米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長は日本時間16日昼、10月の追加利上げについて何も約束しなかった。「会合の結果を前もって判断しない」。この一言で、米CPIと米PPIの上振れで膨らんだ10月利上げの見方は後退し、ドル指数は101.8台に下げた。それでもドル円は157円台後半から動かない。来週(10月19〜23日)と、日米の金融政策会合をまたぐ1カ月のドル円を、水準・日程・確率の3枚の図で読む。まず下の数字を見てほしい。
結論:来週は157〜159円の箱、1カ月では下抜けがやや優勢
ドル円の水準の地図(10月16日17時27分時点)
読み方:オレンジは本誌が置く1週間の箱の上限と下限(日足終値で判断)。159円00銭の上には200日線より強い壁はなく、抜ければ9月2日の高値160円38銭が視野に入る。出所:Yahoo Financeの日足高値・安値(ロンドン時間区切り)、200日線はDZHフィナンシャルリサーチの計算。取引時間中の値を含む。
本誌の基本線は、来週のドル円が156円95銭〜159円00銭の箱にとどまるというものだ。確率は55%と置く。上の壁は2つある。DZHフィナンシャルリサーチの計算で158円57銭にある日足の200日移動平均線と、9月24日の高値159円00銭近辺(10月14日の高値158円95銭もその手前で止まった)だ。下は10月5日の安値157円44銭、10月2日の安値156円95銭と段になっている。図の水準はYahoo Financeの日足の高値・安値と、DZHのテクニカル水準から本誌が拾った。
1カ月の見通しでは、箱を下に抜ける確率を上に抜ける確率よりやや高く置く。理由は、10月30日に日本銀行が利上げに動く余地が残る一方、FRBの10月利上げ観測はしぼんだからだ。ただし160円前後から上には、4月末(160円前後)と7月末(164円目前)に当局が円買い介入に動いた記憶がある。上も下も、抜けた先では値動きが荒くなりやすい。
ウォーシュ議長は何を言い、何を言わなかったのか
10月FOMCでの0.25%利上げの確率(CMEフェドウオッチ)
読み方:米CPI・PPIの上振れで33.2%まで上がった利上げ確率は、ウォーシュ議長が10月の判断を示さなかった16日に27.7%へ下がった。確率は取得時刻で変わり、CNBCは据え置き確率を72.3%と伝えた。出所:SBS(韓国)が引用したCMEフェドウオッチ(16日14時52分配信)。
発言の場は、バンコクで開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会での、ゲオルギエバIMF専務理事との対談だった。IMFの日程では現地時間16日10時30分から30分間で、日本時間では12時30分にあたる。AP通信によると、議長は「FRBは物価の安定を実現すると明確にしてきた」「約1カ月前に緩和の度合いを1段階取り除いた」と、9月16日の利上げに触れた。そのうえで「会合の結果を前もって判断しない」「今年残りの会合で何をするかを、いま言うつもりはない」と述べた。韓国SBSは「FRBの新しい章であり、もうそれ(事前の示唆)はしない」との発言を伝えている。CNBCは、各国の中央銀行がそろって引き締めに動き「ただ乗りする者はいない」と議長が評価したと報じた。
言わなかったことのほうが相場を動かした。SBSが引用したCMEフェドウオッチでは、10月の0.25%利上げの確率は16日時点で27.7%と、前日の33.2%から下がった。1週間前は17.7%だった。米CPI・PPIの上振れで一度は上がった利上げの見方を、議長は後押ししなかったことになる。Yahoo Financeの15分足では、ドル円は対談が始まった12時30分台の158円08銭近辺から、13時30分台に157円79銭近辺まで下げた。動いたのは30銭足らずで、ドル指数も102.05から101.82へ0.2ほど下げただけだ。驚きは小さかった。
ドル円が159円を抜けない理由:金利差が動いていない
10月1日→15日の金利の変化(bp)
読み方:日米とも長期金利は約14bp下がったが、差はほとんど変わっていない。2年債の差は2.84%ポイントから2.86%ポイントへ1.6bp広がっただけだ。出所:米財務省(イールドカーブ・レート)、財務省(国債金利情報)。いずれも各日の公表値から本誌計算。
10月に入ってから、日米の金利はどちらも下がった。米財務省の公表値で、米10年債利回りは10月1日の5.24%から15日に5.10%へ、財務省(日本)の公表値で日本の10年債は3.092%から2.948%へ、ほぼ同じ幅で下がっている。2年債も同じで、日米の2年債利回り差は15日時点で2.86%ポイントと、10月1日の2.84%ポイントからほとんど変わっていない。ドル円が157〜159円の箱から出られないのは、この金利差がまったく動いていないからだと本誌はみる。
上に抜けにくい理由はもう1つある。外為どっとコムに配信されたDZHの記事によると、片山財務相は15日、バンコクでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の後、「高い緊張感を持って金融市場の動向を注視する」と述べ、日米協調介入の時のメッセージから「全くぶれていない」と語った。一方で下にも抜けにくい。外為どっとコムの宇栄原宗平氏は、市場が来年9月までに日米とも3回の利上げを織り込み、金利差は縮まらない計算になると指摘する。円の実質金利がマイナスのままなら円は買われにくい。前回の米PPI後の記事で書いた「株安で米金利が下がる」流れは、日本の金利も一緒に下げるため、ドル円への効き目は小さい。
来週の日程:最大の材料は23日朝の全国CPI
来週と1カ月の主な日程(日本時間)
読み方:来週は日本の指標が中心で、FRBは発言を控える。1カ月の分かれ目は29日未明のFOMCと30日の日銀会合だ。出所:FRB、日本銀行、総務省統計局、財務省関税局、S&Pグローバル、米労働省。市場予想は外為どっとコム。
FRBの内規では、会合前の第2土曜日から高官は金融政策について発言しない。10月27〜28日の会合に向けて、17日からこの期間に入る。米国から新しい手がかりは出にくく、来週の主役は日本の指標になる。総務省の公表予定では、9月の全国消費者物価指数(CPI)は23日8時30分に出る。外為どっとコムによると、市場予想は総合・生鮮食品を除く総合(コア)とも前年同月比2.1%、生鮮食品とエネルギーを除く総合が2.3%だ。8月分は総合1.9%、コア1.7%だった。
先行指標の東京都区部9月分は、コアが8月の1.8%から2.7%へ跳ねた。ただし総務省の資料では、上昇幅0.9ポイントのうち水道料が0.24ポイント、保育所保育料が0.29ポイントを占める。どちらも東京都の施策の影響を受けやすい項目で、全国にそのまま当てはまるとは限らない。全国が予想を上回り、エネルギーを除く指数まで2%台半ばに乗れば、日銀の10月利上げの見方が強まって円買いの材料になる。小枝審議委員の講演で示された「利上げに過度に慎重になることはない」という論理を、数字が後押しするかどうかが焦点だ。
シナリオ:1週間と1カ月の確率
ドル円のシナリオ別の確率(本誌の見立て)
読み方:1週間では箱の中にとどまる確率が最も高い。1カ月では日銀会合をはさむため、上下に抜ける確率の合計が55%に広がる。確率は本誌の主観的な見立てで、市場の織り込みから計算したものではない。
| 期間 | シナリオ | 確率 | 想定レンジ | 引き金 |
|---|---|---|---|---|
| 1週間(〜10月23日) | 箱の中でもみ合い | 55% | 156.95〜159.00円 | FRBは発言を控え、全国CPIはほぼ予想どおり。日米の会合待ちで売り買いが細る |
| 1週間 | 下抜け(円高) | 30% | 156.40〜157.00円 | 全国CPIの上振れで日銀の10月利上げ観測が強まる。株安が続き、円の買い戻しが出る |
| 1週間 | 上抜け(円安) | 15% | 159.00〜160.00円 | 原油高と米金利の反発で10月利上げ観測が戻る。米PMI速報が強い |
| 1カ月(〜11月中旬) | レンジ継続 | 45% | 155.50〜159.50円 | FRBは10月据え置き・12月に含み、日銀も10月は据え置きで12月以降へ |
| 1カ月 | 円高 | 30% | 155円前後 | 日銀が10月30日に1.50%へ利上げし、FRBは据え置き。金利差が縮む |
| 1カ月 | 円安・介入の試し | 25% | 159.50〜160.50円 | 日銀が据え置き、FRBが12月利上げを強く示す。160円台で当局の対応が焦点になる |
1カ月の分かれ目は、日本時間29日3時のFOMCの結果と、30日の日銀の決定・展望レポートである。同じ30日の8時30分には東京都区部の10月分CPIが出る。財務省は同日、9月29日〜10月28日の為替介入の実績を公表する予定だ。9月は0円だったことは介入実績の記事でまとめた。
個人投資家向けチェックリスト:売り・買い・様子見の分岐点
| 見る材料 | 円高(下抜け)を支持 | 円安(上抜け)を支持 |
|---|---|---|
| 主要レベル | 日足終値で156.95円を割る | 日足終値で159.00円を上回る |
| 米2年債利回り | 4.70%を割る(15日は4.77%) | 4.85%を上回る(10月5日の4.84%超え) |
| 10月利上げ確率 | フェドウオッチで20%を割る | 35%を超えて戻る |
| 日本の物価 | 全国CPIのコアが2.1%を上回る | コアが2%を割り込む |
| 当局の発言 | 財務相・財務官の口先介入が強まる | 160円に近づいても発言が出ない |
- 日中の割れと終値の割れを分ける。157円台前半や159円ちょうどは、日中に一時的に抜けてすぐ戻る「だまし」が出やすい水準だ。判断はニューヨーク終値で行う。
- 23日8時30分の前後は様子見でよい。指標の直後はスプレッドが広がりやすい。発表前に大きな建玉を持ち越さない。
- 160円台はレバレッジを落とす。介入が入ると1日で数円動き、逆指値が想定より不利な価格で約定することがある。
- 介入かどうかは月末の財務省発表で確かめる。急な円高をすぐに介入と決めつけない。
この見方を捨てる条件。日足終値で159.00円を上回り、同時に米2年債利回りが4.85%を超えたら、箱の見立ても1カ月の下抜け優勢の見方も取り下げる。その場合は160円台での当局の対応が次の焦点になる。逆に156.95円を日足終値で割れたら、1週間の箱は崩れたとみて、9月30日の安値156円40銭近辺を次の目安に置く。
日米の金利差は、FXのドル円では毎日のスワップポイントとして受け払いされる。ドルを買う側が受け取り、ドルを売る側が支払う。円高に賭けて売る場合、箱の中で待つ間にもこのコストを払い続けることになる。口座開設の手順はFX解説ページで説明している。米CPI前に本誌が整理した金利差の反対尋問もあわせて読みたい。
主な参照
- ウォーシュ議長とゲオルギエバ専務理事の対談の日時/国際通貨基金(IMF)
- 議長の発言/AP通信、CNBC、フェドウオッチの確率と発言/SBS
- 9月16日のFOMC声明(誘導目標3.75〜4.00%)と2026年の会合日程/FRB、同
- 金融政策決定会合の日程(10月29〜30日、30日に展望レポート)/日本銀行
- 全国CPIの公表予定と8月分、東京都区部9月分/総務省統計局
- 9月の貿易統計の公表予定日/財務省関税局、PMI速報の公表時刻/S&Pグローバル、新規失業保険申請件数/米労働省
- 米国債利回り/米財務省、日本国債利回り/財務省
- 来週の見通し・市場予想・片山財務相の発言・テクニカル水準/外為どっとコム、同(DZHフィナンシャルリサーチ)、同
- ドル円とドル指数の値動き(日足・15分足)/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月16日17時30分(日本時間)。ドル円157.94円(17時27分)とドル指数101.81(17時17分)は取引時間中の値で、終値ではない。図の高値・安値はYahoo Financeの日足(ロンドン時間区切り)による。米国債と日本国債の利回りは各国財務省が公表する15日の値である。ウォーシュ議長の発言は報道に基づく。対談は講演原稿のない形式で、本稿執筆時点でFRBとIMFのサイトに発言録は掲載されていない。フェドウオッチの確率は取得の時刻によって変わり、CNBCは据え置き確率を72.3%と伝えた。片山財務相の発言はDZHの配信記事によるもので、財務省の公式記録では確認できていない。シナリオと確率は本誌の見立てであり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















