金曜の安値で投げた向きは、月曜の引けを見て歯噛みしただろう。金のスポット価格は23日の金曜、米国時間に1オンス=3,975ドルまで売られ、7月20日以来の安値を付けた。ところが週明け26日のニューヨーク金先物(COMEX、12月物)は4,038.4ドルで引け、4,000ドルの大台を取り戻した。27日の東京時間11時44分の時点でも4,025.2ドル前後で推移している。4,000ドルを割った値段は、二日続けて買い拾われた。
相場格言に「もうはまだなり、まだはもうなり」とある。先週の金は、まさに「まだ下がる」と誰もが思った週だった。金先物は前週比4.14%安、ロンドンの午後の値決め価格(LBMA PM)は4.2%安で、5月中旬以来の大きな週間の下げである。1月29日の値決めの最高値5,405ドルからは25.75%下にいる。本稿では、テープの読み方と需給、水準の地図、そして筆者の見立てと撤退の線を書き留める。FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果は日本時間29日の3時に出る。
先週のテープ:金利が下がった日に金も売られた
先週いちばん奇妙だったのは22日の木曜だ。米財務省のデータでは、この日の米10年債利回りは5.13%から4.96%へ17ベーシスポイント(bp)下がり、物価連動債の実質利回りも12bp下がった。教科書どおりなら金の追い風である。ところが金先物は2.16%安と、週でいちばん大きく下げた。翌23日も1.29%安で、4,007.9ドルで引けた。
理由ははっきりしている。この日は米国でAI・半導体株が崩れた日だった。英貴金属商ストーンXと英ブリオンヴォルトはともに、株の急落で現金が必要になった投資家が、利益の乗っている金を売って資金を作ったと分析している。つまり金を売ったのは金の材料ではなく、株の追証に近い売りだ。正直、こういう投げは長続きしない。現金化の売りは、売る理由がなくなれば止まる。
原油も絡んでいる。北海ブレント原油は26日、1バレル=115.81ドルで引けた。原油高は物価高を通じて米国の利上げ観測を強め、金利を持たない金の重しになる。英MKSパンプのニッキー・シールズ氏はブリオンヴォルトに「金にとって原油は金利を通じて効いている」と述べた。一方、ドル指数は先週ほぼ横ばいで、今回の下げの主因ではない。
需給の解剖:投機筋の買い越しは8週連続で減少
需給を見ると、相場の性格がよくわかる。米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉報告によると、10月20日時点でヘッジファンドなど投機筋(マネージドマネー)の金の買い越しは、先物とオプションの合計で10万8,685枚、約338トンだった。8週連続の減少で、8月25日の15万1,315枚から28.2%減っている。先物だけで見ると324トンで、ストーンXによれば5月26日以来の低さだ。
金のETF(上場投資信託)からも資金が出た。世界最大の金ETF「SPDRゴールド・シェア(GLD)」の金保有量は、16日の1,059.04トンから23日には1,041.65トンへ17.39トン減った。22日の1日だけで約12トンの減少である。26日は1,040.80トンだった。とはいえ、これは2月27日の今年の最高1,101.33トンからでも5.5%減にすぎない。世界の金ETFの残高は、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると9月末に4,256トンと過去最高だった。
中央銀行の買いも止まっていない。中国人民銀行は9月に金保有量を約23トン増やし、23カ月連続で買い増した。ロシアは約6トン売ったと独ヘレウスなどが伝えている。整理すると、先週の下げで投げたのは短期の投機筋とETFの一部で、長期の買い手は残っている。投げ売りが出尽くしかけている形である。
水準の地図:3,940ドルが最後の砦
金先物の水準の地図(ドル/オンス)
読み方:オレンジは筆者が置いた線(撤退線と戻りの目標)、青は現値、灰色は参考水準。現値は全ての移動平均の下にある。移動平均は金先物(期近)の日足終値から本誌計算(10月26日まで)。200日線(4,530.8ドル)は図の範囲外。出所:本誌計算、ストーンX、インベスティングライブ、キットコ。
下から順に並べる。まず3,870ドル。調査会社インベスティングライブのジャスティン・ロー氏が指摘する100週移動平均で、2023年10月以来一度も試されていない。次に3,940〜3,960ドル。ストーンXのロナ・オコネル氏が支持線とする3,940ドルと、6月30日に金先物が付けた今年の安値3,955.4ドルが重なる帯である。そして3,975ドル、23日のスポットの安値だ。
上は、筆者が金先物の日足終値から計算した移動平均を見る。20日移動平均が4,148.8ドル、100日が4,257.8ドル、50日が4,333.9ドル、200日が4,530.8ドルだ。現値はすべての移動平均の下にある。ストーンXは上値の抵抗帯を4,298〜4,498ドルと見ている。14日RSI(相対力指数)は34.7で、売られすぎの目安とされる30には届いていない。カナダBCAリサーチのルカヤ・イブラヒム氏はキットコに対し、4,000ドルが分岐点で、売られすぎではあるが「テクニカル要因で大きく跳ねることはない」と述べた。
筆者の見立て:やや強気、戻りの目標は4,150ドル
筆者は今週の金をやや強気とみている。4,000ドルを割り込む場面はあっても3,940ドルの帯で止まり、FOMCを通過したあとに20日移動平均の4,150ドル近辺まで戻すのが本線だ。根拠は3つある。
- 投げが一巡しかけている。投機筋の買い越しは8週で約3割減った。売る側の玉が細っている。
- 下げの理由が金の外にある。22日の下げは株の急落に伴う現金化で、金利と実質金利はむしろ下がった。株が落ち着けば売りの理由も消える。
- 今週の利上げはほぼ織り込まれていない。ヤルデニ・リサーチによると、CMEの金利先物から計算した今週の利上げ確率は約9%だ。FRB(米連邦準備制度理事会)は9月16日に政策金利を3.75〜4.00%へ引き上げており、今回は据え置きが大勢である。据え置きなら、金にとって新しい悪材料にはならない。
もちろん反対の材料もある。12月の利上げはかなり織り込まれており、ブリオンヴォルトとキットコによれば年内に少なくとも1回の利上げの確率は約8割だ。FOMCの声明や記者会見が12月の利上げを強く示せば、戻りは4,075ドル前後で止まるだろう。戻りの幅は控えめに見ておく。
逆になったら:3,940ドル割れの終値で撤退
撤退の線は明確にしておく。金先物の終値が3,940ドルを割り込んだら、この見立ては間違いだ。その場合、次の目安は100週移動平均の3,870ドルになる。株の急落がもう一度来て現金化の売りが再開する、あるいはFOMCが今回すぐの利上げに踏み切る。どちらかが起きれば、3,940ドルの帯は持たないとみる。
円建ての金にも触れておく。田中貴金属工業の27日9時30分時点の金の店頭小売価格(税込み)は1グラム=2万2,583円、買い取り価格は2万2,226円だった。時事通信によると1月29日には3万248円を付けており、そこから25.3%安い。ドル円は27日昼に157円台後半で、円安が円建て価格の下げをいくらか和らげている。ドル円の見通しは今朝の記事で扱った。なお、田中貴金属工業のウェブサイトは27日朝からセキュリティー上の理由で停止しており、価格は告知ページとLINEで公表されている。
今週の監視リスト
| 日時(日本時間) | イベント・水準 | 見るところ |
|---|---|---|
| 随時 | 金先物3,940ドル/4,150ドル | 終値で3,940ドルを割れば撤退。4,150ドルは戻りの目標 |
| 10月29日 3時 | FOMCの結果発表(3時30分から記者会見) | 12月の利上げへの言及の強さ |
| 10月29日 21時30分 | 米7〜9月期GDP速報値、9月の個人消費支出(PCE)物価 | 物価と金利の次の材料 |
| 10月29日 22時15分 | 欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表 | ドルの方向 |
| 10月30日 | 日銀の金融政策決定会合 | 円建ての金価格 |
| 10月31日 早朝 | CFTCの建玉報告(10月27日時点分) | 投機筋の買い越しの減少が9週目に入るか |
4,000ドルをめぐる先週末までの攻防は24日の記事に、ドル安なのに金が下げた理由はこちらにまとめた。
主な参照
- 投機筋の建玉(10月20日時点)/米商品先物取引委員会(CFTC)
- GLDの金保有量/SPDRゴールド・シェア
- 米国債利回り・実質利回り/米財務省
- 政策金利(2026年9月16日の決定)、FOMCの日程/FRB
- 値決め価格の週間の下げ、22日の現金化の売り、利上げ確率、シールズ氏の発言/ブリオンヴォルト
- 23日の安値、ブレント原油の終値、イブラヒム氏の発言/キットコ、同
- 支持線と抵抗帯、投機筋の先物のみの建玉/ストーンX
- 100週移動平均/インベスティングライブ
- 今週の利上げ確率(CMEの金利先物から計算)/ヤルデニ・リサーチ
- 世界の金ETF残高/ワールド・ゴールド・カウンシル
- 国内の金価格(27日9時30分)/田中貴金属工業、1月29日の最高値/時事通信
データ基準日:金先物は2026年10月26日の終値と、27日の東京時間11時44分の取引時間中の値。移動平均とRSIは金先物(期近)の日足終値から本誌が計算したもので、算出元によって差が出る。最高値からの下落率25.75%はロンドンの値決め価格の最高値(5,405ドル)が基準で、スポットの日中の最高値(5,594.82ドル)を基準にすると約28%になる。利上げ確率は情報源によって差があり、CMEのツールを本誌が直接確認したものではない。中央銀行の売買は報道にもとづく。見立ては筆者の見方であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














