2022年9月13日、米国の8月の消費者物価指数(CPI)が予想を上回り、ナスダック総合指数は1日で5.16%下げた。翌14日の東京で日経平均株価は796円安。米国の利上げがまだ続くと市場が悟った日だった。4年後のきょう、2026年10月15日の東京は同じ形の朝を迎えた。米9月CPIの上振れを受けて日経平均は前場を3,255円23銭安の6万4,489円06銭で終え、下落率は4.81%に達した。共同通信によると、下げ幅は一時3,200円を超え、取引時間中としては過去6番目の大きさになった。
本稿では今回の下げを過去2つの局面と並べる。1つは物価が引き金になった2022年9月、もう1つは下げ幅で史上最大となった2024年8月5日である。結論を先に書くと、きょうの値動きの形は2024年より2022年に近い。2022年は、初日の下げよりその後の2週間余りの下げが大きかった。
当時の場面:2022年9月、0.6%が市場を変えた
2022年9月13日に米労働統計局(BLS)が公表した8月のCPIは、前年同月比8.3%の上昇だった。市場が注目したのは食品とエネルギーを除くコア指数で、前月比0.6%上昇と7月の0.3%から伸びが倍になった。ガソリン価格が下がっても物価の芯は冷えていない。この一点で、利上げの終わりが近いという期待が崩れた。
その日、S&P500は4.32%、ナスダック総合指数は5.16%、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は6.18%下げた。翌14日の日経平均は796円01銭安(2.78%安)の2万7,818円62銭で引けた。米連邦準備制度理事会(FRB)は1週間後の9月21日、政策金利の誘導目標を0.75%引き上げて3.00〜3.25%とした。
この局面の教訓は下げのあとにある。日経平均は9月30日に2万5,937円21銭まで下がり、14日の終値からさらに6.8%値を下げた。S&P500の底は10月12日の3,577.03で、CPI当日の終値から9.0%下の水準だった。初日の下げで終わらず、利上げの織り込みに合わせて下げが続いた。
きょうの場面:下げの7割は5銘柄
引き金は前夜の米9月CPIである。株探がまとめた結果は前年同月比3.7%の上昇(予想3.6%)、コア指数の前月比は0.3%(予想0.2%)、コアの前年同月比は2.6%(予想2.5%)だった。BLSの公表データで確かめると、コア指数(季節調整前)は9月が339.287、前年9月が330.804で、伸び率は2.6%になる。このCPIを受けた14日の米国市場では、S&P500が1.11%安、ナスダック総合指数が1.88%安、SOXは4.30%安となった。AP通信は7月以来で最悪の1日と伝えている。物価の数字そのものは前日の記事で詳しく扱った。
東京の下げは、指数全体よりも一部の銘柄に偏っている。株探によると、前場の日経平均の押し下げ寄与はアドバンテストだけで1,212円50銭あり、下げ幅全体の37.2%にあたる。東京エレクトロン(414円64銭)、ソフトバンクグループ(405円33銭)、イビデン(200円24銭)、フジクラ(118円53銭)を加えた上位5銘柄で2,351円24銭となり、下げ幅の72.2%を占める。
日経平均の前場の下げ、銘柄別の押し下げ寄与(円)
読み方:上位5銘柄で2,351円24銭、前引けの下げ幅3,255円23銭の72.2%を占める。「その他」は下げ幅から上位5銘柄の寄与を差し引いた値で、値上がりした銘柄の押し上げを含む差し引きである。出所:株探(10月15日11時31分)、本誌計算。
日経平均の4.81%安に対して、東証株価指数(TOPIX)の下落率は103.28ポイント安の3,993.50で2.52%にとどまる。東証プライム市場では値上がり509銘柄、値下がり1,007銘柄で、上昇は全体の3分の1ほどあった。業種別の上昇首位は医薬品で、不動産も上昇業種に入った。日経平均が値がさの半導体株の影響を強く受けやすいことは10月13日の記事で天秤にたとえて説明した。今朝はその偏りがそのまま表れた。
個別銘柄の値動き(11時28〜29分時点、前日終値比)は、アドバンテストが13.7%安、イビデンが14.1%安、フジクラが11.2%安、キオクシアホールディングスが11.0%安、ソフトバンクグループが9.4%安、東京エレクトロンが6.9%安だった。韓国では総合株価指数(KOSPI)の急落で売りのサイドカー(プログラム売買の一時停止)が発動し、11時23分時点の下落率は6.9%に広がった。
対照表:2022年9月、2024年8月、きょう
過去の局面と比べる前に、もう1つの鏡を用意しておく。2024年8月5日、日経平均は4,451円28銭安(12.40%安)と下げ幅の過去最大を記録した。直前の7月31日に日銀が政策金利を0.25%程度に引き上げ、8月2日には米国の7月の雇用者数が11万4,000人増にとどまり、失業率が4.3%に上がっていた。2022年と2024年、そしてきょうを並べると次のようになる。
| 項目 | 2022年9月14日 | 2024年8月5日 | 2026年10月15日(前引け) |
|---|---|---|---|
| 引き金 | 米8月CPIのコアが前月比0.6% | 日銀の利上げと米雇用の減速 | 米9月CPIのコアが前月比0.3%(予想0.2%) |
| 市場の懸念 | 米国の利上げが長引く | 米景気の後退と円キャリー取引の巻き戻し | 米国の利上げ再開 |
| 日経平均の下落 | 796円01銭(2.78%) | 4,451円28銭(12.40%) | 3,255円23銭(4.81%) |
| 前日の米SOX | 6.18%安 | 5.18%安(8月2日) | 4.30%安 |
| 同じ点 | 米国の物価と金利が出発点で、半導体株が下げを主導した点は3局面に共通する | ||
| 違う点 | 2024年は「景気が弱い」、2022年ときょうは「物価が強い」ことが売りの理由。今回は14日の米10年債利回りが前日比0.02ポイント低下し、2年債は0.03ポイント上昇した | ||
2024年8月を鏡にしたい気持ちはわかる。あのときは下落の翌日に3,217円04銭高と過去最大の上げを記録し、5営業日で前の終値を取り戻した。だが当時の売りの理由は「景気が弱い」で、金利の先行きを巡る見方は今回とは逆だった。今回の売りの理由は「物価が強い」で、構図は2022年に近い。
日経平均の大幅安を下落率で並べる
読み方:取引時間中の下げ幅は歴代6番目だが、下落率4.81%は1987年の約3分の1、2024年8月5日の約4割にとどまる。2022年9月14日はCPIショックの翌日で、下げは小さかったがその後も下げが続いた。出所:Yahoo! Financeの日経平均日足終値、きょうは時事通信の前引け値。
2026年の大幅安は、その後どうなったか
今年の日経平均には、すでに2,500円を超える下げが6回あった。下げ幅の大きさは指数の水準とともに膨らむため、6万円台の日経平均では3,000円前後の下げも珍しくなくなった。下落率で見ると、前引けの4.81%安を上回る日は2020年以降の終値ベースで6回しかない。きょうがこの水準で引ければ7回目になる。
| 日付(2026年) | 下げ幅 | 下落率 | 前日終値を取り戻すまで |
|---|---|---|---|
| 3月9日 | 2,892円12銭 | 5.20% | 21営業日 |
| 6月8日 | 2,563円52銭 | 3.85% | 5営業日 |
| 6月23日 | 2,565円58銭 | 3.55% | 2営業日 |
| 6月26日 | 3,005円46銭 | 4.15% | 未回復(前日が最高値7万2,366円34銭) |
| 7月17日 | 2,694円42銭 | 4.03% | 15営業日 |
| 7月28日 | 2,566円27銭 | 3.95% | 6営業日 |
今年の大幅安の多くは数日から3週間ほどで前日の水準を取り戻している。例外は最高値の翌日に起きた6月26日の下げで、その水準はいまも回復していない。前引けの6万4,489円06銭は6月25日の最高値から10.9%下にある。10月6日の終値7万683円98銭からは、6営業日続落で8.8%下げた。
「今回は違う」論を検証する
今回は2022年と違う、という主張には根拠が2つある。1つ目は物価の水準である。2022年8月のCPIは前年比8.3%だったが、今回は3.7%で、コアは2.6%にとどまる。2つ目は長期金利の動きで、米財務省の公表値では14日の10年債利回りは5.19%と前日から0.02ポイント下がった。2022年のような全面的な金利上昇は起きていない。
一方で、2022年と重なる点もある。政策金利に近い2年債利回りは4.79%から4.82%へ上がっており、市場は短期金利の上昇、つまり利上げを織り込み始めている。そこにAI関連企業の借金を巡る不安が加わった。国際通貨基金(IMF)がAI関連の調整が世界に波及しうると警告したことはこちらで整理した。2022年は「金利」だけが売りの理由だったが、今回は金利と信用の2つが重なっている。この点で、今回は2022年より不利だ。
歴史が示す3つの教訓
- 下げ幅ではなく下落率で比べる。1987年10月20日の3,836円48銭安は14.90%の下落だった。きょうの3,255円は4.81%にあたる。「歴代何位」という順位は指数の水準が高いほど上がりやすい。
- 物価が理由の下げは1日で終わりにくい。2022年は利上げの織り込みが進むにつれて下げが続き、日経平均はCPIショック翌日の終値からさらに6.8%下げた。景気不安が理由だった2024年8月とは回復の道筋が違う。
- 指数より中身を見る。きょうは日経平均が4.81%下げた一方で、プライム市場の3分の1ほどの銘柄が上がっている。下げを主導したのは値がさの半導体株であり、市場全体が売られたわけではない。
今回固有の監視点
本誌の見立てでは、今回は2022年型の「下げが続く」展開をやや優勢とみる。ただし、次の材料で判断を見直す。
- 台湾TSMCの決算(15日予定)。日本経済新聞によるとTSMCはきょう決算を発表する。AI向けの需要見通しが強ければ、アドバンテストや東京エレクトロンへの売りの一部は戻りうる。
- 米2年債利回り。14日の4.82%からさらに上がり続けるなら、利上げの織り込みが進んでいる合図で、2022年型の展開に近づく。
- 10月27〜28日のFOMC。FRBが利上げの可能性に触れるかどうかが、2022年9月21日の再現になるかを分ける。
- 6月25日の最高値からの下落率10.9%。終値でこの水準を割り込んだまま推移すれば、6月26日の下げと同様に、戻りに時間がかかる局面とみる。
この見立てが外れる条件も書いておく。TSMCの決算が強く、米2年債利回りが4.8%を下回って落ち着けば、下げは今年の多くの大幅安と同じく数日で埋まる可能性が高い。その場合、きょうは2022年ではなく、今年何度もあった「押し目」の1回として記憶されるだろう。
主な参照
- 日経平均の前引け・寄与度・騰落銘柄数(10月15日11時31分)/株探
- 日経平均とTOPIXの前引け(10月15日11時32分)/時事通信(Yahoo!ファイナンス)
- 取引時間中の下げ幅が過去6番目(10月15日11時31分)/共同通信(沖縄タイムス)
- 米9月CPIの結果と予想/株探、コア指数の系列/米労働統計局
- 米国債利回り(10月13日・14日)/米財務省
- 米国株の14日の値動き/AP通信
- KOSPIの売りサイドカー発動/朝鮮ビズ
- 日経平均の最高値(6月25日)/日本経済新聞、TSMCの決算予定/日本経済新聞
- 指数・個別株の日足と取引時間中の値/Yahoo! Finance
- 2022年8月のCPI/米労働統計局、2022年9月21日の利上げ/FRB
- 2024年7月の米雇用統計/米労働統計局、2024年7月31日の利上げ/日本銀行
- 2026年のFOMC日程/FRB
データ基準日:2026年10月15日11時30分(日本時間)。日経平均とTOPIXは前場終了時点の値で、終値ではない。後場の値動きは反映していない。個別株の騰落率は11時28〜29分(日本時間)、KOSPIは11時23分(日本時間)の取引時間中の値で、Yahoo! Financeの表示による。米国株指数と米国債利回りは10月14日(米東部時間)の終値。過去の日経平均の下げ幅・下落率・回復日数はYahoo! Financeの日足終値から本誌が計算したもので、日本経済新聞社の公式記録と細部が異なる場合がある。前引けの寄与度は株探の集計による。今後の展開に関する記述は本誌の見立てであり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。













