10月30日金曜、日本時間の午後5時。暗号資産オプション取引所の最大手デリビットで、ビットコインのオプションの10月の月末物が満期を迎える。その建玉は、19日正午の時点で約15万BTC。デリビットのビットコイン・オプション全体の38.4%にあたり、ドル換算で約124億ドルになる。この日に向けて、2つの陣営が静かに綱を張っている。
一方は、価格が9万5,000ドルを超えて満期を迎えることに賭けた買い手たちだ。もう一方は、その賭けの相手方として、ビットコインが上にも下にも大きく動かないことで利益を得る売り手たちである。19日の東京時間、ビットコインは8万2,500ドル前後で取引されている。舞台の幕は、すでに上がっている。
満期までの日程(日本時間)
読み方:満期の前の10日間に、AI株の決算、米金融政策、最大の保有企業の株主総会が重なる。出所:デリビット、米証券取引委員会への提出資料、米連邦準備制度理事会、各社の決算予定。
9万5,000ドルに積まれた21億ドル
本誌は19日午前(日本時間12時ごろ)、デリビットが公開しているデータから10月30日満期の建玉を集計した。最も大きいのは権利行使価格9万5,000ドルのコール(買う権利)で、2万5,569BTC。当時の指数価格8万2,556ドルで換算すると約21億ドルにのぼる。2位は9万ドルのコールの1万5,337BTC、3位は10万ドルのコールの1万4,318BTCだった。上位3つがいずれも、いまの価格より上の水準に置かれている。
コールの建玉は合計9万8,429BTC、プット(売る権利)は5万1,479BTC。プットをコールで割ったプット・コール・レシオは0.52で、建玉の上では強気の賭けが弱気の賭けのほぼ2倍ある。プットで最も多いのは7万ドルの4,144BTCで、7万2,000ドルと7万5,000ドルがそれぞれ約3,000BTCで続く。下値への備えは、いまの価格から1割以上離れた場所に薄く置かれている。
| 項目 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| 10月30日満期の建玉 | 約15万BTC(約124億ドル) | デリビットのビットコイン・オプション全体の38.4% |
| コール/プット | 9万8,429BTC/5万1,479BTC | プット・コール・レシオ0.52 |
| 最大の建玉 | 9万5,000ドルのコール 2万5,569BTC | 約21億ドル |
| 最大ペイン | 7万9,000ドル | オプションの買い手の損失が最大になる価格(本誌計算) |
| 指数価格 | 8万2,556ドル | 19日12時ごろ(日本時間) |
| インプライド・ボラティリティ指数(DVOL) | 38台 | 過去6日間は37〜39で推移 |
7万9,000ドルという引力
この満期には、もう一つの数字がある。「最大ペイン」と呼ばれる価格だ。満期の価格がそこで決まった場合に、オプションの買い手全体の受け取りが最も小さくなる水準を指す。本誌の計算では、10月30日満期の最大ペインは7万9,000ドルで、19日の価格より約4%下にある。
オプションの売り手には、満期が近づくと価格をこの水準へ引き寄せたい動機が生まれる、という見方が市場にはある。ただし、最大ペインに向けて価格が動くという法則が実証されているわけではない。現物やETFの売買の方がはるかに大きい日も多い。この数字は、売り手と買い手の損得の分かれ目を示す地図にすぎない。それでも、15日に一時7万9,676ドルまで下げた記憶は新しい。
巻き戻し——史上最高値から3割安のひと月
時計を少し戻す。ビットコインの史上最高値は、コインゲッコーの集計で2025年10月6日に付けた12万6,080ドルである。19日の価格はそこから約34%下にある。この1カ月は、むしろ狭い範囲を行き来してきた。コインベースの日足では、9月21日に8万6,595ドルで引け、10月4日にも8万6,507ドルで引けた。上は8万6,000ドル台で2度押し返されている。
下では8万ドルが試された。10月8日に8万315ドル、15日に7万9,676ドルまで下げたが、いずれもその日のうちに8万ドル台を取り戻した。米国で強い物価統計が出て、AI関連株が崩れた週でも、ビットコインは8万ドル前後で踏みとどまった。年末までの強気・弱気材料は15日の見通し記事で番付にした。オプションの建玉は、この狭い箱の上と下に、それぞれの陣営の旗が立っていることを示している。
もう一人の主役、マイケル・セイラー
この物語には、オプションの外にも登場人物がいる。ビットコインを世界で最も多く保有する上場企業、米ストラテジーだ。同社が米証券取引委員会(SEC)に提出した資料によると、10月5〜11日に250BTCを1BTCあたり8万6,194ドルで買い増し、11日時点の保有は84万8,250BTCになった。平均取得価格は7万5,444ドルである。
ここで数字を並べてみる。19日の価格8万2,500ドル前後は、ストラテジーの平均取得価格をおよそ9%上回る位置にある。最大ペインの7万9,000ドルとの差は、そこからさらに4%ほどしかない。直近1週間の買い増しは250BTC、金額にして2,150万ドルだった。マイケル・セイラー会長が築いた「ビットコインを買い続ける会社」のモデルは、含み益の薄さという現実に近づいている。
そのストラテジーは、オプション満期の2日前、10月28日(米東部時間10時、日本時間23時)に臨時株主総会を開く。議題は、同社が発行する各種優先株の発行条件を改める定款変更である。優先株は、同社がビットコインの購入資金を集めるための重要な道具だ。さらに11月30日には、ストラテジーやメタプラネットが株価指数から外れる可能性が取り沙汰されている。その経緯はMSCIの新ルールの記事にまとめた。
静かな市場、低い恐怖
舞台の空気は、意外なほど落ち着いている。デリビットが算出するビットコインのインプライド・ボラティリティ指数(DVOL)は、13〜18日の6日間、37台から39台で推移した。オプション市場が見込む先行きの値動きの大きさが、ほとんど変わっていないということだ。株式市場でAI関連株が崩れた週としては、驚くほど平静である。
静けさは、2通りに読める。1つは、8万ドルの下値が固いと多くの参加者が考えている、という読み方だ。もう1つは、動かないことに賭ける売り手が多く、価格が箱を抜けたときに慌てて手当てする動きが一気に出うる、という読み方である。どちらの物語が正しかったかは、満期の日に価格がどこにいるかで答えが出る。
エピローグ——満期までの11日間
満期までの11日間には、ほかにもいくつかの場面が用意されている。日本時間22日の朝には米メタ・プラットフォームズなどが決算を発表し、AI関連株の地合いが試される。29日午前3時には米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が出る。そして28日夜にストラテジーの臨時株主総会、30日夕方にデリビットの満期と続く。
9万5,000ドルの旗を立てた買い手が報われるには、ここから15%強の上昇が要る。7万9,000ドルの引力が働くなら、ストラテジーの取得単価に一段と近づく。8万ドル前後の静かな箱は、30日の午後5時に、どちらかの方向へ開くのか。それとも、何事もなかったように11月を迎えるのか。暗号資産の量子リスクという別の論点は16日の記事で扱っている。
主な参照
- オプションの建玉、指数価格、DVOL/デリビット(公開API)
- ビットコインの日足(高値・安値・終値)/コインベース(公開API)
- 史上最高値と日付/コインゲッコー
- ストラテジーの購入と保有(10月11日時点)/米証券取引委員会(SEC)提出資料
- ストラテジーの臨時株主総会(10月28日)/米証券取引委員会(SEC)提出資料
- FOMCの日程/米連邦準備制度理事会
データ基準日:2026年10月19日12時ごろ(日本時間)。ビットコインの価格、オプションの建玉、指数価格はいずれも取引時間中の値で、24時間取引のため終値はない。日足の高値・安値・終値はコインベースの協定世界時(UTC)基準の値である。最大ペインはデリビットの10月30日満期の建玉から本誌が計算したもので、他社の集計とは異なる場合がある。デリビット以外の取引所や米国の上場オプションの建玉は含めていない。ストラテジーの保有と取得価格は10月11日時点の会社開示による。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の暗号資産や銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















