市場はこう受け止めた——個人投資家が暗号資産から離れている。米ロビンフッド・マーケッツ(HOOD)が10月27日の米市場終了後に発表した7〜9月期決算で、暗号資産の収入は1億2,000万ドルと前年同期の半分以下、55%の減少だった。株価は時間外取引で売られ、28日の米東部時間7時7分の時点で87.44ドルと、27日終値94.56ドルから7.5%安い。
だが、本当か。収入が半分になったことと、個人が暗号資産から逃げたことは同じではない。今日はこの通説を、ロビンフッドが米証券取引委員会(SEC)に提出した決算資料の数字で尋問する。論点は3つ。値段の下落、手数料の取り方、そしてお金の行き先である。
ロビンフッド7〜9月期、前年同期比の増減(%)
読み方:暗号資産の取引額の減少(−38%)は、ビットコインの平均価格の下落(−37.8%)とほぼ同じ幅だった。株式とオプションは過去最高を更新している。出所:ロビンフッドの決算資料(SEC提出、10月27日)、ビットコイン価格はYahoo!ファイナンスの日足終値の四半期平均から編集部計算。
通説の陳述:数字は確かに悪い
まず通説の側を、最も強い形で書いておく。ロビンフッドの7〜9月期の暗号資産の取引額(約定代金)は500億ドルで、前年同期比38%減。そのうちロビンフッドのアプリでの取引額は210億ドルで48%減った。欧州を中心とする取引所ビットスタンプの取引額は290億ドルで28%減である。収入の55%減と合わせ、どの物差しで見ても暗号資産の商売は縮んでいる。
しかも、売上高全体は14億2,000万ドルと前年同期比12%増えて過去最高だったのに、1株利益は0.51ドルと16%減った。ナスダックが集計したアナリスト予想は0.56ドル(8人)で、これを下回った。暗号資産の落ち込みが利益を削った、という読みは自然に見える。
尋問1:取引額の38%減は、値下がりで説明できないか
証拠を見よう。取引額は「何枚売買したか」と「1枚いくらか」の掛け算である。ビットコインの日足終値の平均は、2025年7〜9月期が約11万4,471ドル、2026年7〜9月期が約7万1,176ドル。値段そのものが37.8%下がっている。
取引額の減少率38%と、ビットコインの平均価格の下落率37.8%は、ほぼ一致する。仮に取引の大半がビットコインだったとすれば、売買された量(枚数)は前年とほとんど変わっていない計算になる。イーサリアムの平均価格も約3,936ドルから約2,168ドルへ45%下がっており、値下がりの影響はさらに大きい。
公平のために言えば、内訳は一様ではない。値下がり分を割り戻すと、ロビンフッドのアプリでの取引量は2割弱減り、ビットスタンプの取引量はむしろ15%程度増えた計算になる(いずれも編集部試算、ビットコイン価格で単純に割り戻した概算)。個人が中心のアプリでは売買が細り、機関投資家の多い取引所では増えた。「個人の熱が冷めた」という通説には一部の真実がある。ただ、それは取引額の見出しが示すほど大きな冷え込みではない。
尋問2:収入が取引額より大きく減ったのはなぜか
この説明には穴がある。取引額が38%減なのに、収入は55%減。差の17ポイントはどこから来たのか。取引額1ドルあたりの収入を計算すると、前年同期は約0.33%、今期は0.24%に下がっている(編集部試算)。
理由として考えられるのは2つ。一つは、手数料の薄い取引所ビットスタンプの比重が、取引額の58%まで上がったこと。もう一つは、決算資料のリスク要因の欄で触れられている、暗号資産の「新しい手数料体系」の導入である。どちらも、個人が逃げたこととは別の話だ。前者は顧客の構成の変化、後者は会社自身の値付けの変更である。
暗号資産の取引額1ドルあたりの収入(%、編集部試算)
読み方:同じ1ドルの取引から得る収入が約3割減った。手数料の薄い取引所ビットスタンプの比重の上昇と、手数料体系の変更が背景とみられる。前年同期の数値は、会社が示した今期の数値と前年同期比から逆算した。出所:ロビンフッドの決算資料から編集部計算。
尋問3:個人のお金はどこへ行ったのか
通説が正しいなら、個人は相場から手を引いているはずだ。だが同じ決算資料は逆を示している。株式の取引額は9,920億ドルで53%増の過去最高、オプションの取引枚数は9億500万枚で48%増の過去最高。予測市場などのイベント契約の取引は164億枚で7倍超に増えた。収入で見ても、イベント契約は1億7,300万ドルで6倍超、オプションは3億9,900万ドルで31%増、株式は1億2,100万ドルで41%増えている。
個人は相場から去ったのではなく、遊び場を移した。値動きの鈍った暗号資産から、株とオプション、そして出来事の結果に賭けるイベント契約へ。顧客の預け入れは純額で157億ドル、口座を持つ顧客数は2,870万人と前年同期比7%増えている。お金は会社の外に出ていない。
通説の側の再反論も記しておく。暗号資産は売買の手数料率が株より高く、収入の質がよい。その稼ぎ頭が縮み、代わりに伸びたイベント契約は規制の先行きが読みにくい。利益が16%減ったのは事実であり、株価が売られた理由としては十分、という見方は成り立つ。
生き残った主張と死んだ主張
| 主張 | 判定 | 決め手になった証拠 |
|---|---|---|
| 暗号資産の商売は縮んだ | 生存 | 収入55%減、取引額38%減(会社発表) |
| 個人が暗号資産から大挙して逃げた | 重傷 | 取引額の減少率はビットコインの平均価格の下落率(37.8%)とほぼ同じ |
| アプリの個人の売買は細った | 生存 | 値下がり分を割り戻しても取引量は2割弱減(編集部試算) |
| 収入の減少はすべて需要の落ち込み | 死亡 | 取引額1ドルあたりの収入が0.33%→0.24%に低下。構成と手数料体系の変化が効いている |
| 個人が相場そのものから去った | 死亡 | 株式・オプションは過去最高、イベント契約は7倍超、純預け入れ157億ドル |
評決
通説は、3割だけ正しい。
暗号資産の収入が半減したのは事実で、アプリの個人の売買が細ったのも事実である。だが本誌の評決では、収入減の7割は値段の下落と手数料の取り方の変化で説明でき、個人の暗号資産離れで説明できるのは3割にとどまる。個人投資家は相場から去っていない。値動きの大きい場所を求めて、株とオプションとイベント契約に移っただけだ。
この区別は、ビットコインを持つ人にとって実務的な意味がある。需要の蒸発なら、値段の戻りには時間がかかる。値段の下落が取引額を縮めているだけなら、値段が戻れば取引額も機械的に戻る。足元のビットコインは8万1,000ドル台で、日足終値の最高値(2025年10月6日の12万4,753ドル)から約35%下にある。8万ドルの節目をめぐる攻防は今朝の記事で扱った。ロビンフッドの決算翌日の値動きの癖は、発表前のプレビューで、6回続けて翌日に下げてきたと書いた。今回も、時間外の値動きを見る限り7回目になりそうだ。
再審条件
この評決を覆す材料を、先に挙げておく。
- コインベースの決算(米国時間29日の取引終了後、日本時間30日朝)で、個人向けの取引額が価格下落以上に減っていたら。個人離れが1社だけの現象ではないことになり、評決は通説側に傾く。アナリスト予想の1株利益はマイナス0.16ドル(ナスダック集計、10人)、前年同期は1.44ドルだった。
- ビットコインが8万ドルを割り込み、取引額がさらに減ったら。値段の下落と取引の細りが互いを強め合う局面に入る。
- 10月の取引データで、アプリの暗号資産の取引額が回復しないまま株式だけが伸び続けたら。遊び場の移動が一時的ではなく、定着したことになる。
- ストラテジー(MSTR)の決算(同じく29日)で、ビットコインの買い増しの鈍化が示されたら。大口の買い手の動きは、個人の売買の量にも影響する。
主な参照
- Robinhood Reports Third Quarter 2026 Results(10月27日)/ロビンフッド(米証券取引委員会提出書類)
- 決算発表日程とアナリスト予想の1株利益(ロビンフッド、コインベース、ストラテジー)/ナスダック
- ロビンフッドの時間外取引の値、ビットコイン・イーサリアムの日足終値/Yahoo!ファイナンス
- 投資家向け情報/ロビンフッド
データ基準日:2026年10月28日(米東部時間7時7分=日本時間20時7分)。ロビンフッドの87.44ドルは時間外取引の値で、通常取引の終値ではない。27日の94.56ドルは通常取引の終値。決算の数値は会社発表による。ビットコインの平均価格は日足終値の単純平均で、ロビンフッドで取引された銘柄の構成とは一致しない。取引量の割り戻し、取引額1ドルあたりの収入、評決の比率はいずれも編集部の試算・判断であり、会社は開示していない。1株利益の比較は会社発表の希薄化後の数値(0.51ドル)とナスダック集計の予想(0.56ドル)によるもので、会社が今期から示した調整後の1株利益は0.60ドルである。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















