10月23日金曜、午前9時12分、東京。ソフトバンクグループ(9984)の株に、この日最初の値段が付いた。4,000円。前日の終値4,305円から7%余り安い。4分後の9時16分には3,962円まで下げた。株探によると、4月14日以来、半年ぶりの安値圏である。同社がオープンAIへの最後の100億ドルを払い込んだ10月1日、株価は6,701円で取引を終えていた。それから3週間あまりで、4割近くが消えた計算になる。
引き金を引いたのは、海の向こうの数字だった。米国時間22日、CNBCは関係者の話として、オープンAIが最大300億ドルの資金調達の最終段階にあると報じた。資金を入れる前の企業価値は1兆2,500億ドル。1カ月前には1兆4,000億ドルという数字が報じられていた。東京の投資家が目を覚ましたとき、世界で最も高い値の付いた未上場企業の値札は、報道ベースで1,500億ドル分小さくなっていた。
ニューヨークの午後:1兆2,500億ドルという数字
報道の中身を整理しておく。CNBCを引用した米インベスティング・ドットコムと米テッククランチによると、今回の調達を主導するのは米投資会社コーチュとアラブ首長国連邦(UAE)の投資家だ。規模は最大300億ドルで、最終的な額はまだ詰めている段階だという。オープンAIはこの調達を、株式上場(IPO)の前の「機会をとらえたつなぎ」と位置づけている。
サラ・フライヤー最高財務責任者(CFO)は社員に対し、上場は2027年になりうると伝えたとされる。テッククランチは、オープンAIが6月に上場に向けた書類を非公開で提出していたことにも触れている。上場を急がず、未上場のまま資金を集める道を選んだ形だ。
注意したいのは、1兆4,000億ドルという数字の性格である。ブルームバーグが9月下旬に報じた際も、条件は交渉中だった。ロイターは今週、オープンAIが1兆4,000億ドルを上回る評価を求めていると伝えている。確定した値段が下がったわけではない。交渉の途中で語られていた値札が、着地の間際に低くなった、というのが正確な描写だ。それでも、市場はこの差を見逃さなかった。
オープンAIの値札とソフトバンクグループの出資(2026年)
読み方:上から下へ時間が流れる。2月の契約から10月1日の払い込みまでは値札が上がる方向の出来事、10月15日以降は信用市場と評価額の報道が株価を押し下げた出来事である。出所:ITメディア、テッククランチ、インベスティング・ドットコム(CNBCを引用)、ブルームバーグ、株探、ヤフー・ファイナンス。
巻き戻し:2月の契約から10月1日の払い込みまで
話は2月27日にさかのぼる。ソフトバンクグループはこの日、オープンAIへの300億ドルの追加出資で合意した。払い込みは100億ドルずつ3回。第1弾が4月1日、第2弾が7月1日、そして最後の第3弾が10月1日だった。ITメディアによると、累計の出資額は646億ドル(約10兆2,000億円)に達し、持ち分は約13%になった。
その間の3月、オープンAIは1,220億ドルを調達し、出資後の企業価値は8,520億ドルと評価された。ソフトバンクグループの投資家にとって、オープンAIの値札が上がることは、そのまま保有資産の値上がりを意味する。8,520億ドルから1兆4,000億ドルへ。秋の報道は、その期待を一段押し上げるものだった。
最後の100億ドルには、借りたお金が充てられた。同社は9月24日、ドル建てとユーロ建ての社債で合計約111億ドルを調達すると発表している。ブルームバーグは、これを高利回り債(投資適格に満たない格付けの社債)として過去最大の発行と伝えた。払い込みの原資は社債であり、社債の利払いはソフトバンクグループが負う。オープンAIの値札と、同社の借金の重さは、ここで一本の線につながった。
10月の3週間:AIの借金に値札が付いた
10月に入ると、空気が変わった。舞台は株式市場ではなく、信用市場だった。AI向けのデータセンターを借金で建てる「ネオクラウド」の代表格、米コアウィーブの債務の保証料(クレジット・デフォルト・スワップ、CDS)が10月15日、過去最高の水準に跳ね上がった。ブルームバーグは、5年物のCDSが一時1,194.5ベーシスポイントに達し、5年以内の債務不履行の確率を6割超と織り込む水準だと報じた。この日の東京の空気は、本誌10月15日の記事に記録してある。
同じ日、ソフトバンクグループの株価は9.33%下げた。株探は、9月に巨額の高利回り債を発行した同社のCDSのスプレッド(上乗せ金利)が「コアウィーブ・ショック」を受けて拡大し、株の買い手控えにつながっていると伝えている。AIに投じた資金をどこまで回収できるのか。市場の問いは、事業の夢から、借金の返し方へと移っていた。
株価の階段は、日足で見るとはっきりしている。10月1日の6,701円から、9日に5,803円、13日に5,310円、15日に4,852円、20日に4,554円。22日には米メタ・プラットフォームズとテスラの決算を受けてAIへの過剰投資への懸念が再燃し、ナスダック総合指数は2.60%下げた。
| 日付 | ソフトバンクグループの終値 | 前日比 | その日の出来事 |
|---|---|---|---|
| 10月1日(木) | 6,701円 | +4.21% | オープンAIへの第3弾100億ドルを払い込み |
| 10月9日(金) | 5,803円 | −3.92% | — |
| 10月13日(火) | 5,310円 | −8.50% | — |
| 10月15日(木) | 4,852円 | −9.33% | コアウィーブのCDSが過去最高と報道 |
| 10月20日(火) | 4,554円 | −6.01% | — |
| 10月22日(木) | 4,305円 | −6.86% | 米国でAI関連株が急落、夜にオープンAIの評価額報道 |
| 10月23日(金)前場 | 4,042円 | −6.11% | 一時3,962円、4月14日以来の安値圏 |
二つの読み方:つなぎの資金か、値下げの始まりか
この報道には、二つの読み方がある。一つは、オープンAIの側の言い分だ。今回の調達は上場前のつなぎであり、大口の投資家が並んでいる。CNBCによれば、UAEからの資金は計算能力の追加確保の取引と結びつく可能性もある。1兆2,500億ドルは、3月の8,520億ドルを依然として大きく上回る。半年余りで5割近い値上がりである。この立場に立てば、23日朝の東京の売りは、交渉途中の数字の差に反応しすぎたことになる。
もう一つは、信用市場の側の見方だ。AIへの投資は、借金で支えられる部分が大きくなっている。コアウィーブの保証料が示すように、貸し手は回収の確度に厳しい値札を付け始めた。そうした中で、最大の未上場AI企業の値札が交渉の終盤で下がった。この立場に立てば、1,500億ドルの差は、AIの値付けがこれ以上は上がりにくいという最初の合図になる。
ソフトバンクグループの株主にとって、差の大きさは単純な掛け算で見えてくる。持ち分の約13%を、報道された二つの評価額の差1,500億ドルに掛けると、およそ195億ドル。1ドル157円で約3兆円になる。資金を入れる前の評価額で、今後の調達による持ち分の希薄化も考えない粗い計算だ。それでも、同社の株価が日々大きく動く理由を説明するには十分な大きさである。
23日朝の東京:売りは寄り付きで出尽くしたか
9時12分の4,000円は、取引開始から12分遅れて付いた値段だった。9時16分に3,962円の安値を付けたあと、株価は戻りを試し、9時48分には4,134円まで上げた。前場の終値は4,042円、263円安。前場の出来高は4,060万8,800株に達した。安値からの戻りは80円にすぎない。それでも、寄り付きの売りを買い向かう向きがいたことは数字に残っている。
同じ前場、日経平均株価は1,168円14銭安の6万1,739円70銭で終えた。寄り付き直後の市場全体の様子はこちらの記事に、10月19日までの下げの経緯はこちらにまとめてある。年初来安値は3月23日の3,365円で、6月2日に付けた年初来高値の9,074円からは、23日前場の終値で55%安い水準にいる。
エピローグ:残された問いと、次の日付
オープンAIの調達はまだ署名に至っていない。最終的な規模も、評価額も、変わる余地がある。CNBCによると、競合の米アンソロピックは11月の上場が見込まれ、最大2兆ドルの評価を求めていると報じられている。同じAIの値札が、片方では下がり、片方では上がる。どちらが市場の本当の値段なのかは、上場の日に初めて分かる。
ソフトバンクグループ自身が口を開くのは、11月10日(火)だ。同社は15時30分に4〜9月期の決算短信を開示し、16時30分から決算説明会を開く予定である。オープンAIの持ち分をどう評価し、社債の重さをどう説明するのか。10月1日に最後の100億ドルを払い込んだ会社が、その3週間後に付いた値札をどう語るのか。東京の投資家が次に待つのは、その言葉である。
主な参照
- オープンAIの資金調達(最大300億ドル、出資前評価額1兆2,500億ドル、主導投資家、3月の調達、上場時期)/インベスティング・ドットコム(CNBCを引用)、テッククランチ
- 9月下旬の1兆4,000億ドルの報道/テッククランチ(ブルームバーグを引用)
- ソフトバンクグループのオープンAIへの追加出資完了、累計646億ドル、持ち分約13%、社債による調達/ITメディア
- コアウィーブのCDSが過去最高/ブルームバーグ、CNBC
- 23日前場のソフトバンクグループの値動き、CDSスプレッドの拡大、4月14日以来の安値圏/株探(MINKABU PRESS)
- 株価(日足の終値、前場の値)/株探、ヤフー・ファイナンス
- 2027年3月期第2四半期の決算発表日程(11月10日)/ソフトバンクグループ
データ基準日:2026年10月23日の東京市場の前場終値(11時30分)。23日の株価と出来高は取引時間中の値で、大引けの終値ではない。オープンAIの資金調達の規模と評価額は関係者の話にもとづく報道であり、会社は公式に発表していない。1兆4,000億ドルも交渉中に報じられた数字である。持ち分の差額(約195億ドル、約3兆円)は報道された二つの評価額の差に持ち分約13%を掛けた単純計算で、希薄化や評価方法の違いは考慮していない。円換算は1ドル157円で行った。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















