米国のガソリンスタンドの価格板で、いま一番高い数字はガソリンではない。軽油である。全米自動車協会(AAA)によると、10月27日の全米平均は軽油が1ガロン6.3521ドル、レギュラーガソリンが4.2661ドルだった。1リットルに直して1ドル157円93銭で円に換えると、軽油は約265円、ガソリンは約178円になる。同じ日、ニューヨークの原油先物は1バレル100ドルを割り込んだ。原油が下がっても、トラックの燃料は高いままである。
この記事では、価格板の数字から川上へたどっていく。スタンドの店頭、ニューヨークの石油製品の先物、原油の先物、そしてホルムズ海峡とテヘランの交渉である。最後に、11月初めまでに価格板へ届く変化の日付を並べる。
現場の1コマ:軽油は最高値の手前、ガソリンは1年前の1.4倍
AAAの集計では、軽油の全米平均は1週間前の6.3199ドルから上がり、過去最高の6.5276ドル(9月22日)まで3%足らずの位置にある。1年前は3.6619ドルだったから、1年で7割以上の値上がりだ。レギュラーは1年前の3.0520ドルから4割上がったものの、1カ月前の4.4798ドルよりは下がっている。過去最高の5.0165ドル(2022年6月14日)にも届いていない。
米エネルギー情報局(EIA)の週次の小売価格でも同じ形が見える。10月26日の週は、レギュラーが1ガロン4.269ドルで前週から1.5セント下がり、軽油は6.352ドルで7.6セント上がった。ガソリンは少しずつ下がり、軽油は上がり続けている。私たちが「原油安」と聞いて想像する景色と、価格板の景色はずれている。
分解:1バレルの原油から、軽油はいくらで売れるか
店頭の1つ上は、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の石油製品の先物である。製油所は原油を買い、ガソリンや軽油にして売る。その差が精製の利ざや(クラックスプレッド)だ。1ガロン当たりの製品価格に42をかけると、原油と同じ1バレル当たりの値段になる。
日本時間28日7時40分の気配値(ヤフーファイナンス)で12月限どうしを並べると、原油(WTI)は1バレル99.88ドル、ガソリン(RBOB)は1ガロン3.0583ドル=1バレル約128ドル、軽油・暖房油は4.5926ドル=1バレル約193ドルである。軽油の値段は原油の約1.9倍、利ざやは1バレル約93ドルに達する。ガソリンの利ざやは約29ドルだから、軽油の利ざやはその3倍強だ。
1バレル当たりの値段(12月限、ドル)
読み方:同じ1バレルでも、軽油にすると原油の約1.9倍で売れる。軽油の利ざやはガソリンの3倍強。出所:ヤフーファイナンス(NYMEX12月限、日本時間28日7時40分ごろの気配値)から本誌計算。
なぜ軽油だけがここまで高いのか。オイルプライス・ドットコムが27日に伝えたところでは、国際エネルギー機関(IEA)は10月の石油市場報告で、軽油・ガスオイルの逼迫が2027年半ばまで続くとみている。モルガン・スタンレーも、2027年4〜6月期の製油所の定期補修が燃料市場を引き締めたままにすると指摘したという。中東からの燃料の流れが戦争で細る一方、軽油を使う物流や農業の需要はすぐには減らない。原油が下がっても、製品の値段がついてこない理由はここにある。
上流へ:原油は100ドル割れ、ただし「和平」はまだない
さらに上流の原油を見る。ロイターによると、27日のWTI12月限の清算値は1バレル99.90ドルで前日比1.86ドル安、北海ブレント12月限は113.88ドルで1.93ドル安だった。前日26日の清算値はWTIが101.76ドル、ブレントが115.81ドルである(ヤフーファイナンスの日足)。WTIの100ドル割れは「初めて」ではない。22日の終値は99.47ドルで、100ドルを上回っていたのは23日と26日の2営業日だけだった。
下げのきっかけは外交である。イランの最高安全保障委員会のトップが最高指導者モジタバ・ハメネイ師と会談し、国営メディアは、同師が戦争終結に向けたイランの条件を維持するよう強調したと伝えた。前日にはテヘランでサウジアラビア、トルコ、パキスタンとの協議があり、4カ国は話し合いを続けることで一致した。ただし、ロイターは戦争を終わらせる合意は「依然として見えない」と書いている。一部で流れた「米イラン和平合意」を受けた予想引き下げの見出しは、6月の古い記事だった。現時点で合意は存在しない。
供給の傷も残る。バーチャートがケプラーとボルテクサの推計として伝えたところでは、10月のホルムズ海峡の原油の通過量は日量1,670万バレル(ケプラー)、1,540万バレル(ボルテクサ)で、戦争前の約1,900万バレルを下回る。イエメンのフーシ派はサウジアラビアのラスタヌラ製油所に弾道ミサイルが命中したと主張しているが、独立した確認はとれていない。
価格板から川上へ:4つの段
読み方:川上の原油は下がったが、真ん中の製品先物が高いまま店頭の軽油を支えている。出所:AAA、ヤフーファイナンス、ロイター、バーチャート(ケプラー・ボルテクサの推計)。
先物の曲線が語ること:今が一番高い
もう一つ、先物の限月の並びにも現場の空気が出ている。ブレントの12月限113.88ドルに対し、1月限は日本時間28日朝の気配値で109.44ドルだった。差は約4.4ドル。近い限月ほど高い「逆ざや(バックワーデーション)」で、市場が「今すぐの原油」に高い値を付けている状態だ。WTIは12月限と1月限の差が約1.8ドルにとどまる。北海の原油のほうが、中東の供給途絶の影響を強く受けている。
注意点もある。ブレント12月限はまもなく取引の最終日を迎え、多くの価格サイトの「つなぎ足」は1月限へ切り替わる。ヤフーファイナンスのブレントのつなぎ足は27日に1月限へ移り、前日比5.5%安と表示されていた。これは限月の差であって、実際の下げは1.7%である。
家計への換算:満タン1回でいくら違うか
米国の価格を円に直して、身近な単位に置き換える。為替はすべて1ドル157円93銭(28日7時46分の気配値)で統一した。1年前の価格も同じ為替で換算しているので、円安の影響は含まない。
| 燃料(全米平均) | 1リットル(円) | 50リットル満タン(円) | 1年前の満タン(円) | 差(円) |
|---|---|---|---|---|
| 軽油 | 約265 | 約1万3,250 | 約7,640 | 約5,610 |
| レギュラーガソリン | 約178 | 約8,900 | 約6,370 | 約2,530 |
軽油の満タン1回で、1年前より5,600円ほど高い。長距離トラックは1台で数百リットルを積むから、運送の現場の負担はこの何倍にもなる。それは最終的に、店の棚に並ぶ商品の価格に乗ってくる。日本でも軽油は物流の燃料であり、国内のガソリン補助金の縮小案はこちらの記事で扱った。
生活防衛と投資の接点:3つのシナリオ
ここからは本誌の見立てである。期間は11月3日の米国の選挙までの1週間とする。
| シナリオ | 確率 | WTI12月限の目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 交渉の継続でもみ合い | 50% | 97〜103ドル | 条件の応酬が続き、合意も決裂もない |
| 交渉決裂・攻撃の再燃 | 30% | 105ドル超 | 選挙後の軍事行動の観測、湾岸の施設への攻撃 |
| 停戦の枠組みが示される | 20% | 95ドル割れ | イランの条件と米国の要求の接点が公になる |
どのシナリオでも、軽油の利ざやは原油ほど速くは縮まないとみる。製品の逼迫は戦争が終わってもすぐには解けず、IEAの見立てどおりなら2027年半ばまで続く。原油が下がる局面でも、精製や物流の燃料費を抱える企業の負担は軽くなりにくい。逆に精製の利ざやを稼ぐ側には追い風が続く。エクソンとシェブロンの決算の焦点はこちらにまとめた。特定の銘柄を推奨するものではない。本誌の撤退の線は、もみ合いシナリオについてWTI12月限の終値105ドル超とする。
次に価格板へ届く変化の日付
- 10月28日(水)10時30分(米東部時間、日本時間23時30分):EIAの週次石油統計。前回(16日終了週)は原油在庫が310万バレル減の4億1,250万バレル、留出油(軽油など)は170万バレル増だった。
- 10月28日(水)14時(米東部時間、日本時間29日3時):FOMCの結果。ドル高が進めば、ドル建ての原油には下押し要因になる。
- 11月1日(日):OPECプラスの会合。10月4日の会合では、7カ国が11月の生産量を9月の水準に据え置いた。
- 11月3日(火):米国の選挙とEIAの週次小売価格。選挙後の軍事行動をめぐる観測が、交渉の行方を左右する。
ブレントが115ドル台にあった27日夕方の状況は前日の記事に書いた。
主な参照
- 全米平均のガソリン・軽油価格(10月27日)/AAA
- 週次の小売価格(10月26日の週)/米エネルギー情報局(EIA)
- 週次石油統計(10月16日終了週)/EIA、公表日程/EIA
- 27日の清算値とイランをめぐる協議/ロイター(インベスティング・ドットコム掲載)
- ホルムズ海峡の通過量の推計とイラン情勢/バーチャート(ヤフーファイナンス掲載)
- 軽油の逼迫に関するIEAとモルガン・スタンレーの見方/オイルプライス・ドットコム
- OPECプラスの10月4日の決定/OPEC
- 原油・石油製品の先物の日足と気配値/ヤフーファイナンス
データ基準日:2026年10月28日(日本時間7時46分)。WTIとブレントの27日の値は清算値(ロイター)、1月限と石油製品の価格は日本時間28日7時40分ごろの気配値であり、清算値ではない。クラックスプレッドは本誌が12月限どうしの気配値から計算した概算で、実際の製油所の利益とは異なる。小売価格はAAAとEIAの全米平均。円換算は1ドル157円93銭で統一し、1年前の価格にも同じ為替を当てた。ホルムズ海峡の通過量、フーシ派の主張、IEAとモルガン・スタンレーの見方は報道によるもので、本誌は原資料を確認できていない。ラスタヌラ製油所への攻撃は独立した確認がとれていない。確率は本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














