郵便局の貯金窓口に並ぶ人の通帳は、日本経済新聞の報道によれば全国で約1.2億口座ある。28日の昼、その窓口から株の売買注文が流れる日が来るかもしれない、という記事が出た。ゆうちょ銀行が松井証券に2割程度を出資する方向で検討している、という内容である。松井証券の株価は後場に買い気配で始まり(トレーダーズ・ウェブ)、一時6%超上げた。
同じ東京市場の片隅では、別の値動きが続いていた。レンタルサーバー「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスで、親会社のGMOインターネットグループ株は26日と27日の2日間で16.2%下げ、28日にようやく5.2%反発した。片や「顧客の入口が増える」話、片や「顧客の信用が試される」話である。あすの東京で注目したい2銘柄を、現場の数字から順にたどる。
4銘柄の騰落率(%)
読み方:出資を検討される側の松井証券は上げ、出資する側のゆうちょ銀行はほぼ動かなかった。GMOの2社は2日で16%超下げた後、28日に戻した。出所:Yahoo!ファイナンスの日足終値から編集部計算(26〜27日は23日終値→27日終値)。
松井証券:報道、会社の答え、決算が同じ日に出た
まず事実の順番を確かめておく。28日の11時30分、松井証券(8628)は4〜9月期の決算を発表した。報道はその後に出た。12時55分、松井証券は東京証券取引所の適時開示でゆうちょ銀行との間で、出資に関する協議を含めて「提携について検討をしていることは事実」と認めたうえで、現時点で決定した事実はないと書いた。14時35分にはゆうちょ銀行(7182)も開示を出し、「松井証券株式会社を含む証券会社等との提携等、様々な検討をしておりますが、何ら決定した事実はございません」とした。
2つの文面は温度が違う。松井証券は相手の名前を挙げて検討を認めた。ゆうちょ銀行は「松井証券を含む証券会社等」と、相手を1社に絞らない書き方をした。出資比率の「2割」は報道の数字であり、両社とも開示資料では触れていない。ここが、あすの値動きを読むうえでの最初の分かれ目になる。
株価は28日の終値で1,063円、前日比4.0%高だった。高値は1,088円で、上げ幅は一時6.5%に達したが、引けにかけて半分近くを吐き出した。9月14日に付けた直近1年の終値ベースの高値1,215円にはまだ12.5%届かない。一方、ゆうちょ銀行株は3,023円で0.2%安と、ほぼ動かなかった。出資する側の株価は反応せず、される側だけが買われた、という構図である。
決算そのものは好調、ただし直近の四半期は減速
報道に隠れたが、決算短信の数字も見ておきたい。4〜9月期の営業収益は340億4,800万円で前年同期比42.8%増、経常利益は165億2,800万円で62.8%増、純利益は104億3,500万円で59.7%増だった。中間配当は1株28円で、前年同期の25円から増えた。配当は「配当性向70%以上を基準」とする方針である。
ただし、四半期に切ると景色が変わる。決算報告資料によれば、7〜9月期の経常利益は76億7,200万円で、4〜6月期の88億5,600万円から13%減った。受入手数料は直前四半期比16%減である。一方で信用取引の平均残高は5,343億円と8%増え、金融収支は60億円と4%増えた。売買の手数料は細り、信用取引の金利で稼ぐ形が強まっている。9月末の総口座数は183万7,434口座だった。
私たちの財布に置き換えると
出資の規模感を円で確かめる。松井証券の発行済み株式は2億5,926万株、自己株式を除くと約2億5,772万株である。28日終値の1,063円で計算した時価総額は約2,740億円。その2割なら約548億円になる(編集部試算、報道の比率を仮定)。ゆうちょ銀行にとっては大きくない額だが、松井証券にとっては筆頭株主が入れ替わる規模である。
円で見る規模(億円)
読み方:報道どおり2割なら約548億円で、松井証券の半期の経常利益の3倍強にあたる。ゆうちょ銀行の含み損5兆6,759億円と比べれば小さい。出所:松井証券の決算短信・配当の開示(10月28日)から編集部計算。
個人の手元に引き寄せると、100株を持つ株主が受け取る中間配当は2,800円(税引き前)である。28日の上げ幅41円を100株に掛ければ4,100円で、配当の1.5回分が1日で動いたことになる。報道の材料は配当ほど確かなものではない。「決定した事実はない」という両社の言葉を、そのまま値段の重さとして受け取りたい。
ゆうちょ銀行のもう一つの開示:含み損5.7兆円
ゆうちょ銀行は前日27日の15時30分に、もう一つ開示を出している。満期まで持つ目的で保有する上場債券の含み損が、9月末で5兆6,759億円に達したという内容だ。帳簿価額33兆1,702億円に対し、時価は27兆4,943億円。前期(2026年3月期)の連結経常利益7,591億円の7.5倍にあたる。
数字は大きいが、同行は「2027年3月期の連結業績予想及び配当予想への影響はありません」としている。満期まで持てば額面で戻ってくる債券であり、売らない限り損は確定しない。とはいえ、金利が上がるほど古い低利の債券は重荷になる。10年国債の利率が3.1%まで上がった10月上旬の入札はこの記事にまとめた。貯金を預かって債券で運ぶ商売から、手数料を稼ぐ商売へ。証券会社への出資検討は、この流れの中に置くと理解しやすい。同行のATM有料化の話はこちらで扱った。
GMOインターネットグループ:2日で16%安、28日に反発
2銘柄目に移る。発端は10月19日、子会社GMOインターネット(4784)に客からの問い合わせが入ったことだった。同社の23日付の開示によれば、翌20日に「お名前.com デスクトップクラウド」の一部の利用者のサーバーで、第三者が置いた不正なプログラムを確認した。21日午前4時からは全プランのサーバーを順次止めた。影響の可能性があるサーバーは2万6,739件。これは対象になり得る台数であって、被害が確認された件数ではない、と同社は断っている。
開示には、サーバー内の「取引ツール等に保存された取引口座のログイン情報等」が取得され、不正に使われた可能性があると書かれている。取引ツールを常時動かす置き場として、このサービスを使っていた利用者がいたことがうかがえる。利用者のお金に直結する種類の事故である。
GMOの不正アクセス、会社開示でたどる経緯
読み方:問い合わせから全サーバー停止まで2日。業績への影響額は28日時点でも「算定できていない」。出所:GMOインターネットの適時開示(10月23日・28日)。
株価はこう動いた。親会社GMOインターネットグループ(9449)は21日の終値4,005円から、23日に3,769円、26日に3,179円(前日比15.7%安)、27日に3,159円まで下げた。21日からの下げは21.1%である。28日は3,324円と5.2%戻した。子会社のGMOインターネット株は27日に409円まで下げ、直近1年の最安値を付けた。28日は423円だった。
28日朝8時59分、両社は対応方針を開示した。中身は3つ。①攻撃者が公開した情報に自分の情報が含まれていると確認された利用者に、すでに決めた一律5,000円とは別に「GMO特別お見舞金」を情報の区分ごとに1万〜2万5,000円、1公開あたり上限300万円まで払う。②攻撃者の要求には「永久に応じません」。③GMOインターネットグループが総額100万ドル(約1億5,000万円)を上限とする懸賞金を設ける。費用の総額は「現時点では算定できておりません」とした。
なお、攻撃者側とみられるサイトが停止し、警視庁が不正アクセス禁止法違反などの疑いで捜査していると報じられている(TBS NEWS DIG)。この点は会社の開示では確認できていない。サイバー事故の後に関連株がどう動いたかは、ソースネクストの流出を扱った記事も参考になる。
あすの東京で見るところ
| 銘柄 | 28日終値 | 見る数字 | 上に行く条件 | 下に行く条件 |
|---|---|---|---|---|
| 松井証券(8628) | 1,063円 | 28日高値1,088円、27日終値1,022円 | 出資の正式決定、出資比率や業務提携の中身の開示 | ゆうちょ銀行が他社との提携を選ぶ、または検討の打ち切り |
| ゆうちょ銀行(7182) | 3,023円 | 9月30日の終値3,502円(直近1年の高値)からの距離 | 手数料収入の具体策が数字で示される | 金利上昇で含み損がさらに膨らむ |
| GMOインターネットグループ(9449) | 3,324円 | 27日の安値圏3,159円 | 費用の総額が判明し、想定内に収まる | 被害の拡大、業績予想の修正、他サービスへの波及 |
| GMOインターネット(4784) | 423円 | 27日終値409円(直近1年の最安値) | サービス再開の時期が示される | 補償費用が利益を大きく削ると分かる |
松井証券は「検討の事実」と「決定の不在」が同時に書かれた銘柄である。28日は高値から引けにかけて上げ幅の4割近くを失っており、熱は一日で冷め始めている。28日の高値1,088円を終値で超えられるかが、市場の信じ方を測る物差しになる。逆に報道前の27日終値1,022円近辺まで戻るなら、期待は一旦はがれたと読める。
GMOインターネットグループは、2日で16%下げた後の反発である。下げの理由は消えていない。費用の総額が出ていない以上、28日の戻りは「売られすぎの修正」であって「事故の終わり」ではない。現実的な選択肢は、買うにしても費用の開示を待つ、持っているなら27日の安値を割ったときの手じまいの線を先に決めておく、のどちらかだろう。前日の注目株はこちら、28日の東京市場全体は大引けの記事にまとめた。
主な参照
- 一部報道について(10月28日12時55分)/松井証券(TDnet)
- 2027年3月期第2四半期(中間期)決算短信・決算報告資料・中間配当/松井証券(TDnet)
- 本日の一部報道について(10月28日14時35分)/ゆうちょ銀行(TDnet)
- 2027年3月期第2四半期末の有価証券含み損に関するお知らせ(10月27日)/ゆうちょ銀行(TDnet)
- 提供サービスへの不正アクセスに関するお知らせ(10月23日)/GMOインターネット(TDnet)
- 不正アクセスへの対応方針に関するお知らせ(10月28日)/GMOインターネット(TDnet)
- ゆうちょ銀行、松井証券に2割出資へ(10月28日)/日本経済新聞
- GMOに対するハッカー集団サイトが停止(10月28日)/TBS NEWS DIG
- 株価の日足終値/Yahoo!ファイナンス
データ基準日:2026年10月28日(東京市場の大引け)。株価はすべて28日までの終値であり、取引時間中の値ではない(松井証券の1,088円のみ28日の高値)。ゆうちょ銀行による出資比率「2割」と口座数「約1.2億」は日本経済新聞の報道によるもので、両社の開示資料には記載がない。両社とも「決定した事実はない」としている。出資額約548億円は28日終値と報道の比率を前提にした編集部試算である。GMOの攻撃者サイト停止と警視庁の捜査は報道に基づくもので、会社の開示では確認していない。費用の総額は会社が「算定できていない」としており、本記事も推計していない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。















