原油1バレルは159リットルだ。北海ブレント原油の期近物は26日の東京時間に1バレル110ドル前後で、円に直すと原油1リットルあたり約108円になる。この原油を製油所でガソリンや軽油に変えたときの「もうけ」が、いま米石油メジャーの決算を大きく押し上げようとしている。エクソンモービル(XOM)とシェブロン(CVX)は、30日(金)に7〜9月期の決算を発表する。
エクソンは10月16日に提出した資料で、精製事業の利益が4〜6月期より約45億ドル増えるという試算を示した。新NISAで米国株を持つ私たちにとって、この数字は何を意味するのか。製油所の出口から株価まで、順にたどっていく。
製油所の出口――45億ドルの中身
エクソンは毎四半期の終わりに、米証券取引委員会(SEC)へ「決算の考慮事項」と呼ぶ資料を出す。利益を動かした要因を、前四半期比で項目ごとに示すものだ。10月16日の資料によると、7〜9月期は原油など液体の価格要因が13億ドルの減益、天然ガス価格が3億ドルの増益だった。一方で、精製・化学などのマージン(売値と原料費の差)は合計44億ドルの増益で、うち精製事業が45億ドルを占める。化学品のマージンは6億ドルの減益である。
エクソンの利益要因(7〜9月期、4〜6月期比、億ドル)
読み方:原油安で13億ドル減っても、精製マージンの改善がそれを大きく上回る。合計の24億ドルは本誌が項目を足したもので、会社の予想ではない。出所:エクソンモービルの8-K(2026年10月16日)。タイミング効果(−25億ドル)など調整項目は含まない。
なぜ原油価格が下がったのに、精製で稼げたのか。米エネルギー情報局(EIA)の月次データから計算すると、ブレントの7〜9月期の平均は1バレル96.33ドルで、4〜6月期の103.28ドルより安かった。原料の原油が安くなる一方、ガソリンや軽油の売値が高止まりすれば、その差が製油所のもうけになる。ロイターによると、BMOキャピタル・マーケッツはエクソンの精製部門の調整後利益を約85億ドルと見積もり、ブルームバーグ集計の市場予想の約78億ドルを上回るとみている。
数字の分解――市場予想と、本誌の足し算
エクソンの4〜6月期の調整後利益は147億ドル、1株あたり3.52ドルだった。ここに10月16日の資料が示した要因を足し引きしてみる。価格、マージン、定期修理、日数、その他の項目を合計すると、おおむね24億ドルの増益になる。単純に足せば7〜9月期の調整後利益は約171億ドルで、希薄化後の株式数約41億4,000万株で割ると1株あたり約4.13ドルだ。
ただし、エクソン自身はこの資料を「7〜9月期の利益の予想ではない」と明記している。あくまで本誌の目安である。ザックスが集計した市場予想は1株3.96ドル、ファクトセットは3.87ドル、ゴールドマン・サックスは約4.10ドルとされる。足し算の結果は市場予想の上限近くにあり、予想を上回る余地はある、というのが本誌の読みだ。
| 項目 | エクソンモービル(XOM) | シェブロン(CVX) |
|---|---|---|
| 発表日時(日本時間) | 30日(金)19時30分ごろ | 30日(金)米市場の取引開始前、電話会見は24時 |
| 1株利益の市場予想(ザックス) | 3.96ドル | 4.73ドル |
| 前年同期の調整後1株利益 | 1.88ドル | 1.85ドル |
| 4〜6月期の調整後1株利益 | 3.52ドル | 6.06ドル |
| 23日の終値 | 183.21ドル(年初来52.2%高) | 233.21ドル(年初来53.0%高) |
| 決算日の値動き(過去12回) | 上昇2回・下落10回、平均の値幅1.19% | 上昇7回・下落5回、平均の値幅2.64% |
シェブロンは、エクソンのような事前の試算を出していない。4〜6月期は調整後1株利益6.06ドルと過去最大の四半期利益で、生産量は日量407万バレル(石油換算)と前年同期より20%増えた。2025年に買収した米ヘスとの統合効果は、1年で年率15億ドルに達し、当初目標を5割上回ったと会社は説明している。
上流をたどる――中東と10〜12月期
7〜9月期は、月ごとに見ると原油価格の振れが大きかった。EIAの月次平均でブレントは7月が83.76ドル、8月が91.08ドル、9月が114.16ドルである。9月の急騰は中東情勢の緊迫によるもので、10月に入っても米WTI先物は23日に103.27ドルで引けた。つまり、決算が映すのは「安い原油と高い製品」の7〜9月期だが、株価がにらむのは原油そのものが高い10〜12月期だ。
ここに落とし穴がある。エクソンの資料には、原油価格の上昇時に一時的に利益を押し下げる「タイミング効果」が25億ドルのマイナスとして載っている。調整後利益からは除かれるが、会計上の利益(GAAP)は見た目が弱くなる。見出しの数字だけで判断すると、読み違える可能性がある。原油相場の背景はWTI100ドル回復の番付とブレントとガソリン補助金の記事にまとめた。
家計への換算――100株を持つ人にとっての数字
大きな数字を、私たちの手元の単位に直してみる。為替は1ドル157円で計算した。
| 項目 | 1株あたり | 100株あたり(円換算) |
|---|---|---|
| エクソンの精製マージン増益45億ドル | 約1.09ドル | 約1万7,000円 |
| エクソンの四半期配当(7〜9月期分) | 1.03ドル | 約1万6,200円(税引き前) |
| エクソン株価の決算日の平均値幅(1.19%) | 約2.18ドル | 約3万4,200円 |
| シェブロン株価の決算日の平均値幅(2.64%) | 約6.16ドル | 約9万6,700円 |
この表から分かるのは、精製の増益は1四半期でほぼ配当1回分に相当する、ということだ。一方で、決算日の株価は平均してその2倍前後動く。100株を持つ人にとって、30日の1日の値動きは配当1回分より大きくなりやすい。
決算日の値動き――確率で考える
シェブロンの決算日の値動き(前日終値比、過去12回)
読み方:12回中7回が上昇、3%以上動いたのは3回。同じ日のエクソンは12回中10回が下落し、値幅はすべて3%未満だった。出所:Yahoo!ファイナンスの日足から本誌が計算(配当は未調整)。
過去12回の決算日を数えると、2社の性格ははっきり違う。エクソンは12回中10回で下落し、3%以上動いた日は一度もなかった。シェブロンは12回中7回上昇し、3%以上動いた日が3回あった。EarningsWatcherは10月10日時点で、シェブロンのオプション市場が上下6.3%の値動きを織り込んでいると伝えている。過去10年の平均は3.7%で、市場は今回を普段より大きな勝負とみている。
本誌の見立てを確率で示す。エクソンは決算日に上昇する確率が40%、下落が60%で、値幅が2%以内に収まる確率を80%とみる。好決算でも、年初来5割を超えて上げた株価には利益確定の売りが出やすい。シェブロンは上昇55%、下落45%で、3%以上動く確率を35%と置く。過去の25%より高くしたのは、オプション市場の値幅が普段より大きいためだ。いずれも過去の傾向と足元の材料から置いた目安であり、保証ではない。
生活防衛と投資の接点――3つの選択肢
原油高はガソリン代や電気代として家計を圧迫する。石油株を持つことは、その痛みの一部を配当や株価で取り戻す「ヘッジ」の役割を持ちうる。現実的な選択肢を並べておく。推奨ではない。
- 決算前に持ち高を変えない。長期で配当を受け取る目的なら、1日の値動きより四半期配当の継続が重要になる。エクソンの決算日の値幅は平均1%強と小さい。
- 決算を見てから判断する。見るべきは、精製の利益が市場予想の約78億ドルを上回ったか、そして自社株買いのペースだ。エクソンは4〜6月期に51億ドルの自社株買いを実施した。
- 個別株ではなく分散で持つ。エネルギー株の上場投資信託(ETF)や、日本の資源株も選択肢になる。26日の東証では鉱業が4.58%上昇し、INPEXは4.90%高だった。
次に届く変化の日付
エクソンの決算資料は、日本時間30日19時30分ごろに公表される。電話会見は同22時30分からだ。シェブロンは米市場の取引開始前に発表し、電話会見は日本時間31日0時に始まる。同じ週には、29日午前3時にFOMCの声明が出る。原油価格と金利の両方が動く週であり、石油株の値動きは決算だけでは決まらない点にも注意したい。
撤退条件も書いておく。エクソンの精製部門の利益が市場予想の約78億ドルを下回れば、本誌の「予想上振れ」の読みは外れたと認める。シェブロンについては、通期の生産見通し(日量398万〜410万バレル)の下方修正が出れば、強気の見立てを改める。
主な参照
- 7〜9月期の決算の考慮事項(2026年10月16日提出)/エクソンモービル
- 4〜6月期の決算(調整後利益、精製部門、自社株買い、配当)/エクソンモービル
- 前年同期(2025年7〜9月期)の決算/エクソンモービル
- シェブロンの4〜6月期と前年同期の決算/米証券取引委員会(シェブロン提出)
- 精製利益の見積もり(BMO、ブルームバーグ集計)/ロイター(BOE Report掲載)
- エクソンの市場予想(ザックス)/Yahoo!ファイナンス
- シェブロンの決算日程/MarketBeat
- シェブロンのオプションが織り込む値幅/EarningsWatcher
- ブレント・WTIの月次平均価格/米エネルギー情報局
- 株価と決算日の値動き/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:2026年10月26日。株価は10月23日の米国市場の終値。ブレント原油は26日15時49分ごろ(日本時間)の期近物の気配値で、取引時間中の数値である。期近物は限月の切り替えで水準が変わることがある。四半期平均はEIAの月次データの単純平均で、本誌が計算した。7〜9月期の利益の足し算は、エクソンの資料の項目を本誌が合計したもので、会社の予想ではない。シェブロンの通期の生産見通しは二次情報にもとづく。オプションが織り込む値幅は10月10日時点で、最新の値とは異なる可能性がある。決算日の値動きは配当を調整していない。確率は本誌の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














