市場はこう信じている。AIへの投資が報われないという懸念が東京を覆い、日本株は崩れ始めている、と。10月26日の日経平均株価は前週末比503円51銭安の6万2,189円65銭で引け、3日続落となった。3営業日の下げ幅は2,431円59銭、率にして3.76%だ。今日はこの「日本株崩れ」説を証言台に立たせる。
先に結論の方向だけ示しておく。同じ日、TOPIX(東証株価指数)は7.17ポイント高の3,972.98で引けた。東証プライム市場では値上がりが816銘柄、値下がりが682銘柄だった。崩れたのは指数の一部であって、市場全体ではない。だが、本当にそれだけで片づけてよいのか。順に証拠を見よう。
通説の陳述――最も強い形で
公平のために、通説をいちばん説得力のある形で書いておく。日経平均は10月13日の終値6万7,777円52銭から、2週間で5,587円87銭(8.24%)下げた。売られているのはアドバンテスト、東京エレクトロン、イビデン、TDK、キオクシアホールディングスといったAI・半導体の供給網そのものである。
海外でも同じ疑念が広がっている。米投資会社アポロの経済学者は、AIがほとんどの企業に財務上の見返りをもたらしていないと指摘したと米テッククランチが報じた。韓国では、世界的なAI株安を受けてゴールドマン・サックスが株価目標を引き下げたと株探が伝えている。韓国総合株価指数は26日、東京時間11時9分時点で0.98%安だった。通説側の主張は、AIの成長物語に初めて本格的な疑問符が付いた、というものだ。
これは藁人形ではない。2週間で8%を超える下げは、指数にとって軽い調整とは言えない規模である。以下の3つの尋問は、この主張のうち何が残り、何が崩れるかを確かめるためのものだ。
尋問1――下げたのは「東京市場」か、「3銘柄」か
証拠を見よう。株探の集計によると、大引け時点の日経平均への押し下げ寄与はアドバンテスト(6857)が274円で首位だった。東京エレクトロン(8035)が175円97銭、ファーストリテイリング(9983)が153円72銭で続く。この3銘柄だけで603円69銭になる。指数の下げ幅503円51銭を100円以上も上回る数字だ。
日経平均への寄与度(10月26日大引け、円)
読み方:赤が押し下げ、緑が押し上げ。上位3銘柄の押し下げ603円69銭は、日経平均の下げ幅503円51銭を上回る。「残り215銘柄の合計」は下げ幅から表示10銘柄の寄与を差し引いた本誌の計算。出所:株探ニュース(2026年10月26日15時32分の大引け集計)。
つまり、残る222銘柄は合計で指数を約100円押し上げていた計算になる。押し上げの首位は豊田通商(8015)の20円23銭で、三菱商事(8058)の19円72銭、伊藤忠商事(8001)の11円71銭と商社株が並んだ。東証33業種では22業種が上昇し、上昇率の首位は鉱業の4.58%、次いで石油・石炭製品が3.03%、卸売業が2.79%だった。下落率の上位は非鉄金属(1.50%安)、電気機器(1.35%安)、証券業、機械である。
日経平均をTOPIXで割ったNT倍率は、23日の約15.81倍から26日は約15.65倍に下がった。値がさのハイテク株が売られ、それ以外が買われたときに典型的に起きる動きである。この説明には穴がある、と通説側は言うだろう。売られた3銘柄はたまたま重いのではなく、AIの本丸だから重いのだ、と。この反論は半分正しい。だがファーストリテイリングはAI銘柄ではない。同社の2.50%安は、AI懸念では説明がつかない下げである。本誌は同社の下げの理由を特定できる発表や報道を確認できていない。
尋問2――半導体の売りは「AI懸念」か、「決算前の手じまい」か
ここが最大の争点である。通説が正しければ、東京の半導体株は米国の半導体株と同じ方向に動くはずだ。証拠を見よう。前週末23日のフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は1万779.46で引け、前日比0.44%上昇した。ナスダック総合指数は0.21%の小幅安にとどまっている。それでも26日の東京では、アドバンテストが3.93%安の3万1,070円、東京エレクトロンが3.68%安の9,110円まで売られた。
米国が上げた翌日に、東京の値がさ半導体だけが下げた。これを米国発のAI懸念の波及とだけ見るのは無理がある。より素直な説明は日程にある。アドバンテストは28日(水)、東京エレクトロンとキオクシアは30日(金)に決算を発表する予定だと株探は示している。米国でも今週はマイクロソフト、アルファベット、アマゾン、アップルなどの決算が控える。結果を見る前に持ち高を落としておく売りは、珍しくない。
公平のために言えば、通説側にも強い証拠がある。売られたのは2銘柄だけではない。フィスコの前場の集計では、イビデン、キオクシア、TDK、SCREENホールディングス、フジクラ、KOKUSAI ELECTRIC、村田製作所、ディスコもそろって下落銘柄に並んだ。前場の売買代金の首位はキオクシアで、それでも株価はさえなかった。キオクシアは1.61%安の1万2,550円で引けている。AIの供給網全体から資金が抜けているのは事実だ。手じまい説で説明できるのは「なぜ今日か」であって、「なぜ2週間続いているか」ではない。
尋問3――引け際の232円は何だったのか
この日の値動きで最も見落とされやすいのが、最後の30分である。日経平均は前引けで478円50銭安の6万2,214円66銭だった。後場は持ち直し、15時の時点では271円安の6万2,421円まで下げ幅を縮めていた。ところが終値は503円51銭安だ。最後の30分で、約231円が消えた。
東証は2024年11月から、15時25分から30分までを終値を決める「クロージング・オークション」の時間にしている。日足で見ると、15時25分時点の6万2,285円から終値の6万2,189円65銭へ、この5分間だけで約96円下げた。引けで約定させたい売り注文がまとまって出たことになる。一般に、指数連動の運用や持ち高の調整は終値で執行されやすい。日中に押し目買いが入っても、大口の売りは最後に出てくる。日中の下げ渋りを「下値の堅さ」と読むのは早い、というのがこの尋問の答えである。
この日の値幅も確認しておく。寄り付きは243円20銭安の6万2,449円96銭で、9時台前半に598円82銭安の6万2,094円34銭まで下げた。その後は9時30分すぎに6万2,902円95銭まで上げ、一時は前週末比でプラスに転じている。高値と安値の差は808円61銭だ。寄り付き1時間の詳しい流れは前場の5つの論点で整理した。
生き残った主張と、死んだ主張
| 主張 | 証拠 | 判定 |
|---|---|---|
| 日本株全体が崩れている | TOPIXは0.18%高、値上がり816対値下がり682、33業種中22業種が上昇 | 死んだ |
| 日経平均の下げは一部の値がさ株によるもの | 上位3銘柄の押し下げ603円69銭が下げ幅503円51銭を上回る | 生き残った |
| 東京の半導体安は米国のAI懸念の波及 | 前週末のSOXは0.44%高。それでも東京の値がさ半導体は3〜4%安 | 弱い |
| AI供給網から資金が抜けている | イビデン、キオクシア、TDK、ディスコなどがそろって下落。日経平均は2週間で8.24%安 | 生き残った |
| 日中の下げ渋りは下値の堅さを示す | 15時の271円安から終値は503円安。最後の30分で約231円を失った | 死んだ |
| 資金は資源・商社株へ移っている | 鉱業4.58%高、石油・石炭3.03%高、卸売2.79%高。INPEXは4.90%高 | 生き残った(ただし原油次第) |
表から分かるのは、通説が「範囲」を間違えているということだ。日本株が崩れているのではない。AIの供給網と一部の値がさ株から、資源・商社・内需へと資金が入れ替わっている。資源株の上げは、23日に米WTI原油先物が1バレル103.27ドルで引けたことが背景にある。原油高の物語はブレント原油と補助金の記事に詳しい。原油が反落すれば、この受け皿の側も崩れうる。
評決――「入れ替え」説に65%
評決を出す。本誌は「日本株崩れ」説に35%、「決算前のAI株の手じまいと資源・内需への入れ替え」説に65%を置く。決め手は2つある。TOPIXと騰落銘柄数が、指数の下げと逆を向いていること。そして米半導体株が上げた翌日に東京の値がさ半導体だけが下げ、その2社の決算が今週に控えていることだ。
ただし、35%は小さくない。日経平均が2週間で8%強下げた事実は消えない。個人投資家にとっての含意ははっきりしている。日経平均だけを見て日本株全体を売るのは、この日の証拠に照らせば早計だ。一方で、AI関連の値がさ株の押し目を「決算前だから」と拾うのも賭けになる。決算の中身を見てからでも、遅くはない。
再審の条件――評決を覆すデータ
評決は固定しない。次のどれかが起きれば、本誌は「崩れ」説の側へ評決を移す。
- TOPIXが日経平均と一緒に下げる日が続く。値下がり銘柄数が値上がりを上回り、TOPIXが3,900を割り込む展開になれば、「一部の値がさ株」では説明できない。
- アドバンテストが28日の決算で好内容を出しても売られる。決算を通過しても売りが止まらなければ、手じまい説は崩れ、AI懸念そのものが主因になる。
- 日経平均が26日の日中安値6万2,094円34銭を終値で割り込む。引け際の売りが続いている証拠になる。
- 日米の中央銀行が想定外に動く。米連邦公開市場委員会(FOMC)は27〜28日、日銀の金融政策決定会合は29〜30日に開かれる。FOMCの声明は日本時間29日午前3時に出る予定だ。
逆に、アドバンテストの決算後に半導体株が戻り、TOPIXが4,000を回復するなら、評決は「入れ替え」説の側へさらに傾く。為替の面ではドル円が26日15時40分ごろに157円00銭前後で推移していた。日米の中銀週の見通しはドル円の見通しにまとめている。国内の決算は27日から本格化し、27日の引け後には信越化学工業や日東電工が発表を予定している。
主な参照
- 日経平均・TOPIXの大引け(2026年10月26日15時31分)/株探(フィスコ)
- 大引けの寄与度、騰落銘柄数、業種の順位/株探
- 東証33業種の騰落率/株探(フィスコ)
- 前場の動向、下落・上昇銘柄、FOMC・日銀会合の日程/株探(フィスコ)、株探(MINKABU PRESS)
- アジア株の動向(東京時間11時9分)/株探(MINKABU PRESS)
- アドバンテスト・東京エレクトロン・キオクシアの決算発表予定日/株探
- 27日の決算発表予定/株探
- 日経平均の日足・5分足、個別株の終値、米国株指数、ドル円/Yahoo!ファイナンス
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
- クロージング・オークションの導入(2024年11月)/日本取引所グループ
データ基準日:2026年10月26日の東京市場の終値。米国株と原油は10月23日の終値、ドル円は26日15時40分ごろ(日本時間)の気配値で、取引時間中の数値である。寄与度は情報ベンダーにより集計に差がある。NT倍率は終値から本誌が計算した概算値。15時25分時点の日経平均は5分足の値で、公式の時刻別指数とは差が出ることがある。ファーストリテイリングの下落理由について、執筆時点で特定できる一次情報は確認できていない。韓国株の目標引き下げとアポロの経済学者の見解は報道にもとづく。評決の確率は本誌の主観的な見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















