英国の予算と米国の金融政策が、同じ水曜日に重なる。10月28日(水)、ヒーリー財務相が就任後初の予算案を議会に示し、同じ日の米東部時間14時(日本時間29日午前3時)には米連邦公開市場委員会(FOMC)が結果を発表する。ロイターによると、ポンドドルは26日の欧州時間に前週末比0.15%安の1.3348ドルで取引された。予算を前に、ポンドは対ユーロでも0.31%下げている。
まず下の4枚を見てほしい。本稿の結論を先に書けば、短期(今週〜2週間)の中心レンジは1.3250〜1.3475ドルで、方向感は「予算待ちの小幅安」である。上抜けには予算の信認と、11月5日の英中銀会合に向けた利上げ観測の維持の両方が要る。
3カ月の値動き:1.32ドル台の底から戻り、1.34ドルで止まった
ポンドドルの推移(ECB参照レート、2026年7月27日〜10月23日)
読み方:8月下旬の高値から10月初めの安値まで約3.3%下げ、その後の戻りは1.34ドル付近で止まっている。出所:ECB参照レート(フランクファーター経由、各営業日の公表値)。取引時間中の高値・安値とは異なる。
欧州中央銀行(ECB)の参照レートで見ると、ポンドドルは8月21日の1.3656ドルを3カ月の高値として下げ、10月2日に1.3201ドルの安値を付けた。そこから戻り、21日には1.3402ドルまで回復した。21日に英国立統計局(ONS)が公表した9月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比3.5%と、8月の3.1%から加速したことが買い材料になった。
ただ、1.34ドル台は定着していない。23日の参照レートは1.3368ドルで、26日の取引時間中は1.3348ドルまで下げた。同じ23日に公表された9月の小売売上高(数量ベース)は前月比0.4%減で、8月の0.7%増から反転した。物価は強いが、消費は鈍る。この組み合わせが、ポンドを1.34ドルの手前で止めている。英消費の減速については23日の記事で詳しく取り上げた。
物価と政策金利:英中銀が利上げに傾く理由
英国の物価指標(2026年9月、前年同月比)と政策金利
読み方:サービス価格の伸び3.7%は政策金利3.75%とほぼ同じで、実質の政策金利はゼロに近い。これが11月の利上げ観測の土台である。出所:英国立統計局(10月21日公表)、イングランド銀行。
英中銀(BOE)の政策金利は3.75%で、6月、7月、9月の会合で据え置かれた。一方、9月のCPIは3.5%、サービス価格は3.7%、総合指数に持ち家関連費用を加えたCPIHは3.6%である。サービス価格の伸びは、すでに政策金利とほぼ並んでいる。ロイターは21日、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータをもとに、市場が11月の0.25%利上げを「ほぼ完全に織り込んでいる」と伝えた。
米国側も引き締め方向にある。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16日に0.25%の利上げを決め、誘導目標は3.75〜4.00%になった。今週のFOMCは据え置きが大勢で、インベスティング・ドットコムは26日、CMEフェドウオッチで12月の利上げ確率が約73%だと伝えた。両国とも利上げ方向にあるため、金利差だけでは方向が決まらない。決め手は、今週どちらの国のニュースが予想からずれるかである。
今週の日程:水曜日に2つの山が来る
今週から11月初めの主な日程(日本時間)
読み方:英国と米国の材料が水曜日から木曜日に集中する。予算で英国債が売られ、FOMCがタカ派に傾けば、ポンドドルには二重の下げ圧力になる。出所:ロイター、米連邦準備制度理事会、イングランド銀行、インベスティング・ドットコム。
予算の焦点は財政の余裕(ヘッドルーム)である。ロイターによると、モルガン・スタンレーのファビオ・バッサニン氏は余裕が約150億ポンドまで回復したとみる一方で、「期待が前向きになるほど、失望のリスクも高まる」と指摘した。シティAMによると、3月時点の見通しでは経常予算ルールに対して240億ポンドの余裕があったが、国債利回りやインフレの上昇で最大150億ポンドが削られた可能性がある。所得税、従業員の国民保険料、付加価値税(VAT)、法人税の基本税率はマニフェストで据え置きを約束しているため、銀行や石油会社、賭博への課税など的を絞った小幅な増税が予想されている。
債券市場はすでに一服している。英10年国債利回りは26日に0.025%下がり5.34%となった。10月8日には5.5267%と2007年7月以来の水準を付けていた。予算が国債市場の安定を優先する内容なら、利回りは落ち着き、ポンドには追い風になる。逆に財源の説明が甘ければ、10月上旬のような国債売りとポンド安が同時に起きうる。
注目の価格帯:1.3302ドルと1.3433ドル
ポンドドルの注目水準
読み方:青が現在値、橙が本稿で重視する水準。1.3302ドルを終値で割れば弱気シナリオへ、1.3433ドルを上抜ければ強気シナリオへ切り替える。出所:ストーンX(10月22日)、ロイター(26日)。
テクニカルの節目は、ストーンXのマイケル・ブトロス氏が22日のリポートで示した水準を参考にした。上値は、8月の下げの半値戻しにあたる1.3406ドルを3日続けて試した後、200日移動平均の1.3433ドル付近、2月の安値終値と年初の始値が重なる1.3465〜1.3474ドルが続く。ここを抜ければ7月の高値1.3558ドルが視野に入る。
下値は1.3353ドル、5月の安値にあたる1.3302ドル、61.8%押しの1.3245ドルの順である。同氏は1.3245ドルを日足終値で割り込めば、主導権は売り方に戻ると見ている。本稿も、1.3302ドルを短期の分岐点、1.3245ドルを強気シナリオの撤退ラインとみなす。
シナリオ:今週〜11月5日の英中銀会合まで
| シナリオ | 確率(本誌) | 条件 | 想定レンジ |
|---|---|---|---|
| 基本:予算待ちの小幅安から持ち直し | 50% | 予算が慎重な内容で国債市場が落ち着き、FOMCは据え置きで12月の利上げを示唆 | 1.3250〜1.3475ドル |
| 強気:200日線の上抜け | 25% | 予算の信認で英国債利回りが低下、英中銀の11月利上げ観測は維持、FOMCは予想ほどタカ派でない | 1.3433ドルを超え、1.3558ドルを試す |
| 弱気:国債売りとドル高の同時進行 | 25% | 予算の財源に疑問が出て英国債が売られる、またはFOMCが追加利上げを強く示唆 | 1.3302ドルを割り、1.3245〜1.3140ドル |
中期(年末まで)の見方は、1.32〜1.36ドルのレンジ内での推移を中心に置く。英中銀が11月に利上げし、その後も利上げを続ける姿勢を示せば、レンジの上半分に寄る。英国の物価と消費が逆方向に動いている以上、英中銀が利上げを重ねられるかには疑問も残る。なお、主要銀行のポンドドル予想として流通している数字の多くは2025年末〜26年初めのもので、FRBの9月利上げより前に出されたため、本稿では使っていない。
個人投資家向けチェックリスト
- 28日(水)の予算:英10年国債利回りが5.34%から上がるか下がるか。上がればポンド安のサインと読む。
- 29日(木)午前3時のFOMC:声明と記者会見が12月の利上げをどこまで示唆するか。強く示唆すればドル高要因になる。
- 1.3302ドル:日足終値でここを割れば、基本シナリオから弱気シナリオに切り替える。
- 1.3433ドル:200日移動平均。終値で上抜ければ強気シナリオの確率を引き上げる。
- 11月5日の英中銀会合:ほぼ織り込み済みの利上げが見送られれば、ポンドは急落しやすい。
対ユーロでもポンドの位置は重要だ。23日には1ユーロ=83.63ペンスと2025年5月末以来のポンド高を付けた。その背景はユーロポンドの記事に、同じ週のユーロドルの見通しはこちらにまとめた。今週の主要中銀の日程は中銀番付で確認できる。FX取引の基礎はFX解説ページにある。
主な参照
- ポンド相場、英国債利回り、モルガン・スタンレーの見方(10月26日)/ロイター(マーケットスクリーナー掲載)
- 英中銀の利上げ織り込み(10月21日)/ロイター(マーケットスクリーナー掲載)
- 政策金利と次回会合日/イングランド銀行
- 9月の消費者物価指数/英国立統計局
- 9月の小売売上高/英国立統計局
- 予算の財政余裕と増税の見通し(10月23日)/シティAM
- 9月の利上げとFOMCの日程/米連邦準備制度理事会・FOMC日程
- 12月の利上げ確率(CMEフェドウオッチ、10月26日)/インベスティング・ドットコム
- テクニカルの節目(10月22日)/ストーンX
- ECB参照レートの推移/フランクファーター(ECBデータ)
データ基準日:2026年10月26日。ポンドドル1.3348ドルとユーロポンド83.98ペンス、英10年国債利回り5.34%は、ロイターが同日に報じた欧州時間の取引時間中の水準であり、終値ではない。3カ月の推移と高値・安値はECBの参照レート(各営業日の中欧時間16時ごろの公表値、最新は10月23日)で、取引時間中の高値・安値とは一致しない。テクニカルの節目はストーンXのリポートによる。財政余裕の金額はアナリストの推計で、政府の公式数値ではない。シナリオの確率は本誌の判断であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















