四半期(中間期)決算短信(2026年10月28日15時30分)/アドバンテスト
- 決算説明会資料・スピーチノート(事業別見通し、為替前提と感応度、自社株買い)/アドバンテスト(スライド)、同(ノート)
- 業績修正と四半期推移、配当(2026年10月28日15時30分)/株探
- IFISコンセンサスとの比較(2026年10月28日15時30分)/アイフィス株予報(ヤフーファイナンス)
- 株価・売買代金・時価総額・PTS(2026年10月28日15時30分)/株探
- ドル円(2026年10月28日15時42分)/ヤフーファイナンス
データ基準日:2026年10月28日の東京市場終値(15時30分)。営業利益の市場予想8,863億円はIFISの10月26日時点の集計で、決算発表後に更新された値ではない。税引前利益の比較はアイフィス株予報の28日配信による。前年同期の中間配当29円は、前期の年間配当59円と下期配当30円から本誌が算出した。下期の営業利益と利益率、自社株買いの株数換算、株価収益率は会社資料と株探の株価から本誌が計算した。終値の最高値4万1,850円と2026年1月の決算翌日の値動きは、本誌26日の記事のデータによる。28日夕方以降のPTS(私設取引システム)の値動きは本稿に反映していない。確率とシナリオは本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














