10月19日月曜、午前9時38分。東京・日本橋兜町の取引画面で、ソフトバンクグループ(SBG、9984)の株価が4,622円を付けた。前週末の終値から6.5%安い。12日前の10月7日、同じ画面には6,310円が表示されていた。孫正義会長兼社長がOpenAIへの最後の100億ドルを払い込んでから、まだ3週間もたっていない。
前引けは4,701円、4.92%安。10月7日の終値からは8営業日で25.5%の下落になった。株価が見ているのは、7月30日に付けた年初来の節目、4,500円である。そこまで残りは201円しかない。この12日間に何があったのかを、時計を巻き戻してたどる。
ソフトバンクG株の10月(終値、19日は前引け)
読み方:12日間で下げた日は5回、そのうち2回は8%を超えた。下げの節目にはいつもOpenAIとアーム、AI関連の社債という3つの材料があった。出所:株探の日足、ソフトバンクグループの発表、インベスティング・ドットコム日本版、株探、ロイター。
10月1日、最後の払い込み
物語は10月1日の朝に始まる。SBGはこの日、傘下のビジョン・ファンド2を通じ、OpenAIへの第3回にして最後の出資100億ドル(約1兆5,796億円)を実行したと発表した。資金は外貨建ての普通社債で手当てした。これでOpenAIへの累計出資は646億ドル、持ち分は約13%になる。
市場はこの日、払い込みを好感した。SBG株は6,701円で取引を終え、9月以降の戻り高値圏にいた。9月14日にはOpenAIの上場時期をめぐる観測で10.72%安となったが、その後は6,000円台を回復していた。この時点で、孫氏の賭けは株価の上でまだ勝ち越していた。
SBG自身の帳簿も強気の材料を並べていた。同社が開示している6月末時点の株主価値(NAV)は1株あたり1万2,686円。当時の参照株価5,963円の2倍強である。借入の重さを示すLTV(保有資産に対する純負債の比率)は13.0%で、会社が平時の上限とする25%を大きく下回る。紙の上では、株価は資産価値の半値以下で放置されていた。
10月8日、500億ドルという数字
流れが変わったのは10月8日だった。英フィナンシャル・タイムズが、OpenAIの年換算の売上高が約500億ドルにとどまると報じた。市場が期待していたのは700億ドル前後である。SBG株は8日に4.28%安、9日に3.92%安と続落した。払い込んだばかりの646億ドルの裏付けとなる、肝心の売上が細って見えた。
連休明けの13日、売りが一気に出た。インベスティング・ドットコム日本版は昼過ぎ、SBG株が8.0%安の5,337円で推移していると伝えた。米国の半導体株安がアジアに波及し、OpenAIの売上をめぐる懸念が、SBGのAI投資を支える高利回り債への不安を呼んだという。同社のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)はすでに数年来の高水準にあった。終値は5,310円、8.50%安。
10月15日、コアウィーブ・ショック
2つ目の山場は15日だった。前夜の米国市場で、SBGが約9割を保有する英半導体設計会社アームの株価が6.81%下げた。同じ頃、AI向けデータセンターを運営する米コアウィーブの社債が額面を大きく割り込み、利回りが15%台に跳ね上がっていた。株探はこれを「コアウィーブ・ショック」と呼び、社債の動揺がオラクルやSBGの社債にも広がったと伝えている。
日本経済新聞によると、SBG株はこの日の午前に9.54%安の4,840円まで売られ、7月30日以来の安値を付けた。終値は4,852円、9.33%安。日経平均は3,318円34銭下げ、年初来最大の下落幅を記録した。コアウィーブ社債の急落は、AIへの投資を「借金で賄う」仕組みそのものに値札を付け直した出来事だった。
翌16日、SBG株は1.90%高の4,944円と小さく戻した。だがその夜、米国でアームが再び6.94%下げ、227.80ドルで引けた。10月9日の終値266.28ドルからの下落率は14.4%になる。6月末時点のSBGの資産のうち、最大の柱はアーム株で、評価額は資産担保の借入を差し引いても49.91兆円だった。アーム株が下がれば、SBGの資産価値は自動的に目減りする。
週末、孫正義の次の一手
市場が動揺するなかで、孫氏の視線は別の場所にあった。米ブルームバーグ通信は日本時間17日、SBGが米警備最大手アライド・ユニバーサルの買収を検討していると報じた。ロイターが伝えた同報道によると、企業価値の評価は約180億ドル。株探は、負債を含めた買収総額が300億ドル近くになる可能性があると伝えている。協議は初期段階で、価格を含めて何も決まっていない。SBGはコメントを控えた。
狙いとして報じられているのは、警備の現場にAIとロボットを持ち込むことだ。孫氏が繰り返し語ってきた「AIが物理世界に出ていく」構想の延長線上にある。週明けの東京で、この報道に最も素直に反応したのはSBG自身ではなかった。SBG傘下のソフトバンクロボティクスとAI警備で資本・業務提携する警備会社アール・エス・シー(4664)が、一時ストップ高まで買われた。
強気の帳簿と、慎重な債券市場
ここで、この物語の対立軸を整理しておく。一方には、SBGの帳簿がある。6月末時点でLTVは13.0%と低く、OpenAIへの出資はすでに払い込みを終えた。新たに巨額の現金が必要になる約束は表に出ていない。帳簿が語るのは「下がりすぎた資産株」の物語である。
もう一方には、債券市場がある。AI投資を社債で賄う企業の信用に、市場はこの2週間で厳しい値札を付け始めた。OpenAIの売上は期待を下回ったと報じられ、アームの株価は1週間で14%下げた。そこへ数百億ドル規模の買収検討が報じられる。債券市場が語るのは「借金で走り続ける投資会社」の物語だ。
NAVの数字は6月末のアーム株とOpenAI評価にもとづいており、その後の下落を織り込んでいない。そのため、今日の株価4,701円と1万2,686円をそのまま比べることはできない。どちらの物語が正しいかを決めるのは、次の決算で示されるNAVとLTVの実際の数字である。
| 項目 | 数値 | 時点・出所 |
|---|---|---|
| 株価(前引け) | 4,701円(−4.92%) | 10月19日11時30分、株探 |
| 10月7日終値からの下落率 | −25.5% | 8営業日、株探の日足から本誌計算 |
| 25日移動平均からの乖離 | −22.4% | 移動平均6,054円、本誌計算 |
| 相対力指数(RSI、14日) | 約33 | 本誌計算、30以下が売られすぎの目安 |
| 7月30日の安値 | 4,500円 | 株探の日足 |
| 1株あたりNAV | 1万2,686円 | 6月30日時点、SBG開示 |
| LTV | 13.0% | 6月30日時点、SBG開示 |
| OpenAIへの累計出資 | 646億ドル(持ち分約13%) | 10月1日、SBG発表 |
月曜の朝、それでも売られた理由
19日の前場は、SBGにとって居心地の悪い時間だった。日経平均は朝方に1,492円安まで売られたあと、先物への買いで約700円戻した。キオクシアは5%安から上げに転じ、アドバンテストも下げ幅を半分以下に縮めた。そのなかで、SBGは寄り付きの4.25%安から下げ幅を広げている。前場の売買代金は1,514億円にのぼった。
前週末のアーム安と週末の買収報道が、月曜朝の東京で同時に値段に変わった形だ。同じ前場の値動きは前場の番付で詳しく扱った。半導体株が戻るなかでSBGだけが戻らなかったことは、この銘柄の売りがAI半導体の景気とは別の理由、つまり財務への不安にも根を持つことを示している。
エピローグ——残された3つの日付
物語の次の場面は、カレンダーの上にすでに書き込まれている。1つ目は日本時間22日の朝だ。米メタ・プラットフォームズが決算を発表し、AIへの設備投資の計画を示す。巨大テック企業の投資意欲は、OpenAIやアームの評価、ひいてはSBGの資産価値の前提になる。
2つ目は、アライド・ユニバーサルをめぐる続報である。買収が正式に発表されるのか、それとも検討段階で消えるのか。規模が報道どおりなら、資金の手当てがLTVにどう響くかが次の論点になる。3つ目は11月10日に予定されている7〜9月期決算だ。9月末時点のNAVとLTVが、6月末からどこまで動いたかが明らかになる。
それまでの間、株価が向き合うのは7月30日の4,500円だ。7月はこの水準から8月5日の5,958円まで、4営業日で3割戻している。同じ反発が再び起きるのか、それとも節目を割り込んで新しい章が始まるのか。値動きの数字そのものを追いたい読者は、9月14日の急落の記事と湾岸投資家への資金打診の記事もあわせて読んでほしい。
主な参照
- SBG株の日足と10月19日前場の値/株探
- OpenAIへの第3回出資の実行(累計646億ドル、持ち分約13%)/ソフトバンクグループ
- 株主価値(NAV)とLTV(2026年6月30日時点)/ソフトバンクグループ
- 10月13日の下落と理由(OpenAIの売上報道、CDS)/インベスティング・ドットコム日本版
- 10月15日の安値4,840円/日本経済新聞
- コアウィーブ・ショックとSBG社債への波及/株探
- アライド・ユニバーサル買収検討の報道/ロイター(ブルームバーグ報道の引用)、株探
- 決算発表日(11月10日)/ソフトバンクグループ
- アーム株の日足/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月19日の東京市場の前引け(11時30分)。19日の株価は前場の値であり、終値ではない。アーム株は米国市場の10月16日の終値。NAVとLTVは2026年6月30日時点の会社開示で、その後のアーム株やOpenAI評価の変動を反映していない。OpenAIの売上高に関する数字はフィナンシャル・タイムズの報道を引用したもので、OpenAIは公表していない。アライド・ユニバーサルの買収検討はブルームバーグの報道によるもので、SBGは公表しておらず、評価額は報道によって異なる。移動平均とRSIは本誌の計算である。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















