月曜の朝9時30分、田中貴金属工業の店頭に掲げられる金の値札は、1グラム2万2,300円前後になる計算だ。1週間前の10月16日朝は2万3,405円だった。週末のあいだに国際価格もドル円も動かなければ、1週間で1,000円あまり安くなる。原因はニューヨークにある。金先物は23日(金)に一時1オンス3,989ドル20セントまで下げ、4,000ドルの節目を割り込んだ。
本誌は23日朝、22日の急落を商品番付の記事で伝えた。新しいのはその後の動きである。金曜にも下げが続き、週間の下げ幅は4.1%と6月上旬以来の大きさになった。現物は4,000ドルを下回って週を終えた。本稿では店頭の値札から川上へたどり、来週の4,000ドル攻防を確率付きのシナリオで示す。
店頭の値札はどう決まるか——1週間で約1,000円
私たちが店頭で払う金の値段は、おおまかに3つの数字の掛け算で決まる。ドル建ての国際価格(1トロイオンス=約31.1グラムあたり)、ドル円相場、そして消費税の10%だ。そこに販売業者の手数料が少し上乗せされる。
この式に今週の数字を入れてみる。10月16日の金先物の終値は4,181ドル10セント、欧州中央銀行(ECB)が公表したドル円の参照レートは158.02円だった。1グラムあたり税込みで約2万3,366円になる。23日は先物が4,010ドル、参照レートが156.80円で、約2万2,237円。1週間で4.8%安い。ドル建ての下げ(4.1%)より大きいのは、円がドルに対して0.8%上がったからだ。ドル建ての金安に円高が重なり、円で金を買う人にとって下げが大きくなった。
川上から店頭へ——1グラムの値札ができるまで(本誌試算)
読み方:ドル建ての金価格にドル円と消費税を掛けると、店頭の値札にほぼ届く。手数料分0.4%は、10月16日朝の田中貴金属の小売価格2万3,405円と同じ式の試算との差から求めた。出所:Yahoo Finance(金先物)、ECB(Frankfurter経由)、田中貴金属工業、本誌計算。
田中貴金属の16日朝の小売価格2万3,405円は、同じ式で出した試算を0.4%ほど上回っていた。この差を手数料分とみなすと、月曜朝の値札は約2万2,333円になる。冒頭の「2万2,300円前後」はこの計算による。店頭では、国際価格が100ドル動くと1グラムあたり約555円、ドル円が1円動くと約142円動く。
家計に換算すると——最高値から約8割の水準
田中貴金属が付けた店頭価格の最高値は、共同通信によると3月2日午後の1グラム3万305円である。月曜の試算値はそこから26%安い。下の表は、私たちの財布の単位に置き換えたものだ。
| 単位 | 3月2日の最高値 | 月曜朝の試算 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1グラム | 30,305円 | 約22,333円 | 約7,972円安 |
| 100グラムの地金 | 約303万円 | 約223万円 | 約80万円安 |
| 毎月3万円の積み立てで買える量 | 約0.99グラム | 約1.34グラム | 約36%多い |
同じ3万円で、3月より3割以上多くの金が買える。積み立てを続けている人にとっては、下げ相場は買い付け単価を下げる局面でもある。一方、3月前後に100グラムの地金を買った人は、帳簿の上で80万円ほど目減りしている。どちらの立場で値札を見るかで、同じ数字の意味が変わる。
川上をたどる——なぜ原油高でも金は売られたのか
ニューヨークの金先物(期近)は23日の米東部時間16時59分(日本時間24日5時59分)に4,010ドルで取引を終えた。前日の22日から1.2%安く、週間では171ドル10セント(4.1%)安い。週間の下げとしては、4.96%安だった6月5日までの週以来の大きさだ。米キトコによると、現物は米国時間の午後に3,992ドル30セントだった。1月29日に先物が付けた最高値5,586ドル20セントからは28.2%下にいる。
中東ではホルムズ海峡で船舶の被害が続き、原油は上がっている。教科書どおりなら金の出番である。そこで、よく挙がる「犯人」を一つずつ確かめた。
今週の値動き(10月16日→23日の終値、%)
読み方:ドルはほぼ横ばいで、円はむしろ上がった。米10年物の実質利回りも2.74%から2.66%へ0.08ポイント下げている。ドル高や金利上昇では今週の金安を説明できない。出所:Yahoo Finance(各先物・指数の日足終値、金と銀は米東部16時59分の最終値)、ECB、米財務省。
今週の犯人ではないもの:ドルと実質金利
まずドルである。主要通貨に対するドルの強さを示すドル指数は、16日の101.84から23日の101.75へ、ほぼ横ばいだった。次に実質金利、つまり国債の利回りから予想物価上昇率を差し引いた「本当の利回り」だ。利息を生まない金にとっては、これが持ち続けるコストになる。米財務省によると、10年物の実質利回りは16日の2.74%から23日の2.66%へ、むしろ0.08ポイント下がった。名目の10年債利回りも5.09%から5.00%に下げている。どちらも、今週の金の下げを説明しない。
長い目で見た主犯:上がり続けた実質金利
ただし、時間軸を延ばすと話は変わる。金が最高値を付けた1月29日、10年物の実質利回りは1.89%だった。いまは2.66%で、0.77ポイント高い。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16日に政策金利を0.25ポイント引き上げ、3.75〜4.00%とした。米国の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.7%と、8月の3.4%から伸びが高まった。ミシガン大学の10月の確報では、1年先の予想インフレ率が4.7%に上がった。物価が下がらない限りFRBは引き締めをやめにくい。原油高はその物価を押し上げる。原油高が金の追い風にならないのは、この経路があるからだ。
今週の実行犯:損切りの連鎖と換金売り
今週の下げの大半は22日(木)の1日に集中した。サクソバンクのオーレ・ハンセン氏は、4,065ドルを割り込んだところで損切りの売りが連鎖したとキトコに語っている。値動きに乗る短期筋が売りを仕掛けたという見方だ。株安で損失を抱えた投資家が、利益の出ている金を売って現金を確保する動きもあったと報じられている。ブルームバーグは「換金売りが金にも広がる」との見出しで伝え、キトコも市場全体の資金繰りへの不安を挙げた。米国株のS&P500種指数は週間で0.5%安、22日だけで1.2%安だった。
逆に言えば、今週の下げはドルや金利の「理屈」より、売りが売りを呼んだ面が大きい。ハンセン氏は、投機筋の持ち高が極端な水準に近づき、ヘッジファンドが売り越しに転じる寸前にあるとみる。そうなれば、急な買い戻しが起こりうるという。BCAリサーチのロウカヤ・イブラヒム氏も「反発の機は熟している」と述べた。ただし同氏は、金利などの逆風が残るため、当面は横ばい圏の動きを予想している。
4,000ドル攻防の見通し——今後1〜4週間のシナリオ
4,000ドルは初めて試される水準ではない。今年は6月30日に日中で3,955ドル40セントまで下げ、7月16日には3,992ドル10セントで引けた。7月の安値圏を、いま再び訪ねている形である。下には1年前の2025年10月28日に付けた3,901ドル30セントもある。
金先物の節目(ドル/オンス)
読み方:終値で3,955ドルを割れば下振れシナリオ、4,230ドルを上回れば上振れシナリオに切り替える。その間は基本シナリオのもみ合いとみる。出所:Yahoo Finance(金先物の日足)、キトコ(4,065ドルと4,230ドルはサクソバンクのハンセン氏の指摘)、本誌の見立て。
| シナリオ | 確率 | ドル建ての値幅 | 店頭価格の目安 | きっかけ |
|---|---|---|---|---|
| 基本:4,000ドル前後でもみ合い | 45% | 3,955〜4,150ドル | 約2万2,000〜2万3,100円 | FOMCは据え置き、12月利上げの余地は残す |
| 下振れ:7月の安値を割る | 30% | 3,800〜3,955ドル | 約2万1,200〜2万2,000円 | FOMC声明がタカ派寄り、PCE物価指数が強い、株の換金売り |
| 上振れ:買い戻しで反発 | 25% | 4,230〜4,300ドル | 約2万3,600〜2万3,900円 | 引き締め姿勢の後退、投機筋の買い戻し |
本誌の見立ては、基本シナリオのもみ合いである。今週の下げは損切りの連鎖という性格が強く、売りが一巡すれば下げの勢いは鈍りやすい。ただ、実質金利が高いままでは、上値を追う材料も乏しい。この見方を取り下げる線は2つある。終値で3,955ドルを割れば今年の安値を更新し、下振れシナリオに切り替える。終値で4,230ドルを上回れば、上振れシナリオに切り替える。
注意点がもう一つある。情報サイトが示す「52週安値」3,901ドル30セントは、1年前の10月28日の値だ。来週後半にはこの日が集計期間から外れ、表示上の52週安値が上がる。相場が動かなくても、表示の数字だけが変わる。値札を見るときに慌てないよう、覚えておきたい。
生活防衛と投資の接点——取りうる選択肢
ここで売買を勧めるつもりはない。ただ、立場ごとに現実的な選択肢は並べておける。積み立て中の人は、毎月決まった額で買う仕組みそのものが、値下がり局面での買い付け単価を平均化する。地金をまとめて買うか迷っている人は、一度に買わず数回に分けるという手がある。来週のように材料が集中する週は値動きが大きくなりやすいからだ。手元の金を売るか考えている人は、店頭の買取価格が小売価格より低く設定されている点に注意したい。
次に店頭へ届く変化の日付
来週、店頭へ届く変化の日付(日本時間)
読み方:店頭価格は営業日の朝9時30分に決まるため、米国の夜の材料は翌朝の値札に表れる。出所:FRB、米商務省経済分析局、日本銀行の公表日程。
来週の山場は29日(木)の未明と夜の2回である。未明3時の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明は、据え置きが大方の予想だ。焦点は12月の利上げを示唆するかどうかにある。同じ日の21時30分には、7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値と9月の個人消費支出(PCE)物価指数が出る。30日(金)の日銀の決定は、円相場を通じて店頭価格に効く。ドル円が1円動けば、値札は1グラム約142円動く。結果は翌営業日の朝9時30分、田中貴金属の値札に表れる。
来週の各国中央銀行の織り込みは中銀番付の記事に、店頭価格の1年の推移は10月16日の現場ルポに、ドル安でも金が下がる理屈はこちらの解説にまとめた。
主な参照
- 金先物・銀先物・ドル指数・S&P500・WTI原油の日足(10月16日〜23日)、金先物の最高値と年初来・52週の安値/Yahoo Finance
- 金現物の価格、週間の下落、損切りと投機筋の見方(ハンセン氏、イブラヒム氏)/キトコ
- ミシガン大学の10月確報(予想インフレ率)、ホルムズ海峡の船舶被害、来週の日程/キトコ
- 米国債の名目・実質利回り(10年物)/米財務省
- ドル円の参照レート(ECB)/Frankfurter
- 9月の政策金利引き上げ(3.75〜4.00%)/FRB、FOMCの日程/FRB
- 米国の9月CPI(前年同月比3.7%、10月14日公表)/Forex Fundamentals
- GDP速報値とPCE物価指数の公表日時/米商務省経済分析局
- 日銀の金融政策決定会合と展望レポートの日程/日本銀行
- 田中貴金属の店頭小売価格の最高値(3月2日、1グラム3万305円)/共同通信(OANDA証券のサイトに転載)
- 田中貴金属の店頭小売価格(10月16日9時30分公表、1グラム2万3,405円)/田中貴金属工業
データ基準日:2026年10月23日(金)の米国市場の終値。金先物(期近)の4,010ドルは米東部時間16時59分(日本時間24日5時59分)の最終値で、取引所の清算値とは差が出ることがある。金現物の3,992ドル30セントは米国時間午後の気配値である。ドル円の156.80円と158.02円はECBの参照レート(中央欧州時間14時15分ごろ)で、ニューヨーク終値とは異なる。米国債利回りは米財務省の公表値。田中貴金属のサイトは本稿の執筆時点で接続できず、23日以降の公表価格は確認できていない。月曜朝の店頭価格と各シナリオの店頭価格は本誌の試算であり、実際の公表価格とは異なる。株安に伴う換金売りは報道にもとづくもので、取引データでは確認していない。金ETFの資金流出入は、一次データを確認できなかったため扱わなかった。シナリオと確率は本誌の見立てであり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













