なぜ日経平均が2.5%も下げた朝に、東証プライムの7割近い銘柄は値上がりしていたのか。答えは「天秤の重り」にある。3連休明けの10月13日、前場の日経平均は前営業日比1,738円53銭安の6万7,292円39銭で取引を終えた。下落率は2.52%である。ところが同じ時刻のTOPIXは0.46%安にとどまり、プライム市場では値上がり1,066銘柄に対して値下がりは457銘柄だった。
この記事では、この食い違いを1本の比喩で最後まで説明する。日経平均もTOPIXも、たくさんの重りを載せた天秤だと考えてみてほしい。違うのは重りの大きさの決め方だ。日経平均の天秤には大きさがばらばらの重りが225個載っていて、この朝はその中のいちばん大きな3個が一斉に落ちた。結論を先に書けば、13日前場の下げは「日本株全体の下げ」ではなく、「大きな重り3個の下げ」だった。順に見ていく。
第1講:東京は2日分の米国市場を一度に受け取った
まず時間の流れを押さえておく。東京市場は12日がスポーツの日で休みだった。最後に東京が取引を終えたのは9日(金)の15時30分で、そのあと米国市場は9日と12日の2営業日を消化している。12日はコロンブス・デーだが、米国の株式市場は通常どおり開いていた。つまり13日朝の東京は、米国の2日分の値動きをまとめて受け取ったことになる。
東京が閉まっていた間に起きたこと(日本時間)
読み方:東京は米国の2営業日分をまとめて受け取った。2日間の米国では、景気敏感株や金融株が多いダウ平均連動のETFが上げ、半導体株のETFが下げた。出所:stockanalysis.com(米ETFと個別株の日足終値)、Yahoo!ファイナンス、株探。米国の時刻は日本時間の夜から翌朝にかけて。
ここが肝心だ。その2日分の米国は、一方向には動いていない。ダウ平均に連動するETF(DIA)は8日終値から12日終値まで1.22%上げた。一方で半導体株のETF(SOXX)は3.27%下げ、メモリー大手のマイクロン・テクノロジーは4.52%下げている。下げが集中したのは12日で、SOXXは1日で2.60%、マイクロンは3.88%下落した。景気敏感株や金融株には追い風、半導体株には逆風という、2枚の皿に逆向きの力がかかった2日間だった。
2枚の皿:米国2日分の値動きと東京前場の値動き
読み方:上の3本は米国の10月8日終値から12日終値までの騰落率、下の2本は東京の10月9日終値から13日前引けまでの騰落率。日経平均の下げは半導体株の下げに、TOPIXの下げは米国全体に近い。出所:stockanalysis.com、Yahoo!ファイナンス。
東京の前場は、この2つの力をそのまま映した。時事通信は、金融や自動車などAI関連以外の業種に買いが入ったと伝えている。三菱UFJフィナンシャル・グループは前引けで2.08%高、三井住友フィナンシャルグループは2.09%高、トヨタ自動車は1.98%高、日本郵船は1.97%高だった。株探によると、業種別の上昇率首位は海運業、下落率首位は非鉄金属である。反対側の皿では、キオクシアホールディングスが12.43%安、日本マイクロニクスが10.96%安、東京エレクトロンが6.63%安と、半導体関連が軒並み売られた。
第2講:日経平均の重りは「株価」で決まる
では、なぜ同じ朝の値動きが、2つの指数でこれほど違って見えるのか。天秤の重りの決め方に戻ろう。
TOPIXの天秤では、重りの大きさは会社の大きさ、正確には市場で売買できる株式の時価総額で決まる。大きな会社ほど重いが、プライム市場を中心に多数の銘柄が載っているので、1社の重りが全体を支配することは少ない。7割近い銘柄が上げた朝に、TOPIXの下げが0.46%で済んだのはこのためだ。
日経平均の天秤は違う。225銘柄の株価を、銘柄ごとの「株価換算係数」で調整して合計し、除数で割る。会社の大きさではなく、株価の高さがそのまま重りの大きさになる仕組みだ。だから株価の高い少数の銘柄、いわゆる値がさ株が、天秤の上で巨大な重りになる。
用語を3つだけ。
値がさ株:株価(1株あたりの値段)が高い銘柄。日経平均では株価の高さが影響力になるので、指数への影響が大きい。
寄与度:ある銘柄の値動きが、日経平均を何円動かしたかを示す数字。下落率が大きくても、重りが小さければ寄与度は小さい。
NT倍率:日経平均をTOPIXで割った値。日経平均の重りが大きい値がさ株が相対的に強いと上がり、弱いと下がる。
日本経済新聞社が公表している構成銘柄のウエートを見ると、9月30日時点で最も重いのはアドバンテストの12.39%だった。東京エレクトロンが8.90%、ファーストリテイリングが8.54%、ソフトバンクグループが7.75%と続く。上位4銘柄だけで約37.6%を占める。225個の重りのうち4個で、天秤のほぼ4割の重さがあるということだ。
第3講:重りは毎日、大きさが変わる
もう一段登る。ウエートは月末の数字が公表されるが、実際の重りは毎日変わっている。株価が上がった銘柄は、そのぶん天秤の上で重くなるからだ。
アドバンテストの株価は9月30日の終値3万4,260円から、10月9日の終値4万1,610円まで21.45%上げた。この間、日経平均は6万6,753円72銭から6万9,030円92銭へ3.41%の上昇にとどまっている。株価換算係数が変わっていないとして本誌が計算すると、9日終値時点のアドバンテストのウエートは約14.6%になる。9月末の12.39%から、わずか7営業日で2ポイント以上重くなった計算だ。同じ計算で、東京エレクトロンは約9.1%、ソフトバンクグループは株価の下落で約6.8%になる。
| 銘柄 | 9月30日のウエート(公表値) | 9月30日終値 | 10月9日終値 | 10月9日時点のウエート(本誌試算) |
|---|---|---|---|---|
| アドバンテスト(6857) | 12.39% | 34,260円 | 41,610円 | 約14.6% |
| 東京エレクトロン(8035) | 8.90% | 11,815円 | 12,445円 | 約9.1% |
| ファーストリテイリング(9983) | 8.54% | 70,860円 | 71,780円 | 約8.4% |
| ソフトバンクグループ(9984) | 7.75% | 6,430円 | 5,803円 | 約6.8% |
| キオクシアHD(285A) | 1.91% | 18,095円 | 17,505円 | 約1.8% |
つまり13日の朝、アドバンテストは月初よりも大きな重りとして天秤に載っていた。1%動くだけで日経平均を約100円動かす重さである。月末時点の数字で「アドバンテストは12%台」と覚えていると、実際の影響を小さく見積もることになる。
第4講:前場の数字に当てはめる
ここまでの道具を、13日前場の実際の数字に当てはめてみる。前引けの株価で各銘柄の寄与度を本誌が概算すると、次のようになる。
13日前場、日経平均を動かした重り(寄与度の概算、円)
読み方:上位3銘柄の押し下げ合計は約1,330円で、前場の下げ幅1,738円53銭の約77%にあたる。キオクシアは下落率が最も大きいが、重りが小さいため寄与度は4位。出所:日本経済新聞社の9月30日時点ウエート、Yahoo!ファイナンスの前引け株価と終値から本誌が計算した概算。
アドバンテストは5.38%安の3万9,370円で、日経平均を約541円押し下げた。東京エレクトロンは6.63%安で約415円、ソフトバンクグループは8.03%安で約375円。この3銘柄だけで約1,330円、前場の下げ幅1,738円53銭の約77%にあたる。キオクシアの約153円を加えると4銘柄で約85%だ。反対の皿では、ファーストリテイリングが2.51%高で約145円押し上げている。
キオクシアは、この朝の値動きの大きさでは主役だった。12.43%安の1万5,330円で、10時45分には1万5,175円まで下げた。11時27分時点の売買代金は約5,442億円で、プライム市場全体の前場の売買代金概算4兆156億円の13%強にあたる。時事通信は、前日の米国市場で半導体メモリーの競争激化への懸念から関連株が売られた流れを引き継いだと伝えている。それでも寄与度は約153円にとどまる。重りが約1.8%と小さいからだ。値動きの派手さと、指数への影響の大きさは別物である。
NT倍率でも確かめておこう。9日終値では16.82倍(6万9,030円92銭÷4,104.81)だったのが、13日前引けでは16.47倍(6万7,292円39銭÷4,085.91)に下がった。9月30日の終値ベースでは16.25倍である。10月に入って値がさの半導体株が重くなるにつれて上がってきたNT倍率が、この朝で半分以上戻したことになる。
よくある誤解:「日経平均が2.5%下げた=自分の日本株も2.5%下げた」ではない。13日前場のプライム市場では、値上がり銘柄が全体の約69%を占めた。銀行株やトヨタ自動車を持つ人の評価額は、むしろ増えていた可能性が高い。逆も同じで、日経平均が上がった日に手持ちの株が下がることも珍しくない。自分の持ち株の動きを測る物差しとしては、多くの場合TOPIXのほうが近い。ただし、日経平均に連動する投資信託やETFを持っている人にとっては、この2.5%がそのまま自分の数字になる。
第5講:これから天秤のどこを見るか
講義の最後に、後場と次の数日で天秤のどこを見ればよいかを整理しておく。本誌の見立ては、今回の下げは少数の重りに集中した下げであり、日本株全体のリスク回避ではないというものだ。これを確かめる、あるいは覆す目盛りは3つある。
| 目盛り | 現在地(13日前引け) | 見立てが強まる動き | 見立てが崩れる動き |
|---|---|---|---|
| 騰落銘柄数(プライム) | 値上がり1,066/値下がり457 | 大引けでも値上がりが過半を保つ | 値下がりが値上がりを上回る |
| TOPIXの下落率 | 0.46%安 | 1%未満の下げで引ける | 1%を超えて下げる |
| 日経平均の水準 | 6万7,292円39銭(安値は6万7,058円56銭) | 前場安値を割らずに引ける | 9月30日終値6万6,753円72銭を割り、10月の上げをすべて失う |
このうち最も重要なのは2つ目、TOPIXの下落率だ。日経平均の下げ幅は重り3個の動きで簡単に大きくも小さくもなる。だがTOPIXが1%を超えて下げるなら、売りが銀行株や自動車株の皿にまで広がったことを意味する。その場合、本誌の見立ては撤回する。
もう一つ、天秤の性質から言えることがある。アドバンテストの重りが約14.6%まで膨らんでいる以上、半導体株が戻る局面では、日経平均は同じ理屈でTOPIXより大きく上げる。下げ幅の大きさは、そのまま戻りの大きさの裏返しでもある。東京が閉まっている夜のあいだの米半導体株、とりわけメモリー株の値動きは、当面この大きな重りを通じて東京の朝を決める材料になる。米半導体株の好材料が日本株に素直に効くとは限らない点は、TSMCの売上高を扱った記事で検証した。
まとめ:天秤を思い出す3つのこと
最初の比喩に戻る。13日の朝、日経平均の天秤では、いちばん大きな重り3個が皿から落ちた。TOPIXの天秤では、無数の小さな重りの大半がむしろ増えていた。2つの指数は、同じ市場を違う天秤で量っているにすぎない。覚えて帰ってほしいのは次の3点だ。
- 日経平均の重りは株価で決まる。13日前場はアドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクグループの3銘柄で下げの約77%を占めた。
- 重りは毎日変わる。アドバンテストのウエートは9月末の12.39%から、9日終値時点で約14.6%に膨らんでいた。月末の数字は古くなる。
- 自分の株を測るならTOPIXと騰落銘柄数。日経平均が2.5%下げた前場でも、プライム市場の約69%の銘柄は上げていた。
寄与度の計算方法をもう少し詳しく知りたい人は日経平均の寄与度の解説を、7〜9月期に2つの指数が逆を向いた経緯はNT倍率の記事を読んでほしい。アドバンテスト1銘柄が日経平均を大きく動かした9月の例はこちら、10月8日の下落局面はこちらで扱っている。
主な参照
- 日経平均株価の構成銘柄ウエート(2026年9月30日時点)/日本経済新聞社(日経平均プロフィル)
- 13日前引けの日経平均(6万7,292円39銭)、プライム市場の騰落銘柄数・売買代金、業種別騰落/株探
- 13日前場の経過(メモリーの競争激化懸念、AI関連以外への買い、TOPIXの下落率)/時事通信(Yahoo!ファイナンス配信)
- 13日寄り付きの状況/ロイター(Yahoo!ファイナンス配信)、フィスコ(同)
- 日経平均・TOPIXの前引け値と日中安値、個別銘柄の前引け株価と時系列終値/Yahoo!ファイナンス(TOPIX、キオクシアHD、アドバンテストの時系列)
- 米ETF(DIA・SOXX)とマイクロンの日足終値/stockanalysis.com(DIA、MU)
データ基準日:2026年10月13日(火)の東京市場の前引け(11時30分)。本稿の日経平均・TOPIX・個別株価はすべて前場の取引終了時点の値で、大引けの値ではない。後場の値動きは反映していない。前営業日の比較値は10月9日(金)の終値である。米国の値はETFと個別株の日足終値(米東部時間)で、指数そのものの値ではない。10月9日時点のウエートと各銘柄の寄与度は、日本経済新聞社が公表した9月30日時点のウエートと各日の終値・前引け値から本誌が計算した概算で、株価換算係数や除数の変更があれば実際の値とずれる。キオクシアHDの売買代金は11時27分時点の値である。下落の背景は報道にもとづくもので、会社からの発表はない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
アイキャッチ写真:W.carter/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)、一部をトリミング。














