ミラノ風ドリア、税込み300円。サイゼリヤ(7581)の看板メニューは、10月29日から320円になる。同社は10月14日、メニュー全般で平均6%の値上げを発表し、その理由を自らの「努力不足」と書いた。同じ15時30分には2026年8月期の決算と、営業利益29.1%増の今期予想も出している。20円の値上げの向こうに、どんな数字があるのかをたどる。
300円が320円に、変わらないのはランチとワイン
同社のお知らせによると、改定はメニュー全般で平均6%だ。例として、400円のメニューは420〜430円になる。レジャー施設の周辺や都市部の一部24店舗は、平均10%の改定となる。
据え置くものもはっきりしている。「フレッシュワイン」、「ランチ」、そして「モーニング限定メニュー」の価格は変えない。昼に通う会社員や、朝食を目当てに来る客の支払いは、今回は増えない計算だ。値上げの影響を受けるのは、主に夜と週末にグランドメニューから頼む客である。
お知らせの文面には、おわびの言葉が並ぶ。原材料やエネルギーのコスト上昇について、同社は「価格維持に向けた取り組みを進めてまいりました」と書く。そのうえで、自社の「努力不足により、食材の不足や原価上昇を吸収できない事態が発生しております」と認めた。
1皿の値段を分解する:日本の店の利益率は2.96%
なぜ20円が必要だったのか。決算短信のセグメント表を見ると、答えの半分が出てくる。日本事業の売上高は2,033億円で、前期比17.6%増えた。営業利益は60億円で、19.4%増である。それでも営業利益率は2.96%にすぎない。1,000円の会計のうち、店に残る利益は30円弱という計算だ。
アジア事業と並べると、差がよくわかる。アジアの売上高は981億円で日本の半分以下だが、営業利益は97億円と日本より多い。ただしアジアの利益率は12.1%から9.9%に下がり、営業利益は4.2%減った。稼ぎ頭が伸び悩むなかで、薄利の日本事業を厚くする必要が出てきたことになる。
サイゼリヤの地域別営業利益率(%、2026年8月期)
読み方:日本の売上高はアジアの2倍あるが、営業利益はアジアより少ない。日本の利益率は3%に届かず、前期からほとんど変わっていない。アジアは利益率が2ポイント余り下がった。出所:サイゼリヤ2026年8月期決算短信のセグメント情報(外部顧客への売上高ベース)、本誌計算。
会社全体では、2026年8月期の売上高が3,015億円で17.4%増えた。営業利益は164億円で5.9%増、最終利益は110億円で1.1%減である。売上の伸びに比べて、利益の伸びは小さかった。
川上をたどる:円安、エネルギー、そして方針の1文
決算短信は、日本事業の逆風を「一昨年から続く円安による食材価格やエネルギー価格の上昇」と書く。外食業界全体についても、中東情勢によるエネルギー価格上昇が続いていると記した。サイゼリヤは食材の製造を豪州の工場でも行っている。豪州事業の売上高は141億円で、そのほぼすべてがグループ内への供給だ。
川上から店頭まで:320円のドリアに至る流れ
読み方:上の3段がコストの流れ、下の2段が会社の判断である。出所:サイゼリヤの決算短信と価格改定のお知らせ(2026年10月14日)。
変わったのは方針の1文である。短信はこれまでの価格方針を「メニュー価格維持という方針」と説明する。そのうえで今後は、品質を保つための価格改定を「状況に応じて行う方針」とした。今回の6%は一度きりの判断ではなく、方針の変更として読むべきだろう。
私たちの財布に換算する
6%は家計にとってどのくらいか。下の表は、平均6%がそのまま会計に乗ると仮定した本誌の試算である。実際には品目によって上げ幅が違い、注文の組み合わせで結果は変わる。
| 利用の例(本誌の仮定) | 1回の増加 | 月の増加 | 年の増加 |
|---|---|---|---|
| 家族4人の夕食、会計2,000円を月2回 | 約120円 | 約240円 | 約2,880円 |
| 1人の夕食、会計1,000円を週1回(月4回) | 約60円 | 約240円 | 約2,880円 |
| 都市部の対象24店舗で家族の夕食2,000円を月2回(平均10%) | 約200円 | 約400円 | 約4,800円 |
| ランチのみ、モーニングのみ | 0円 | 0円 | 0円 |
年に3,000円弱という数字は、1回の外食1つ分に近い。痛みは大きくないが、ゼロでもない。昼の利用に切り替えれば、今回の値上げは避けられる。食費全体の動きは、食料品の消費税と家計調査の記事で整理している。
会社の計算:営業益212億円、6割を下期に置く
2027年8月期の予想は、売上高3,337億円(10.7%増)、営業利益212億円(29.1%増)である。最終利益は134億円で21.3%増、年間配当は35円で据え置く。営業利益の増加額は約48億円になる。
注目したいのは配分だ。9〜2月の上期の営業利益予想は86億円で、前年同期比0.6%減とほぼ横ばいである。通期212億円から引くと、下期だけで126億円、通期の約6割を稼ぐ計算になる。値上げは10月29日からなので、上期にはおよそ4カ月しか効かない。下期は丸ごと効く。
値上げの効き目を大まかに測る。日本事業の売上高2,033億円に6%を掛けると、約122億円になる。これは客数が一切減らない場合の上限の目安で、ランチやワインなど据え置き分も含んでいる。それでも日本事業の営業利益60億円の2倍だ。客数が少し減っても、利益への効き目は大きい。逆に言えば、予想の成否は客足がどこまで残るかにかかっている。
株価は高値から22%下、発表前に3.82%安
株探によると、14日の終値は6,550円で、前日比260円(3.82%)安の安値引けだった。決算と値上げの発表は取引終了後である。7月29日につけた年初来高値8,420円からは約22.2%下にある。時価総額は3,424億円で、同銘柄はPTSの対象外のため、発表への反応は15日の東証で初めて出る。
投資家の選択肢を整理しておく。値上げで利益が厚くなるとみるなら、予想の29.1%増益は材料になる。客離れを心配するなら、月次情報の客数が最初の答えになる。外食や小売の決算では、イオンの中間決算のように、直近3カ月の利益が落ち込んだ例も出ている。どちらの見方をとるにしても、確かめる数字は同じだ。
次に店頭と市場に届く日付。10月29日に新価格が始まる。11月27日に定時株主総会、11月30日に35円の配当の支払いが始まる予定だ。値上げ後の客数は、同社が毎月公表する「月次情報」で確かめられる。10月分は29日以降の3日間しか含まないため、本当の答えは11月分以降になる。
参照・免責
- 価格改定のお知らせ(2026年10月14日)/サイゼリヤ
- 2026年8月期決算短信(業績、セグメント、今期予想、配当、価格方針、2026年10月14日)/東証適時開示
- 投資家向け情報/サイゼリヤ
- 株価(終値、年初来高値、時価総額)/株探
データ基準日:2026年10月14日。株価は東証の終値(15時30分)で、決算と値上げの発表はその後に行われた。営業利益率、下期の利益、値上げの効き目の目安、家計の増加額は本誌の計算である。家計の試算は平均改定率をそのまま会計額に掛けたもので、実際の負担はメニューの選び方で変わる。値上げの効き目の目安は客数が変わらない場合の上限であり、会社の予想の内訳ではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。











