なぜユーロドルは、欧州中央銀行(ECB)が2回も利上げしたのに下げ続けているのか。答えは「綱引きの相手」にある。ユーロの綱を引くのはECBだけではない。反対側では米連邦準備制度理事会(FRB)が同じ綱を引いていて、その力は10月28日にもう一段強まった。
ECBは29日、日本時間22時15分に政策金利を発表する。据え置きが大勢の見方だ。ユーロドルは28日のECB参照レートで1.1133ドルと2026年の最安値をつけ、29日朝7時45分時点の気配値も1.115ドル前後にとどまる。本稿では、この「綱引き」の比喩を最後まで使い、ECB当日のユーロドルの見通しと、見るべき水準を順に整理する。
結論:短期は1.105〜1.125ドル、目線はやや下
先に結論を示す。ECBの発表から30日の域内総生産(GDP)速報までの短期は、1.105〜1.125ドルのレンジを想定する。目線はやや下だ。1〜3カ月の中期では1.09〜1.14ドル。ECBが12月の利上げをはっきり示唆しない限り、綱はFRBの側に引かれたままになりやすい。目線を改めるのは、参照レートが1.1205ドル(10月22日の水準)を回復したときである。
原理:為替は2つの中央銀行の綱引きだ
ここが肝心だ。ユーロドルという1本の綱の、ユーロの端をECB、ドルの端をFRBが握っていると考えてみてほしい。綱を引く力は「金利」と「この先の利上げの見込み」の2つでできている。片方が強く引いても、もう片方がもっと強く引けば、綱は相手側に動く。
ECBは6月17日に預金ファシリティ金利を2.25%へ、9月16日に2.50%へ引き上げた。それでもユーロドルの参照レートは、9月28日の1.1378ドルから10月28日の1.1133ドルまで、1カ月で約2.2%下げた。ECBが力を緩めたわけではない。反対側のFRBの綱が、もっと強く引かれていたのである。
ユーロドルの綱引き:何が綱を動かすか
読み方:ECBが利上げしても、FRBの利上げ観測がそれ以上に強まれば綱はドル側に動く。金利差はFF金利の中央値3.875%と預金ファシリティ金利2.50%の差で、本誌の計算。出所:ECB、FRB、ロイター(CME FedWatch)、Frankfurter(ECB参照レート)。
用語メモ。預金ファシリティ金利=銀行がECBに余った資金を預けるときの金利で、ECBの事実上の政策金利。参照レート=ECBが毎営業日、中欧時間14時15分ごろに公表する為替の基準値。取引時間中の気配値とは少し異なる。フェデラルファンド(FF)金利=FRBの政策金利で、米国の銀行どうしが翌日物で資金を貸し借りする金利の誘導目標。
現実の数字:綱は今、どちらに寄っているか
順に見ていく。まずドルの端だ。FRBは28日、FF金利の誘導目標を3.75〜4.00%に据え置いた。採決は10対2で、反対した2人はいずれも0.25%の利上げを求めた。ロイターによると、CME FedWatchが示す12月利上げの確率は約85%に上がった。据え置きでも、FRBの綱を引く力は弱まっていない。
次にユーロの端である。ECBの預金ファシリティ金利は2.50%。FF金利の誘導目標の中央値3.875%との差は約1.4ポイントだ。しかも物価の面では、ユーロ圏の9月の消費者物価(HICP)は前年比3.8%で、8月の3.2%から加速した。ドイツの9月速報も3.3%だった。物価上昇率から政策金利を引いた実質の金利は、ユーロ圏ではマイナス1.3ポイント前後になる。ECBの綱は、物価の勢いに対してまだ緩い。
| 項目 | ユーロ側(ECB) | ドル側(FRB) | 時点 |
|---|---|---|---|
| 政策金利 | 預金ファシリティ金利2.50% | FF金利3.75〜4.00% | 10月28日 |
| 直近の決定 | 9月16日に0.25%利上げ | 10月28日に据え置き(利上げ派の反対2票) | — |
| 次の利上げの見込み | 12月の利上げ観測あり(UBSは12月17日に2.75%を予想) | 12月利上げ確率 約85%(CME FedWatch) | 10月28日時点 |
| 物価 | ユーロ圏HICP 3.8%(9月) | — | 9月確報 |
ユーロドルの目印(ECB参照レート、ドル)
読み方:28日の参照レート1.1133ドルは2026年の最安値で、2025年5月13日の1.1112ドル以来の低さ。1.1205ドルを回復するまでは目線をやや下に置く。出所:ECB参照レート(Frankfurter経由で取得)。
見るべき水準:綱の目印
綱引きには、どこまで引かれたかを示す目印が要る。ECB参照レートで見ると、下の目印は1.1112ドル。2025年5月13日の参照レートで、28日の1.1133ドルが下回らなかった最後の節目だ。ここを割ると、2025年春以来の水準に入る。上の目印は3つある。27日の1.1150ドル、26日の1.1188ドル、そして22日の1.1205ドルだ。ECB後に1.1205ドルを回復すれば、綱がユーロ側に戻り始めた合図とみてよい。
もう少し長い目印もある。参照レートの直近50営業日の平均は約1.1414ドル、200営業日の平均は約1.1567ドルで、いずれも本誌の計算だ。今の水準はその両方を大きく下回る。中期の下げの流れが続いていることを示している。28日の取引時間中には1.1113ドル前後まで下げたと報じられた。
よくある誤解:「利上げした国の通貨は上がる」。為替は1国の金利の水準ではなく、2国の金利の差と、その差がこの先どう動くかの見込みで決まる。ECBが利上げしても、FRBの利上げ観測がそれ以上に強まれば、ユーロは対ドルで下がる。綱引きで自分が力を入れても、相手がもっと強く引けば綱は相手側に動く。ECB当日に「据え置き=ユーロ安」と短絡するのも同じ誤りで、見るべきは12月の利上げをどこまで示唆するかである。
ECB当日の読み方:引き手の言葉を聞く
据え置きが大勢である以上、相場を動かすのは決定そのものではなく、ラガルド総裁の会見だ。会見は日本時間22時45分から。新しいスタッフ見通しは12月まで出ないため、総裁が9月の3.8%という物価をどう評価するかが材料になる。「12月も選択肢」と強く示唆すればユーロの綱が強まり、1.12ドル台の回復を試す展開がありうる。逆に「データ次第」にとどめれば、FRBの綱が勝ったまま1.11ドル割れを試しやすい。本稿は後者の方が起こりやすいとみる。
同じ29日の21時30分には、米7〜9月期GDP速報値と9月の個人消費支出(PCE)も出る。ECBの発表の45分前に、FRBの綱の強さを測る数字が出る順番である。米国の数字が強ければ、ECBの会見を待たずにユーロドルが下を試す可能性がある。米国側の動きはドル円見通し:FOMC後157.8円、158.5円が壁でも扱った。
この先の日程
- 10月29日21時30分 米7〜9月期GDP速報値、9月の個人所得・PCE。
- 10月29日22時15分 ECBの政策金利発表。22時45分からラガルド総裁の会見。
- 10月30日 ユーロ圏7〜9月期GDP速報(中欧時間11時、市場予想は前期比0.2%、4〜6月期は0.4%)、ドイツ7〜9月期GDP速報、ドイツ10月の消費者物価速報(市場予想3.0%、9月は3.3%)。
- 12月17日 ECBの次回の政策金利発表(スタッフ見通しの改定を伴う)。
前日までの流れはユーロドル見通し:ECB前夜、1.11ドル攻防にまとめた。今回はそこにFOMCの結果が加わった。
まとめ:綱の向きを決めるのは相手の力
綱引きの比喩に戻ろう。ECBは2回の利上げで綱を引いてきたが、FRBは据え置きながらも12月の利上げ観測で、それ以上の力で引いている。覚えて帰ってほしいのは3点だ。第1に、為替は2国の金利差とその見込みで動く。第2に、ECB当日の焦点は決定ではなく、総裁が12月の利上げをどこまで示唆するか。第3に、目印は下の1.1112ドルと上の1.1205ドルで、1.1205ドルを回復するまでは目線をやや下に置く。
主な参照
- ECBの会合日程/欧州中央銀行(ECB)
- 預金ファシリティ金利の変更日と水準/ECB統計データポータル
- ユーロドルの参照レート(日次)/Frankfurter(ECB参照レートのデータ)
- ユーロ圏の9月HICP/ユーロスタット、ドイツの9月CPI速報/ドイツ連邦統計局
- FOMC声明(10月28日)/米連邦準備制度理事会(FRB)
- 12月利上げ確率(CME FedWatch)/ロイター(ニューズウィーク日本版)
- 28日のユーロドルの安値、UBSの予想、週内の指標予想/FXStreet
- 米GDP・PCEの公表日程/米経済分析局(BEA)
データ基準日:ユーロドルは2026年10月28日のECB参照レート(中欧時間14時15分ごろの基準値)と、29日7時45分(日本時間)時点の気配値。参照レートは取引時間中の気配値や終値とは異なる。50日・200日の平均は参照レートから本誌が計算した値。28日の取引時間中の安値と週内の指標の市場予想、UBSの予想は報道にもとづく。ECBの決定は本稿執筆時点で未発表で、決定の内容は反映していない。レンジと目線は本誌の分析であり、将来の相場を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の通貨の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。














