市場はこう信じている。イビデン(4062)はAI向けの半導体パッケージ基板で稼いでおり、29日の決算でも計画を上回り、株価は上がる。28日の株価は7.94%高の9,663円で、決算前日としては異例の上げ方だった。今日はこの通説を、過去12回の決算翌日の値動きと会社計画の数字で尋問する。
先に評決の骨格を書いておく。方向については通説にやや分がある。だが、この銘柄で確かに言えるのは方向ではなく値幅のほうだ。過去12回のうち10回で、決算翌日の終値は5%を超えて動いた。
通説の陳述:上方修正の流れは続く
公平のために、通説を最も強い形で述べておく。会社は8月4日に通期計画を大きく引き上げた。営業利益は期初の900億円から1,270億円へ、純利益は580億円から840億円へ上方修正し、減益予想から一転して増益予想になった。4〜6月期の営業利益は前年同期比52.4%増の268億8,000万円だった。
株価の材料もそろっている。野村證券は27日、投資判断を「買い」で継続し、目標株価を9,500円から1万円に引き上げた。株探が伝えたMINKABU PRESSの記事は、同社をAIインフラを支える重要サプライヤーと位置づける。27日は8.54%高、28日は7.94%高で、2日間の上げは17%を超える。
尋問1:決算翌日、この株は本当に上がってきたか
イビデン:決算翌日の終値の騰落率(発表日終値比、%)
読み方:12回中10回で5%を超えて動いた(平均の変動幅11.2%)。2025年5月以降は6回中5回が上昇。2024年8月は日経平均が12%超下げた8月5日と重なる。出所:決算発表日は株探、終値はヤフーファイナンス(株式分割調整済み)から本誌計算。
証拠を見よう。2023年10月から2026年8月までの12回の決算で、発表日の終値から翌営業日の終値までの騰落率を並べた。上昇は5回、下落は7回である。全体で見れば「決算で上がる銘柄」とは言えない。
ただし、通説側の再反論には理がある。下落7回のうち6回は2025年2月以前に集中している。AI向け基板の需要が業績に表れ始めた2025年5月以降に限ると、6回中5回が上昇だった。2024年8月5日の15.47%安は、日経平均が1日で12%以上下げた日と重なっており、決算への反応とは言い切れない。
一方で、直近6回にも2026年2月の14.19%安がある。上げ相場の途中でも、決算をきっかけに1日で14%下げた例がある。上昇の確率は高まったが、下げた時の大きさは変わっていない。
尋問2:期待はもう株価に入っていないか
この説明には穴がある。23日の終値8,512円から28日の9,663円まで、3営業日で13.5%上げた。決算前に期待を買う動きが先に出ている。予想PERは株探の集計で65.1倍、時価総額は5兆4,827億円だ。
ただ、決算前の上げが必ず翌日の下げにつながるとも言えない。発表日までの5営業日で5%以上上げていた回は5回ある。そのうち翌日も上げたのは4回で、下げたのは2024年10月の1回だけだった。2025年10月は5日間で40.7%上げた後でも、翌日はさらに7.50%上げている。
株価の位置も確認しておく。株探の日足(9月30日基準の1対2の株式分割を調整済み)で、10月6日の終値は1万2,400円だった。そこから23日の安値圏まで31%下げ、28日の終値はまだ22%下にある。15日の12.22%安は、米コアウィーブの社債価格の急落で、前夜に米半導体株指数が4%超下げたことを受けた動きだった。この下げは決算とは関係のない外部要因で、まだ戻し切っていない。
尋問3:上期の計画は高いハードルか
会社の上期計画は売上高2,535億円、営業利益545億円、経常利益540億円である。4〜6月期の経常利益274億6,600万円は、上期計画の50.9%にあたる。7〜9月期の営業利益が276億2,000万円あれば計画どおりで、4〜6月期とほぼ同じ水準でよい。上期のハードルは低い。
だが、通期のハードルは別だ。通期の営業利益計画1,270億円から上期計画545億円を引くと、下期は725億円になる。上期より33%多い。計画はすでに下期に寄せてあり、ここをさらに引き上げるには、10〜12月期以降の受注に強い手応えが要る。上期の上振れだけで通期を上方修正しなければ、市場は「据え置き」と受け止める可能性がある。28日朝には、カプコンが増益決算でも通期予想を据え置いて9%超下げている。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| イビデンは決算で上がる | 条件付きで生存 | 全12回では5勝7敗。2025年5月以降に限れば6回中5回上昇 |
| 決算前に上げすぎた | 死亡 | 5日で5%以上上げた5回のうち、翌日も上げたのは4回 |
| 上期は計画を上回る | 生存 | 4〜6月期で上期計画の50.9%を達成済み |
| 通期も上方修正される | 未決 | 下期計画は上期より33%多く、すでに高い |
| 翌日は大きく動く | 強く生存 | 12回中10回で5%超。平均の変動幅は11.2% |
評決:方向は上に55%、値幅は5%超に75%
評決を出す。決算翌日の終値が上がる確率を55%、下がる確率を45%とみる。2025年5月以降の6回中5回という実績はあるが、上げた後の決算であり、通期計画の引き上げが必要条件になるため、上昇側への傾きは小さくとどめた。
| シナリオ(決算翌日の終値) | 確率 | 想定される中身 |
|---|---|---|
| 5%超の上昇(1万146円以上) | 40% | 上期の上振れに加えて、通期の営業利益計画を1,270億円から引き上げる |
| ±5%以内 | 25% | 上期は計画を上回るが、通期は据え置く。事前の上げと相殺される |
| 5%超の下落(9,180円以下) | 35% | 通期の据え置きに加えて、10〜12月期の見通しが慎重。またはFOMC後に米半導体株が崩れる |
5%超の変動の確率は合計75%とした。過去の83%(12回中10回)より低いのは、時価総額が5兆円を超え、売買も厚くなったためである。それでも、この銘柄の決算は「どちらかに大きく動く」と考えて臨むのが筋だ。日本時間29日3時のFOMCの結果が、決算より先に株価を動かす点も忘れてはならない。
再審条件:評決を覆すデータ
- 通期の営業利益計画が1,270億円のまま。上期が上振れても通期を据え置けば、上昇55%の評決を撤回し、下落側に傾ける。
- 29日の終値が27日の終値8,952円を下回る。決算前の2日間の上げを失えば、期待で買った分の巻き戻しと判断する。
- 米半導体株指数がFOMC後に3%以上下げる。15日の12%安と同じく、決算の中身より外部要因が勝つ局面になる。
- 決算翌日に1万円台を回復して引ける。野村證券の目標株価1万円を超えれば、10月の下げの半分以上を戻したことになり、上昇シナリオの確度を上げる。
28日の東京市場で、イビデンは日経平均を95円87銭押し上げ、寄与度で5位に入った。その日の値動きの全体像は大引けの記事にまとめている。同じ日の引け後に計画を引き上げたアドバンテストについてはこちらの記事、AI半導体株の調整局面はキオクシアの記事で扱った。
主な参照
- 業績推移・修正履歴・決算発表日・上期計画(2026年10月28日閲覧)/株探
- 日足の株価(株式分割調整済み、10月28日終値まで)/株探
- PER・時価総額・決算発表予定日(10月28日終値)/株探
- 野村證券の目標株価(10月27日)/株探ニュース
- 27日の株価反発の背景(MINKABU PRESS、10月27日10時29分)/株探ニュース
- 15日の下落の背景(10月15日9時34分)/株探ニュース
- 29日の決算発表予定(10月28日15時41分)/株探ニュース
- 2023年10月以降の日足終値(決算翌日の騰落率の計算に使用)/ヤフーファイナンス
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
データ基準日:2026年10月28日(東京市場の終値)。決算翌日の騰落率は、決算発表日の終値と翌営業日の終値から本誌が計算した。発表はいずれも取引時間の終了後と仮定している。2024年8月5日は日経平均が急落した日で、決算以外の要因が大きい。市場予想(コンセンサス)の数値は確認できなかったため、本稿では会社計画との比較にとどめた。確率とシナリオは本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。












