10月26日月曜、15時30分の東京。ソフトバンクグループ(9984)は4,263円で取引を終えた。前営業日比13円安、5営業日続落で、終値としては4月14日以来の安値である。6月2日に付けた年初来高値9,074円から53%下の位置である。ところがその9時間半後、夜間取引の私設市場(PTS)では4,443円の値が付いていた。終値から4.22%高い。株価を動かしたのは、東京の取引が終わったあとに海外で起きた出来事だった。
本稿は、売られすぎの水準まで沈んだソフトバンクGがこの夜に見せた反発の兆しを、時間を追って組み直す。あわせて、同じ夜に別の理由で買われた信越ポリマー(7970)にも触れる。火曜の東京で注目すべき2銘柄である。
月曜15時30分、5日続落の終値
月曜の東京市場は、日経平均が503円51銭安の6万2,189円65銭で引けた。ソフトバンクGの下げ幅は0.30%と小さかったが、出来高は4,630万株に膨らんでいた。下げ幅の小ささは安心材料ではなかった。前週23日には一時3,962円まで売られ、4,000円の節目を割り込んでいたからである。その経緯は23日の記事で追った。
株探の日足データで数字を並べると、沈み方の深さがわかる。9月25日の終値6,150円から1カ月で30.7%安。直近25営業日の終値平均(25日移動平均)は5,649円で、26日の終値はそこから24.5%下にある。75日移動平均も5,651円とほぼ同じ水準で、短期と中期の平均線の両方から4分の1近く離れた。値動きの勢いを測るRSI(14日、ワイルダー方式)は29.0で、目安とされる30を下回った。
移動平均からの乖離率とは。株価が過去一定期間の平均値からどれだけ離れているかを示す。マイナスが大きいほど短期間に売り込まれたことを意味する。ソフトバンクGのように値動きの大きい銘柄では、−20%を超える乖離はまれである。ただし乖離が大きいことは、反発を約束するものではない。
市場の不安は株価の外にも表れていた。株探が26日朝に配信したMINKABU PRESSの記事は、同社の信用リスクを映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率がおよそ4年ぶりの高水準に上がったと伝えている。信用取引の買い残も多い。株探によると信用倍率は10.55倍で、買い残が売り残の10倍を超える。株価が戻れば、買い方の戻り売りが待っている構図だ。
22時24分、ワシントンに届いた書類
東京の引けから7時間ほどたった日本時間22時24分、米証券取引委員会(SEC)の開示システムに、AI開発企業アンソロピックの新規株式公開(IPO)の届出書(S-1)が掲載された。ロイターは同社がIPOを申請したと報じ、ニューヨークの株式市場ではAI関連株が買われた。寄り付き後1時間の動きはこの記事にまとめた。
ここで一つ断っておく。ソフトバンクGはアンソロピックの株主として知られているわけではない。同社が巨額を投じているのは競合のオープンAIである。それでも届出書の提出が効いたのは、未上場のAI企業に公開市場の値段が付く道筋が見えたからだ。オープンAIについては、CNBCが米国時間22日、最大300億ドルの資金調達を評価額1.25兆ドル(調達前)で協議していると報じている。未上場株の評価に頼るソフトバンクGにとって、AI企業の「値札」が市場で確かめられることは、株価の土台にかかわる。
週末には別の材料も出ていた。マレーシアのアンワル首相が、ソフトバンクGが同国にAI・技術分野で500億ドルを投資する計画だと述べたと、ブルームバーグとCNBCが報じている。同社自身の発表は確認できておらず、規模も時期も報道ベースの話である。
ニューヨークの夜、半導体とアームが走る
同じ夜のニューヨークは、AI関連株の反発の日になった。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は2.82%高の1万1,083.47で取引を終えた。S&P500種株価指数は0.70%高、ナスダック総合株価指数は0.82%高である。ソフトバンクGが約9割を保有する英半導体設計大手アームの株価は、Googleファイナンスの日本時間27日7時50分時点の気配で223.35ドル。前日の終値210.33ドルから約6%高い。
米店頭市場で取引されるソフトバンクGの米国預託証券(ADR、ティッカーSFTBY)は13.98ドルで引けた。前日の13.42ドルから4.17%高い。PTSの上げ幅4.22%とほぼ重なる。東京の投資家が眠っているあいだに、海を越えた二つの市場が同じ方向を指していた。
10月26日〜27日、ソフトバンクGをめぐる夜(日本時間)
読み方:東京の取引が終わってから、PTSとADRの上げまでの約10時間に海外の材料が重なった。出所:株探、米証券取引委員会、Googleファイナンス、米連邦準備制度理事会。
一度だけあった前例——2025年11月25日
過去1年でソフトバンクGが25日移動平均からこれほど離れたのは、2025年11月25日の一度だけである。終値は3,847円、乖離率は−31.6%だった。株探の日足データでその後を追うと、翌日は5.7%高、10営業日後には22.2%高まで戻した。だが20営業日後には上げ幅が15.2%に縮み、40営業日後には5.7%高まで押し戻されている。
前例:2025年11月25日(25日線乖離−31.6%)からの騰落率
読み方:起点は2025年11月25日の終値3,847円。戻りは10営業日後が最も大きく、その後は縮んだ。前例は1回だけであり、統計ではない。出所:株探の日足終値から本誌計算。
反発は鋭かったが、長続きはしなかった。この前例が語るのはそれだけである。ただし、たった一度の例であり、統計と呼べるものではない。当時と今では、オープンAIの評価額も、同社の借り入れの規模も、金利の水準も違う。それでも、売られすぎからの戻りは「最初の2週間が勝負で、その後は失速しやすい」という形が一度あったことは、記憶にとどめておく価値がある。
火曜の東京で見るべきは、PTSで付いた4,443円が寄り付き後も保たれるかどうかだ。保たれても、25日移動平均の5,649円まではまだ21.4%の距離がある。下では、4月14日の終値4,242円と、23日の取引時間中の安値3,962円が、これまで株価が踏みとどまった跡として残っている。8営業日で25%下げた局面から続く下落の流れが変わったと言えるのは、まだ先である。
同じ頃、15時30分の適時開示——信越ポリマー
ソフトバンクGが売られすぎの側から戻りを試す銘柄だとすれば、もう一つの注目株は、決算で熱を帯びた側にいる。信越ポリマーは26日15時30分、取引終了と同時に東京証券取引所の適時開示で4〜9月期決算と通期予想の上方修正を発表した。
2027年3月期の予想は、売上高を1,200億円から1,270億円へ、営業利益を160億円から182億円へ、純利益を105億円から118億円へ引き上げた。1株利益の予想は130.64円から146.82円になる。会社は理由として、半導体関連の容器やラッピングフィルムの販売が好調に推移していることを挙げた。4〜9月期の営業利益は93億5,400万円で前年同期比31.6%増、半導体ウエハーの搬送容器などを扱う精密成形品事業の営業利益は21.9%増だった。
信越ポリマー、2027年3月期予想の修正率(従来予想比)
読み方:売上高の上方修正は5.8%にとどまるが、利益は12〜14%上方修正された。増収分の多くが利益に残る形である。出所:信越ポリマーの適時開示(2026年10月26日15時30分)から本誌計算。
配当も増やす。年間配当の予想は66円から72円へ、前期の62円から10円の増配になる。同時に、上限45万株(発行済み株式の0.56%)、12億5,000万円の自社株買いを10月27日から12月31日まで実施すると発表した。ただし開示資料によれば、この自社株買いの目的はストックオプションの行使に備えた株式の確保であり、株主還元を主眼としたものではない。
市場の期待との距離も測っておく。マネックス証券の銘柄スカウターが示すコンセンサスの1株利益は136.8円で、新しい会社予想はそれを7.3%上回る。株探によると、PTSでは26日23時50分時点で2,385円と、終値2,236円から6.66%高かった。この値段では、新しい1株利益に対する株価収益率(PER)は16.2倍になる。年初来高値は7月1日の2,547円で、PTSの値段はそこから6.4%下にある。
信越ポリマーは信越化学工業の子会社である。その親会社は27日に決算を発表する予定だ。子会社が「半導体の箱」の好調を数字で示したあとで、親会社がシリコンウエハーの需要をどう語るかが、次の場面になる。信越化学の決算の見どころはこちらの記事で整理した。
エピローグ——火曜の朝に残る問い
二つの銘柄は対照的だ。ソフトバンクGの戻りは、会社の業績ではなく、海の向こうのAI企業の値札とアームの株価に支えられている。信越ポリマーの上げは、自社の決算という一次情報に支えられている。前者は材料が外にあるぶん振れやすく、後者は材料が手元にあるぶん確かめやすい。
残された問いは三つある。第一に、ソフトバンクGのPTSの上げが東京の現物市場でも保たれるか。信用倍率10倍超という需給は、戻り売りの厚さを示している。第二に、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が日本時間29日午前3時に出るまで、AI関連株の反発が続くか。第三に、ソフトバンクG自身が11月10日の決算発表でオープンAIへの投資の評価をどう示すか。信越ポリマーについては、27日に発表される親会社の決算が、半導体材料の需要という同じ物語の続きを語るかどうかである。
主な参照
- ソフトバンクG・信越ポリマーの日足(終値・高値・安値・出来高)/株探(9984)、株探(7970)
- PTSの気配と信用倍率/株探(9984)、株探(7970)
- CDS保証料率が約4年ぶりの高水準(MINKABU PRESS、10月26日)/株探
- オープンAIの評価額1.25兆ドル(CNBC報道の引用)/株探
- ADR(SFTBY)とアーム(ARM)の株価/Googleファイナンス
- 信越ポリマーの業績予想・配当予想の修正/TDnet
- 信越ポリマーの4〜9月期決算短信/TDnet
- 信越ポリマーの自己株式取得/TDnet
- 信越ポリマーのコンセンサス予想/マネックス証券 銘柄スカウター
データ基準日:東京市場の株価は2026年10月26日の終値。PTSの値段はソフトバンクGが27日1時6分、信越ポリマーが26日23時50分時点の気配で、取引時間中の値であり終値ではない。米国の株価指数は26日の終値、アームの株価は27日7時50分時点の気配で時間外取引を含む可能性がある。移動平均・乖離率・RSI・前例の騰落率は株探の日足終値から本誌が計算した。CDSの水準、マレーシアへの投資計画は報じられている内容であり、ソフトバンクGによる発表は確認していない。前例は1回のみで、将来の値動きを示すものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















