10月27日火曜の朝、米バージニア州アーリントン。ボーイングは7〜9月期の決算を発表した。売上高は241億8,800万ドルで前年同期比4%増、1株損益は0.26ドルの赤字と、前年同期の7.14ドルの赤字から大きく縮んだ。受注残は過去最高の7,454億ドルに積み上がった。ただ、日本の部品メーカーにとって最も重い一文は、数字の表ではなく本文にあった。787型機の生産は「月8機で安定している」。
その5時間前、東京市場は取引を終えていた。787の主翼を造る三菱重工業の終値は3,527円、前方胴体を担う川崎重工業は2,164.5円、中央翼のSUBARUは2,622.5円。3社の株価が決算に答えを出すのは28日の東京の寄り付きになる。
シーン1:赤字は縮み、現金は戻った
発表文の冒頭で、ケリー・オルトバーグ最高経営責任者(CEO)は改善を強調しつつ、こう締めた。「だが、まだ終わっていない。安全と品質に集中し、リーン生産と規律ある実行に一段と力を注ぐ」。
数字はその言葉どおりの中間地点を示した。営業キャッシュフローは14億9,600万ドルで前年同期の11億2,300万ドルから33%増え、フリーキャッシュフローは4億6,400万ドルの黒字だった。1〜9月の累計では、フリーキャッシュフローはまだ3億5,900万ドルの赤字にある。手元資金と有価証券は207億ドル、借入金は459億ドルで前四半期から変わらない。100億ドルの融資枠は未使用のままだ。
| 項目 | 2026年7〜9月期 | 2025年7〜9月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 241億8,800万ドル(+4%) | 232億7,000万ドル |
| 1株損益(GAAP) | −0.26ドル | −7.14ドル |
| コア1株損益 | −0.34ドル | −7.47ドル |
| 営業キャッシュフロー | 14億9,600万ドル | 11億2,300万ドル |
| フリーキャッシュフロー | 4億6,400万ドル | 2億3,800万ドル |
| 民間機部門の売上高 | 107億2,000万ドル(−3%) | 110億9,400万ドル |
| 民間機部門の営業利益率 | −6.5% | −48.3% |
| 民間機の引き渡し | 161機 | 160機 |
| 受注残(全社) | 7,454億ドル(過去最高) | — |
巻き戻し:ストの危機から決算の日まで
この決算に至るまでの3カ月は、綱渡りだった。8月21日、技術者労組SPEEAの組合員は会社の最終提案を否決し、スト権を承認した。専門職部門の反対は64.3%に達した。焦点は10月6日の契約期限だった。787の設計変更や777-9の認証試験を支える技術者が職場を離れれば、日本の工場に届く図面と発注の流れも止まりかねない。本誌は当時、その影響をこの記事で追った。
10月1日、組合員は修正案を受け入れた。専門職部門は67.62%、技術職部門は53.48%の賛成で、技術職部門の差はわずか268票だった。新契約は10月2日付で10%の一律賃上げから始まる。その12日後の10月13日、ボーイングは7〜9月期の引き渡しが161機だったと公表した。737が124機、787が22機、777が5機、767が10機である。20日には米連邦航空局(FAA)が737-10の型式証明を出した。
ボーイング決算までの3カ月
読み方:ストの危機を越えて、引き渡し、認証、決算と続いた。日本勢の比率が高い787の生産レートは、この間も月8機のままだった。出所:ボーイングの発表資料、KIRO 7、Leeham News。
対立軸:「月8機」は安定か、足踏みか
三菱重工は自社のウェブサイトで、787について日本の分担比率が「機体全体の35%と過去最高」だと説明している。三菱重工が複合材の主翼、川崎重工が前方胴体の一部と主脚格納部、SUBARUが中央翼を受け持つ。ボーイングの生産レートは、そのまま3社の工場の稼働に跳ね返る。
ボーイング自身の言葉は「安定」である。品質問題で揺れた生産を立て直してきた会社にとって、月8機を崩さずに続けていることは成果だ。7〜9月期の787の引き渡しは22機で、1〜9月で62機。3カ月で24機という月8機の計算に近い。
一方、日本の部品メーカーの株主が知りたいのは、その次の段である。今回の発表文には、787の増産の時期を示す記述がなかった。737については「月47機での安定生産に向けて前進している」と次の目標を書き込んだのと対照的だ。日本勢の比率が高いのは787で、737ではない。増産の言葉が出たのは日本勢の取り分が小さい機種の方だった。
777Xも同じ構図にある。777-9は認証の飛行試験が進み、2027年の初号機引き渡しの予定を維持した。前年同期には777Xで巨額の損失を計上して民間機部門の利益率がマイナス48.3%まで落ちたが、今期はマイナス6.5%まで戻った。中央翼などで日本勢が関わる777Xは、遅れが出なかったことが材料になる。ただし、量産の拡大はまだ先の話だ。
クライマックス:受注残7,454億ドルという数字
決算の中で最も大きな数字は、受注残だった。全社で7,454億ドルと過去最高、2025年末の6,822億ドルから630億ドル余り増えた。民間機の受注残は6,300機超、金額で過去最高の6,120億ドル。7〜9月期だけで純受注は300機あった。
防衛部門も動いた。防衛・宇宙・セキュリティ部門の売上高は79億3,500万ドルで15%増え、営業利益率は6.2%と前年同期の1.7%から改善した。HRLラボラトリーズの売却益2億5,200万ドルを含む数字である。受注残は過去最高の1,005億ドルで、米海軍が次世代艦載戦闘機F/A-XXの開発・製造でボーイングを選んだとも記した。この案件は手続きが終わるまで受注残に入れていない。サービス部門は売上高55億7,400万ドル、営業利益率18.3%と、今期も稼ぎ頭だった。
発表直後、ニューヨークの時間外取引は静かだった。ボーイング株は米東部時間7時31分に188.00ドルと前日終値188.31ドルから0.16%安、2分後の7時33分には189.56ドルと0.66%高に振れた。52週高値は1月27日の254.35ドルで、株価はそこから26%下にある。2025年末の217.12ドルからも13%下げている。
エピローグ:東京が答える28日の朝
27日の東京では、三菱重工が0.77%高、川崎重工が0.98%高、東レが1.6%高で引けた。SUBARUは1.13%安だった。いずれも決算の前の値動きである。52週の高値と比べると、三菱重工は5,208円から32%、川崎重工は3,766円から43%下にいる。航空機の部品だけで株価が決まる会社ではなく、防衛やエネルギー、自動車の比重も大きい。それでも、ボーイングの生産計画は3社の業績見通しの土台の一つである。
残された問いは3つある。一つは、オルトバーグCEOが米東部時間10時30分(日本時間23時30分)からの電話会見で、787の増産の時期に触れるかどうか。二つ目は、日本の3社が自社の決算でボーイング向けの見通しをどう語るか。三つ目は、737-10の認証と777-9の試験が、予定どおり2027年の引き渡しにつながるかである。
今週はFOMCと日銀の会合も重なる。ドル円の水準は日本の輸出企業の円建ての受け取りを左右し、ボーイング向けの部品も例外ではない。円相場の見通しはこちらの記事に、27日の東京市場の値動きは大引けの記事にまとめた。
主な参照
- 2026年7〜9月期決算(10月27日)/ボーイング
- 7〜9月期の引き渡し(10月13日)/ボーイング
- 737-10の型式証明(10月20日)/ボーイング
- 787の日本の分担比率と主翼/三菱重工業
- SPEEAの契約承認(10月1日)/KIRO 7
- SPEEAの最終提案否決(8月21日)/Leeham News
- 株価(ボーイング、三菱重工、川崎重工、SUBARU、東レ)/stockanalysis.com
データ基準日:2026年10月27日。日本株は27日15時30分(日本時間)の終値、ボーイング株は26日の終値と27日7時31〜33分(米東部時間)の時間外取引の値。本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を勧めるものではない。













