先週、米国の長期金利は1週間で0.19%も下がった。教科書どおりなら円が買われ、ドル円は155円台に落ちていてもおかしくない。ところが週明け19日の東京で、画面のドル円は157円98銭前後にいる。朝の始値157円92銭からほとんど動いていない。筆者はこの「動かなさ」こそが、いまのドル円でいちばん大事な情報だとみている。
結論から書く。筆者の見立ては、今後2週間は156円50銭〜159円50銭のレンジで、上値は重い。根拠は3つある。米金利が下がっても円が買われない一方で、159円台では当局の介入警戒が上値を抑える。そして日銀の10月利上げは、ほぼ織り込まれていない。撤退線は、159円50銭の終値での上抜けに置く。
テープ——米金利19bp低下、それでも158円
まず値動きを確認する。米財務省の公表値で、10年債利回りは10月7日の5.28%から16日には5.09%へ下がった。2年債も4.77%から4.74%へ低下している。同じ期間、欧州中央銀行(ECB)が公表するドル円の参照レートは158円23銭から158円02銭へ、わずか21銭しか動いていない。
日本の金利も下がった。財務省の公表値で、新発10年国債の利回りは10月8日の3.089%から16日には2.958%へ低下した。日米の10年金利差は、8日の2.13ポイントから16日も2.13ポイントと変わっていない。金利差が縮まらない以上、円を買う理由も生まれない。ドル円が158円に張り付いているのは、この数字の裏返しである。
| 日付 | ドル円(ECB参照レート) | 米10年債利回り | 日本10年国債利回り |
|---|---|---|---|
| 10月8日 | 158.28円 | 5.22% | 3.089% |
| 10月13日 | 158.12円 | 5.21% | 3.019% |
| 10月14日 | 158.45円 | 5.19% | 3.015% |
| 10月15日 | 157.98円 | 5.10% | 2.948% |
| 10月16日 | 158.02円 | 5.09% | 2.958% |
需給——159円の上に積まれた27兆円の記憶
上値を抑えているのは当局の影だ。財務省の公表によると、2026年の円買い介入は2回あった。4月28日〜5月27日の期間に11兆7,349億円、7月30日〜8月26日の期間に15兆3,993億円である。2回の合計は27兆1,342億円にのぼる。2回目の期間中だった7月31日のECB参照レートは160円24銭だった。
その後、ドル円は9月24日の海外市場で159円03銭を付けたが、そこで止まった。10月14日も米消費者物価指数(CPI)の上振れで159円手前まで買われたが、やはり抜けていない。160円に近づくほど、当局の「次の一手」を恐れて上で売る向きが増える。投機筋にとって159円台は、買い上がる場所ではなく利益を確定する場所になっている。
ただし、当局の口調はまだ穏やかだ。片山さつき財務相は16日、米財務省と連携しながら「秩序ある為替市場の維持に取り組んでいきたい」と述べたと報じられている。「断固たる措置」のような強い言葉は出ていない。筆者は、159円を明確に超えるまで口先介入は強まらないとみている。
ドル円の水準の地図(10月19日時点)
読み方:オレンジが筆者の置く2本の線、青が現在値、灰色が過去の節目。159円台は2度止められ、160円台は介入期間中に付いた水準である。出所:欧州中央銀行の参照レート、みんかぶFX(19日の気配値)、本誌の過去記事(9月24日の高値)。
日銀は10月に動かない、と市場は読んでいる
下値を支えているのは日銀の日柄だ。政策金利は9月の利上げで1.25%になった。次の会合は10月29〜30日で、展望リポートも出る。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の集計として報じられたところでは、翌日物金利スワップ(OIS)が織り込む10月利上げの確率は約4%、12月までなら約8割である。円を買い上がる材料は、少なくとも月内には出にくい。
小枝淳子審議委員は15日、利上げに過度に慎重であるべきではないとの考えを示した。発言の中身は15日の記事で整理したが、市場はこれを「12月の利上げ」の材料として受け取り、10月の確率はほとんど動かしていない。一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)は10月27〜28日で、結果は日本時間29日午前3時に出る。市場は10月の据え置きを本線とみているとの報道が多いが、確率の数字は情報源によって幅がある。日米の会合が2日違いで並ぶ月末までは、どちらの通貨も決め手に欠ける。
筆者の見立て——レンジ、上は売り場
ここまでを踏まえ、筆者の見立てを数字で出す。今後2週間(10月30日の日銀会合まで)の確率は、156円50銭〜159円50銭のレンジ維持が55%、159円50銭を上抜けて160円を試すのが20%、156円50銭を割り込むのが25%とみる。下に厚めにしたのは、23日の全国CPIが上振れれば12月利上げの確率が上がり、円買いのきっかけになるからだ。
| 期間 | 筆者の想定レンジ | 中心 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 2週間(〜10月30日) | 156.50〜159.50円 | 157.50〜158.50円 | 日米金利差は横ばい、上は介入警戒、日銀は10月見送り |
| 1〜2カ月(〜12月中旬) | 154.00〜159.50円 | 155〜157円台 | 12月の日銀利上げが約8割織り込み、米金利は5%台から低下基調 |
1〜2カ月の見立てを円高寄りにしているのは、米金利の向きである。10年債利回りは10月7日から1週間で0.19%下げた。この低下がもう一段進み、12月に日銀が動けば、金利差はようやく縮み始める。159円台で買った向きは、そのときに投げることになる。
逆になったら——撤退線は159円50銭
見立てが外れる筋書きも書いておく。ニューヨーク時間の終値で159円50銭を上抜けたら、筆者はレンジの見立てを撤回する。その場合は160円の節目と、7月末の介入期間中に付いた160円台前半がすぐに視野に入る。米国の物価指標や購買担当者景気指数(PMI)が強く、FOMCの利上げ観測が再び強まるような展開がそれにあたる。
逆に、156円50銭を割り込めば、9月9日に参照レートで付けた153円27銭までの下げを警戒する。個人投資家にとって大事なのは、この2本の線の外に出たときに考えを改めることだ。見立てに固執して押し目を買い下がるのは、相場でいちばん高くつく。
今週の監視リスト
| 日時(日本時間) | 材料 | 見るところ |
|---|---|---|
| 21日 8時50分 | 9月の貿易統計 | 貿易赤字の大きさ(実需の円売り) |
| 23日 8時30分 | 9月の全国消費者物価指数 | 上振れなら12月利上げ観測が強まり円買い |
| 23日 22時45分 | 米国の10月PMI速報値 | 強ければ米利上げ観測が戻りドル買い |
| 随時 | 財務相・財務官の発言 | 「断固たる」など言葉の強さの変化 |
| 29日 3時 | FOMCの結果 | 据え置きか利上げか |
| 30日 | 日銀の金融政策決定会合(展望リポート) | 12月利上げへの地ならしの有無 |
前回16日のドル円見通しはこちら、ユーロ円はこちらにまとめた。海外FX業者の比較はFX解説ページで扱っている。
主な参照
- ドル円の参照レート/欧州中央銀行(Frankfurter経由で取得)
- 米国債利回り/米財務省
- 日本国債の利回り/財務省
- 外国為替平衡操作の実施状況/財務省(4〜5月)、財務省(7〜8月)
- 片山財務相の16日の発言/みんかぶFX
- 日銀の利上げ確率(OIS)/Mitrade(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の集計)、みんかぶFX
- FOMCの10月据え置き観測/StockWireX、日程は米連邦準備制度理事会
- 19日のドル円の気配値/みんかぶFX
データ基準日:2026年10月19日11時45分ごろ(日本時間)。19日のドル円(始値157円92銭、高値158円08銭、安値157円70銭、11時45分ごろ157円98銭)は取引時間中の気配値で、終値ではない。ECBの参照レートは中欧時間14時15分時点の値で、市場の終値とは異なる。9月24日の159円03銭は海外市場で付いた取引時間中の値である。日銀の利上げ確率は報道された時点の値で、日々変わる。片山財務相の発言は報道によるもの。確率とレンジは本誌(筆者)の見立てであり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















