なぜサンディスク(SNDK)とコヒレント(COHR)は同じ日にそろって売られたのか。答えを先に言うと、売られた理由は別々だ。サンディスクは「売っているものの値段」が疑われ、コヒレントは「買ってくれる客の財布」が疑われた。15日の米東部時間10時(日本時間23時)時点で、サンディスクは前日終値比7.36%安、コヒレントは10.18%安である。東京では同じ日に、キオクシアホールディングスが12.32%、フジクラが12.69%下げて引けた。今日は、この2つの理由を順に見ていく。
この講義では、1本の比喩を最後まで使う。AIのデータセンターを、巨大な建設現場だと考えてみてほしい。工事を発注する「施主」は、大手クラウド企業やAI企業だ。メモリーは現場に運び込む「資材」で、鉄骨やセメントのように相場で値段が動く。光通信の部品は、建物中に張りめぐらす「配線」で、その仕事量は施主の予算でほぼ決まる。資材屋が困るのは資材の値段が下がるときで、配線屋が困るのは施主が工事を先送りするときだ。困る理由が違う。
数字で見る15日の下げ
10月15日の下落率(前日終値比、%)
読み方:上4本は米国株で、米東部時間10時(日本時間23時)時点の取引時間中の値。下4本は日本株で、15日の終値。時刻が違うため、横に並べて大小を比べるより、資材(メモリー)と配線(光)の両方が同じ日に売られた事実を見てほしい。出所:Yahoo Finance、ナスダック、株探。
まず値動きを確かめておく。サンディスクは15日10時時点で1,300.00ドル。6月25日の最高値(終値2,335.00ドル)から44.3%下げた。それでも2025年末の終値237.38ドルと比べれば、まだ448%高い。同じメモリーのマイクロン・テクノロジー(MU)は4.83%安の870.00ドルで、最高値(6月25日終値1,213.56ドル)から28.3%下にある。
コヒレントは236.51ドル。6月2日の最高値(終値426.89ドル)から44.6%下げ、年初来の上昇は28.1%まで縮んだ。10月9日の終値312.62ドルからの4営業日だけで24.3%安だ。同じ光部品のルメンタム(LITE)も9.58%安で、10月6日の最高値(終値1,133.40ドル)から28.5%下にある。
原理1:メモリーは「資材」、値段が売上を決める
ここが肝心だ。メモリーは規格が決まった部品で、どこの会社の製品でも中身の働きはほぼ同じである。だから値段は需要と供給の釣り合いで決まり、鉄骨と同じように相場で上下する。メモリー会社の売上と利益は、作った量よりも1枚あたりの値段で大きく変わる。2026年前半にサンディスクとマイクロンが何倍にも上がったのは、AI向けの需要に供給が追いつかず、値段が上がり続けたからだ。
今週、その値段の前提に疑問が出た。CNBCによれば、中国の長鑫存儲技術(CXMT)が新しい構造のサーバー向けメモリーを出す計画を示した。記憶の密度を上げられる設計だという。中国勢が世界の市場で存在感を増せば、資材の供給が増え、値段が下がる。韓国の経済紙のコラムが2029年の供給過剰の可能性を指摘したことも、同じ不安に油を注いだ。CNBCは、過去5日間でSKハイニックスが26%、サムスン電子が22%、マイクロンが約11%下げたと伝えている。
反論もある。同じCNBCの記事で、米ローゼンブラット証券のケビン・キャシディ氏は「需給の釣り合いを変えるとは思わない」と述べた。CXMTが量産と歩留まりをまだ示していない、という指摘も複数のアナリストから出ている。つまり、資材の値段が実際に下がり始めたわけではない。下がるかもしれない、という見通しが値段より先に株価を動かしている。
用語メモ。DRAM(ディーラム)は計算中のデータを一時的に置く作業台のようなメモリーで、電源を切ると中身が消える。NAND(ナンド)型フラッシュメモリーは電源を切っても中身が残る保管庫で、SSDなどに使う。サンディスクとキオクシアはNANDの会社、CXMTやマイクロンが争うのは主にDRAMだ。供給過剰は、作られる量が買われる量を上回り、値段が下がる状態を指す。
用語メモのとおり、CXMTが狙うのはDRAMで、サンディスクの主力のNANDではない。それでもサンディスクが売られたのは、市場がメモリーを1つの資材として扱い、まとめて値段を付け直しているからだ。バークレイズがデルを格下げした14日のリポートで、メモリー価格は今後正常化し、下がる可能性もあると指摘したこともInvesting.comが伝えている。資材の値段に、売り手と買い手の両方から疑問が出た週だった。
原理2:光部品は「配線」、施主の予算が仕事量を決める
次に配線の話へ移る。データセンターの中では、数万個の半導体を光ファイバーでつなぐ。コヒレントやルメンタムは、電気の信号を光に変える部品や、そのためのレーザーを作っている。メモリーと違い、値段が相場で大きく上下するわけではない。代わりに、施主がどれだけの規模で工事を発注するかで、仕事量がほぼ決まる。
その施主の財布に、今週は疑いの目が向いた。当サイトが15日に伝えたとおり、AI向けクラウドのコアウィーブの社債は額面の8割を割り込み、利回りは約15%まで上がった。AIのデータセンターは、借りたお金で建てている部分が大きい。借りる側の金利が上がれば、施主は工事の規模を見直すかもしれない。配線屋の株は、その「かもしれない」を先に織り込む。詳しくはコアウィーブ社債の記事で講義した。
建設現場の比喩:2つの不安は別の経路で株価に届く
読み方:同じ現場の業者でも、困る理由が違う。資材屋は値段、配線屋は工事量に左右される。比喩は仕組みの説明であり、各社の取引関係を示すものではない。出所:CNBC、Investing.com、各社発表をもとに本誌作成。
東京への当てはめ:キオクシアは資材、フジクラは配線
比喩を東京の銘柄に当てはめてみる。キオクシアは資材屋の側だ。しかもサンディスクとは、四日市と北上の工場を共同で運営する関係にある。キオクシアの1月30日の発表によると、四日市の合弁契約は2034年12月31日まで延長された。同じ工場で同じNANDを作っている以上、サンディスクの株価とキオクシアの株価が一緒に動くのは自然である。15日のキオクシアは1,810円安の1万2,880円で引けた(株探)。
フジクラ、古河電気工業、住友電気工業は配線屋の側に入る。光ファイバーや接続部品でデータセンターの需要を取り込んできた会社だ。15日はフジクラが12.69%安の4,540円、古河電工が13.10%安の3,376円、住友電工が9.08%安の2,107.5円だった(いずれも株探)。ここで言いたいのは、これらの会社がコヒレントの取引先だということではない。同じ施主の予算に仕事量を頼っている、という構造が似ているということだ。
よくある誤解:「同じ日に下げたから、同じ理由で下げた」。資材屋が恐れているのは値段の下落で、これは需要が強くても起きる。中国から供給が増えれば、工事が順調でも資材は安くなる。配線屋が恐れているのは工事の先送りで、これは値段とは関係なく起きる。回復のきっかけも別々だ。メモリー株にはメモリー価格の数字が、光部品株には施主の設備投資計画が必要になる。片方の好材料で、もう片方は戻らない。
これから届く「答え合わせ」の材料
配線屋の側は、日程がはっきりしている。コヒレントは11月4日に7〜9月期(2027年度第1四半期)の決算を発表し、米東部時間16時30分(日本時間5日6時30分)から説明会を開くと告知した。同社は8月の決算発表で、この四半期の売上高を22億〜24億ドル、調整後の1株利益を1.85〜2.05ドルと見通している。この見通しを守れるか、そして10〜12月期の見通しで施主の発注が弱っている兆しが出るかが、配線の答え合わせになる。
資材の側は、値段そのものを見るしかない。メモリーの取引価格や、メモリー各社が決算で示す価格の見通しだ。株価がすでに最高値から4割以上下げたサンディスクにとって、値段の下落が「かもしれない」のままで終わるのか、実際の数字に表れるのかが分かれ目になる。メモリー株の過去の振れ幅はストレージ株の値付けの記事でも扱った。
まとめ:覚えて帰る3点
建設現場の比喩に戻ろう。今週の現場では、資材の値段が下がるという噂と、施主の財布が苦しいという噂が同時に流れた。資材屋と配線屋は、別々の噂で同じ日に足元をすくわれた。それが15日の値動きの正体である。
- メモリー(サンディスク、キオクシア)は資材だ。株価を決めるのは値段で、今回の不安の出どころは中国の供給だ。需要が強くても下がりうる。
- 光部品(コヒレント、フジクラ)は配線だ。株価を決めるのは施主の工事量で、今回の不安の出どころはAI企業の資金繰りだ。
- 答え合わせの材料も別々だ。光部品は11月4日のコヒレント決算、メモリーは価格の実際の数字を待つ。同じ日に下げた銘柄を、同じ物差しで拾わないこと。
同じ日にサーバー株が売られた理由はデルの決算の記事とあわせて読むと、施主・資材・配線のつながりがさらに見えやすい。
主な参照
- メモリー株の下落、CXMT、2029年の供給過剰の懸念、ローゼンブラットの見解/CNBC(2026年10月15日)
- バークレイズのメモリー価格の見方/Investing.com(2026年10月14日)
- 四日市合弁契約の2034年までの延長/キオクシア(2026年1月30日)
- コヒレントの決算発表日の告知/Stock Titan(同社リリース掲載)
- コヒレントの2027年度第1四半期の見通し(8月の決算発表)/Barchart(同社リリース掲載)
- 米国株の終値(2025年12月31日〜2026年10月14日)/ナスダック
- 15日の取引時間中の米国株価/Yahoo Finance
- キオクシア、フジクラ、古河電工、住友電工の15日終値/株探
データ基準日:2026年10月15日(米国株は米東部時間10時=日本時間23時、日本株は15日終値)。米国株の15日の値は取引時間中のものであり、終値ではない。14日以前の終値はナスダックの公表データで、Yahoo Financeの日足と照合した。CNBCの記事は本誌が全文を取得できず、同記事の抜粋と転載にもとづく。コヒレントの決算日は同社リリースの転載で確認したもので、日程は変わる場合がある。建設現場の比喩は仕組みを説明するためのものであり、個々の企業の取引関係を示すものではない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は各自の責任において行われたい。











