市場はこう信じている——キオクシアホールディングス(285A)は売られすぎで、反発は近い。10月16日の終値は1万3,375円で、25日移動平均を23.6%下回り、14日RSIは31まで下がった。6月22日の終値の最高値からは63.1%安い。今日はこの通説を証言台に立たせ、3つの証拠で尋問する。
先に断っておく。本記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではない。株価の「売られすぎ」を示す指標が、反発の時期や底値を保証するのかどうか。その一点を、数字で確かめる記事である。
通説の陳述:指標はそろって「売られすぎ」を示している
通説を、最も強い形で要約しておく。根拠は4つある。
1つ目はテクニカル指標だ。株探の日足(10月1日の1株→3株の株式分割を調整した値)から本誌が計算すると、10月16日終値の1万3,375円に対し、25日移動平均は1万7,503円、75日移動平均は1万9,127円だった。乖離率はそれぞれマイナス23.6%とマイナス30.1%である。14日RSI(ワイルダー方式)は31.0。直近14営業日の値上がり幅の合計2,016円に対し、値下がり幅の合計は7,234円で、単純平均で計算したRSIなら21.8まで下がる。一般に30を割ると「売られすぎ」とされる水準だ。
2つ目は、半導体株のなかでも下げが際立っていることだ。同じ方法で関連銘柄を並べると、25日線からの乖離はアドバンテスト(6857)がマイナス2.7%、東京エレクトロン(8035)がマイナス5.7%、フジクラ(5803)がマイナス12.3%にとどまる。米国の同業でも、サンディスク(SNDK)がマイナス15.7%、マイクロン・テクノロジー(MU)がマイナス8.8%だ。キオクシアだけが突出している。
25日移動平均からの乖離率(%)
読み方:キオクシアの乖離は、同じ半導体・メモリー関連の5銘柄より大きい。東京の4銘柄は10月16日、米国の2銘柄は10月15日(米東部時間)の終値。出所:株探の日足(株式分割を調整した値)、stockanalysis.comの日足。乖離率は本誌計算。
3つ目は業績である。会社は7月31日、7〜9月期の業績予想として売上高2兆3,900億円、最終利益1兆2,700億円を示した。4〜6月期の最終利益8,421億円と合わせると、上期の2四半期で2兆1,121億円になる。これを単純に2倍すると約4兆2,000億円。株探が示す10月16日終値ベースの時価総額22兆176億円は、その約5.2倍にすぎない。4つ目は需給である。日本取引所グループ(JPX)は、TOPIXにおけるキオクシアの浮動株比率を10月最終営業日に0.325、11月最終営業日に0.5へ引き上げると決めた。報道によれば現行は0.15で、指数に連動する資金から2兆円超の買いが入るとの試算がある。
指標は売られすぎ、業績は過去最高、決まった買い手もいる。通説の筋は通っている。だが、本当か。
尋問1:25日線から2割下なら、そこが底なのか
証拠を見よう。この銘柄には、ほんの3カ月前に同じ状況があった。7月13日の終値は2万2,366円で、25日線からの乖離はマイナス22.1%。いまとほぼ同じ水準である。そこから株価は下げ続け、7月29日の終値1万2,793円まで42.8%下げた。7月22日も乖離はマイナス21.5%だったが、そこから29日までにさらに40.3%下げている。
では、7月の底はどこだったのか。終値で最も安かった7月29日の乖離はマイナス46.7%だった。取引時間中の最安値は翌30日の1万2,006円である。底をつけたときの乖離は、いまの2倍だった。この銘柄にとって、マイナス20%台の乖離は「下げの途中」でもありえた。
キオクシアの25日線からの乖離率:7月の急落局面と今週(%)
読み方:7月13日と22日は、いまとほぼ同じ乖離だった。そこから株価はさらに4割下げ、終値の底をつけた7月29日の乖離はマイナス46.7%だった。その後、8月17日の終値2万613円まで61.1%戻した。出所:株探の日足(株式分割を調整した値)、乖離率は本誌計算。
理由ははっきりしている。値動きの幅が大きいのである。過去14営業日の平均の値幅(ATR)は1,045円で、株価の7.8%にあたる。1日に7〜8%動くのが普通の銘柄では、25日線から20%離れるのに3営業日もかからない。10月13日は13.28%安、15日は12.32%安だった。2日分の下げだけで乖離の大半が生まれている。乖離率は株価の「伸び具合」を測る物差しで、値動きの荒さを測る物差しではない。荒い銘柄には、物差しの目盛りを広く取る必要がある。
公平のために言えば、7月の急落のあとは鋭い戻りがあった。7月29日の終値1万2,793円から8月17日の終値2万613円までで61.1%上げている。売られすぎの指標が無意味というわけではない。外れたのは「いつ」の部分だ。乖離率は反発の大きさをある程度示すが、反発の時期は示さない。この尋問で生き残るのは「反発が起きれば大きい」という主張で、「もう底だ」という主張は死ぬ。
尋問2:下げたのは外の理由で、会社は無傷なのか
今週の2回の急落の理由を確かめる。13日の13.28%安について、フィスコは「海外メモリー株の株価下落を受けて」と伝えた。東京が休場だった12日に、韓国と米国でメモリー株が売られていた。中国の長鑫存儲技術(CXMT)が次世代DRAMの設計を示したことが材料の一つとされる。経緯は東京再開前の5つの要点にまとめた。15日の12.32%安は、米9月CPIの上振れと、米コアウィーブの社債急落が理由とされる。前日の米国ではフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が4.3%下げた。社債の動きはこちらの講義で扱った。
ここまでは通説の側に有利だ。どちらも会社の外で起きた材料で、キオクシアの業績予想は変わっていない。S&Pは13日、キオクシアの格付けを「BBB」に1段階引き上げた。株価が13%下げた日に、信用力の評価は上がっている。
だが、この説明には穴がある。1つ目の穴は、低いPERそのものだ。メモリーは価格の上下が大きい商品で、利益が最も大きいのは値上がりの山の頂上付近である。頂上で利益を年率に直すと、株価の倍率は低く見える。「利益の5倍だから割安」という見方は、メモリー価格の上昇が続くことを前提にしている。市場が売っているのは今期の利益ではなく、その前提の方である。CXMTの報道に株価がこれほど反応するのは、そのためだ。
2つ目の穴は、会社の買いがもう市場にいないことだ。キオクシアは7月31日に上限8,000億円の自社株買いを決めた。取得期間は10月30日までとしていたが、実際には8月3日から10日までの6営業日で1,613万3,500株(分割前)、7,999億9,768万円を買い終えている。7月の底から株価を押し上げた買い手の一つは、すでに買い終えている。今回の下げで、同じ支えは期待できない。
3つ目の穴は、信用取引の偏りである。株探の表示では、10月16日時点の信用倍率は29.80倍だった。信用取引で買っている株が、売っている株の約30倍ある。下げが続くと、追加の担保を求められた買い手が売らされる。上がれば戻り待ちの売りが出る。売りが売りを呼ぶ形が、7月にも起きた可能性がある。尋問2の結論は、材料は外にあっても、売りを増幅する仕組みは株の内側にある、ということになる。
尋問3:TOPIXの「2兆円の買い」は下値を支えるのか
JPXが浮動株比率の具体的な数字を公表したのは10月7日である。この日の終値は1万7,900円だった。16日の終値はそこから25.3%安い。買い手がいつ、どれだけ来るかが公表されてからも、株価は下げ続けた。決まった買いは、それだけでは下値を支えなかった。
規模も確かめておく。報じられた2兆円超を10月7日の終値で株数に直すと、約1億1,000万株になる(本誌試算)。直近20営業日の平均出来高は約5,945万株だから、その1.9日分にあたる。しかも引き上げは2段階で、10月末に入るのはその半分ほどだ。さらに、こうした指数の買いは、適用日の大引けにまとめて執行されることが多い。それを見越して先に買った投資家は、その日に売る側に回りうる。
日付の重なりも見ておきたい。10月30日は、TOPIXの1段階目の適用日であり、キオクシアの7〜9月期決算の発表日でもある。会社の告知では、発表は18時45分の予定だ。指数の買いは大引けで終わり、決算はその後に出る。指数の買い手は、決算の中身を見ないまま買う。公平のために言えば、この買いは価格を問わない機械的な需要で、下げ相場では数少ない確実な買い手でもある。尋問3の結論は、「下値を支える」は言いすぎで、「下げの勢いを1日だけ和らげうる」が実際に近い、ということになる。
生き残った主張と死んだ主張
| 通説の主張 | 尋問で示された証拠 | 判定 |
|---|---|---|
| 25日線から2割超下は売られすぎ | 指標の上では事実。ただし7月は同じ乖離からさらに4割下げ、底の乖離はマイナス46.7%だった | 一部生存(「反発すれば大きい」は生存、「底」は死亡) |
| 下げは外部要因で、会社は無傷 | 業績予想は不変、S&Pは格上げ。ただし市場が疑うのはメモリー価格の前提で、自社株買いは8月に終了、信用倍率は29.80倍 | 半分生存 |
| 利益の5倍なら割安 | 山の頂上の利益で計算した倍率で、メモリー価格の上昇が続く前提に立つ | 死亡(前提つきでのみ成立) |
| TOPIXの2兆円の買いが下値を支える | 10月7日の公表後に25.3%下落。規模は平均出来高の約1.9日分で、10月末はその半分ほど | 死亡(1日の需給要因にとどまる) |
評決:「売られすぎ」は事実、「底」は未証明
評決を言う。通説のうち、指標の上で売られすぎだという部分は認める。だが、それを根拠に「底は近い」とする部分は退ける。今後1〜4週間(11月中旬まで)で、底打ちが確認される側と、もう一段の下値を試す側の比率は、40対60で後者に傾いたと見る。10月16日の3.84%高は、米コアウィーブ株の下げが一服したことによる買い戻しとされる。出来高は5,774万株で、20日平均の0.97倍にとどまった。売り手が降参したときの大商いではない。
シナリオは3つに分ける。確率は本誌の見立てで、将来の株価を保証しない。
| シナリオ(1〜4週間) | 確率 | 想定する値幅(終値) | 引き金 |
|---|---|---|---|
| A:自律反発が続く | 30% | 1万5,180円〜1万7,500円 | SOXの下げ止まり、サンディスク決算でNANDの値上がりが続くと確認される |
| B:決算待ちのもみ合い | 40% | 1万2,600円〜1万5,200円 | 材料待ち。10月30日の決算とTOPIX適用まで方向が出ない |
| C:7月安値を割り込む | 30% | 1万2,006円割れ、4月下旬の価格帯(終値1万169〜1万1,823円)へ | 米金利の再上昇、AI関連の社債安の再燃、信用の買いの投げ |
AとBを足すと70%になり、「すぐに7月安値を割る」とは見ていない。それでも評決が下値の側に傾くのは、Bのもみ合いのなかで下値を試す場面が出やすいからだ。そこで支えになる水準を、次の地図に並べた。
キオクシアの注目水準(円、分割調整後)
読み方:上は1万5,180円(10月13日終値)の回復が反発の確認、1万7,000円台(窓の上限1万7,000円と25日線1万7,503円)への復帰が評決を改める水準。下は1万2,675円と7月安値の1万2,006円が分かれ目。出所:株探の日足、移動平均は本誌計算。
反発を確かめるサインと、下げの続きを示すサイン
| 見るもの | 反発の確認 | 下げの続き |
|---|---|---|
| 終値の水準 | 10月13日の終値1万5,180円を回復する | 15日の安値1万2,675円を終値で割る |
| 出来高 | 上げた日の出来高が20日平均(約5,945万株)を上回る | 下げた日だけ出来高が膨らむ |
| 14日RSI | 40を超えて戻る | 30を割ったまま株価が安値を更新する |
| 米国の同業 | 10月29日のサンディスク決算で、NANDの値上がりが続くと示される | SOXが15日終値の1万1,581を割り込む |
これからの日程
| 日付(日本時間) | 材料 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 10月28日 | SKハイニックスの7〜9月期決算説明会資料(韓国時間、同社の米SEC提出書類) | メモリーの値上がりの持続と、設備投資の計画 |
| 10月30日 早朝 | サンディスクの7〜9月期決算(米太平洋時間29日13時30分の説明会) | キオクシアの合弁相手。NANDの価格と需要の見通し |
| 10月30日 大引け | TOPIXの浮動株比率の1段階目(0.325)を適用 | 大引けの出来高と、翌営業日の値動き |
| 10月30日 18時45分 | キオクシアの7〜9月期決算(予定) | 会社予想(売上高2兆3,900億円、最終利益1兆2,700億円)との差と、10〜12月期の見通し |
| 11月30日 大引け | TOPIXの浮動株比率の2段階目(0.5)を適用 | 2回目の指数の買い |
再審の条件:この評決を覆すデータ
評決は動かせないものではない。次のデータが出たら、評決を覆す。
- 決算の前に、終値で1万7,000円台に戻れば。13日の窓(1万6,025円〜1万7,000円)を埋め、25日線(16日時点で1万7,503円)に届く動きになる。この場合は「底は7月と同じ水準で確認された」と評決を改め、比率を底打ちの側に移す。
- 終値で7月安値の1万2,006円を割れば。評決の40対60は、シナリオCが主役の見立てに変わる。7月の例では、底の乖離はマイナス46.7%だった。そこまでの下げを前提にした見方が必要になる。
- 決算で10〜12月期の見通しが会社予想の延長を大きく上回れば。尋問2の「山の頂上」という前提が崩れる。その場合はPERの議論を見直す。
最後に、日本の個人投資家への接点を記しておく。キオクシアは日経平均の構成銘柄で、15日の日経平均の下げには128円13銭の押し下げで寄与した。東京の半導体株の総崩れは15日の番付に、同じ日に売られたサンディスクの理由はこちらの講義に、7月の急落の経緯はCXMT上場とキオクシアの記事にまとめた。8月にこの銘柄を尋問した前回の評決と読み比べてほしい。
東証の株価は埋め込みでは表示できないため、米国で取引されるキオクシアのADR(ドル建て)を表示している。円建ての株価や値動きと一致しない場合がある。
主な参照
- キオクシアの日足(始値・高値・安値・終値・出来高、株式分割を調整した値)、信用倍率、時価総額/株探
- 13日と15日の下落理由/フィスコ(株探、10月14日7時15分)、MINKABU PRESS(株探、10月15日9時34分)
- 16日の買い戻し/MINKABU PRESS(株探、10月16日10時22分)
- 7〜9月期の業績予想、自社株買いの枠、株式分割/MINKABU PRESS(株探、8月3日9時48分)
- 自社株買いの取得終了(8月10日18時15分の適時開示)/BigGoファイナンス(TDnetの転載)
- 決算発表の予定日、S&Pによる格上げ/キオクシアホールディングス
- 浮動株比率の2段階の見直し/日本取引所グループ(10月7日追記)
- 現行の浮動株比率と2兆円超の買い需要の試算/マネーポストWEB(10月15日)
- サンディスクの決算日程/サンディスク
- SKハイニックスの決算説明会資料の公表日/米証券取引委員会
- 米国株の日足(サンディスク、マイクロン)/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月16日(東京市場の終値)。米国株(サンディスク、マイクロン)とSOXは10月15日(米東部時間)の終値で、日本時間16日夜からの値動きは反映していない。株価は株探が10月1日の株式分割(1株→3株)を調整した値で、分割前の実際の売買価格とは異なる。移動平均、乖離率、RSI、ATR、出来高の倍率、上期利益の年率換算、買い需要の株数換算は本誌の計算である。RSIはワイルダー方式(14日)で、証券会社のツールでは計算方法により値が異なる。シナリオの確率と評決の比率は本誌の判断であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















