市場はこう信じている。為替は金利差で決まり、今夜の米国の消費者物価指数(CPI)が米金利を動かせば、ドル円もユーロドルもそれについていく。今日はこの通説を尋問する。証拠は10月2日から13日までの8営業日だ。この間、日米の2年債の利回り差は縮んだのに、ドル円は円安方向に動いた。ユーロ圏の物価は3.8%に跳ねたのに、ユーロドルは1.12ドルを割り込んだ。だが、それで通説が死んだと言えるのか。
14日の日本時間15時55分ごろ、ドル円は158円26銭前後、ユーロドルは1.1212ドル前後で取引されていた(Yahoo Financeの気配値)。米9月のCPIは今夜21時30分に出る。同じ水準で、本誌は10月2日にドル円の短期レンジを155円50銭〜158円50銭、ユーロドルの短期の下限を1.12ドルと書いた。その答え合わせも兼ねて進める。
通説の陳述:ドルの行き先は米金利が決める
通説を最も強い形で書いておく。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16日に政策金利の誘導目標を3.75〜4.00%に引き上げた。米財務省のデータで、2年債利回りは13日に4.79%、10年債は5.21%である。日本の2年債は1.928%(財務省)で、日米の2年債の差は約2.86ポイントになる。欧州中央銀行(ECB)の預金ファシリティー金利は2.50%(9月16日から適用)で、FRBの誘導目標の上限より1.5ポイント低い。
この差がある限りドルは買われやすい。今夜のCPIでコアが強ければ米金利が上がり、ドル円は上へ、ユーロドルは下へ動く。弱ければ逆になる。ドル円とユーロドルは「同じドルの裏表」で、両方とも米金利で説明できる。これが通説である。
| 指標 | 10月2日 | 10月13日 | 変化 |
|---|---|---|---|
| ドル円(ECB参照レートから計算) | 157.68円 | 158.13円 | +0.29%(円安) |
| ユーロドル(ECB参照レート) | 1.1225ドル | 1.1188ドル | −0.33%(ユーロ安) |
| 米2年債利回り | 4.83% | 4.79% | −4bp |
| 日本2年債利回り | 1.919% | 1.928% | +0.9bp |
| 日米2年債の利回り差 | 2.91ポイント | 2.86ポイント | −5bp(縮小) |
| 米10年債利回り | 5.28% | 5.21% | −7bp |
| ブレント原油先物(期近) | 102.25ドル | 105.69ドル | +3.4% |
尋問1:金利差が縮んだのに、なぜドル円は上がったのか
10月2日→13日の変化率(%)
読み方:同じ8営業日に米2年債利回りは4bp下がり、日米の2年債の差は5bp縮んだ。金利だけならドル円は下がるはずだが、上がった。一番大きく動いたのは原油である。出所:欧州中央銀行の参照レート(ドル円・ユーロ円は本誌計算)、Yahoo Finance(原油・ドル指数)、米財務省、財務省。
証拠を見よう。10月2日から13日にかけて、米2年債利回りは4bp下がり、日本の2年債は0.9bp上がった。金利差は5bp縮んでいる。通説どおりなら円高に振れるはずだが、ドル円は157円68銭から158円13銭へ0.29%上げた。この説明には穴がある。
穴を埋める証拠は2つある。1つは原油だ。ブレント原油先物の期近は同じ期間に102ドル台から105ドル台へ3.4%上がった。日本は原油のほぼすべてを輸入に頼るので、原油高は輸入代金の支払いを通じて円売りを生みやすい。株探は14日の東京市場について、原油高や株高を受けてドル円が158円40銭台に上げたと伝えた。
もう1つは日銀の利上げのペースだ。日銀は9月の会合で政策金利を1.25%に引き上げた。ブルームバーグは13日、日銀が10月29〜30日の会合で利上げを見送る公算が大きいと関係者の話として報じた。12月の利上げの可能性は排除していないという。報道によれば、金利スワップ市場が織り込む10月の利上げ確率は1割程度、12月までは88%で、報道後にドル円は158円38銭台まで上げた。足元の金利差は縮んでも、日銀が「急がない」と読まれた分だけ、先行きの金利差の縮み方が遅れて見えたことになる。
公平のために言えば、通説側にも再反論がある。8営業日で5bpの変化は小さく、ドル円の0.29%の動きも小さい。為替が金利差に毎日ついていくわけではない、という反論は成り立つ。ただ、少なくともこの2週間のドル円を「米金利が決めた」とは言えない。動かしたのは原油と日銀の時間軸で、金利は脇役だった。
尋問2:物価3.8%なのに、なぜユーロは売られたのか
ユーロ圏の9月の消費者物価(速報値)は前年同月比3.8%と、8月の3.2%から加速した。エネルギーは18.8%上がり、食品などを除くコアも2.4%から2.5%に上がった。ECBは6月と9月に利上げしている。物価が上がればECBの追加利上げ観測が強まり、ユーロは買われる。通説はそう言う。
だが、本当か。ECBの参照レートで見ると、ユーロドルは10月2日の1.1225ドルから7日に1.1177ドルまで下げた。2025年5月13日(1.1112ドル)以来の安さである。9月9日の1.1652ドルからは約4%の下げになる。取引時間中には1.1160ドル前後まで下げる場面もあった。物価の数字が出た後に、ユーロは下げを広げている。
ここで通説は、形を変えれば生き残る。オランダの金融大手INGのペソレ氏の分析によれば、市場が2027年3月までに織り込むECBの利上げ幅は、9月24日の80bpから45bpまで縮んだ。理由は物価ではなくフランスだ。2027年の予算案は財政赤字を国内総生産(GDP)比5.0%に抑える目標を掲げるが、議会を通るかどうかは見通せない。仏独の国債利回りの差は、ユーロ圏の債務危機以来の広さに達したと報じられている。財政不安が金融市場の緊張を通じてECBの利上げを難しくする、と市場は読んだ。
つまりユーロドルでは、「足元の物価」は負けたが、「先行きの金利見通しの差」は勝った。米国側は年内の利上げを残し、ECB側は利上げの織り込みを半分近く失った。金利差の通説は、見る金利を将来の予想に置き換えれば、ユーロドルの下げをよく説明する。
尋問3:今夜のCPIは両方を同じ向きに動かすか
通説の最後の主張は、CPIで両通貨ペアが「裏表」に動く、というものだ。方向としては正しい可能性が高い。コアが強ければ米金利が上がりドルが買われる。ただし、効き方の大きさは同じではない。ユーロドルには、フランスの予算審議という別の売り材料が並走している。ドル円には、160円に近づくほど財務省の介入が意識されるという上値の重しがある。
このため、同じ「強いCPI」でも、ユーロドルは下げが伸びやすく、ドル円は上げが詰まりやすいという非対称が生じうる。逆に「弱いCPI」なら、ドル円は日銀の12月利上げ観測と重なって下げやすい。一方ユーロドルは、フランスの問題が残る限り戻りが鈍い可能性がある。ING自身も、債券市場の緊張が強まれば1.110ドル、さらに1.100ドルを試す余地があるとしている。CPIは同じでも、着地点は通貨ペアごとに違う。
10月2日の見立ての答え合わせ
本誌の10月2日の見通しは、ドル円の短期を155円50銭〜158円50銭のレンジとみた。参照レートから計算した値は、この間157円68銭〜158円60銭で推移した。上限を一時わずかに上回ったが、レンジの中で上側に張り付いた形である。下側の155円台は試されなかった。円高寄りという見立ては外れた。
ユーロドルは、短期の下限を1.12ドルとし、割れれば中期で1.10〜1.11ドルを想定した。参照レートは7日に1.1177ドルと下限を割ったが、1.11ドル台前半までは下げていない。14日には1.12ドル台に戻している。方向は当たり、深さはまだ確かめられていない。
生き残った主張と、死んだ主張
| 通説の主張 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 足元の日米金利差がドル円を決める | 死んだ(この2週間は) | 2年債の差が5bp縮んでも、ドル円は0.29%上がった。原油高と日銀の利上げ見送り報道が勝った |
| 物価が上がればユーロは買われる | 死んだ | ユーロ圏物価3.8%の後も、ユーロドルは2025年5月以来の安値を付けた |
| 先行きの金利見通しの差がユーロドルを決める | 生き残った | 2027年3月までのECBの利上げ織り込みは80bpから45bpへ縮み、ユーロ安と同じ向きだった |
| CPIは両ペアを同じ向きに動かす | 方向は生き残る、大きさは別 | ユーロドルにはフランス要因、ドル円には介入警戒と日銀の時間軸が並走する |
評決
評決は「通説6割、反証4割」である。ユーロドルについては、金利見通しの差で説明できる部分が大きく、通説はおおむね有効だ。ドル円については、この2週間に限って通説の説明力は弱い。原油と日銀の時間軸が、足元の金利差を上回った。したがって今夜のCPIを見るときも、ドル円は米金利だけでなく原油と日銀の12月観測を、ユーロドルは米金利に加えてフランスの予算審議を並べて見る必要がある。
水準で書いておく。ドル円は158円50銭〜158円70銭台の上抜けが続くかどうかが最初の分かれ目で、下は10月の参照レートの下限に近い157円台半ばを見る。ユーロドルは1.1160ドル前後の安値を終値で割るかどうかが分かれ目で、割れればINGが示す1.110ドルが視野に入る。取引時間中の一時的な割れや抜けは、だましになりやすい。レバレッジをかけた取引では、日足の終値での確認を待ちたい。
再審条件
| 見るもの | 評決を覆す(通説が完全に復活) | 評決を強める(通説がさらに後退) |
|---|---|---|
| 米9月CPI(14日21時30分) | コアの結果どおりに米2年債とドル円が同じ向きに大きく動く | 米金利が動いてもドル円が反応しない |
| 原油 | 原油が下がっても、ドル円が米金利に沿って動く | 原油高が続き、米金利と関係なく円安が進む |
| 日銀(10月29〜30日) | 据え置きでも円相場が動かない | 12月利上げの示唆で、金利差と関係なく円高に振れる |
| フランスの予算審議 | 予算が通っても、ユーロドルがECBの織り込みどおりにしか動かない | 予算の行き詰まりで仏独の利回り差が広がり、ユーロが独自に売られる |
今夜のCPIでコアのどこを見るかは米9月CPIのプレビュー記事に、ユーロドルが1.1340ドルを割った経緯はこちらの記事にまとめた。為替の基本から確かめたい人はFX解説ページも参考にしてほしい。
主な参照
- ユーロの参照レート(対ドル・対円)/欧州中央銀行(Frankfurter経由で取得)
- ECBの政策金利/欧州中央銀行
- 米国債利回り(10月13日まで)/米財務省
- 日本国債の金利(10月13日まで)/財務省
- ユーロ圏9月の消費者物価(速報値)/Trading Economics
- ECBの利上げ織り込みとユーロドルの見通し/ING(Investing.com掲載)
- フランスの2027年予算案と仏独利回り差/investingLive
- 日銀の10月会合をめぐる報道(10月13日)/ブルームバーグ、金利スワップの織り込み/BigGo ファイナンス
- 為替・原油の気配値と日足/Yahoo Finance
データ基準日:為替の気配値は2026年10月14日15時55分ごろ(日本時間)、参照レートと国債利回りは10月13日まで。ドル円の参照レートは、ECBが公表するユーロの対ドル・対円レートから本誌が計算した値である。ユーロ圏の物価は速報値で、報道を通じて確認した。ECBと日銀の利上げの織り込みは報道・アナリストの分析によるもので、集計の時点や方法によって数字は異なる。日銀の10月会合をめぐる報道は関係者の話に基づくもので、日銀の公式の発表ではない。仏独の利回り差は報道によるもので、本誌は数値を確認していない。判定・評決・水準は本誌の整理であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。FX取引はレバレッジにより損失が証拠金を上回ることがある。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














