2025年11月21日、ビットコインは一時8万659ドルまで売られた。前日には、米JPモルガンが「MSCIの指数から外されれば、ストラテジー株に約28億ドルの売りが出うる」と試算したことが伝わっていた。株価指数の会社が、ビットコインを大量に持つ企業を「事業会社」と認めるかどうか。その問いが、初めて相場の値札になった秋だった。
11カ月後の2026年10月15日、ビットコインは再び8万ドルを割り込み、一時7万9,736ドルを付けた。その夜(日本時間16日5時48分)、MSCIは「非事業会社」を指数の対象外とする新ルールの採用を発表した。今回は案ではなく決定である。影響を受ける可能性のある銘柄の一覧には、ストラテジー(MSTR)と東証上場のメタプラネット(3350)が「除外」として並んだ。歴史は繰り返さないが、韻は踏む。去年の秋を鏡にして、今回の売り圧力の大きさと、今後2〜4週間の分かれ道を測る。
MSCIが決めたこと——一次資料で読む新ルール
MSCIの発表(米東部時間10月15日、グリニッジ標準時20時48分)によると、8月3日に諮問した案を「小幅な修正を加えて」実施する。11月の定期見直しに組み込み、11月30日の取引終了時点で適用する。投資信託や事業開発会社(BDC)はもともと指数の対象外だが、これに加えて、数値の基準で似た性格と判定された企業も「非事業会社」として外す。
判定は2段階だ。まず総資産に占める事業用資産の割合を見る「中核の審査」で、事業会社かどうかをふるい分ける。これに落ちた企業には5つの財務比率をあて、4つ以上に該当すれば対象外となる。すでに指数に入っている企業は基準を一部緩め、直近2期の年次決算の両方で不合格になった場合にだけ外す。中間決算を使う場合もある。8月の諮問資料に示された基準は次のとおりだ。
| 審査 | 中身 | 新規組み入れの基準 | 既存の構成銘柄の基準 |
|---|---|---|---|
| 中核の審査 | 事業用資産÷総資産 | 50%を超えれば事業会社として合格。超えなければ下の5項目へ | |
| ①事業用資産の比率 | 事業用資産÷総資産 | 20%未満で該当 | 10%未満で該当 |
| ②費用の比率 | 営業費用÷総資産 | 5%未満で該当 | 5%未満で該当 |
| ③現金の流れ | 営業キャッシュフロー | マイナスで該当 | マイナスで該当 |
| ④時価変動の大きさ | 事業外資産の時価変動(絶対値)÷総資産 | 5%超、かつ売上高と時価変動の合計に対し50%超で該当 | 同じ |
| ⑤外部資金への依存 | 財務キャッシュフロー÷総資産 | 20%超、かつ直近12カ月に資産を積み増すための資金調達があれば該当 | 30%超(資金調達の条件は同じ) |
同時に、MSCIが2025年10月10日に発表した暫定措置もやめる。デジタル資産が総資産の50%以上を占める企業について、株数や浮動株比率の引き上げを凍結し、新規採用を先送りしてきた措置だ。今後は新ルールだけで判定する。
MSCIが公表した「影響を受ける可能性のある銘柄」の一覧(財務は9月30日時点、時価総額は10月9日時点)では、除外が5銘柄、監視リスト入りが17銘柄だった。除外の筆頭はストラテジーで、大型株に分類され、時価総額は433億ドル。メタプラネットは小型株の区分で、時価総額は10億ドル、浮動株ベースで8億ドルだった。ほかにウラン現物を持つ英イエローケーキなど3社が除外、イーサリアムを持つ米シャープリンクは監視リストに入った。最終の一覧は11月11日、定期見直しの発表とともに出る。
2025年秋と2026年秋——対照表
| 項目 | 2025年10月〜2026年1月 | 2026年10月(今回) |
|---|---|---|
| MSCIの動き | デジタル資産50%以上の企業を外す案を諮問(10月10日) | 非事業会社を外すルールを決定(10月15日) |
| 結論 | 2026年1月6日に除外を見送り、より広い諮問へ | 11月30日の取引終了時点で適用 |
| 対象の決め方 | 保有資産の種類(デジタル資産)で線引き | 資産の種類を問わない財務比率で線引き |
| ビットコインの位置 | 10月6日に最高値12万6,198ドル、10月10日終値11万3,214ドル | 10月16日17時27分(日本時間)時点で8万2,125ドル、最高値から35%安 |
| ストラテジー株 | 10月10日終値304.79ドル | 10月15日終値151.29ドル |
| 同じ点 | 発表の直前にリスク資産が崩れた(2025年は10月10日の大量の強制決済、2026年はAI関連株の売り)。ビットコインは8万ドル前後まで売られた | |
最大の違いは、前回が「案」で終わったのに対し、今回は決まったことだ。しかも暗号資産を名指しせず、ウラン現物を持つ会社まで同じ物差しで測る形に変わった。ストラテジーは8月31日付の意見書で、この案を「差別的で恣意的」と批判し、「MSCIは市場を映す鏡であるべきで、市場の裁定者ではない」と撤回を求めていた。その主張は通らなかった。
当時、その後に起きたこと
ストラテジー株の週末終値(2025年10月〜2026年10月、ドル)
読み方:2025年10月10日の諮問から11月21日までに44%下げ、1月6日の除外見送りの後は一時戻したものの、2月にかけて一段安となった。8月3日に今回の案が出た後は、逆に上げている。指数の話題より、ビットコインの向きが株価を動かした。出所:Yahoo Financeの日次データから各週の最終取引日の終値を抽出(最新は10月15日終値)。
MSCIと暗号資産保有企業:1年の流れ
読み方:前回は案のまま3カ月で見送られた。今回は決定から適用まで約6週間しかない。出所:MSCIの発表(2026年1月6日、8月3日、10月15日)と諮問資料、The Block、CoinDesk、GIGAZINE(コイングラスの集計)。
2025年10月10日の諮問発表から11月21日までに、ストラテジー株は304.79ドルから170.50ドルへ44%下げた。奇しくも諮問と同じ10月10日は、米国の対中関税の発表をきっかけに暗号資産で190億ドル規模の強制決済が起きた日でもある。株価の下げのうち、どこまでが指数の問題で、どこからがビットコイン安だったのかは切り分けられない。
はっきりしているのは、その後の流れだ。2026年1月6日に除外見送りが決まると、ストラテジー株は翌7日に2.4%上げ、メタプラネットも7日の東京で4.1%上げた。だが安心は続かなかった。ビットコインは1月15日の終値9万5,551ドルから2月6日には一時6万74ドルまで下げ、ストラテジー株は2月5日に104.17ドルを付けた。指数から外されずに済んだ銘柄が、外されるかもしれなかった時期よりも深く売られたのである。逆に、8月3日に今回の案が出た後、ストラテジー株は8月7日の週の終値100.01ドルから10月15日の151.29ドルまで51%上げた。指数の話題より、ビットコインの向きのほうが株価を強く動かしてきた。
受け身の売りは出来高の何日分か
指数連動の売りと、ストラテジー株の1日の売買代金(億ドル)
読み方:今回のMSCI分の売りは、ストラテジー株の1日の売買代金にも満たない。重いのは他社が追随した場合の88億ドルで、こちらは2.5日分にあたる。出所:JPモルガンの試算はThe Block(2025年11月20日)、時価総額はMSCIの一覧(10月9日時点)、売買代金はYahoo Financeの日次データから本誌計算。
指数に連動して運用する投資信託やETFは、指数から外れた銘柄を機械的に売る。JPモルガンは2025年11月、MSCIだけで約28億ドル、ほかの指数会社が追随すれば別に約88億ドルの売りが出うると試算した。当時のストラテジーの時価総額は約500億ドルとされ、MSCI分の売りはその5.6%にあたる。同じ比率を今回の時価総額433億ドルにあてはめると、約24億ドルになる。本誌の単純な比例計算で、最新の公式な推計ではない。
この24億ドルを、ストラテジー株の直近20営業日の1日平均売買代金(約35億ドル)と比べると、1日分にも満たない。11月30日の引けに向けて売りは集中するが、市場が吸収できない量ではない。メタプラネットについては、受け身の売りの公表された推計を確認できなかった。参考までに、東京での直近20営業日の1日平均売買代金は約61億円である。
本当の重さは、量より経路にある。ストラテジーは株式を市場で売り、その資金でビットコインを買う仕組みで保有を積み上げてきた。指数から外れれば、決まった比率で株を持ち続ける買い手が減り、増資の吸収力が落ちる。10月5〜11日の週に同社が買ったビットコインは250BTCにとどまり、資金の大半は株式売却による2,100万ドルだった。保有は84万8,250BTC、平均取得価格は7万5,444ドルである。一方で、配当と利払いに備えるドル準備は48億8,000万ドルあり、指数から外れたからといってビットコインを売らされる構図ではない。年末までのビットコイン見通しで取り上げた「原価の壁」の一角が、この平均取得価格だ。
「今回は違う」論を検証する
「今回は決定だから、前回より悪い」という見方は半分だけ正しい。決定である以上、11月30日の売りは確実に来る。だが確実な売りは、すでに値段に入りやすい。予測市場ポリマーケットでは、ストラテジーが年内にMSCIワールドかMSCI米国指数から外れる確率が日本時間16日17時33分時点で91%だった。ただし取引の厚みは約2,000ドルと薄く、目安にとどまる。
「メタプラネットは東京の銘柄だから関係ない」という見方は誤りだ。同社は一覧で除外とされ、MSCIジャパンの小型株指数に連動する資金の売りを受ける側にいる。ただ16日の東京では、メタプラネット株は前日比4.5%高の277円で引けた。ストラテジー株も15日の通常取引では一時134.89ドルまで売られた後、5.6%高の151.29ドルで終えている。発表後の時間外取引では一時145.01ドルと終値比4.1%安まで下げ、16日の米東部時間4時37分(日本時間17時37分)には148.00ドルだった。市場の反応は、決定そのものより、その日のビットコインと株式相場に引っ張られている。
構造的に違うのは2点ある。第一に、物差しが暗号資産専用から汎用に変わり、ビットコインが値上がりしても除外の理由は消えない。前回のように撤回を期待する余地は小さい。第二に、ビットコインの水準が前回より約3割低い。株を売ってビットコインを買う循環は、株価がビットコインの保有価値を上回るときに最もよく回る。その前提が細っている。全株式の時価総額は約581億ドルで、保有ビットコインの時価約697億ドルを下回る(株価は15日終値、ビットコインは日本時間16日17時27分の価格で本誌計算)。そこに、指数という買い手の一部が抜ける。
歴史が示す3つの教訓
- 指数の決定は日付、相場を決めるのは流れ。2025年秋の下げと2026年2月の急落は、どちらもビットコイン自体の売りが主因だった。指数の売りは1日分の出来高で終わる。
- 確実な売りは前倒しで値段に入る。前回は諮問から除外見送りまでの間に株価が先に下げた。今回も確率91%が示すとおり、11月30日当日より前に織り込みが進む公算が大きい。
- 傷が残るのは資金調達の経路。株価の一度きりの下げより、増資でビットコインを買い増す力の弱まりのほうが、需給に長く効く。
今後2〜4週間のシナリオと監視点
11月13日ごろまでの見立てを、確率付きで示す。ビットコインは15日の安値7万9,736ドルと、9月21日の高値8万7,364ドルの間にいる。下には9月15日の安値7万4,945ドルと、ストラテジーの平均取得価格7万5,444ドルが重なる。
ビットコインの節目(ドル)
読み方:下値は7万5,000ドル前後に節目が重なる。日足終値で7万5,444ドルを割れば弱気、8万7,364ドルを超えれば強気に切り替える。出所:Yahoo Financeの日次データ(協定世界時の日足)、ストラテジーの10月12日発表(米証券取引委員会への届け出)。
| シナリオ | 確率 | ビットコインの想定 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 基本:織り込み済みの横ばい | 50% | 7万8,000〜8万8,000ドル | 11月11日の最終一覧が今回の一覧どおり。米国株が落ち着き、指数の売りは11月30日の引けで消化 |
| 弱気:原価の壁が割れる | 30% | 7万2,000〜7万5,000ドル | AI関連株の売りが続き、ETFからの資金流出が拡大。7万5,444ドル割れで「保有企業の含み損」が話題になる |
| 強気:8万7,000ドル台を回復 | 20% | 8万8,000〜9万2,000ドル | 米金利の低下とETFへの資金流入。最終一覧で想定外の残留があれば上乗せ |
| 日付・指標 | 見るところ | 基準 |
|---|---|---|
| 毎週月曜(通常) | ストラテジーの米証券取引委員会への届け出 | 購入が数百BTCにとどまる週が続けば、増資の吸収力の低下を確認 |
| 11月11日 | MSCIの最終一覧 | ストラテジーとメタプラネットが「除外」のままか |
| 11月30日の取引終了 | 指数からの除外の適用 | 引けの出来高が平常の何倍になるか |
| ビットコインの日足終値 | 下値の重なり | 7万9,700ドル、7万5,444ドル、7万4,945ドル |
この見方を捨てる条件:ビットコインが日足終値で7万5,444ドルを下回れば、基本シナリオを捨てて弱気に切り替える。ストラテジーの保有が平均で含み損になり、指数の売りとは別の理由で売りが連なる局面に入るからだ。逆に日足終値で8万7,364ドルを上回れば、指数の問題は値段に入りきったと判断し、強気に移る。株安がビットコインに波及した経路は、日経平均の急落を2022年の米CPIショックに映した記事でも扱った。同じ日にMSCIが下したインドネシアをめぐる判断とあわせ、指数会社の線引きが資金の流れを変える秋になっている。
主な参照
- 非事業会社の諮問結果(2026年10月15日 20時48分 グリニッジ標準時)/MSCI
- 影響を受ける可能性のある銘柄の一覧(財務9月30日、時価総額10月9日時点)/MSCI
- 非事業会社の諮問資料(2026年8月)/MSCI、諮問の発表(8月3日)/MSCI
- デジタル資産保有企業の諮問結果(2026年1月6日)/MSCI
- ストラテジーの保有と資金の内訳(10月12日発表)/米証券取引委員会
- ストラテジーの意見書(2026年8月31日)/ストラテジー
- JPモルガンの試算(2025年11月20日)/The Block
- 2026年1月6日の除外見送り後の株価反応/CoinDesk
- 2025年10月10日の強制決済(コイングラスの集計)/GIGAZINE
- 年内のMSCI除外の確率/Polymarket
- ストラテジーの発行済み株式と時価総額/stockanalysis
- ビットコイン、ストラテジー、メタプラネットの価格/Yahoo Finance
データ基準日:2026年10月16日17時30分(日本時間)。ビットコインの現在値は日本時間16日17時27分時点の取引中の値で、終値ではない。日次の高値・安値・終値は協定世界時で区切った日足である。ストラテジー株は10月15日の米国市場の終値と、その後の時間外取引(日本時間16日17時37分時点)の値、メタプラネット株は16日の東京市場の終値。売買代金は直近20営業日の平均で本誌計算。新ルールの最終的な基準値はMSCIの手法書の付録Iによるもので、本稿の表は8月の諮問案の数値である。受け身の売りの約24億ドルはJPモルガンの2025年の試算を比例で延ばした本誌の概算で、実際の額は指数連動資金の保有状況で変わる。ブルームバーグなどの報道は、MSCIの一次資料で確認できた範囲で反映した。確率とシナリオは本誌の判断であり、将来の価格を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や暗号資産の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















